レビュー

あこがれのセパレートアンプを約8000円、かつ小型で実現してみた。FX-AUDIO-「FX-1001Jx2」

FX-AUDIO-の「FX-1001Jx2」

パワーアンプとプリアンプの分離。いわゆるセパレート化は、オーディオファンならいつかは到達したい夢の世界だろう。筆者も、防音スタジオを作り、ラックスマンのプリメインアンプを導入したりしているが、プリ/パワー分離は遠い未来の夢として「いいなぁ」くらいに思っていた。それがまさかお手軽な価格と、CDジャケットより小さいパワーアンプで実現するとは、オーディオ人生何があるか分からないものだ。

今回筆者が導入したパワーアンプは、FX-AUDIO-の「FX-1001Jx2」だ。デジタルアンプIC「TPA3116」をデュアルモノラル構成で搭載したステレオパワーアンプ。価格は8,290円とリーズナブルだ(ACアダプターは別売)。

FX-AUDIO-の「FX-1001Jx2」

FX-AUDIO-は、小型のプリメインアンプやUSB-DAC、真空管アンプなどをメインに、インターネットに販路を絞って展開する日本のオーディオブランド。“出来る限り低価格で高品質の製品を提供すること”をコンセプトに、アンプだけでなくアクセサリーや電子部品なども取り扱っている。開発販売元は、ノースフラットジャパン(NFJ)だ。公式Blogでは、新製品が出るたびに、濃密な技術解説が公開されており、電子回路に明るい人はもちろん、オーディオマニアにとっても注目のブランドとなっている。

FX-1001Jx2は、同ブランドのステレオパワーアンプでは最上位機種だ。ラインナップを見ると、同一のアンプICを使用したモノラルパワーアンプも存在していた。「FX-1001J」がそれだ。なんと先にモノラル仕様がリリースされ、翌年にステレオ仕様のFX-1001Jx2が発売されている。商品展開がハイエンドオーディオみたいで驚いた。

パワーアンプでもコンパクト

FX-1001Jx2に話を戻そう。

本機はとにかくコンパクトだ。外形寸法は98×123×33mm(幅×奥行き×高さ)でCDジャケットより設置面積が小さい。入力はステレオRCAのみ。スピーカーターミナルは、バナナプラグにも対応した金メッキ仕上げ。定格出力は60W×2chで、対応スピーカーインピーダンスは4~16Ω。電源はACアダプター式で別売。DC12V~DC24Vまで対応し、電源容量は2A以上(4A以上を推奨)を必要とする。カラーはブラックとチタンブラックの2色。

「FX-1001Jx2」の背面

今回は、小型である事を活かし、デスクトップオーディオ環境に導入した。筆者のデスクトップオーディオについての詳細は、以前レポートした通りだ。

モノラルパワーアンプのFX-1001Jは、最大出力100Wのハイパワーだが、左右1台ずつ設置しなければならない。ACアダプターも2つ使用しなければならず、環境によっては机の上をスッキリさせるのが難しくなりそうだ。

それに対してFX-1001Jx2は、TexasInstruments製デジタルパワーアンプIC「TPA3116」を2基搭載。それぞれをパラレルBTLモノラルモードで駆動することでデュアルモノラル構成を実現した。これによりチャンネル間の相互干渉とクロストークを低減。1台の筐体に2台のモノラルパワーアンプをギュッと収納したような設計となっており、手軽にデュアルモノのシステムを構築できる。

音質に定評のあるTexasInstruments製「NE5532」オペアンプによる前段バッファ回路を実装。SN比の改善と、微弱信号の消失による音痩せを防いでいるという。同オペアンプは、ユーザー自らが交換可能だが、基盤へのアクセスは本体の分解が必要で、保証対象外となるので留意したい。公式Blogでは、NFJがお勧めするLM4562やOPA627が紹介されている。

