西田宗千佳のRandomTracking

ソニー平井CEO「まだコンシューマでイノベーションを起こせる」

転換期のCESにみせるBtoCの矜持。コンテンツ、VR、車

 ソニーの平井一夫社長兼CEOが、米国ラスベガスで行なわれているCES 2016会場で取材に答えた。「今年のCESは見どころに欠ける」という意見もあり、筆者もそれに同意する。そこでソニーがなにを考え、どのような戦略で臨んでいるのか、率直に疑問をぶつけてみた。そこで得られたのは、「コンシューマに製品を提供する企業」としての矜持のようなものだった。昨日のプレスカンファレンスに関する記事も併読していただけると幸いだ。

ソニー 平井一夫 社長兼CEO

転換期のCES、そこでも「個人向け」に拘り

 今回、ソニーがCESで発表した製品は、率直に言って小粒なものが多かったように思う。中には、液晶テレビ向け新技術である「Backlight Master Drive」など、きわめて興味深く独自性の高いものもあったが、「画期的な新製品が目白押し」という状態にはほど遠い。平井社長も「商品開発のサイクルの問題もある」と、それを半ば否定しなかった。しかし一方で、訴えたかったことはまた別の観点でもあった。

Backlight Master Drive

平井社長(以下敬称略):おっしゃる通り、発表した内容は発表した内容ですので、目玉となる商品がどれか、という点については、みなさんご判断がおありだと思います。

 しかしそこでメッセージとして私が明確に出したかったのは、商品ひとつひとつ以上に、我々のコンシューマ・テクノロジー、エレクトロニクスに対するコミットメントを、ちゃんとメッセージとして出すことです。お客様に対して商品のイノベーションを出していくんだ、というメッセージを出したかったのです。

FES Watch

 確かに小粒かも知れませんが、FES Watchやwenaのようなものがあります。今度、アロマスティックもやります。小粒とはいいながらも、こういうものはこれまでのソニーではやりませんでしたよね? 「会社としてこういうこともやる」、そういうメッセージを出したかったのです。

 もうひとつあります。テレビビジネスについて「続けるのですか?」「平井さん、テレビってまだイノベーションがあるんですか?」という疑問を投げかけられます。

 私としては「確実にある」と思っています。参考出展させていただいた「Backlight Master Drive」は、明らかにこれまでのものとは違うんです。確実に技術の駒を前に進められますし、違いをご理解いただくことも、まだまだできるんです。

 商品ジャンルとしては新しくないかも知れないけれど、イノベーションを徹底的に起こしていくし、お客様にB2Cの領域でやっていくんですよ、というメッセージを出したかった。

 今年のCESでは、大手家電メーカーが皆、新しい商品軸を出せず、苦戦している。自動車を中心としたB2B展開を広げる企業も少なくない。パナソニックは、北米市場ではB2Bへの軸足転換を明確にしている。CESという場の変化を感じる。

平井:B2Bシフトしている他社さんが多い中、我々にとってもB2Bは大事で、成長ドライバもあります。軽視はしません。

 しかし、コンシューマエレクトロニクスに対して、あたかも「そこにはもうイノベーションがない」というように書かれる、捉えるのは、私は間違いだと思うし、まだまだやるべきことはいっぱいあります。お客様に「これすごいね」と感動していただく、これがソニーのあるべき姿ですし、ソニーのDNAだと思っています。

 ですから「コンシューマエレクトロニクスはコモデディだからビジネスとしては違うよね」という意見に対し、そうではないしそういうスタンスは取らないよ、というメッセージを出したかったのです。

 一方で、次のようにも切り出した。

平井:私はビジネスとして、転換期がきていると思います。CEA(全米家電協会)も「コンスーマー・テクノロジー・アソシエーション」(CTA、全米民生技術協会)に名前を変えてしまいましたよね。自動車メーカーさんとの接点が、エレクトロニクスビジネス・テクノロジービジネスとして、本当に増えてきたと思います。その中でソニーがどう関わっていくのかを考えさせるCESであった、と考えています。

PS VRは「ゲームイベントで発表」、ジャンルにあった場での発表を重視

 そして「当然この話になると思うのですが」として、PlayStation VR(PS VR)の話題になった。今年のCESではバーチャルリアリティが注目されており、「PS VRの発売日や価格が発表されるのでは」との観測もあった。しかし、展示はしたものの、そうした発表は行なわれず、プレスカンファレンスでも触れられていない。

PlayStation VR

平井:PS VRは話題ですし、まさに「今後の方向性を示す」という意味では適切なものです。「なぜこの話をCESでしなかったのですか?」という疑問はおありでしょう。

 でも一方で、PS VRはゲーム中心のイノベーションです。E3や東京ゲームショウやGDCといった、より適切な「場」がある、ということもあります。

 デジタルイメージングでいえばPMAを使うこともあるでしょうし、CESを使うこともあります。タイミングとの兼ね合いもあります。

 CESは年初のイベントなので、「今年の方向性を示す」という意味で盛る、という発想もあるのですが、むしろカテゴリによってどこで発表すると盛り上がるのかにより、やり方は変わってくるかな、と思っています。

 ソニーの場合にはいろんなカテゴリで展開しているので、CESだけが商品の見せ場ではありません。年間を通して見ていただいた方が、ソニーらしさという観点ではわかりやすいかと思います。

 今後、ソニーとしても、特徴的な製品はとにかく全部盛りで発表するのではなく、より「場を選んで」出す戦略に切り換えた、と見ることもできそうだ。だから、PS VRの話は「よりゲームに特化した場」で行なう、ということだ。

スマホ事業の今と「減産リスク」

 一方、今年のCESが目玉に欠けた印象を与える理由は、ここ数年行なわれてきた「Xperiaのフラッグシップ機発表」がなかったせいでもある。理由は単純だ。現在ソニーは、アメリカでのスマホ事業から距離を置いているためである。

平井:特に十時(ソニーモバイル社長)のマネジメントになってから、冷静に判断して、ビジネスベースに乗るところに力を入れることにしました。要は、全市場でマーケットシェアをとるのでない、と方向展開したのです。

 それに沿って、北米ではビジネス縮小しています。中国も縮小しています。

 もちろんずっとそれでいい、と思っているわけではないです。金輪際北米に出て行かない、ということではないです。今は限られたリソースで戦える市場、例えば日本などでは徹底的にやりますが、北米・中国については、足下が強くなってからもう一度やろう、と思っています。さらに、スマートフォンの「次」にモバイルでどういう世界を展開するかを考えるには、色々なノウハウを蓄積しないと次の世界にいけません。それを考えると、北米市場はこれからも大事にしないといけません。

 しかし、赤字覚悟で無闇に入っていく必要はない。どうバランスをとるかが、大きな悩みどころです。今の判断としては一旦お休みし、足下を固めましょう、ということです。

 ソニーのエレクトロニクス事業全体を見ると、大きなマイナスになっているのはスマートフォン事業だ。現在、ソニーモバイルは大規模なリストラのさなかにある。その進展はどうだろうか。

平井:ソニーモバイルコミュニケーションズ自体の構造改革については、今年度(2015年度)に大きいところは終えましょう、ということで進めており、今の段階では予定通りの進捗です。

 モバイルのみならず、常に構造改革を考えなくてはならないので、金輪際ない、という話ではありません。やっていくのがマネジメントの責任です。ただし、いま、ソニーモバイルで進めているような規模の大きな構造改革は、もう今年度で終えたい、と思いますし、その必要性もないと思います。

 また、日本でも価格戦略の変化からある種の「官製不況」が起き、ハイエンドスマホビジネスの減速が起きるのでは、との懸念もある。海外のスマートフォン市場も雲行きが怪しい。スマートフォンというデバイスの事業はもちろんなのだが、そこに向けた旺盛な需要に支えられたイメージセンサーも、リスクを含みつつある。そうした点をどう見ているのだろうか?

平井:日本の市場でXperiaは商品群としてかなりご評価いただいている中で、どういうビジネス環境になるかは弊社がすべてコントロールできる中にはありませんが、Androidのプラットフォームの中でソニーらしさをどうアピールするかが重要です。

 スマートフォンも、ややもするとコモデティ化の波に飲み込まれてしまいます。ソニーらしさを出した商品をいかにお客様に提供できるか、事業環境の変化に対応していくことが一番重要と考えています。

 センサー事業については、これから色々な端末メーカーさんと話し合い、ということになりますが、彼らがスマートフォンの台数をどう見るかは流動的だと思っています。決して「これからもスマホ向けが2桁成長市場である」とは思っていなくて、かなり慎重に見守っていかなくてはならないと感じています。

 ただ、それが著しく弊社のビジネスに、2016年度に影響するかどうかは、もう少し見極めないといけないです。何でもかんでも明るいバラ色のシナリオとは見ていません。

 モバイルという点では、今年はウェアラブルやIoT市場への期待を語る関係者も多い。一方で、ソニーは、CESではそうしたジャンルを積極的にアピールしなかった。どういった戦略を持っているのだろうか。

平井:昨年は色々な商品を出させていただきました。商品的には着実に進化しています。今回飛躍的に違う体験を提供する商品軸を展開していないので、やや新鮮さに欠けたかもしれませんが、ソニーモバイルではXperiaの重要な一部、という認識をしていますので、これからもソニーモバイルを中心に広げていきたいと思っています。

 またウェアラブルという意味では、新規事業推進の中で展開している製品も、今後IoT的な部分でのひろがりも十分考えられると思っています。もちろん、積極的にIoTをどう取り込むか、は各事業で考えなくてはいけません。そうしています。

 その中で、特にプラットフォーム的観点でいえば、商品というよりデバイスとして、弊社のイメージセンサー群を自社のみならず他社にどうオファーできるか、デバイスプロバイダーとしてのIoTビジネスも合わせて考えて行く必要があります。

「ハイレゾはMDじゃない!」。ようやく「世界ビジネスの入り口」に

 今年の発表の中で目立ったのは「オーディオ」だ。「h.ear」ブランド展開など、IFAからスタートしたものを北米でも広げた、とう印象がある。ただ、ハイレゾを中心とした高品質オーディオについては、そもそもアメリカ市場は厳しい。ハイレゾの展開はどのような状況なのだろうか?

オーディオはh.earブランドを積極展開

平井:アメリカは、一番こういった商品が難しいと、最初から認識はしていました。北米の家電量販店「BestBuy」での展開を重視し、特にその中にある、高級オーディオ関連のショップ・イン・ショップ「Magnolia」での展開を進めています。これからはBestBuy本体でも展開してもらえるよう、CESでも、BestBuyのマネジメントとも議論をしました。ようやく「一緒にやっていこう」というところまで来ました。

 そういった意味では、それなりにビジネスとして真剣に考える段にきているかな、と思います。まだまだ日本のようにはいかないのですが、いい音に対するビジネスの機運は高まってきています。努力が少しずつ実ってきました。

 ヨーロッパも国によって違いますが、日本ほどではないものの、徐々に認知が進んでいます。

 ハイレゾは、「過去のMiniDiscのように日本では盛り上がったけれど海外ではまったくだめ」というものではなく、もう少し全世界的な展開を、時間をかけてやっていけるのではないか、という兆しが見えてきました。

ネットサービスは「利益重視」の時代、日本では「コンテンツ提供」に軸足

 ソニーは北米市場で、4Kテレビ向けに、新たにストリーミングを軸に、4K+HDRでソニーピクチャーズ作品を展開する「ULTRA」というサービスを始める。これの日本での展開はどうなるのだろうか? そこからは、「ネットサービス」に対するソニーの、今のスタンスが見えてきた。

SPEによる4K+HDR配信の「ULTRA」は米国中心で'16年スタート

平井:ULTRAはアメリカ中心のものとして発表させていただきました。

 一方、社外での動きとして、NetflixやAmazonが4K配信を行なっています。そうした方々への4Kコンテンツ提供、という事業もありますので、どちらかというと、日本においては後者、コンテンツを提供してサポートする側に回る、ということが中心として議論されています。自社でスタートすることは、直近では考えていないです。

 ストリーミングもネットサービスも、国とか地域でのインフラの状況、ローカルコンテンツがどれだけあるか、お客様がおかれている状況が重要です。

 5年前ならば、ビジネスになるかどうかは別にして、「配信がないとPlayStationのビジネスがこれ以上立ちゆかない」「テレビが売れない」とか、いう状況でした。ある意味、ハードのエンハンサーとしてやらないといけない、という時代です。

 しかし今は、どちらかというと、地域の状況が判断材料としてあった上で、次に来るのは「ビジネスベースに乗るかどうか」を考える時代に来ていると思います。「ソニーのテレビやBlu-rayプレーヤーのサポートのために赤字で」というやり方も、100%ないわけではないのですが、そのレベルの議論は、ずいぶん昔のものです。

 その国での投資にどれだけのリターンがあるか、を考える時代に変わって来たか、と思います。採算度外視で300人しかいないお客様にも、という発想はないです。しかし昔は、それをやらないと、なにもスタートしなかったんです。分かった上でやりましたが、今は採算ベースが最初にくる議論です。

 すなわち「自社サービスで閉じる」「自社サービス立ち上げありき」という判断はなくなり、採算性も含め、その地域に合わせた形になる、ということだ。日本においてULTRAを展開しないのも、「他社にコンテンツ供給を行なう形が、投資効果として高い」との判断、ということだ。逆にいえばそれだけ、北米と日本では市場規模が異なる、という話でもある。

 一方で、4K+HDRについて、ソニーは「配信」重視に見える。パナソニックと違い、ディスクメディアであるUltra HD Blu-rayへの取り組みを発表していない。その点はどうだろうか?

平井:プレーヤーも、市場があると判断すれば出させていただくことになると思います。ストリーミングや配信に対し、ディスクベースでビジネスが出来る・出来ないという話になるかと思いますので、これは時期を見極め、発売を考える、とご理解いただければ。

 つまり、ディスクビジネスをそれだけ厳しい、と見ているわけだ。「まったくやっていない」というわけではない、と聞いているが、昔のように「いの一番に出て行く」意思も、ない。

自動車向けはセンサーで、ビジネスプランを「じっくり検討」

 CESのB2Bにおける花形が「自動車」だ。インテリジェント化する自動車はCESの主軸になった感があり、家電各社も、自動車メーカーとのアライアンス発表に躍起だ。そんな中、ソニーも「自動車には取り組む」としている一方、CESでは動きを見せなかった。現状はどのような状況なのだろうか?

平井:車載用イメージセンサーという意味での取り組みは、以前から申し上げている通り、時間がかかるものです。短期的に発表させていただくようなものではないです。引き続き状況に変化はない、とご理解いただければ、と思います。

 自動車への取り組みは多彩だ。カーオーディオのような「インカー・エンタテインメント」もあるし、そこに付随するユーザーインターフェース的なものもある。ソニーとしては、どこをやるつもりなのだろうか?

平井:どちらかというと、今議論しているのはインカー・エンタテインメントというよりは、センサー群でどういう風に自動車業界に貢献できるか、という観点。大半の議論は、センサー群の活用についてです。

 一方で、ここまで動きが見えないのはなぜだろう?

平井:技術的な観点で申し上げると、ソニーのイメージセンサーはかなり差異化できています。この技術的リーダーシップはリードがありますので、R&Dを推進し、キープする必要があります。そこは色々な自動車メーカーさんからも評価されているとことです。

 しかしなぜ時間がかかるかというと、自動車への納品とデジタルイメージングへの納品では条件がまったく違うためです。

 スマートフォンでもデジタルイメージングでも、商品のライフサイクルは1年から1年半。それで新しいものになっていきます。そこが弊社の差異化の源泉なのですが、しかし自動車は5年、場合によってはもっと長い間、同じ商品・同じスペックのものを供給することが、自動車メーカーにとって重要です。我々がこれまでやってきたビジネスモデルとは違います。

 そして、車は人命を預かるものです。デジタルイメージングで、残念ながらイメージャーに不具合があったとしても人命にかかわるとはまずありませんが、車はまったく違います。求められる枚数・台数も、価格交渉のルールも違います。

 技術はあってもビジネスモデルとして刺さるのかどうか、マッチングが出来てはじめてできるものです。1、2カ月で「はい、やりましょう」と判断できるものではありません。かなり長い時間をかけてひとつずつ検討する必要があり、かなり時間がかかる、とご説明させていただいています。

 ソニーとしては「本気で車メーカーに採用してもらう」ことが重要であり、そのビジネス的な条件が揃うまで、発表することはしない、という方針と理解できる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41