小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第628回:スマホでTVをスマート化。アイ・オー「ミラプレ」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第628回:スマホでTVをスマート化。アイ・オー「ミラプレ」

Android/iPhoneの映像を大画面で。万能TV出力機

Miracastとは

 昨年9月、Wi-Fi Allianceが「Wi-Fi CERTIFIED Miracast」という伝送技術の認定プログラムを開始した。これはWi-Fi Direct接続機能を使って、無線で動画や写真、あるいはアプリケーション画面を伝送する技術で、スマートフォンとテレビの接続方法として注目を集めている。

 同じような技術に、AppleのAirPlayがある。これはこれで、対応機器さえあればどこにでも映像や音楽を飛ばせるので、ホームネットワークでは強力な機能だ。これをオープン規格でやるのがMiracastというわけで、GoogleではAndroid 4.2以降で標準対応すると発表した。ただし4.2以降では必ず搭載されているわけではなく、機種によるようだ。

 実はスマートフォンの映像をテレビに飛ばしてみるというソリューション自体は、デモンストレーションレベルではすでに2010年頃から実現していた。CESの時に、チップメーカーが内部処理の高速化をアピールするために試作していたのを、いくつか拝見したことがある。

 当時はテレビ表示に十分な高解像度の出力ではなかったため、こんなのいるのかなぁと疑問に思ったものだが、スマートフォンのディスプレイ解像度が上がり、さらにLTEの普及も相まって、十分高解像度のデータが処理できるようになったことで、話が違ってきた。

 7月から発売を開始したアイ・オー・データ機器の「WFD-HDMI」、通称“ミラプレ”はMiracast技術などに対応し、スマホ画面をHDMI出力するアダプタだ。価格は9,975円。

 ちょっと古いテレビをスマート化するデバイスは多いが、「ミラプレ」はこれまでとはひと味違った立ち位置の製品となりそうだ。一体どういうものなのか、さっそく試してみよう。

シンプルながら合理的

 まず本体だが、小型の無線LANルータ程度の箱型で、見た目はシンプルこの上ない。外形寸法は約95×70×27mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約94g。背面には電源供給用のmicroUSB端子、ブリッジ接続用のEthernet端子、映像出力のHDMI端子がある。

サイズは小型の無線LANルータ程度
背面の右側に接続端子が集中

 ACアダプタは付属しておらず、その代わりUSBケーブルが付属する。テレビのUSB端子から給電する事を標準に考えているようだ。そうは言っても古い液晶テレビにはUSB端子のないものも多いが、まあUSB給電対応のACアダプタは、結構家の中にゴロゴロしているのではないかと思われるので、そういうものを利用してもいいだろう。

HDMIケーブルと電源用のUSBケーブルが付属
テレビのUSB端子から給電する

 右横にはUSBのAタイプ端子があるが、これは何の機能もない。おそらくメンテナンス用のポートだろう。横にあるスイッチはモード切り換えに使用する。ボタンを押すごとに、Miracastモード、iOSモード、Media Playerモード、設定モードに切り替わる。詳細は後述するが、Miracast/iOS/Media Player(DLNA)と、スマホとの接続方法が3モード用意されているわけだ。

モード切り替えスイッチは重要
Miracastモード
iOSモード
Media Playerモード
設定モード
スマホ側の設定コントロール画面

 本機には設定らしい設定はほとんどないが、設定モードの仕掛けが面白い。設定モードに変更すると、画面にQRコードが現われる。これにはIPアドレスが記されており、スマホのカメラを向けると自動的にブラウザが起動して、コントロール用の画面になるという仕掛けだ。

 殆どの設定はデフォルトのままで問題なく動作するが、ブリッジモードは変更が必要かもしれない。ミラプレとスマホをWi-Fi Directで接続した場合、その間はスマホ側ではWi-Fi接続でネットに接続できない事になる。ブリッジモードを有効にすると、ミラプレを経由してネットに接続できる。デフォルトでは無効になっている。

ブリッジモードへの変更は必須

 もう一つ、本機へのDirect接続には、2.4GHzと5GHzが使える。最近2.4GHz帯はご近所でも飛びすぎという方も多いと思うが、5GHz帯はすいているので、これに切り換えるのは有効だろう。ただしスマホ側が5GHzに対応していないと接続できないので、事前に確認しておこう。

可能性が広がるMiracast

 ではさっそく、Miracast機能を使ってみよう。手元には対応機器がなかったので、今回はドコモのシャープ製スマホ「SH-02E AQUOS PHONE ZETA」をお借りしている。

 設定から「ワイヤレス出力」を選び、送りたい機器の名前をタップするだけで、パスワード入力なども必要なく、すぐに接続される。このとき、スマホとミラプレはDirect接続に移行するので、それまでスマホで繋いでいたWi-Fiアクセスポイントからは自動的に切断される。

シャープ「SH-02E AQUOS PHONE ZETA」を使って接続
「ワイヤレス出力」がMiracastへの出力設定

 Miracastでは、スマホの画面そのものがテレビに出力されるので、ホーム画面を始め、あらゆるアプリの画面をテレビに出力できる。HuluやYouTube、niconicoなど、ネット上の動画コンテンツも大画面でそのまま楽しめる。

古いテレビにスマホ画面がそのまま表示される不思議感覚が味わえる
どんなテレビでもhulu対応に
ブラウザを表示する事も可能だ

 SH-02Eはワンセグも搭載しているが、ワンセグ画面もそのままテレビに出す事もできる。元々フルセグで映るテレビにわざわざワンセグを写す意味は全くないが、とにかく何でも出力できてしまうのである。

 基本的にはスマホ画面のミラーリングなので、スマホ画面がスリープするとMiracast側の出力も真っ暗になる。映画などを見るときは、スマホは充電器に繋いでおくほうがいいだろう。

 映像の遅延は、体感だが10フレーム無いぐらいだろう。意外に遅れが少ない印象だ。タイミングのシビアなゲームなどは難しいだろうが、動画を見たり、写真のスライドショーを見たりといった用途には全く問題ない。ただ、SH-02Eで撮影した動画は、スマホ上ではなめらかに表示されているが、ミラプレ出力では若干引っかかる。

 SH-02Eでの撮影動画は3GPフォーマットだが、ビットレートは16Mbpsぐらいあるので、さすがにそれをそのままWi-Fiでコマ落ちなしで飛ばすのは難しいということだろう。Huluなどのネット経由のストリーミング動画はそこまでのビットレートがないので、問題ない。

 Miracast対応のデバイスは、今年4月にWi-Fi Allianceが発表した資料では、ワールドワイドでテレビが401機種、スマホ51機種、STBが30機種あるという。ミラプレのような製品が普及したら、HDMI入力がある機器になら何にでも出力できる事になる。出力先はテレビがもっぱらターゲットになるだろうが、ミラプレがあればデータプロジェクタやPC用モニタなどにも、スマートフォンのコンテンツを表示できるのだ。

 ちょっとしたプレゼンや会議などでも、ミラプレのような小箱を持っていけば、ケーブルの長さを気にしないで大きなディスプレイに表示できる。

Miracast以外にも対応

 では次に、iOSモードを試してみよう。iOS機器には元々似たような機能のAirPlayが搭載されているが、ミラプレのiOSモードはこれを利用する。Miracastのように一発で認証する機能は無く、iPhoneのWi-Fi設定からミラプレのアクセスポイントにDirect接続を行なう。

 ただ“AirPlayを利用する”とはいっても、公式対応ではないので、結構制限がある。iOS 5からApple TVに対してはAirPlayでミラーリング出力の設定が可能になり、これで殆どのアプリ画面をテレビに出力できるようになったのだが、本機ではAirPlayのミラーリング設定画面が出てこない。つまりホーム画面がまるごと出力はされないという事である。

 「写真」アプリなどから再生先をミラプレに指定する、といった方法で出力が可能になる。ただ、スライドショーのエフェクトなどはミラプレ出力には反映されない。

 試した中では、「写真」やYouTubeは出力できたが、Keynoteやニコニコ動画といったアプリは出力できなかった。またiPhone内の音楽も出力できなかった。このあたりは著作権上の対応にもよるのかもしれない。

「写真」アプリで出力先をミラプレに指定
YouTubeは出力可能

 ただそうは言っても、うちではiPhoneで撮影した夏休みのスナップ写真が結構あるので、そういうものがパラパラとテレビで見られるということだけでも、子供は十分喜ぶ。iOSではクラウド上の写真をフォトストリームとして、ローカルと同じようにアクセスできるので、大量の写真をテレビに出す事ができるのも、一つのメリットだ。

ミラプレで推奨されているDLNA対応アプリ「AirFun」

 考えてみれば、AirPlay対応機器はオーディオ系は充実しているが、映像も一緒に出せるものとなると、これまではApple TVぐらいしかなかったのではないか。実質写真とYouTubeぐらいしか出せないので、対応は十分とは言えないが、“AndroidのついでにちょこっとiOS機器も”という比重なら納得できるだろう。

 加えて本機には、DLNA対応のメディアプレイヤー機能もある。Miracast非搭載のAndroid端末でも、DLNA対応アプリがあれば写真や動画をミラプレに向かって投げることができる。DLNA対応アプリとしては、AirFunが推奨されているが、aViaメディアプレイヤーでも動作した。

総論

 古いテレビをスマート化する手段としては、昨年からHDMIに接続するスティック型のAndroid端末が数多く登場した。これはこれでいいアイデアだったのだが、今ひとつブームになった感じはない。そこまでしてテレビをスマート化したいというニーズはないのかもしれない。

 それと似て非なるアプローチが、スマートフォンがそのまま画面に映れば良いとする考え方だろう。テレビをAndroid化するのではなく、テレビは単なるでっかいディスプレイになるわけだ。ミラプレもその考え方だが、象徴的なのはGoogleが7月から米国で販売している「Chromecast」ではないかと思う。2~3年前からそういう世界が来る来ると言われてきただけに、ついに来たかと思うとなかなか感慨深いものがある。

 DLNAの「テレビはレンダラー」という考え方も理屈はわかるが、そもそも対応のテレビを買わないとどうにもならない。多くの人は、4KだHybridcastだと次々にトレンドがやってくるテレビの買え買え攻撃には、うんざりしているのではないだろうか。個人的には、このような拡張ボックス的なアプローチは歓迎したい。

 筆者の所有Android端末はどれもMiracastに対応していないが、そのうち当たり前の搭載になってくるだろう。HDMI端子を付けてくれるよりも、あきらかにこっちのほうが便利だし、現実的だ。さらにWi-FiもIEEE 802.11acの対応により、ギガビット化が見えてきている。高ビットレートのハイビジョン解像度をWi-Fiで伝送できる日も、そう遠くないだろう。

 年頃の子どもは自分の部屋にテレビを欲しがるものだが、あと数年するとテレビではなく、HDMI端子付きのPCディスプレイやプロジェクタ、ヘッドマウントディスプレイ的なものに変わっていくかもしれない。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。