「FX-1001Jx2」の内部

箱から出した本体は見た目より少し重く、ヘアライン仕上げの金属筐体が値段以上の高級感をかもし出している。フロントとリアパネルは金属だが、ゲイン設定スイッチは樹脂製だ。電源スイッチは、トグル式で上がON、下がOFF。押しボタンだと本体が後ろに押さてしまいそうだし、この方式が望ましいだろう。

背面には、ACアダプターのジャックと、スピーカーターミナル、RCA端子が並ぶ。スピーカーターミナル周りはややスペースが狭く、バナナプラグを使った方が楽にケーブルを接続出来る。筆者はケーブルを直接接続したいので配線を工夫して結線した。DCプラグやRCAプラグが近接しているため、細めのケーブルが望ましい。

ACアダプターは別途購入が必要だ。筆者は対応電圧で最も高い24Vを選ぶことにした。NFJに問い合わせたところ、24Vであれば電流値は3Aでも問題ないということだった。電子部品やLEDライトなどを扱うサクルのオンラインショップで24V/3AのACアダプターを注文。ACアダプターはPSE認証の取れていない激安品がインターネットでよく見つかる。安全性や耐久性を考えると、少し高くてもPSEの取れている製品を選びたい。

24V/3AのACアダプターを用意した

なお、FX-1001Jx2のDCジャック規格は外径5.5mm×内径2.5mmだ。これまで使っていたフォステクスの小型アンプ「AP20d」で利用していた電源ノイズクリーナー「Petit Susie」と「Petit Tank Limited Edition」も流用することを想定し、次のような接続順とした。Petit SusieとPetit Tank LEは、5.5mmx2.1mm、5.5mm×2.5mm両対応のため、FX-1001Jx2には変換アダプター無しでそのまま接続出来る。

ACアダプター⇒Petit Susie⇒Petit Tank Limited Edition⇒FX-1001Jx2

デスクトップオーディオ環境

AP20dと比べて少し小さい筐体は、机に設置しても一切の圧迫感は無い。むしろ若干高さが低くなったのでグッとコンパクトに感じられる。ゲイン設定スイッチは、本機のトレードマークのように存在感を放っていて、これはオーディオ機器っぽいと感じて好きになれる人と、背面に小さなスイッチで付けてほしいと思う人で評価は分かれそうだ。

机に設置しても一切の圧迫感は無い

ちょっと想像してみよう。ゲイン設定の目的をおおまかなボリュームコントロールと捉えるか、大型のスピーカーなど音量感が不足するシチュエーションで使うゲインアップ機能と捉えるか。後者なら、頻繁に使うことはないだろう。一度設定したら、スピーカーを変えるまでほぼ触らない。前者なら、楽曲の音量感によってたまに変更があり得るかもしれない。

ここで参考になるのは、製品説明にある一文だ。

「ハイゲイン設定で至近距離のご視聴は、アイドル時にICの個体差から搬送波由来のノイズが聞こえる事もございます」

筆者の環境では、この「ノイズ」との関連性は不明だが、ゲイン設定32dBと36dBにおいて、サーという高ゲイン特有のノイズがスピーカーから聞こえた。耳から各スピーカーまでの距離は60cmだ。スピーカーに耳を近づければ、26dBでも僅かに聞こえるが、普通に聴く分には近くでノートパソコンの排熱ファンが回っていれば、それよりも小さいのでまったく気にならない。よって、ボリュームコントロールの補助としての使い方は避けて、最小ゲインの20dBのまま使用することにした。

USB-DACのFiiO「K3ES」の出力レベルは最大2Vrmsとなっていて、実運用上まったく音量の不足を感じなかった。なお、適切なゲイン設定は、スピーカーの大きさやインピーダンス、試聴距離などにもよるので、一概に言えるものではない。

そもそもせっかくのパワーアンプなのに、ゲイン切り替えを加えたら音質が劣化するのではと不安もあるが、そこは配慮がなされている。一般的なアッテネーター式ではなく、NFJオリジナルのマイコン制御によるアンプICのパラメーター変更方式を採用することで、抵抗部品による音質劣化の影響を受けない設計にしているそうだ。切り替え時には、2秒ほどのミュートが入る仕様になっている。

なぜパワーアンプを導入したのか

まだ詳しく触れていなかったが、なぜプリメインアンプからパワーアンプに変更したのかを説明しておこう。

前述の通り、筆者はデスクトップオーディオをリニューアルした際のレポート記事を公開した。パワーアンプは、フォステクスの小型アンプ「AP20d」。RCAと3.5mmのライン入力を備え、ボリュームも搭載していた。(メーカーはパワーアンプと銘打っているが)機能的には、プリメインアンプと呼んでもいいだろう。

フォステクスの小型アンプ「AP20d」

上流のUSB-DACは、FiiOのK3ES。PCとUSB接続し、384kHz/32bit, DSD256までの再生に対応するヘッドフォンアンプ付きのミニマムなDACだ。

FiiOの「K3ES」

お恥ずかしながら、3.5mmのラインアウトを目当てに購入したのに、出力レベルが可変であることを知らなかった。具体的には、ヘッドフォンの音量調整に使うボリュームを回すと、ラインアウトの出力レベルが変わる仕様だ。最大で2Vrmsを得られるので、ボリュームMAXにすれば一般的なラインレベルとして使用出来る。

ラインアウトといえば出力レベルは固定で、下流のプリメインアンプでボリューム調整すると早合点してしまったのだ。実際、可変と固定を切替えられる機種も他社には存在していて、デフォルトは固定だろうと思い込んでいた。K3ESのFAQには、出力レベルが可変であることは明記されており、ちゃんと事前に確認しなかった筆者の落ち度である。

結果として、USB-DAC「K3ES」のボリュームと、パワーアンプ「AP20d」のボリュームと、2箇所にボリュームが存在する事態に……。ボリュームは、デジタル式にしろアナログ式にしろ、音質劣化の要因となり得る。できるだけ1箇所に抑えたいと思っていた。

以上が純粋なパワーアンプが必要になった背景である。AP20dがイマイチということは一切無く、製品の組み合わせをミスしてしまったということだ。

音を聴いてみる

スピーカーケーブルとRCAケーブルを接続して、電源も接続。いくつかのコンテンツを試聴してみた。

一聴して、音場の透明感が向上し、奥行きが広がったのが分かる。デュアルモノ増幅ならではの優れたチャンネルセパレーションが空間表現力を高めているのだろう。

前述したとおり、JBLのスピーカー「Control 1 PRO」(4Ω)を鳴らす筆者の環境では、ゲイン設定は最小の20dBで十分。K3ESのボリュームも4割程度まで上げれば、適切な音量感を得ることができた。

アンプとしての音色感は、最初高域がブライトで全体的に固い印象を受けたため、DAPを繋いで小音量で40時間程度鳴らしてみたところ、マイルドになって耳障りな帯域も消滅した。

それにしても、奥行き表現の実力は本当に驚かされる。劇場公開中の「ガールズ&パンツァー 最終章 第4話」の冒頭映像。YouTubeの配信ではあるが、徹底的に作り込まれたSEはステレオミックスでも試聴出来る。配信された当初、劇場観賞を振り返る意味で何度も試聴した。FX-1001Jx2で聴いてみると、戦車内のエンジン音が狭い運転席で鳴っている「空間のサイズ感」や「金属車内で反響する硬質感」などが一気にリアルさを増した。以前は、劇伴にしろSEにしろ、スピーカーに貼り付き気味のイメージだったが、音の範囲が後ろにも前にも広がっている。

