トピック

「消費者の目線」大事に“音が良くて安い”。FX-AUDIO-に行ってみた

筆者宅のデスクトップオーディオ環境でもFX-AUDIO-製品が活躍中だ

FX-AUDIO-の開発販売元として、大阪に本社を構えるノースフラットジャパン(以下NFJ)。同ブランドの製品だけでなく、PCパーツや電子部品、スピーカーユニットの輸入販売なども手掛けるNFJは、インターネット販売に特化した会社として存在感を示してきた。

先日、筆者の所属する音楽ユニットBeagle Kickの所用で大阪に行く機会があり、その翌日NFJの泉大津センターへ訪問することが叶った。気になる“手頃な価格かつコンパクトなオーディオ機器”が生まれる現場を見てみよう。

FX-AUDIO-に潜入。開発中の製品を発見!

FX-AUDIO-は、小型のプリメインアンプやUSB-DAC、真空管アンプなどをメインに、インターネットに販路を絞って展開する日本のオーディオブランド。手に取りやすい圧倒的な低価格と、徹底した情報公開、ユーザーの声を製品に反映する丁寧な物作りなどが特色だ。

販売はインターネットのみで、ごく一部の製品を除いて実店舗での販売は行なわれていない。Yahoo!やAmazon、楽天、ヤフオク!に直販サイトを設ける。

本社は和泉市にあるが、実質的な本社機能は泉大津駅から徒歩10分ほどのところにある泉大津センターが担っているそうだ。

泉大津センター

この建物が泉大津センター。1階が物流を担っており、Amazonを除くYahoo!などの販売分は注文ごとにこのフロアから製品が出荷されるそうだ。2階は会議室と事務所、3階は各種在庫などの倉庫として使われていた。

1階が物流。数名の従業員の方が黙々と出荷作業を行なっていた。ここから全国にFX-AUDIO-製品が旅立って行く
FX-AUDIO-の他に、電子パーツやスピーカーユニットの在庫などもあるそうだ

出迎えてくれたのは、毛利氏。オーディオ愛の溢れる同世代だったことが判明し嬉しさを感じた。

お邪魔した会議室には、自作のスピーカーや測定器などがあり、一部商品のチェックも行なっているそうだ。

これまでの製品を陳列したガラスケースには、FX-AUDIO-の製品がずらり。あえて天板を外しているUSB-DACやアンプ類は、いかにも同社らしい。

ガラスケースにはFX-AUDIO-の製品がずらり

そしてなんと、開発中の新製品も2つ見せていただいた。

グラウンドループアイソレーター「GI-01J」

まず、グラウンドループアイソレーター「GI-01J」。信号経路が要因となって発生するグラウンドループを回避する目的で、RCA系統に挿入するアイソレーターだ。超低歪みの特注トランスを採用することで、音質変化を抑えたという。音質を重視した設計により、家庭のオーディオシステムの予期せぬノイズ問題において、グラウンドループの判定ツールとして活用できるそうだ。こういうマニアックなオーディオアクセサリーもNFJならリーズナブルな価格で発売されるだろうから、正式リリースが楽しみだ。

RCA経路に挿入するアイソレーター

続いて、バルクキャパシターPetit Tankの別バージョン、「Petit Tank Solid State」。

Petit Tank Solid State(試作基板)

通常版(無印版)が電解コンデンサを採用したのに対し、Petit Tank Limited EditionとPetit Tank Solid Stateは、高分子アルミ固体電解コンデンサを採用したモデルだという。Solid Stateは、コンデンサの種類こそLimited Editionと同じだが、1個あたりの容量を増やし本数を8個から4個に減らしたことで、安定性を高めたバージョンとなる。これまでLimited Editionの発振事例はないということだが、尖った仕様を採用したことで性能も強烈となっており、音は大きく変わる。以前掲載した筆者のレビューでも、万能ではなく一部の機器では効き過ぎてしまうこともあった。

