レビュー

タイムシフトの限界32TBに挑め! REGZAで見逃しも怖くない快適テレビ生活

東芝の4Kテレビ「REGZA 55X920」を買って2カ月が経った。新4K放送はもちろん、 地上デジタル放送番組やNetflixの配信作品なども、本当に綺麗な画質で楽しめている。家に帰れば有機ELテレビが待っていると思うと、不思議と帰宅の足取りも軽くなる。

東芝「REGZA 55X920」と、タイムシフト録画用HDDケース(下)

ただ、REGZA 55X920の特徴的な機能のひとつ、地デジ6ch全録機能の「タイムシフトマシン」はこれまで使っていなかった。地デジ録画は手持ちのBDレコーダーに任せており、番組改編期に新番組を網羅してくれる機能に満足していたのと、6chを長時間連続で録り続けられるHDD(ハードディスクドライブ)を持っていなかったためだ。

タイムシフトマシン対応の純正USB HDDで最も容量が大きいのは、5TBの「THD-500D2」(実売54,380円)で、1台あたり約80時間(4TB)のタイムシフト録画と、約125時間(1TB)の通常録画が可能だという。古い番組は自動的に消されるが、一日にタイムシフト録画する時間を調整してうまくやりくりすれば、一〜二週間程度は手元に残しておけるだろう。

タイムシフトマシン機能の概要

しかしこの容量だと、放送開始から数週間経ったドラマ/アニメがたまたまネットで話題になり、「ノーマークだったけど観てみようか」と思った頃には第一話が消されていてガッカリ……ということもありうる。せっかくタイムシフト録画が使えるのに、ここでネットの見逃し配信に頼るのも変な話だ。どうせなら最初から大きな容量のHDDを選び、長く録りためられると安心できる。

東芝によれば、X920シリーズはメーカー保証の対象外ながら、システム的には最大32TBのHDDに約640時間ものタイムシフト録画が可能だという。実際に試してみたという話はネットでも見かけないが、そんなことが本当にできるのか? いちユーザーとしてはとても気になる。

そこで今回、タイムシフト録画の限界に挑むべく、編集部の総力を挙げて32TBのHDDをかき集め、自宅の55X920でタイムシフト録画を体験することにした。弊誌ではこれまでもREGZAシリーズのタイムシフトマシン機能を度々取り上げているが、筆者はじっくり使うのは初めてだ。

自宅に届いた計32TBのHDDとケース一式。配達員のお兄さんがこの箱を肩に担いできたのを見て、その筋力に驚くより先に寿命のほうが縮まった。ついでに「アッ、そのまま床に置いてっていいですから」などと口走った

32TB HDDでタイムシフト録画できる……のか?

今回、筆者が試用したのは、4台のウエスタンデジタル製HDD「WD Red 8TB」(WD80EFAX)と、2台のHDDケース(センチュリー「裸族の二世帯住宅リフォーム」)。

WD Redシリーズは、24時間365日常時稼働向けに作られた安心と信頼の高性能HDDで、タイムシフト録画にはうってつけといえる。個人的に使っているNAS用HDDは旧WD Greenで全部積み上げても計16TBだが、32TBものWD RedのHDDを手にするのはこれが初めて。箱から出したり部屋に置くときも慎重になる。

WD Red 8TBが4台。壮観を前に、カメラを構える手が震える

HDDケースは様々な製品があるが、タイムシフト録画に使うのであればUSB 3.0接続に対応しているものが必要だ。今回用意したケースはUSB 3.1 Gen2対応のUSB Type-C端子を備えている。6chを録り続けながら番組再生もこなすにはUSB 3.0の高速性と、“息継ぎ”(数秒書き込みが止まること)のないUSBインターフェイスが必須。ちなみに4K番組を含む通常録画のHDDは、信頼できるメーカー製であればUSB 2.0対応でも問題なく使えるという。

センチュリー「裸族の二世帯住宅リフォーム」
ケース側のUSB Type-C端子。USB 3.1 Gen2に対応する

55X920はタイムシフト録画専用に2基のUSB 3.0端子を背面に備えている。X920シリーズのタイムシフトマシンは放送と同じDR画質でUSB HDDに録画する仕組みで、HDDケースなどを利用すれば、USB 1基あたり最大16TBのHDDを接続可能。東芝では「設計上は32TBまで動作するはず」と説明している。

また、有機EL REGZAのX910シリーズや、液晶REGZAのZ720X、Z810Xなど「Z20X以降のREGZAのテレビは録画のプラットフォームは基本的に同じなので、(32TB HDDでのタイムシフト録画も)できると思われる」とのこと。ただ、繰り返すがこれはメーカー保証の対象外となるので、もし試す場合は気をつけて欲しい。

テレビ背面の専用USB端子(左の上下ふたつ)に、タイムシフトマシン用のUSB HDDを繋ぐ

2台の8TB HDDを1つのHDDケースに収め、ケースのRAID設定スイッチをSTRIPING(RAID 0)にセット。搭載したHDD分の容量(=16TB)がそのまま使えるようにした。これが2台で計32TBのストレージができあがる。

2台の8TB HDDをHDDケースに挿入
ハードウェアスイッチをRAID 0(STRIPING)にセット

だが、55X920に繋いでみたところ、タイムシフトマシンの初期設定画面では「HDDの総容量が32TBである」ことを示す表示は、特に出なかった。今回使ったHDDケースにも、RAIDの動作状況を示すインジケータランプなどは無い。本当にUSB 1基あたり16TBのHDDとして認識されているか、ちょっと心配になる。

いったん2台のHDDケースをMacBook Airに繋いでみると、計32TBのストレージとしてきちんと認識されていた。一安心してから、55X920に改めて接続した。

MacBook Airに2台のHDDケースを接続
計32TBのストレージとしてmacOSに認識された

本当にこれほど大容量のHDDを正しく認識するのか。最初は不安もあったが、55X920は32TB HDDをしっかり認識してくれたようだ。

55X920に繋いだUSB HDDが認識された

試しに24時間録り続ける録画設定を選んだところ、録画可能日数の目安は「約29日」と表示された。約29日はおよそ696時間で、「32TBで約640時間タイムシフト録画できる」という東芝の説明よりも56時間ほど多く見えるが、実際は録画番組以外にも管理データなどの領域があるのかもしれない。

24時間フルで録画した場合の目安は「約29日」

タイムシフト録画の設定は、画面の指示に従って録りたい放送局にチェックを入れたり、リモコンの上下キーで録画時間帯を選ぶだけなので簡単だ。全録というと一日中ずっと録り続けるイメージがあるが、実際はかなり柔軟に録画時間を設定できる。

録画時間設定については、5種類のプリセットが用意されている。個人的な視聴スタイルとしては、平日はゴールデンタイム+深夜1時頃までの約6時間(19~25時)が録れれば十分だが、休日は映画やアニメ、一部のバラエティ番組など、後で見たくなりそうな番組が朝から夜までばらけているので長時間カバーしておきたい。そこで、デフォルトで設定されている「月〜金:午後7時〜翌午前1時/土・日:午前8時〜翌午前1時」を選んだ。

この設定の録画日数の目安は「約75〜76日」で、32TBあれば約2カ月半ものあいだ、放送番組をひとつも消さずに録り続けられる。録画時間は後から変更もできるが、これだけ録りためられれば十分すぎるほど。今のところ特に変える必要はなさそうだ。

自宅のREGZA 55X920のタイムシフト録画設定

録画時間の設定は他にも、以下の4つのプリセットが選べる。手動で録りたい時間を指定することもできる。

  • 「月〜金:午後0時〜翌午前1時/土・日:午前8時〜翌午前1時」
    平日は昼から夜まで、土日は朝から夜までカバー
  • 「毎日午前8時〜翌午前1時」
    曜日にかかわらず朝昼夜の番組を録り続ける
  • 「毎日午後0時〜翌午前1時」
    曜日にかかわらず昼と夜をカバー
  • 「毎日午後7時〜翌午前1時」
    毎日ゴールデンタイムのみに絞って長い日数分録画
録画時間の設定画面。(左上から)「月〜金:午後0時〜翌午前1時/土・日:午前8時〜翌午前1時」、「毎日午前8時〜翌午前1時」、「毎日午後0時〜翌午前1時」、「毎日午後7時〜翌午前1時」

テレビライフが一変。大量の録画番組も探しやすい

タイムシフトマシンは、最大6chの地デジ番組をHDD容量目一杯使って自動録画し続ける。見たい番組を録画予約する必要は基本的にほぼ無くなった。「録画番組が多すぎて見たいものが探せなくなるのでは」と思うかもしれないが、ジャンルや自分の興味にあわせて録画番組を整理し、リスト/サムネイル表示する「ざんまいスマートアクセス」があり、音声検索機能でぼんやりした情報や話題の人名・キーワードからある程度目当ての番組を絞り込める。

「ざんまいスマートアクセス」で見たい番組を探す

「テレビを見る」が「テレビにアクセスする」という感じで、テレビとの付き合い方が大きく変わった。録った番組を見るというより「番組を選んでテレビを見る」という感覚なので、放送ではないが、使い勝手として映像配信サービスを使う感覚と似ている。テレビを本気で見ない人も、「録画するほどじゃないけど、ネットでバズってた話題の番組をちょっと見てみたい」ということはあるだろう。そんな今だからこそ、筆者はタイムシフトマシンのありがたみが実感できた。

また、「へぇ、こんな番組があったんだ」と、普段は見逃していた番組にも気づけるようにもなり、使い始めて2週間程度ながら、筆者のテレビライフは一変した。タイムシフト録画を始めてから録れててよかった、と思った番組をいくつか挙げてみよう。

  • サッカーAFCアジアカップ2019 決勝 日本×カタール(2月1日、テレビ朝日)
    いつも熱心にサッカーを見る方ではないが、この試合は仕事中も結果が気になっていた。帰宅時に運悪くいつも使っているバス路線で事故があり、結局日付が変わるまで帰宅できなかったが、タイムシフト録画のおかげで見逃さずに済んだ
  • 嵐の活動休止発表(1月27日、フジテレビ)
    この日は朝から外出していて、彼らのニュースはタイムシフト録画されていたFNNプライムニュースで詳細を知った。ファンというわけではないのだが、テレビでは比較的良く見る面々で、この後に放送された「嵐にしやがれ」(日本テレビ、毎週土曜日)の番組冒頭では、メンバー5人の真摯な姿が見られたのが印象的だった
  • 小説家・武田綾乃の書籍紹介インタビュー(2月2日、TBS「王様のブランチ」内)
    アニメ「響け! ユーフォニアム」シリーズの原作小説などで知られる武田綾乃氏。彼女の新刊小説「その日、朱音は空を飛んだ」の紹介が休日の情報番組でやっている、とネット(の一部)で話題になっており、アニメから武田氏の小説に興味を持った筆者も、タイムシフト録画できていた同番組を観てみた。新刊の内容は「響け!」シリーズとは打って変わってかなり暗めだが、作者本人のTwitterによると放送後に売り切れた書店もあったようで、改めてTV放送の影響力の大きさを感じた(自分も買った)

設置前の注意点。「テレビを点けたらすぐ全録」が便利

ところで、タイムシフトマシンを利用する前に気をつけたいのが「HDDケースの設置場所」。一度タイムシフト録画を始めると、基本的にはコンセントから電源ケーブルを抜いたりHDDケースを動かしたりできなくなるので、あらかじめしっかり決めておきたい。

また、とりあえずUSB 1基にHDDを繋いでタイムシフト録画を始めて、後からもう1台足して容量を拡張することはできないと考えた方が良い。USB 2基でワンセットのHDDとして認識するため、後からUSB HDDを追加しようとすると、録画番組を全部消してセットアップし直しになるのだ。筆者は最初にこれをやらかし、泣く泣く数日分の録画データを手放した。32TBとまではいかなくても、最初からできるだけ大容量のHDDを選びたい。

今回試用したWD RedとHDDケースを32TBぶん揃えたときの価格は約13万5,000円('19年2月時点)。全録レコーダーが買えてしまう額ではあるが、レグザタイムシフトマシンの最上位「DBR-M4008」(実売約138,000円)でも4TBなので、HDD容量の差は圧倒的だ(DBR-M4008には最大6TBのUSB HDD×4台を同時に繋げられるが、それらを追加購入しても計28TB)。また、録画番組を見たいときにいちいちレコーダーを起動して映像入力を切り替えて……という手間がかからず、電源を付けたらすぐ観られるのも、テレビの全録機能を使うメリットといえる。

ちなみに、55X920はDTCP-IPサーバー機能を備えているが、これは録画番組をREGZAのレコーダーやDTCP-IP対応サーバーにダビングしたり、DTCP-IP対応テレビからネットワーク経由で観たりするためのもの。スマホ用のDTCP-IPプレーヤーアプリ「DiXiM Play」でアクセスしてもタイムシフト録画した番組は再生できなかった。手持ちのiPhoneやXperiaではMPEG-2 TSをそのまま再生できないのが原因と思われるが、ちょっと残念。

自宅には過去に東芝から発売されていた、防水仕様のレグザポータブルテレビ「10WP1」があったので試したところ、お風呂からタイムシフト番組が見られた。今年の冬は長湯が捗りそうだ。

ポータブルレグザ「10WP1」で「嵐にしやがれ」をタイムシフト再生

タイムシフト録画の電気代は月500円〜。HDDの音は気になる?

6chを録画し続けるタイムシフトマシン機能の魅力は分かったが、気になるのは消費電力。55X920のカタログ値は385W、待機時0.4Wとなっているが、これは定格動作時(リモコン待機時)の数値だ。

録画しているがテレビを見ていない時間の消費電力はどうだろうか? 簡易電力量計(ELPA EC-05EB)を使い、55X920と2台のHDDケース(計32TB)をまとめて測ったところ、タイムシフト録画中は73〜75W程度、録画停止時はほぼ0Wとなった。筆者宅は東京電力の「従量電灯B」で契約しており、1kWhあたりの料金は26円(第2段階料金)。今回、筆者が55X920に設定した録画設定で、1週間(計64時間)の電気料金を計算すると以下のようになった。

  • 2.25kWh×26円=58.5円
    (2.25kWh:約75W×6時間×平日5日分)
  • 2.55kWh×26円=66.3円
    (2.55kWh:約75W×17時間×土日2日分)
    合計124.8円

そしてざっくり見積もると、1カ月(4週間)の電気代は約500円、1年(52週間)で約6,490円となる。単純な比較はできないが、金額だけを見れば、月1,000円程の映像配信サービスに毎月料金を支払うよりは安いといえる。

自宅でのタイムシフト録画中は、消費電力は73〜75W程度だった

ちなみに、55X920単体でHDDケースを含めずに同様の条件で測ると、タイムシフト録画中はおおよそ34W程度、録画していない時はほぼ0W。これで1週間に64時間録ったときの電気代は約56.6円(2.176kWh×26円)となる。1カ月で約230円、1年で約2,940円になる計算だ。HDDケース単体(8TB×2基)では、タイムシフト録画中は1台あたり常時20Wほど消費するようで、1週間使うと約33.3円(1.28kWh×26円)。

録画時の消費電力としては高く見えるが、ストレージのサイズやタイムシフト録画の利便性を考えると、個人的には納得できる範囲だと思う。実際の電気料金は、1日にテレビを見る時間や、接続するストレージ(HDDケースなど)の電力、ネットワーク利用の有無など、利用状況や環境によって変わるだろう。上記の計算値は、筆者が2週間程度実際に利用した際の参考値としてとどめておいて欲しい。

なお、タイムシフト録画しながらテレビを見ているときの消費電力は、映像の明るさなどによって150〜240Wあたりで頻繁に変化していた。また、DTCP-IPサーバー機能オン時は、テレビを見ず、かつ録画していない間も、常時30W程度消費するようだ。

タイムシフト録画しながら番組視聴時の消費電力は、150〜240Wあたりで頻繁に変化する

タイムシフトマシンのある生活の中でひとつ気になったのが、録画/再生時の動作音だ。4台のHDDが同時に「カリカリカリ……」と動作し、HDDケース背面の冷却ファンも「シャーッ」と小さく鳴りつづける。耳につくほどではないが、決して無音とは言えない。HDDケースの裏にはゴムシートがあり、さらに自分で用意したAETの発泡素材インシュレーター(VFE-4005H)も敷いているのだが……。

ケース裏のゴムシート
AETのシートを下に敷いて振動対策、のつもり

試しにiPhoneの騒音計アプリ「Sound Level Analyzer Lite」でテレビのある部屋の騒音レベルを図ったところ、普段テレビを見る夜間帯の騒音レベルは、テレビの電源オフ時は35dB程度。エアコンを点けたり、NASを使っているともう少しうるさくなるが、割と静かな方ではある。これがタイムシフト録画/再生時は、テレビの音を無音にしても40dB後半あたりまで上がった。

部屋のレイアウトや寝室との近さなどによっても変わると思うが、気になる人は静音設計のHDDケースを選ぶなどして、対策をした方がいいだろう。

最初に大容量HDDを選ぶと幸せになれる、かも。4Kタイムシフトに期待

タイムシフトマシンで「見たい地デジ番組がすべて手元にある」という安心感を体験すると、見たい番組は録画予約する、という通常の録画スタイルにはもう戻れないな、と思う。マニアックな機能だと感じていた全録だが、普段それほどテレビを見ているわけではない自分にもその魅力がよく分かった。

もし、タイムシフト録画していて残しておきたい番組があれば、通常録画用のUSB HDDにダビングしたり、レコーダーの「レグザブルーレイ」経由でBlu-rayに焼くこともできる。HDD容量いっぱいになると古い番組から自動的に削除されるが、気に入った番組を残す方法はあるので安心だ。

全録生活をスタートしてみると、地デジ8~9チャンネル分は欲しい(今回はNHKを外した)とか、BS番組も全録したい、タイムシフト再生しながらリアルタイム放送を二画面で見たい(現状はできない)など、欲張りな要望も出てきた。さらにいえば、将来的には4K番組のタイムシフト録画に対応して欲しいが、実現にはもう少し時間(と需要の盛り上がり)が必要だろうか……。

今回、タイムシフト録画を使って感じたのは、ちょっとがんばって容量が大きめのHDDを最初に選んでおくと、今回の筆者の設定であれば2カ月以上前の番組まで余裕で振り返ることができ、最終的な満足度が高くなりそう、ということ。最初は無謀な挑戦にも思えたが、タイムシフトマシンで32TB HDDが実際に使えて想像以上に快適だった。

庄司亮一