日沼諭史の体当たりばったり!

空間光学ブレ補正アクションカム「FDR-X3000」はバイクのブレに強い? 弱い?

 高性能な電子式手ブレ補正機能を盛り込み、高い評価を獲得してきたソニーのアクションカムシリーズ。その進化は止まるところを知らず、6月に登場した最新モデル「FDR-X3000」ではついに光学式のブレ補正機能が搭載された。

バイクに取り付けた「FDR-X3000」の光学式ブレ補正は、果たして有効に機能するか

 電子式では映像の前後フレームの差分などを分析し、フレーム単位でブレを最小化するための画像処理を行なうものだが、その分視野角は狭くなってしまうデメリットがあった。一方、FDR-X3000の新たな光学式ブレ補正は、レンズやセンサーモジュールなどのハードウェア自体がカメラの揺れを打ち消す方向に動き、映像のブレを抑えながら視野角を広く保てるもので、電子式のデメリットを見事に解消した画期的な仕組みである。

 しかし、製品発表時の記事で気になったのは、次の記述だった。

 「カメラにある一定の高周波振動が加わると、空間光学の機構が共振したような状態になり、画像が歪んだり、ピントにボケが出る可能性があるという。具体的には、バイクのハンドルに取り付けて、その取付場所や、エンジンの回転数、走行スピード、乗り方など、特定の条件が重なった時に発生が確認されている」

ソニー、空間光学ブレ補正搭載アクションカム。4K&超広角で強力補正

 広視野角のままブレを限りなく少なくするはずの光学式ブレ補正機能が、特定の条件下とはいえ、バイクでの使用時は逆に画質低下の原因になってしまうことがあるというのだ。これは本当なのだろうか。また、それが本当だとして、どれくらい再現性のあるものなのか。走行動画の撮影にFDR-X3000を使おうと考えているライダーにとっては気になる部分のはずだ。

 そこで、今回は筆者所有のバイクにFDR-X3000を実際に取り付けて撮影し、光学式ブレ補正が有効に機能しない現象が発生することがあるのか、もしくは逆にどれだけ発生しにくいのか、ちょっとイジワルな検証を行なって確かめてみることにした。

所有車両で3パターンの取り付け・撮影方法を検証

 あらかじめお断りしておきたいのは、今回の検証は筆者が所有する車両で行なったものであり、車種や排気量の違い、走行方法、路面状況の違いによっても結果は変わってくるだろうということ。たとえ筆者と同じ車両であっても、車両カスタムの程度の差によっては、同じようにテストしても違う結果になる可能性が高い。

 したがって、こういう取り付け方・こういう走り方をしたら必ず同じ現象が発生する、とは言えないし、今回現象が発生しなかった取り付け方・走り方であれば、他の車両でも同じ結果になる、とも言い切れない。あくまでも筆者の車両における事実として捉えていただきたい。ただ、どういった取り付け方、走行の仕方が光学式ブレ補正にとって“不得意”なのか、その傾向を知ることはできると思われる。

 というわけで、念のため今回筆者が検証に使用した車両(と振動に関わりそうなカスタマイズ部分)について簡単に記しておこう。車両は、2003年型スズキ GSX1300R隼をバーハンドルにしたもので、リアスプロケットを純正43Tから49Tに6丁ショート化し、エンジンマウントボルトで車体両サイドにバンパーを装着している。排気はSP忠夫の1本出しフルエギゾーストシステム(SUPER COMBAT PURESPORT)、タイヤは前後ブリヂストンBATTLAX HYPERSPORT S21。

 検証に当たっては、ブレ補正機能を「アクティブ」(光学式ブレ補正)に設定したFDR-X3000と、比較のため電子式手ブレ補正をオンにした前モデルFDR-X1000Vを同時使用した。2台は可能な限り左右対称となる横並びの位置に、同じマウント・取り付け方法で車体に装着している。ブレ補正の効果を分かりやすくするため、解像度・フレームレートはいずれも1080/30pを選択した。

前モデルのFDR-X1000V(左)と新型FDR-X3000(右)を同時使用
取り付けに使用したマウント類。左からハンドルバーマウント「VCT-HM2」、接着式マウント「VCT-AM1」、アームキット「VCT-AMK1」

 車体への取り付けは、実際にバイクで動画を撮影する際によく使われるであろう方法だけでなく、振動があえて発生しやすそうな方法などを想定し、以下の3パターンとしている。いずれも標準の防水ハウジングとともに使用した。

アクションカムの固定パターン
取り付け場所使用マウント
1タンク接着式マウント「VCT-AM1」+アームキット「VCT-AMK1」
2ハンドルバーハンドルバーマウント「VCT-HM2」
3ハンドルバー(高視点)ハンドルバーマウント「VCT-HM2」+アームキット「VCT-AMK1」

検証パターン1:タンクに接着マウント

 検証方法は、車体にアクションカム2台(と一部検証ではメーター確認のためもう1台のカメラ)を取り付けた状態で、時速20~80km前後(エンジン回転数約2,000~8,500rpm)を、最も振動が大きくなるギア1速のまま加速させ、エンジンの回転数の変化などにより映像に変化が現れるポイントを探る、というもの。高速道路を利用したため、路面状況による振動の違いは発生しにくい環境となっているはずだ。

 初めにご覧いただきたいのは、タンクに接着式マウントを貼り、その上にアームキットを使ってある程度視界を高くして取り付けた1番目のパターン。

タンク上に接着式マウントを貼り付け。アームキットを使って高さを稼ぎつつ固定した
【FDR-X3000 検証パターン1:タンクに接着マウント】

 アイドリング時のタンクの振動はハンドルバーのそれと大差ない、手で触れて少し感じられる程度のもの。ところが、エンジン回転数の上昇に比例して振動が激しくなるハンドルバーに対して、タンクの振動はさほど大きくならない。それでも時速80kmとなる8,500rpmまで回した場合はそれなりに振動は大きくなっているはずだが、今回の映像を見る限りでは、どの回転数でも映像が歪んだり、ピントがぼやけてしまうことはなく、安定した映像を撮影できた。

 ちなみに、タンク上にアクションカムを取り付けて前方を撮影する場合は、今回もそうだが、車両によってはかなり視点を高く取らないとウインドスクリーンなどで視界が遮られてしまう。より高い視点から撮影したい時は、できる限り振動が抑えられるよう給油キャップにボルト締めするマウントなどを用い、強力に固定したいところ。

 ただ、後述するようにしっかり固定してしまうと、逆に高周波振動となって映像に問題が発生する可能性がある点には注意したい。

検証パターン2:ハンドルバーマウントで固定

 次に2番目、ハンドルバーにハンドルバーマウントのみを使って取り付けたパターンだ。現在、FDR-X3000をはじめソニーのアクションカム製品の専用アクセサリーとして販売されているハンドルバーマウントは、自転車にも使えるバンド固定タイプの「VCT-HM2」という型番のもので、当初発売されていたボルト締めで固定するハンドルバーマウント「VCT-HM1」は廃盤となっている。使用感としては後者の方がより強固に固定できる印象だが、今回は容易に入手可能な現行製品のVCT-HM2を使用している。

ハンドルバーマウントのみで固定
FDR-X3000 検証パターン2:ハンドルバーマウントで固定

 映像からは、明らかに「歪み」と見て取れる現象が発生していることが分かる。エンジン回転数が5,000rpmに到達する直前あたりからFDR-X1000Vの映像とは異なるブレが出始め、その後は8,500rpmに至るまで、全体にうねりをともなう乱れが続いている。

 この動画には含めていないが、その後シフトアップして回転数を落としても、5,000rpmを下回らない限り歪みは収まることがなかったため、今回の検証に限れば、歪みの原因はエンジンの回転数(に伴う各パーツの車体の振動)に依存している、と言える。ハンドルバーマウント自体は、走行中に目視したところでは大きく目立つ振動は見えなかったため、かなり細かい高周波の振動が加わった際にこういった歪みが発生するようだ。

 ハンドルバーはエンジンから少し離れた場所にあり、当然ながらエンジンとは直結していないものの、細い金属パイプということもあって、振動が比較的大きくなりやすいパーツでもある。車両によってはハンドルがラバーマウントされ、振動を極力抑える構造になっているケースもあるため、その場合は歪みが現れる可能性は低くなりそうだ。また、逆に単気筒エンジンのように振幅が大きい揺れでは、高周波振動とならないため問題が発生しにくいことも考えられる。

検証パターン3:ハンドルバーマウント+アームキットで固定

 最後の3番目は、アームキットも併用してハンドルバーマウントを延長し、視点を高くしたパターン。視野を遮るウインドスクリーンをできる限り避けるため、ハンドルバーの曲がり(立ち上がり)部分から斜めに伸ばすような形になり、余計に振動に弱い取り付け方法になっているかもしれない。そういうこともあって、このパターンはあえて振動が大きくなりそうな、あまり実用的ではない極端な例として、参考までにご覧いただきたい。

ハンドルバーマウントにアームキットをつなげ、高い位置から撮影できるようにした
ハンドルの斜めになった部分から伸ばしているため、かなり不安定ではある
【FDR-X3000 検証パターン3:ハンドルバーマウント+アームキットで固定】

 走行中はマウントを目で見てあからさまに“プルプル”震えている低周波振動の状態だったものの、思ったほど見にくい映像にはなっていない。特にFDR-X3000は、FDR-X1000Vの電子式手ブレ補正では抑えきれない振動もうまくいなしているようで、揺れの大部分が解消されている。細かいブレがわずかに残っているとはいえ、光学式ブレ補正のネガティブな部分は出ていない。

 もちろん、FDR-X1000VはFDR-X3000よりもボディサイズが大きく、本体が5g重い分、揺れが多少なりとも激しくなっている可能性はある。とはいえ、これまでFDR-X1000Vの電子式手ブレ補正を使用しても効果が薄かったユーザーは、FDR-X3000に変えることで問題を解消でき、大いに光学式ブレ補正の恩恵を享受できるとも考えられるのではないだろうか。

映像確認しながらの“普通の”手順で固定場所を決めるべし

 筆者が所有している車両1台のみでの検証ではあったけれど、FDR-X3000の光学式ブレ補正機能は、確かに特定のシチュエーションで映像に歪みが発生することが確認できた。特にハンドルバーマウントを単体で使用した場合に問題が発生しやすい傾向がありそうだ。

 この結果からは、バイクでFDR-X3000の光学式ブレ補正機能を使用する際は、タンク上などにガッチリ強固に固定するか、逆に揺れが少し大きくなっても、細かい振動が加わらないようにする、といった対策が必要と言えそうだ。いずれにしても、実際に撮影してみて最もキレイに撮れる固定場所・方法を探るというのは、従来のアクションカムと変わらない使用手順でもある。そういう意味では、歪みの問題はことさら不安になる要素ではなく、むしろ比較映像からもわかるようにメリットも大きなものだ。

 また、この問題を解消するとされる新しい純正マウントも発売が予定されている。車体構造の都合で、どうしてもハンドルバーなど細かい振動の発生しやすい場所にしかFDR-X3000を固定できないユーザーは、その新しいマウントの早い登場を期待したいところだろう。

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日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。