ホール録音を行なったBeagle KickのDSD5.6MHz音源「Rememberance」。ジャズカルテットを152席のシューボックスホールで演奏したこの楽曲は、ジャンルにしてはかなりライブな音源になっている。ドラムがギターよりも少し引っ込んで右側で鳴っているのは意図的なミックスなのだが、シンバルやハイハットといった金物がちゃんと奥行きを伴って聴こえてくる。Control 1 PROの低域の限界もあり、ホール録音の完全再現とはまでいかないものの、ピアノやギターの音像がスピーカーを飛び出してくるような描写力には感心した。Control 1 PROってこんな音も出せるのか!と魅力を再発見した思いだ。

CD音源とハイレゾ版の違いも聴き比べしてみる。先月行なわれたJAZZ in FUCHUでファンになったアルトサックス主体のフュージョンバンド「MANHATTANZ」のアルバム「Off the Record」を聴く。

CD版では48kHzから44.1kHzにデジタル変換されたときのディテールの滲みやツブれがはっきりと分かる。マスタリングの違いも如実に表れた。押し出し感の強いCD版に対し、moraで配信中のハイレゾ版は生楽器それぞれの微細な演奏ニュアンスを残す音作りであることが分かる。タイム感がキレッキレなドラムやギターのトランジェントも9,000円弱のパワーアンプとは思えない余裕の鳴りっぷり。Control 1 PROがモニタースピーカーであることをより実感させてくれた。良いところも悪いところも、忠実に鳴らしてくれる。

Petit SusieとPetit Tank Limited Edition

Petit SusieとPetit Tank Limited Edition(以下Petit Tank LE)の効果もチェックしてみた。両機を外し、今期のアニソンから「私が笑う理由は」のハイレゾ版を試聴。中高域にザラつきのような雑味が混じっている。ドラムやアコギのシャカシャカやキンキンといった音が特に耳に付く。心なしか奥行きも狭くなった気がする。ストリングスも平べったい。

そこで、ノイズ除去の効果があるPetit Susieを加えた。イヤな雑味が消え去り、96kHz制作の音場の広さをはっきりと感じられるではないか。スピーカーに貼り付いていたアコギやシンセの音が前に出てきて、ミックス本来の意図を表現しているようだ。このままで十分な気もしたが、バルクキャパシタのPetit Tank LEを追加する。これは大変だ。中低域のエネルギーが補完されて、バランスのいい出音になったのがまず一点。バルクキャパシタの効果であり基本的なベースはここにある。それだけではない。オーディオにおける旨味の様なモノまで付加されている。

何より驚いたのは、質感表現の付与だ。ストリングスは、ちゃんと生演奏に聞こえるし、ドラムのスネアはちゃんとスネアだし、ボーカルは人の生声だ。何を言ってるのか意味が不明だが、本当にそのように変わるのだから仕方ない。言うなれば、生楽器に限りなく近い打ち込みの音が、本当の生演奏に変わったような。クラシックコンサートでPA無しのオーケストラの豊かな音色を聴いたときのような感動が味わえるのだ。プラスされる質感は、鈍るとか、甘くなるといったクセの強いものではなく、音に血が通って温度感が出てくるベクトルのものだ。あまり好みの問題は出にくいのではないかと筆者は考える。コンデンサの選定は、単純なスペックだけでなく、オーディオとの相性が大切なのだと思わせる好例だと思う。

Petit SusieとPetit Tank LEは、アクリルケースキット込みでも、総計5,560円と電源対策のアクセサリーとしては破格。FX-1001Jx2と合わせて揃えてほしいアイテムだ。

プリとパワーの分離は、オーディオファンの憧れ――筆者としても、いずれは到達したい高みだ。今回は、リーズナブルな小型デスクトップオーディオという形ながら、FX-AUDIO-のこだわりのサウンドに「オーディオっていいな」と改めて感じさせられた。現実的な話、デスクで純粋なプリアンプを使っている方は少数だろう。専らボリューム可変のUSB-DACなどのソース機器を持っている方が主な対象となると思われる。

FX-1001Jx2は、小型パワーアンプという稀少なカテゴリーにおいて、一際強い存在感を示せるだけのポテンシャルを持っている注目のプロダクトだ。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト