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第405回:おでかけ転送のAシリーズが刷新、ソニー「BDZ-A750」

~ アクトビラも転送できるBlu-rayレコーダ ~




■映像コンテンツは転送の時代へ?

 一時期DVD/HDDレコーダはほとんどの家電/AV機器メーカーが参入し、初夏秋冬とものすごい勢いで新製品が出ていたものだが、最近はすっかり静かになってしまった。定期的に新製品を発表するのはパナソニック、ソニー、シャープの3社ぐらいである。

 パナソニックの新モデルは3月頭にレビューしたばかりだが、すでにレコーダとは単にテレビを録画するだけのものではなく、映像コンテンツ視聴のハブと化す傾向が強まっている。特に映像を持ち出すという機能が、新しい差別化のポイントとなりつつある。

 この方向性を強く印象づけたのは、'08年4月に発売された、ソニー「BDZ-A70」であろう。ワンタッチ転送ボタンを前面にフィーチャーし、ウォークマンとPSPに高速転送を行なうという機能を搭載した。BDレコーダはこれまで「綺麗に残す」に重点を置いていたが、「手軽に見る」に重点を置いたマシンであった。

 そんなAシリーズの後継機が、「BDZ-A950/750」である。4月24日発売で、店頭予想価格は17万円前後と14万円前後。従来のテレビ放送以外に、今回はアクトビラでダウンロードしたコンテンツもおでかけ転送ができるようになる。ネットからのダウンロード販売とはいえ、セルコンテンツを合法的に複製して持ち出せるというソリューション自体、これまでなかったものである。

 今回はBDZ-A750(以下A750)のほうをお借りしているが、HDDの容量以外は上位モデルBDZ-A950と同じだ。持ち出しに特化というよりも、スタンダードモデルとの位置づけになったAシリーズの最新作を、さっそくテストしてみよう。なお今回お借りしているのは試作機であり、製品版では仕様が異なる可能性があることをあらかじめご了承願いたい。


■存在感を隠したデザイン


全体的に目立つことを避けたデザイン

 まず全体の印象だが、前面パネルには相変わらずワンタッチ転送ボタンがある。だがボタン中央を黒くして前モデルよりも目立たない印象にしている。A70はこの機能搭載の初号機だったため強調が必要だったのだろうが、2号機ではデザイン的なバランスを意識したということだろう。

 ボディ全体は前作より15mm薄くなり、フロントパネルは前面が一度に開くようになっている。フロントパネルを開けると、左側には操作系のボタンとB-CASカードスロット、中央部がBDドライブ、右側がi.LINKとUSB端子になっている。BDドライブは、BD-R 4倍速、BD-R DL 4倍速、BD-RE/RE DL 2倍速。


ボタン類は左側に集中BDドライブはBD-R 4倍速記録

 

USBは前面と背面の2つ装備
 転送用のUSBポートは前面にもあるが、背面にも一つある。前面はテンポラリ的な利用に限定し、ウォークマンなどへの転送を頻繁に使う人は背面を利用すれば、フロントパネルが開けっ放しになることがない。

 内蔵HDDは320GBで、地デジDRモードの記録時間は高速転送用のファイルを同時録画した場合で、約35時間。画質モードと録画時間は、下記のようになっている。


録画形式録画モード解像度ビットレートHDD(320GB)BD(2層50GB)
DRBS1,920×1,080約25時間約4時間20分
地デジ1,440×1,080約35時間約6時間
MPEG-4
AVC
XR1,920×1,08015Mbps約36時間約6時間20分
XSR12Mbps約45時間約8時間
SR8Mbps約66時間約12時間10分
LSR1,440×1,0805Mbps約95時間約18時間20分
LR4Mbps約131時間約24時間20分
ERSD2Mbps約237時間約48時間50分

 

サイドパネルにもネジが露出しておらず、綺麗な作り

 天板は光沢感のある素材で、側面から少しテーパーがかかっているため、上から見下ろすと側面が引っ込んで見える。側面にもネジなどが露出しておらず、綺麗な作りだ。

 背面に回ってみよう。排気ファンは伝統の? デュアル方式で、端子の配置や数などは前作とほぼ同じだ。ただUSBポートが増設されている点は先に述べたとおりだ。また昨年秋に発表された高画質回路「CREAS(クリアス)」が搭載されており、HDMIで繋いだだけでテレビが綺麗になるという効果が、Aシリーズでも使えるようになった。昨年秋にはX、L、Tシリーズしか発表されなかったので、CREAS搭載のAシリーズは、今回発売のA950/750が初となる。

 リモコンは、十字キー中央の決定ボタンが、丸みを帯びた凸型に変わっている。以前は周囲の十字キーの形状に合わせてえぐれていたので、決定キーが押しづらかったのだが、その点は解消されている。ボタン類の配置などは同じだ。アクトビラは「クロスメディアバー」からアクセスするので、特にリモコン側にボタンはない。


背面にもUSB端子を装備決定ボタンの形状が変わって押しやすくなった

■アクトビラの「おでかけ」

 今回のAシリーズは、従来機能に昨年秋モデルで実現した機能をプラスしたようなモデルと考えればいいだろう。もちろんそれ以外にも、このモデルからサポートされた新機能もいくつかある。

 一番大きいのは、アクトビラの対応だろう。レコーダでアクトビラに対応したのは、'08年秋のパナソニックDIGA「DMR-BWx30」シリーズが最初である。アクトビラも当時はストリーミングしかなかったが、’08年12月からTSUTAYA TVがダウンロードによるビデオ配信サービスを開始したことで、事情が変わってきた。

アクトビラは「ネットワーク」機能からアクセスするダウンロードサービスを提供しているのはTSUTAYA TVのみ

 ダウンロードサービスには、ダウンロードレンタルとセルスルーの2タイプがある。ダウンロードレンタルは、レコーダのHDDにダウンロードして、一定期間中に視聴するというもので、ダビングはできない。一方セルスルーは、レコーダのHDDにダウンロードする点は一緒だが、2回までのダビングが可能になっている。A750では、このセルスルーで購入したものに限り、PSPやウォークマンに持ち出しができるようになる。

 

サービス

ダウンロードレンタル

セルスルー

視聴期間

映画:48時間以内、テレビシリーズ:48~72時間以内無制限

平均価格

映画:735円、テレビシリーズ:368円

映画:3,675円、テレビシリーズ:893円

画質

MPEG-4 AVC/H.264 平均10Mbps/最大20Mbps

ダビング

不可

2回まで

 このレビュー執筆時はまだA750の発売前であるが、試しにテレビドラマを一つセルスルーで購入してみたところ、問題なくダウンロードできた。ダウンロードコンテンツには専用のアイコンが付けられ、画質的にはSR相当と判断されるようだ。

ヒーローズの初回をダウンロード購入ダウンロードが自動的に開始される

 

ダウンロードが途中でも再生は可能

 レコーダでの映像の視聴は、ダウンロードが完了するのを待たなくても、先頭から再生が可能だ。ただおでかけ転送を行なうためには、ダウンロードが完了するまで待つ必要がある。

 おでかけ転送の手順としては、従来の録画番組と同じである。ただし転送用のエンコードファイルはないので、実時間かけて変換を行なう必要がある。これは転送時でもできるし、空いている時間の予約変換も可能だ。

 セルスルーのコンテンツは、おでかけ転送を行なうと当然ダビング数は1つ減る。しかもおかえり転送はできないので、ダビング数は復帰しないため、自由度は低い。全部で2回の書き出しを行なうとダビング回数は0となるが、最後だからといってMoveにはならない。コンテンツはHDDに残り、レコーダでの再生が可能だ。

 セルスルーのBDライティングは、先行するパナソニックのDIGA DMR-BWx30/x50シリーズでも対応している。以前編集部でセルスルーしたものを記録したBDは、A750でも再生できた。それ以前のソニー機では再生できなかったので、やはりアクトビラ対応した時点で再生対応の仕掛けがされているようだ。

一度転送を行なうと、おかえり転送はできない以前セルスルーでライティングしたBDも再生できた

 ユーザー側からしてみれば、たとえダウンロードであっても正規の料金を払って購入したものものなので、どのBDレコーダ、プレーヤーでも再生できてしかるべきである。このあたりはアクトビラの仕様のようだが、家電メーカーが主導するアクトビラならではの柔軟な、そしてこれが未来のコンテンツ流通であると信じられる対応を求めたい。

 一方で地デジなどダビング10対応の映像を、お出かけ転送後におかえり転送すると、ダビング回数が復帰するようになった。以前はダビング回数がなくなってMoveになったときのみ、お帰り転送でカウントが復帰する仕様だったが、よりルールに対して正確に対応したということであろう。


 

■デジタル時代ならではの予約対応

 レコーダに対してリモート予約するという方法は、過去いろいろな試みがなされてきた。主流だったのは、PCやケータイからEメールを使って予約する方法だが、これはレコーダが定期的にメールを読みに行かなければならないため、どうしてもタイムラグが発生する。10分前に予約したはずなのに間に合わなかったといったことが、起こりえるわけである。

 またレコーダに対してPOPの設定を行なうなどというのは、一般の家電ユーザーには敷居が高いものであった。実際には、あまり恒常的には使われなかったのではないかと思う。

 今回のA750では、PCのEPGサービス「テレビ王国」がリニューアルしたのを契機に、テレビ王国上からレコーダに録画予約ができるようになった。設定もかなり簡単になっている。

 まずテレビ王国にて、リモート予約の設定をすると、4×4の番号が発行される。これをレコーダのリモート予約設定画面で入力、サイト側で「登録を完了する」をクリックすれば、これだけでリモート予約の設定は終わりである。16桁の数字をリモコンで入力する手間はあるが、以前のようにメールアドレスなどを一生懸命入力する手間に比べたら、圧倒的に簡単になっている。

テレビ王国の設定タブでレコーダ用のパスワード(数字)を発行レコーダにパスワードを入力

 設定後はテレビ王国の番組表内に「HDDレコーダー」のボタンが増える。予約したい番組はこれをクリックするだけで、レコーダへの予約が完了する。DR録画だけでなく、画質の設定も可能だ。

テレビ王国EPG画面に「HDDレコーダー」ボタンが増えた画質モードも設定可能
予約時間が重なったときに、サイトからは「録画2」には振り分けられない

 外から予約するには携帯のほうが便利だと思う人も多いだろうが、情報の一覧性ではPCの方が優れている。PCを中心にモバイル環境を整えている人には、便利な機能である。

 ただこの予約システムはダブルチューナ仕様を把握していないようで、録画予約が被った場合に「録画2」に振り分ける機能はない。レコーダはいろいろ仕様が違うので難しいとは思うが、ソニー機の場合は「録画1」を頻繁に使うことになる。画質でDRを選ぶと録画2での予約になるといった受け流し方がレコーダ側でできれば、利便性がさらに上がるのではないだろうか。




■総論

 家電メーカーが推進するアクトビラは、最初テレビに導入が始まった。当初はストリーミングだけ、しかも画質はSDのみで、それほど魅力的なサービスではなかったが、TSUTAYA TVの参入でコンテンツも増え、画質もハイビジョン化したことで、既存VODとようやく競合できるようになった。

 未だ日本のVODでは実現できていない、ダウンロードによる買い取りシステムをいち早く実現した点は、新しいネットビジネスに保守的な日本においては希少な存在である。そしてダウンロードしたものをメディアやデバイスに書き出すステーションとしてレコーダが主役に躍り出たことは、必然であった。

 A950/750は、テレビ録画だけでなく、映像コンテンツをダウンロードで購入、それをBDに高画質で保存でき、ポータブルデバイスでの視聴も可能にした。ただ順序立ててみれば画期的なことではあるのだが、客観的に見ればものすごい機材群を投入して、実現まで時間も費やした割に、できることは3年前の米iTunes Storeとほぼ同じと思うと、思わず天を仰いでしまう。

 もちろん、ハイビジョンのままでBDに保存できるというメリットはあるが、そのために市販タイトルを買うのと大して変わらない値段であることを考えると、コンテンツをこの方法で買うのが正しいことなのか、躊躇してしまう。それよりもすでに市場流通が止まってしまったロングテール作品が廉価でレンタルできるほうが、メリットが大きいのでないかと思う。

 現時点ではポータブルデバイスに持ち出せるのはセルスルーだけだが、レンタル作品が持ち出せた方が、消費者としてはメリットが大きく、また大量消費に結びつきやすい。デバイス書き出しのメリットが本当に機能し始めるのは、そういう状況になってからだろう。 メーカーのより強力なネット流通事業開拓に期待したい。

(2009年 4月 1日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]