Petit Tank Solid Stateは通常版とLimited Editionの“良いとこ取り”として、より汎用性を高めた製品になるようだ。

見せてもらった試作品は、ほぼ完成品となる基板。コンデンサの大きさが変わったことで横向きに配置されている。Limited Editionであえて省かれた、サージ対策用の高耐圧セラミックコンデンサは復活した。

FX-AUDIO-の製品はどのように生まれるのか

こうしたFX-AUDIO-の製品は、いったいどこでどのように開発されているのか。質問をぶつけてみた。

まず、製品の企画やコンセプトは、代表の北口誠哉氏や毛利氏が発案する。それを、回路の概要などを含め、中国の製造工場のスタッフに伝えると、それらを元に現地スタッフがベースの設計を行なって試作を仕上げる。

その試作機を日本でチェック。改善点を伝えながら改良を重ね、製品化へと進むそうだ。以前は北口代表が中国に1年の半分くらい常駐して設計も直接手掛けていたが、コロナ禍の直前に帰国したところ、そのままロックダウンとなり、リモートでの仕事に切り替わることに。現在、CADによる製図などは中国の現地スタッフが担っている。

そしてコロナ禍がようやく落ち着き、北口代表も中国へ行く段取りを付けている最中だという。

FX-AUDIO-製品の組み立てを行なう現地工場とは、資本関係は無いものの、グループ会社のような位置付けだという。なんと、FX-AUDIO-のブランドを冠した中国発のオリジナル製品もグローバルでは展開しているそうだ。開発から流通も含めて現地の会社に任せており、販路は中国国内の他に、ロシアやヨーロッパ、北米などにも展開しているそうだ。

元は輸入販売を手掛けていたNFJが、なぜFX-AUDIO-ブランドを掲げ、オーディオ機器を作ることになったのか。

毛利氏は「最初は趣味のような活動からでした」と語る。

「元々弊社は、輸入品を取り扱うネット販売業者でした。代表の北口は、オーディオが好きだったので、最初は趣味のような活動から始まった感じです。Lepyという車載用のアンプにLP-2020というアンプICが入っていて、とても音が良いことが分かったので、オーディオアンプの自作に手を出していきました。はじめは開発とか電子部品の知識はありませんでしたので、まずは趣味から入り、CADによる回路設計も覚え、だんだんと開発の知識を付けていきました」。

販売も、スタートしたのはオークションストアからだ。

「個人でアンプなどの自作キットを作って、同人活動のように販売している人がいますよね。最初はそういうノリでやっていたのです。当時NFJは会社としては既に動いていたのですが、今ほどオーディオ事業はやっていませんでした。最初はLP-2020を使った既製品のアンプを仕入れて売ろうと思ったのですが、音が悪いことに不満がありました。そこで改善案を中国の製造会社に提案したところ、オリジナルカスタムモデルとして、別バージョンを作ってもらい輸入販売することが出来ました」。

愛ゆえの行動力だろう。好きという思いは何よりも強いパワーになるという証明である。

これ以降は、同アンプICの入ったキットを販売していたが、この段階でもベース基板を元にしたカスタムだったそうだ。

性能向上に限界を感じた北口氏らは、ICのポテンシャルを引き出し切れていない基板そのものの設計を見直すことに。基板から設計を起こし、オリジナルキットをオークションサイトで販売していった。

FX-AUDIO-を名乗ったのはいつ頃からなのだろう。

「先ほどお話ししたとおり、最初はLepyのカスタムモデル販売をやっていたのですが、次第に自社設計の基板も作るようになっていきました。そんなとき、新たに協力できる中国の会社さんを見つけまして、そこが今のFX-AUDIO-製造している会社になった訳です。最初は代表の友達みたいな関係で、一緒にやっていく仲間のような感じでした」。

「今ではかなりの人数を抱える会社に成長しています。そことやり取りするようになったとき、FX-AUDIO-ブランドの商標を取りました。中国ではどうしても“パクり”や“ブランドの乗っ取り”に警戒しなければいけないので。中国側は製造会社の方で取得、日本側はNFJが日本専売にすることを前提に商標を取りました。平成26年に出願してます」。

“手頃な価格のオーディオ”を実現するための工夫

FX-AUDIO-といえば、数千円から高くても1万円台の圧倒的な低価格が特徴であり、魅力でもある。消費者にとっては嬉しい事だが、この価格を実現するのは、多くの工夫があるという。

「FX-AUDIO-の製品は、製造原価から販売価格を決めているんです。もちろん、製造原価そのものを抑える工夫もしています。採用するパーツでいえば、パーツメーカーから購入することはせず、スポットで市場に出回る安価なパーツを取り寄せています。どのくらい安価かというと、パーツの製造原価を下回るほどの底値で売られることもあるくらいです。また、ネット販売にこだわることで、中間コストもカットしています。普通なら販売価格に含まれるであろう開発コストや、パーツの価格変動を吸収するための費用も乗せていません」。

スポットの電子部品とはなんだろうか?

「中国はいろんな電子機器の製造工場があって、電子部品は予備も含めて在庫を保有しているのですが、それが要らなくなるとスポットで市場に売られることがあるんです。それ自体は中国だけの話ではありませんが、日本と違って中国で出回るスポット品は個数の桁が違います。それこそ数万個の単位で売りに出されます。弊社はスポット品を購入するルートやノウハウを持っていますので、製造原価を大幅に圧縮することが可能なんです」。
安価でも、性能や品質がしっかりした製品を次々と生み出す工夫が見えてきた。しかし、ここまで価格を抑えていると、ビジネスとしては大丈夫なのだろうか?

「弊社は輸入販売の会社なので、スピーカーユニットや電子部品の販売が収益の柱です。特にスピーカーユニットの割合が高いですね」。

ちょっと安心した。それにしても、執念ともいえるロープライスへのこだわりはどこから生まれているのだろう。

「FX-AUDIO-が今のように成長したブランドになっても低価格へのこだわりは変わっていません。やはり消費者の方々の目線を大事にしたいという代表の意思が強いです。特価情報とか最新の技術なんかは常にチェックしていますよ。価格を下げることに強いこだわりがあります。関西人の気質なのかもしれませんね」。

一方で低価格路線を貫くが故の悩みもあるらしい。

これまでのFX-AUDIO-製品は、コストを抑えるために、今風の機能は極力省いたり、入出力のインターフェースを最小限にしてきた。例を挙げると、カラーディスプレイではなく昔ながらのLEDやインジケーターを採用する、などだ。

ただ、この方向性は時代とともに製品が古く陳腐に感じられてしまうというジレンマもはらむ。モダンな機能を取り入れたりすると、どうしても価格帯が上がり、本来競合していなかったライバル製品との熾烈な競争に入っていくことになりかねない。これは難しい問題だ。

ファンの1人としては、これからもFX-AUDIO-らしくあってほしいが、ここまで成長したブランドになった以上、新たなチャレンジにも期待してしまう。実は、まだ公開できない意欲的な新製品も見せていただいた。詳細は正式発表をお待ちいただきたいが、魅力的でチャレンジ精神に溢れるプロダクトが準備されていて、筆者はいたく興奮した。

NFJの大きな倉庫も見学したが、そこには数年分に渡る大量の段ボールが。梱包資材に至るまで低コストをどこまでも貫く姿勢が印象的だった。モノが良くて、価格も安い。最高ではないか。

梱包用の段ボールも大量に仕入れて物流のコストも抑えている
取材後、毛利氏オススメのたこ焼き屋へ。アメリカ村に本店を構えるチェーンの「甲賀流」和泉店。2人でソースマヨネーズとネギしょうゆを注文。ここ最近、外側がカリッとしたたこ焼きしか食べていなかった筆者は、全体がふわとろで超絶美味い甲賀流のたこ焼きに悩殺されてしまった。どう考えても美味さに釣り合わない、超低価格であったことも特筆しておく
橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト