レビュー
A4サイズに真空管オーディオの魅力凝縮。ラックスマンの新生「Neo Classico II」
2019年1月31日 08:00
ラックスマンのコンパクトシステム「Neo Classico」は、2007年に登場した。今から12年前、米国でiPhoneの初代機が発売された年で、ネットワークオーディオやハイレゾオーディオが産声を上げた時期とも重なる。
ポータブルオーディオが人気を極めたその時期にあえて提案されたNeo Classicoは、そのコンセプトとデザインに新鮮さがあり、なかなかの人気を呼んだ記憶がある。“コンパクトな作りなのに中身は本格派”という意外性もあり、ホームオーディオの潮流に一石を投じたのだ。
ロングセラーとなった同シリーズが新たにNeo Classico IIとして生まれ変わり、真空管プリメインアンプ「SQ-N150」(228,000円)とCDプレーヤー「D-N150」(188,000円)として'18年12月に発売された。
コンパクトな外見を継承しながら細部のリファインを重ね、現代の要求を満たす内容に進化を遂げているという。トランジスターを用いた一般的なプリメインアンプに比べるとトランスなど大型部品が多かったり、出力が小さめなことなどが気になるかもしれない。それでもあえて選びたくなる真空管ならではの魅力とは何か? 興味のある読者は少なくないと思うので、実際に試聴した印象を紹介することにしよう。
クオリティだけではない。上質な美しさもNeo Classico IIの魅力
前作との僅かな外見上の違いとしては、プレーヤーとアンプどちらも高さが増して、ボディの量感がアップしたことが挙げられる。一方、横幅は297mmと変わりがなく、奥行きも250mm強(SQ-N150の場合)とほぼ同じ。端子部を除く本体サイズはほぼA4に相当する。このサイズは奥行きの浅いスリムなラックとも相性がよく、フルサイズのコンポーネントが置けない場所でも無理なく設置できるはずだ。
リビングの居住性を損なわず、しかも既存のオーディオ機器とはひと味違う雰囲気を醸し出すのは先代と変わらぬNeo Classicoシリーズの魅力だ。
特にSQ-N150には新たにLED照明付きのアナログメーターが付き、真空管のヒーターが放つオレンジの光とともに目を楽しませる要素が増えた。いまどきの電子機器で基幹部品が露出している例はほとんどなく、外から見ればたんなるブラックボックスでしかない。内部を電子が動く増幅素子本体が直接見られる真空管アンプはその意味でも貴重な存在で、トランジスターアンプでは置き換えられない美しさがある。
SQ-N150はフォノイコライザーやボリューム、トーンコントロールなどのプリ部をトランジスターが受け持ち、パワー段に真空管を用いたハイブリッド構成を採用している。パワーアンプ回路はドライバー段の位相反転回路とプッシュプル増幅回路だけのシンプルな構成で、真空管はP-K分割型による位相反転回路にECC83(2本)、増幅回路にEL84(4本)をそれぞれ使用する(EL84は5極管接続)。
いずれも入手しやすいおなじみの真空管で、製造元は今回からスロバキアのJJエレクトロニクスに変更された。JJの真空管を選んだのは安定性と寿命の長さが主な理由とのことで、末永く使い続けたいリスナーへの配慮が感じられる。本機の場合、基本的に真空管アンプだからといって特別なメンテナンスは必要ないので、初めて真空管アンプを購入する場合も不安はない。
ところで、SQ-N150の出力はチャンネル当たり10W(6Ω)である。たったの10W? と思うかもしれないが、EL84のプッシュプル増幅回路としては標準的な出力で、実用上はパワー不足を感じることはまずないと言っていい。今回はフォーカルのAria 906(感度89.5dB)を組み合わせて試聴したが、音圧には十分な余裕があった。
トランジスターアンプとの大きな違いの一つとして、出力トランスの存在についても説明しておくべきだろう。SQ-N150には右側の電源トランス以外に2基のトランスを積んでいるが、これは左右各それぞれの出力信号にインピーダンス整合を行なう役割を担う。出力トランスの性能は真空管アンプの音質を大きく左右するが、余裕のあるコアを採用するなど、本機はその点でも妥協はしていない。適切に設計された真空管アンプは出力が小さくても芯のある再生音を実現できる例が多く、それには出力トランスのクオリティも大きく関わっているのだ。
D-N150は、アルメディオ製の信頼性の高いメカニズムを積むCD専用プレーヤーだ。アルメディオはティアックのドライブ技術を継承した日本の専門メーカーで、その性能には定評がある。
本機に採用されたメカドライブはD-380とも共通する、グレードの高いものだという。前作のD-N100にはデジタル入力を省いていたが、音源の多様化を受け、本機はUSBと同軸/光入力によるデジタル信号に対応。DACはPCM5102Aを採用し、USBは192kHz/32bitまでサポートする。
専用ドライバと再生ソフトの組み合わせでバルクペット伝送にも対応したことも目を引くが、残念ながらDSD信号には対応していない。再生ソフト「Luxman Audio Player」はDSD再生に対応しているのだが、D-N150本体の仕様上、DSD再生ができないということのようだ。
楽器は隅々まで鳴りきり、ボーカルはクリアで勢いとスピードがある
まずはCDの再生音を聴いてみよう。
ハイメ・ラレードが弾くクライスラーは、包み込むようなピアノの柔らかい余韻のなか、ヴァイオリンがクリアな音色で浮かび、親密さを感じさせる。強めの圧力で重音を弾いてもアタックがつぶれず、楽器が隅々まで鳴り切っている様子がリアルに伝わってきた。
ヴァイオリンの中音域は真空管アンプから連想する通りの柔らかい音色をたたえているが、立ち上がりが素直なこともあって一音一音の分離が良く、速い音符が不自然につながってしまうことがない。クリアな立ち上がりと柔らかい音色が両立した音というのがこの曲での最大の聴きどころである。
次にジェーン・モンハイトのアルバムから「ハニーサックル・ローズ」を聴く。ベースに余分な重さが乗らないのはこの録音のもともとの音調で、Neo Classico IIの組み合わせはその特徴を忠実に再現した。
リズムのキレが良く、どんどん前に進む雰囲気がよく出ている。肝心のヴォーカルは音色がウォームで尖ったところがないが、発音はクリアで勢いとスピードがある。Aria 906の持ち味である低音の反応の良さが活きて、ヴォーカルもリズム楽器も軽快に動いていくのだ。真空管アンプにスローなサウンドというイメージを持っている人は、本機の音を聴くと少し意外に感じるかもしれない。実際のところ、SQ-N150の音は真空管アンプのなかでもかなり応答性の良いサウンドという印象を受ける。
オーケストラは山田和樹指揮スイス・ロマンド管弦楽団によるルーセル《バッカスとアリアーヌ》を聴いた。SACD層を再生できないのは残念だが、CDからも響きの密度の高さは十分に伝わり、特に金管楽器群の停滞しないテンポ感など、この演奏の聴きどころを確実に押さえていることが伝わる。このディスクに記録されている低音は特に、大太鼓がかなりマッシブなのだが、SQ-N150とAria 906の組み合わせは低い音域まで制動が効いていて、緩みはない。
ハイレゾ化されたデジタルマスターに含まれるさまざまな音を正確に再現
次にD-N150のUSB入力にMacBook Proをつなぎ、ハイレゾ音源を再生する。
スコットランド室内オーケストラが演奏したウェーバーのクラリネット協奏曲(LINN Records)は、コンパクトなシステムで聴いても独奏クラリネットとオーケストラの位置関係や余韻の広がり具合が手に取るように分かり、ステージの奥の方まで見通しの良いサウンドが展開した。
クラリネット奏者が強く息を吹き込んだときの楽器の鳴りの良さや実音に含まれる僅かな息漏れの感触など、埋もれがちな要素もマスクされずに確実に聴き取ることができ、リアリティの高い音で再現。CDには収録しきれないような微小信号をハイレゾマスターからそのまま引き出しているのである。
アルネ・ドムネラスの「Jazz at the Pawnshop」(FLAC 192kHz/24bit)は、ライヴ録音ならではの臨場感をどこまでリアルに引き出せるかがポイント。プレーヤーの動きに応じて音の大きさや定位が微妙に変わるなど、ライヴならではの要素をそのまま再現できれば、会場に居合わせた聴き手の気持ちに同化することができる。
Neo Classico IIとAria 906の組み合わせは気配や空気感まで期待以上にリアルに再現し、特にヴィブラフォンは間近で聴いているような生々しい音を体感。ハイレゾ化されたデジタルマスターに含まれるさまざまな音を正確に再現していることをうかがわせた。
SQ-N150はフォノイコの性能も高く、音調をきめ細かく描き分ける
SQ-N150は、MCとMMに対応するフォノイコライザーアンプを内蔵するのでレコードも聴いてみよう。オリジナルモデルのSQ-N100はMM型にしか対応していなかったので、組み合わせるカートリッジの選択肢は一気に広がった。
今回はラックスマンから4年ぶりに登場したターンテーブル「PD-151」(298,000円)を組み合わせ、MMとMCの各入力について実際に再生音を確認する。カートリッジはMM入力にオーディオテクニカのVM型カートリッジ「VM750SH」、MC入力にはフェーズメーションのMC型カートリッジ「PP-2000」を組み合わせた。
最初にキャロル・キッド「GOLD」(45回転盤)から「スウィング・ロウ・スイート・チャリオット」を聴く。静寂からいきなり声が立ち上がるのはバックグラウンドのノイズが少ないためで、カートリッジとフォノイコライザーアンプのS/Nの良さを物語っている。
声のイメージはむやみに広がりすぎず、左右のAria 906を結んだラインの少し奥の方に丸みを帯びた音像がきれいに浮かんだ。微妙な声のかすれ具合や息遣いが生々しいが、声を耳にかぶせるような近さはなく、ほどよい距離感がかえって心地よい。
アコースティックギターはヴォーカルの柔らかい音と対照的なキレの良さがあり、再現する音色の幅が広いことに感心させられた。カートリッジをVM-750SHに交換すると低音の沈み方が少しだけ深くなるが、声の澄んだタッチはMC型の方が引き出しやすい。
ハイレゾ音源でも試聴した「Jazz at the Pawnshop」をレコードでも聴いてみる。最初にPP-2000で聴くと、ATRマスターカット仕様のLP盤ならではのリズムの切れの良さに加えてベースが間延びせず、引き締まった音で軽快にリズムを刻む。カートリッジをVM-750SHに交換するとサックスの一音一音に芯の強さと勢いが感じられ、精緻なPP-2000とはひと味違うサウンドが展開した。このレコードについては、VM-750SHの方が動きのある音を引き出し、相性の良さが感じられた。
カートリッジによる音の違いを楽しめるのはアナログ再生の醍醐味だが、カートリッジの個性をどこまで鳴らし分けることができるかはアンプによって決まる。SQ-N150は輪郭の太さや低音の重量感など、音調の違いをかなりきめ細かく描き分けてくれるので、カートリッジを使い分ける楽しみが広がりそうだ。
また、削り出し加工のアルミをトップに配したPD-151とNeo Classico IIは仕上げの感触に統一感があり、横に並べたときにはエッジのシャープな直線が揃って見栄えがいい。