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AVで培ったクラスDをピュアへ。パイオニア「A-70」

クラスD & USB DAC。異色のプリメイン誕生の秘密

「A-70」

 ピュアオーディオの世界で高音質なネットワークプレーヤーが人気を集め、単品コンポの1つとしてプリ/パワーアンプや単体DACの隣に並ぶ事も珍しくなくなった。一方、PCの近くでは、USB DACが盛況で、ハイレゾ音楽ファイルが気軽に楽しめる機器として存在感を増している。

 そんな中、パイオニアから、この2つのトレンドを取り入れたような2chプリメインアンプが「A-70」(177,000円)が10月中旬から発売されている。

 デザインを見ると、昔ながらのピュアオーディオ用プリメインアンプに見えるが、中身は非常に先進的だ。ピュア用アンプだが、32bit/192kHzまでの再生に対応したESSテクノロジーのDAC「SABRE32」を内蔵。USBでPCと接続でき、アシンクロナス伝送でハイレゾ音楽の再生が可能で、同軸デジタル入力も装備。さらに、同社がAVアンプでも採用しているダイレクトパワーFETを採用したクラスDアンプでもある。

 このアンプがどのようにして開発されたのか、開発陣にお話を伺った。対応してくれたのは、ホームエレクトロニクス事業統括部 ホームAV事業部から、AV企画部 コンポーネンツ企画課の田口浩昭主事、第2設計部 技術課の平塚友久主事、設計部 設計1課 能村出穂主事、設計部 設計1課の五木田秀敏主事の4人だ。



ピュア用アンプにDACを内蔵

――まず、A-70というモデルの立ち位置について教えてください。

田口氏(以下敬称略):A-70はパイオニアにとって久々の本格的なプリメインアンプで、パイオニアブランドとしては最高級の2chアンプです。それだけに最新のアンプ技術と、今まで培ってきた我々のオーディオノウハウを総動員して価格を超えるアンプを作りたいと思いました。

 また、ハイレゾ時代に対応して入力系統はどうあるべきか、2chアンプを求める人が求める音とはどういうものか、を徹底的に議論しました。その結果、何よりも音質面でのポテンシャルの高さ、そしてスペース効率などから、クラスDの本格2chアンプにチャレンジしよう、という声があがりました。既にクラスDアンプは経験済みですので、電源回路の設計ノウハウ、デジタル入力とのマッチングノウハウなど、蓄積した技術がありました。

 しかしAVアンプでは、やはりスペースや筐体構造などで色々な制約があることは事実です。今回は、2chアンプとして筐体の3分割構造を採ってプリ部、パワー部を電源トランスまで含めて完全独立させるなど、従来にない新しいコンセプトのプリメインとして位置づけております。これからの時代を見越した最新のUSB DAC入力までも備えた高いパフォーマンスを、奥行き36cmで実現することにもこだわりました。

「A-70」
USB DACを省くなどした下位モデル「A-50」(94,000円)もラインナップされている
「A-70」を横から見たところ。薄型テレビの普及でラックも薄型化している事に対応したという

――これだけ薄ければ、リスニングルームやリビング以外に、PCを使う書斎などにも設置しやすそうですね。

 A-70の特徴として、ESSテクノロジー社の32bit/192kHz対応DACを搭載している事や、USB DAC機能を備えている事、クラスDアンプを搭載している事などがありますが、この仕様はどうやって決まっていったのでしょう?

ホームエレクトロニクス事業統括部 ホームAV事業部 AV企画部 コンポーネンツ企画課の田口浩昭主事

田口:まず、音質担当の平塚がESSテクノロジーのDACを使った試作機を持ってきた事ですね。音を聴いて、これは我々がこれまでAVアンプで技術を培ってきたクラスDアンプと合うのではないかと考えまして、実際に試聴してみたところ非常にマッチして、ぜひやろうという話になりました。

 USB DAC機能は、ユーザーの皆様から、ハイレゾオーディオとの親和性向上がニーズとして高まっておりますので、それにも対応したいという判断ですね。

――A-70にはESSテクノロジーのDAC「SABRE32」が搭載されていますが、平塚さんは以前からこのDACの音質に注目していたのですか?

ESSテクノロジーのDAC「SABRE32」

平塚氏(以下敬称略):ええ。ESSテクノロジーのDACには以前から注目していました。3年ほど前に、24bit対応のタイプが出まわっていたのですが、評価ボードを聴いてみたところ、非常に音質が良くて驚きました。当時はまだ高価でしたが、いつか製品に使いたいなと考えおりました。それから32bit化され、使うタイミングがないものかと温めていましたが、そこにA-70の企画が出てきて、UAB DAC機能を搭載するという話と、私の想いも込めて、“絶対に使いたい”と、強引に搭載する方向に持っていきました(笑)。

――A-70にはUSB DACに加えて、同軸デジタル入力も備えて、単体DACとしても使えますよね。

平塚:実は当初、USB DAC機能しか無かったんです。しかし、私の方から、こんなに良いDACなので、(CDなどの)普通のプレーヤーを使っている方にも、この音を体験してもらいたいと考え、同軸デジタル入力を追加しました。結果的に、今までのプレーヤーをお使いの方と、USB DACで新しいオーディオにチャレンジしたいという方の両方に、その良さをご提供できる製品になったと思っています。

――A-70のようなピュアオーディオ用の2chアンプにUSB DACを内蔵するというのは、今まであまり無かったと思いますが、企画はその後、どのように進んだのでしょう?

田口:ええ。昔からピュアオーディオでは、アンプにDACなどを搭載するのは、ある種タブーとされてきましたので、社内でも反対の意見はありました。しかし、音を聴いた瞬間、皆、搭載するべきだという判断に変わりました。

ホームエレクトロニクス事業統括部 ホームAV事業部 第2設計部 技術課の平塚友久主事

平塚:営業サイドにも、最初はあまり良い顔はされなかったんですが、「いやいや大丈夫、使わない時は(DAC回路の)電源を落とすとか、ちゃんと考えているから」と、とりあえず音を聴かせたところ、すんなり受け入れてもらえましたね。

 アンプにDACを内蔵する事で、音質面でも有利な点はあります。外部にDACがありますと、伝送経路での影響を受けますが、内蔵すればそれらを防げる。また、1つの製品として、ベストマッチの音質チューニングができるという利点もあり、製品に合わせて、パーツの特徴や良さをより引き出す事ができます。

田口:USBオーディオ機能に関して言えば、PCとUSBケーブル一本で繋げれば良いという便利さがありますね。ネットワークプレーヤー機能ですと、音源ファイルを入れたNASを準備したり、ネットワークの設定が必要など、ハードルも上がりますので。



AVアンプで培ったノウハウを、ピュアオーディオに活用

――逆に、DACを内蔵する事で、開発が難しかったところはありますか?

平塚:製品開発では、最初あまり良い音が出ず、そこから工夫して良くしていく事が多いのですが、この製品に関しては特に難しかったという事は無かったです。最初から音が良く、そこに磨きをかけ、良さを引き出すチューニングに専念できました。

――それは何故でしょう?

ダイレクトパワーFET素子

平塚:DACとクラスDのダイレクトパワーFETの相性が良かったというのがありますね。AVアンプでダイレクトパワーFETを使っていますが、A-70の開発にあたっては、最初からそれを使うと決めていたのではなく、他のデバイスも検討したり、出力パワーを変更するなど、様々な比較を行ないました。しかし、AVアンプの開発で培ってきた、ダイレクトパワーFET使いこなしのノウハウの方が、音質への貢献が大きかったのです。

 弊社のAVアンプでは、昨年からダイレクトパワーFETを使い始めたのですが、昨年と今年の製品で、相当ノウハウが蓄積されています。単に、良い部品を持ってきて搭載すれば音がさらに良くなるかというとそうでもなく、やはり、熟成度や、パーツに対してのノウハウが凄く重要になるのです。その結果、あるタイミングで、“これはダイレクトパワーFETを使い、このまま開発した方が良い結果になる”と判断しました。細かく比べると、AVアンプに使っているものと、パーツクオリティでは違うところもありますが、主要なキーデバイスは同じですね。

 やはり、使い慣れたパーツですと、例えば“ここをリジットにガシッと固定すると音がどう変化するか”とか、“ここにアースポイント/シールドを持ってくると良い”とか、最初から目星がつけられるんですよね。すると、音の組み立てもしやすくなります。ノウハウの積み重ねが重要だと、改めて実感しました。

ホームエレクトロニクス事業統括部 ホームAV事業部 設計部 設計1課 能村出穂主事

能村氏(以下敬称略):DAC(ESSテクノロジーのSABRE32)に関しては初めて使うメーカーさんでしたが、わりとスムーズに目標とするスペックを出す事ができました。普通は、初めて使うICですと、製品に落とし込んだ時のスペックが、目標に届かず、どうすれば性能を引き出せるのかを探すのに苦労するのですが、ESSテクノロジーのDACは設計のしやすいデバイスだと思いますね。

平塚:DACにはマルチビットやワンビット、ワンビットのマルチレベルタイプなどがありますが、現在主流のワンビットタイプは、使いこなしが難しいんです。ESSテクノロジーのDACは言葉で説明するのは難しいのですが、例えばジッタの影響を受けにくくするために、ジッタがあってもデータとして取り込まないなど、音に対する考え方に共感できるところがありまして、それが実際の音にも出ているなという印象です。

――USB DAC機能では、最高で32bit/192kHzまでの音楽データを再生でき、伝送時はアシンクロナス伝送でジッタを低減していますが、例えばPCからのノイズの影響などはどのように対策をしているのでしょうか?

平塚:ノイズとの戦いという面でも、AVアンプのノウハウが活きています。御存知の通り、AVアンプにはネットワークプレーヤー機能やUSB DAC機能なども入っていますので、ここにこういうパターニング、定数、部品を使えば良いというような、ノイズ対策のノウハウも蓄積されています。開発時は、アナログ入力の音を基本に、同軸デジタル入力やUSB DACの音を比較しながら追い込んでいくのですが、そこもスムーズに進めていけました。

――AVアンプで培ったノウハウを活用して開発したピュアオーディオアンプと言う感じでしょうか?

田口:クラスDのノウハウが蓄積され、ピュアオーディオにも通用する音質が実現できると設計者が確信したことが、A-70へのクラスD採用の発端ですね。

 我々がクラスDを使うのは、「SC-LX90」(SUSANO)から数え、今年の9月から発売している「SC-LX86」で第6世代になります。そこで培ったクラスDのノウハウ使って、ピュアオーディオの世界で挑戦したかった。設計者が最初から「ぜひクラスDでやりたい」と言って来たんです。彼ら技術者には「クラスDは音が良いんだ」という一途な想いがあります。

SC-LX90(SUSANO)
9月から発売しているAVアンプ「SC-LX86」にもダイレクトパワーFETが使われている

――かつては、他社もクラスDのAVアンプに挑戦しましたが、パイオニアが第6世代までこの技術を磨き上げられた理由はどこにあるんでしょう?

平塚:LX90は私も少しお手伝いしたのですが、クラスDを初めて手掛けたこともあり、相当苦労しましたね。しかし、我々はエンジニアですので、なんとかモノにしたい。手間はかかりますが、クラスDの可能性は感じていました。当時の素子はICE Powerでしたが、クラスDの可能性に対して、いろいろな方向からアプローチをして、絶対に使いこなしたいという強い意思がありました。その根底には、ハイパワー多チャンネル同時出力や、エコである事など、デジタルアンプの未来を信じているという事があります。

 例えるなら、クラスDは車のディーゼルエンジンのようなものだと持っています。今のディーゼルは、性能的にはガソリンと遜色無く、むしろ良さの面が取り上げられていますよね。ここに至るまでには、排ガスのススや、ガラガラした音などを対策し、上手く使いこなしてきた歴史がある。我々も、それと同じようなことをやってきたと思っています。



各部にこだわりのパーツを投入

――DACやパワーアンプ素子以外に、こだわりのポイントはありますか?

田口:まず全体の構造ですね。上から見ていただくとわかりやすいのですが、プリアンプ部、パワーアンプ部を鋼板の構造体で分離し、相互干渉ノイズを遮断しています。また、シャーシに対して水平基板になっている事もポイントです。AVアンプや、放熱用の巨大なヒートシンクが必要なアナログ2chアンプですと、スペースの問題で、基板を垂直に立たせなければならない部分があります。

 水平基板はシャーシに対して水平なので、アースポイントを、設計者が意図した位置にとれ、なおかつシャーシに近いので強固なアースがとれます。垂直ですと、アースを落とす位置が限られてしまうのです。信号の流れも、水平ならばそのまま流れますが、垂直ですと信号の流れの短絡化に影響します。

筐体内部。3つの部屋に別れているのがわかる。右がプリ部、中央と左がパワー部。左下の黒いパーツは電源トランス、右下の黒いパーツはプリ部専用電源トランスとなる
プリ部のアップ。プリ部の部屋の左に垂直に立っている基板があるが、これはマイコン系など、音に直接関係無い基板だ
パワー部分のアップ。水平基板になっているのがわかる
中央の銀色のとさかのような部分がヒートシンク。アナログアンプと比べると大幅に小さい

――クラスDを使うことで、ヒートシンクも本当に小さいですね。これならば、アナログアンプと比べるとスペースは大幅に広く使えますね。

能村:大きなヒートシンクですと、部品自体の共振も問題になりますが、クラスDであれば、その影響も最小限に抑えられます。

右がホームエレクトロニクス事業統括部 ホームAV事業部 設計部 設計1課の五木田秀敏主事。左は田口氏

五木田氏(以下敬称略):ヒートシンクが大きいとスペースをとるので回路規模も小さくなり、製品サイズも大きくしないと開発が難しくなります。その点、クラスDは低重心化しやすいのです。

 また、メインシャーシは1.6mm厚ですが、底部に3mm厚の黒色鋼板を配置しています(リジッドアンダーベース)。3mm厚の鋼板だと、経済的生産性を考慮すると、合わせ材を使用するという選択もあるのですが、合わせ材だと音の面では不利ですので、無垢材料を使用することにより、音質向上を図りました。

 インシュレータも真鍮削り出しにしています。樹脂や鋳鉄なども作ってみたのですが、真鍮が一番良かったですね。

底部に見える黒い板が3mm厚の黒色鋼板。なお、写真はプロトタイプなのでインシュレータが樹脂だが、製品版では真鍮削り出しになる
インシュレータは真鍮削り出し

田口:真鍮は環境負荷物質などの問題でなかなか使えなくなっているのですが、今回はそういったものを排除した材料を使っています。さらに、酸化防止のクリア塗装でコーティングしています。凄くコストも高いパーツです(笑)。

平塚:このクラスに投入するのは、普通ないですね。うちで言うと、50万円くらいの製品に使うものですね。コストも下げなければいけないのですが、皆で聴き比べをすると「……やっぱりこれにしよう」と(笑)。

――インシュレータによる音の変化は、どのような方向性ですか?

平塚:音色が凄く豊かになって、音楽性がアップする印象ですね。全ての物質は固有の音を出しますが、硬すぎても、柔らかすぎてもダメで、本当に良い塩梅ですね。

ボリュームノブ。頭の平らな部分はスピンライン仕上げだが、側面の指が触れる部分はサンドブラスト仕上げになっている

五木田:ボリュームノブもこだわっています。A-70だけなのですが、アルミ無垢材の削り出しです。頭の部分にスピンラインと言う加工を施しているのですが、指で触れる、側面の部分はその加工をしていません。実は、頭の加工をした工程で、側面もやってしまえばコスト的には安くできるのです。しかし、指に触れる部分に細かいラインがあると、触感があまり良くなく、滑りやすくなってしまいます。

 そこで、コストはかかるんですが、サンドブラストをかけて、細かな凸凹を出して滑りにくくしています。この方が、触れた時のアルミの質感もよくわかります。また、細かいのですが、ノブの内側にストッパーをつけて、ツマミを回しきった時に「カチン」と大きな音がしないよう配慮しています。

――確かに回しきっても、高い、嫌な音がしないですね。

五木田:インターフェイスとして一番大切な部分ですから、触るのが楽しくなるようなツマミを目指しました。

田口:車のドアを閉めた時の音にこだわるような感じで(笑)。ボリュームノブは一番触れる部分ですので、どうしても拘りたかったんです。

 スピーカーターミナルも見てください。普通ですと、ターミナルのパーツと基板をケーブルで繋いでいる製品が多いのですが、このように、基板に直接接続できるパーツを使っています。

スピーカーターミナル部には、右写真のようなパーツが使われている

――ケーブルよりも、この方が音に良いのですか?

田口:ケーブルですと、そのスタイリングで音がバラついたり、ノイズが乗ったりするのですが、このパーツを使うとバラつきが出ないんです。試聴を重ね、真鍮を採用したパイオニアオリジナル仕様になっています。

――本当だ、裏側の黒い部分にパイオニアロゴが入ってますね。

田口:カタログにも載せたかったんですが、写りが悪くてダメだったんです(笑)

平塚:このパーツも、新たに起こすと型代が……という話もあったのですが、「何を言ってるんだ、音に良いんだからやるんだ!」と(笑)。

パーツの裏面。パイオニアロゴが見える
このように基板と接続する



電解コンデンサの内側に秘密が?

――デジタルアンプですと、薄型の製品も多いのですが、A-70は141.5mmと、そこまで薄いわけではないですよね?

能村:この高さは、電源回路、特にトランスのサイズで決まっているのです。求める音質を実現するため、コアの巻線を調整していった結果、このサイズになり、定格出力も90W×2ch(4Ω)となりました。あくまで音質を優先した結果、この高さになったというわけです。

平塚:もともとの企画では、もう少しハイパワーを考えていたのですが、めいっぱいのところよりも、少し抑えた方が、音質面で良い結果が出やすいというのもありますね。

 電源部分では、平滑用の電解コンデンサも、部品メーカーさんに協力して頂き、新たに作ったパーツです。音響的な響きにこだわって、何個も試作を繰り返し、チューニングしました。

――“電解コンデンサの響き”と言いますと?

平塚:いろいろな部品には、全て固有の音があるのですが、その音を阻害する要因として定在波があります。これは電解コンデンサの中でも発生するんです。具体的には、天面とゴムが入った底部で音が反射するんですね。

数々の試作の上に完成したというカスタムコンデンサ。上部にある×印は「防爆弁」と呼ばれるもので、万が一加熱して膨張した時に、ここからわざと破裂させる役目がある。安全面からここに手を入れる事はできないため、今回のような工夫をする事になったという
コンデンサの底部。ここと、天面の間で定在波が発生するという

 これをなんとかしようと、部品メーカーさんにお願いして、内側に、10円玉の厚みの半分くらいの、丸い出っ張りを作ってもらいました。これで、平行面を無くしています。

 ここに定在波があるのか、最初から確信していたわけではないのですが、試しにコンデンサの頭をギューッと押しこんで、少し凹ませてみたんです。そうしたら音が良くなって、試作機を作ってみたところ、ドンピシャリでした。

これが通常のコンデンサの内側。特に特別な形状などはない
こちらがカスタムコンデンサの内側。丸い出っ張りが作られているのがわかる。これにより、定在波の発生を防いでいる

――フロントのデザインはクラシカルな雰囲気ですよね。

最上段がA-70、その下段がN-50。ボリュームとディスプレイの位置がマッチしている

田口:やはり単品コンポですので、他社さんの製品とも組み合わされる場合があります、そこで問題が出ないように、この製品だけ浮いてしまうような奇抜なデザインは避けました。

平塚:アンプは頻繁に買い換えるものでもありませんので、突拍子もないデザインですと困りますしね。実は、ネットワークプレーヤー(N-50)と組み合わせた時に、A-70のボリュームツマミと、プレーヤーのディスプレイの位置が合うようにしています。意外と気付かれないんです(笑)。



音を聴いてみる

 パイオニア本社の試聴室で、実際にサウンドを体験した。アンプがA-70、スピーカーは3ウェイのフロア型「S-1EX」(1台63万円)、プレーヤーはSACD「PD-70」や、ネットワークプレーヤー「N-50」を使用した。

 A-70が177,000円なので、ペア126万円のスピーカーを組み合わせるのは価格的にややアンバランスだが、「S-1EX」の18cm径ウーファ×2基をしっかりとドライブ。情報量がありつつ、胸が押されるような厚みのある低域がしっかりと出ており、驚かされる。

 「PD-70」からアナログで出した音と、同軸デジタルで出してA-70内蔵のDACで変換した音を聴き比べると、デジタルで入力した音の方が、音場の奥行きが深く、部屋の壁が遠のいたような感覚を覚える。低域の分解能もアップし、張り出してくる音の粒が細かく、心地良い。

 同じCDからリッピングしたデータをMacで再生。USB DACの音を聴いてみると、音場の静粛感や見通しがアップ。PCオーディオらしい、非常に素直な音が楽しめる。

 N-50で24bit/96kHzのハイレゾファイルを再生し、A-70にアナログ入力すると、高域の滑らかさや、音の響きが背後に広がる様子、音像の厚みなどが増し、立体感がアップ。肩の力が抜けたような、情報量は多いが、聴きやすいサウンドになる。

 全体を通して感じるのは、パイオニアのクラスDアンプらしい、非常にニュートラルで素直なサウンドだという事。それゆえ、このようにDACの違いなどを比べると、その差がよくわかる。かといって、無味無臭かと言うとそうではなく、高域の余韻や、低音の厚い響きの中に艶やかさというか、音楽性豊かな感覚ものぞかせる。情報量は多いが、無機質な音にはならないという、絶妙なバランスだ。このあたりに、細かなパーツによるチューニングの成果を感じる事ができる。

 A-70の仕様を見ると、ピュアオーディオ用アンプながら、クラスDアンプを採用し、DACも搭載。USB DAC機能も備えている事で、“先進的な製品”という印象を受ける。それは間違いないのだが、こうしてエンジニアの方々に細かなこだわりポイントを伺うと、音質の面ではAVアンプで培ったノウハウを駆使して、各部のパーツを吟味し、様々な工夫で対策を行ない、筐体を低重心化してインシュレータにこだわるなど、良い意味で昔ながらの、実に“ピュアオーディオらしい”積み重ねで音を磨きあげて作られたアンプという面も見えてくる。

 リスニングルームにPCを持ち込み、ピュアオーディオの新しい楽しみ方に気軽に挑戦できるアンプとして、また、PCが置かれた書斎などに設置し、クオリティの高い小型スピーカーなどと組み合わせて、ワンランク上のPCオーディオを楽しむアンプとして。昔ながらのピュアオーディオと、先進のPCオーディオ世界の橋渡しをしてくれるようなアンプと言えそうだ。

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