トピック
“SACDを超える”ハイレゾポータブル機「AK240」の狙い
DSD用に“隠れCPU”。配信連携/バランス接続など今後の展開も
(2014/1/30 10:00)
ハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーとして注目されているiriver Astell&Kernブランドから、最上位モデル「AK240 256GB ガンメタル」が登場。1月7日にアユートから発表された。
大きな特徴は、コンパクトなポータブルプレーヤーながらDSDファイルのネイティブ再生にも対応した点。既存モデルのAK120は2.8MHzのファイルのみ対応し、再生時もPCMに変換しながらの再生だったが、AK240は2.8/5.6MHz(DSD 64/128)のファイルをネイティブで再生可能になった。
ストレージも強化し、256GBの内蔵メモリと最大128GB対応のSDXCカードスロットを採用。デュアルコアCPUも搭載するなど、既存のAK120/100に比べ大幅に機能向上を図ったハイエンドモデルとして登場。AK100/120も小型筐体でハイレゾ対応を実現したモデルとして既に大きな存在感を持つが、AK240はスペックだけを見ても、さらに隙のない製品に仕上がったといえる。
このAK240は、米国ラスベガスで1月7日~10日(現地時間)に行なわれた「2014 International CES」に合わせて先行展示が行なわれ、Astell&Kernシリーズを展開するiriverのCEO、Henry Park氏も来場。まだ明らかになっていない部分もあるAK240の機能詳細や、開発意図、今後の展開などについて、気になる点をうかがった。
ポータブル性を損なわずDSD再生を実現。“隠れたCPU”活用も
――ハイレゾ対応ポータブルプレーヤーの最高峰ともいえる今回の「AK240」を製品化するに至った背景を教えてください。
Park:音楽には2つの異なる聴き方があります。1つはポータブルデバイス。1つはスタンドアロン(据え置き)のものです。
スタンドアロンの製品には高音質が求められ、そのためには設置のための広いスペースと、より大きな電力も必要となってきます。その一方で、ポータブルデバイスは持ち運びやすいコンパクトさが重要なため、本体のサイズは限られつつ、長い時間楽しむために消費電力もより小さくしなければなりません。これらを両立するのはとても難しいことです。
AK100/120を開発した時、我々が最も重視したのは「ポータビリティ」でした。持ち運びに適した小ささ/軽さで省電力なプレーヤーとするため、DACにウォルフソンの「WM8740」を選びました。WM8740は消費電力が低いですが、現行のポータブルプレーヤーの中でも高音質であり、成功したモデルだと言えます。
一方で、新しいAK240で我々は「デスクトップからポータブルへ」というチャレンジを決断しました。我々は“音質”へフォーカスし、持ち運びやすさを維持しながら、音質をスタンドアロンのデスクトップオーディオと競えるものまで高めることに注力しました。
DACにはシーラス・ロジックのハイエンドDAC「CS4398」を、L/R独立でさらにデュアルモノラルで採用しました。これにより、最大でDSD 5.6MHz(DSD 128)のネイティブ再生も行なえます。DSD対応ではウォルフソンの「WM8741」というDACも存在しますが、こちらは2.8MHzまでしか対応していません。消費電力の観点からも、DSDネイティブでこの本体サイズに抑えるには、CS4398の選択が最良でした。
また、より良い音質にするためパワフルなCPUも搭載し、処理も高速化しました。出力にはアンバランスだけでなく、バランス出力も採用し、より大きな3.31型ディスプレイ(AK100/120は2.4型)も搭載しています。また、ストレージは世界最大となる256GBメモリを内蔵しました。さらに、128GBまでをサポートするmicroSDXCカードスロットも備えています。我々の挑戦は、これらの機能をどうやって“ポータブル”で実現させるかということでした。
――DACの「CS4398」は、据え置きのオーディオ機器にも多く使われていますが、これをポータブル機器に搭載するのは難しかったのではないでしょうか?
Park:ポータブルで重要なのは、先ほども説明した通り「電源」です。CS4398は省電力ですが、それでも(AK100/120の)WM8740に比べると約2倍。DACには常に十分な電力を供給していますが、それ以外には、必要に応じて給電をカットすることなどにより電力を抑えています。
例えば16bitのファイル再生時には、それを認識してCPUの100%を使わず、24bit/96kHzやDSDなどの再生にはじめて、CPUのフルパワーを使うようにしました。これにより、消費電力を抑えつつ、音質には悪影響を与えません。そういったソフトウェアのカスタマイズが最も大きなチャレンジでした。
――デュアルコアプロセッサ搭載とのことですが、バッテリの持ち時間はAK100/120と比べてどうなりましたか?
Park:16bit楽曲の連続再生時間はAK120などでは14時間でしたが、AK240は約10時間となっています。また、DSDのネイティブ再生については、だいたい6~7時間となります。この主な理由はCPUの強化によって大きな電力が必要となるためです。また、出力レベルも向上しており、AK100/120は1.5Vrms×2、出力インピーダンス3Ωでしたが、AK240はアンバランス時で2.1Vrms×2、バランス時は2.3Vrms×2、出力インピーダンス1Ωになっています。
実は、デュアルコアCPUに加えてもう一つ、DSD再生専用の“隠れたCPU”も備えています。それで、DSD再生時のみ消費電力が大きくなるのです。その代わり、操作時などに途切れることはなく、再生時のレスポンスも良好なのです。
――先ほどから実機を見てもスムーズに動作しているのは、そういう理由があったんですね。さて、バランス出力にも対応しているとの話がありましたが、端子は2.5mmのマイクロミニ4極で珍しいですね。どうしてこの端子形状を選択したのでしょうか。また、バランス接続のイヤフォンやケーブルは自社、あるいは他社とのコラボレーションで製品化していくのでしょうか?
Park:既にアンバランスの3.5mmステレオミニ出力を持っているので、もしバランスも同じ3.5mm径にするとユーザーが戸惑ってしまう恐れがあります。また、バランス接続では4ピン端子(スクエア型)も存在しますが、これを採用すると本体が厚くなってしまいます。バランス接続は人気があるので、iriverとしては「ポケットに入るサイズ、ポータブルとしての美しさ」を追求するために、この形になりました。
AK240本体にバランス接続のイヤフォンは付属しませんが、他社とのコラボレーションで、既にJerry Harvey(JH Audio)、FitEar、Final Audio design、Sennheiser、beyerdynamicの各社/ブランドから対応のバランスケーブルを製品化するとのコミットメントを得ています。
無線LANでハイレゾ配信サイトから直接ダウンロード購入/ネットワーク再生も
――AK240には、新たにWi-Fi(無線LAN)も搭載していますね。これはどういった時に使うのでしょうか?
Park:Wi-Fi接続には2つの利点があります。1つは、ハイレゾ音楽ファイルをケーブルやPCなどを全く使わずに購入できるという点です。また、多くの人はミュージックライブラリをコンピュータなどに持っていると思いますが、家のPCに専用ソフトウェアをインストールすることで、AK240からワイヤレスでアクセスできるようになります。
AK240は楽曲をオンラインストアからダイレクトに購入したり、PCのライブラリにある音楽を聴けて、外に出るときも、それらの音楽を聴けるのです。それがWi-Fi搭載の大きな特徴です。
――いま、実際にハイレゾ配信サイトの「groovers+」(iriverが運営。700レーベル/30万曲以上の楽曲を韓国で販売中)からAK240で購入する画面を見せていただきましたが、とても簡単なステップで購入できますね。日本からでも同様に買えるようになりますか?
Park:groovers+は韓国専用サービスとなっています。現在、アユートさんを通じて日本のハイレゾ楽曲配信サービスである「e-onkyo music」や「OTOTOY」の楽曲を、AK240から購入できるよう交渉中です。そのほかにも、米国の「HDtracks」、フランス「qobuz」、ドイツ「HIGHRESAUDIO」などと対応に向けて協議しており、各国の様々なハイレゾ配信サービスに対応していく予定です。既に、AK240の画面で購入するモバイル向けサイトを作るためのAPIはこちらで用意しています。
――DSDなどハイレゾ楽曲を購入すると、より多くのストレージが必要になると思います。AK240は内蔵256GB + microSDXC 128GBで、外部メモリはAK120/100の2スロットからは削減していますね。どうして1スロットになったのでしょうか?
Park:内蔵メモリは、これまでより2倍以上(AK120は64GB)にしました。microSDカードはサイズの関係もあり1スロットになりましたが、それでも足りなければ、ホームユースの場合はWi-Fiストリーミングでも楽しめるのがポイントです。
――パソコン内の音楽をストリーミングで聴くときに使うソフトは、DLNAなどの汎用的なものですか? それとも独自のものですか?
Park:DLNAをベースとし、独自のプロトコルを採用しています。DLNAは多くのデバイスで連携できる技術ですが、多くのユーザーにとって簡単だとは言えないのが現状です。そこで我々はクライアントソフトウェアを開発しました。DSDファイルもネイティブで再生できます。実際に私のPCにある音楽を再生してみましょう。(AK240を操作して)このミュージックライブラリから、フォルダ、マイミュージックを選ぶとストリーミング再生できます。
――とてもシンプルで分かりやすいですね。こうして画面を見ると、AK100/120と比べてUIも大きく変更されたようです。OSについては、一部で「Androidを使っているのでは」という噂もありますが、実際は何かをベースとしたものでしょうか?
Park:コアの部分はAndroidを使っていますが、ハイパワーなCPUなどに合わせて、多くのカスタマイズを行なっています。OSを一から作るのは膨大な時間が必要となります。コアとしてAndroidを使い、そこからカスタマイズしたことによって、見た目でもお分かりかと思いますが、全く異なる独自のOSになっているのです。
スマホからの操作などアプリ開発も進行中
――AK240本体には、ジュラルミン削り出し筐体、背面のカーボンプレートなどデザイン面でも高級感があるユニークなものですね。デザインのコンセプトを教えていただけますか?
Park:本体のスクエアな部分に、斜め上の方向から光を当てて影を付けたようなデザインです。これまで、ライカのカメラなどを手掛けたデザイナーが担当しています。見た目だけではありません。片手で握るときにはちょうど指がかかって、持ちやすくなっています。製品には、シリアルナンバーも記載される予定です。
――確かに、見た目の重厚さと違って、手に持つとフィットしやすいですね。“影”の部分に指を掛けると、指が画面を覆うこともありません。話は変わりますが「ハイエンドのプレーヤーにはBluetoothは不要」という意見もあると思いますが、なぜAK240にも従来モデル同様、Bluetoothが搭載されているのでしょうか?
Park:その答えの一つは、リモートコントロール機能です。iOS/Android機器からのリモコン操作できるアプリを現在開発しています。また、グローバルのユーザーから、Bluetoothを付けてほしいとの要望が高いのも理由ですね。アプリとしては、その他にもAK240ユーザーがWi-Fi経由で通話するコミュニケーションアプリも計画しています。これらのアプリは、今年の第2四半期ごろの公開を目指して開発しています。
――他社ではDACやヘッドフォンアンプを交換できるようにするなどよりマニアックにしたモデルも存在します。AKシリーズはそういった考えとは異なるのでしょうか?
Park:使用しているアンプはディスクリートで作っており、公開していないため他社からコピーもされません。iriverにはこれまで数多くのポータブル機器があり、音質には自信があります。独立したオペアンプを付けて交換できるようにするというのは、「Astell&Kernの目指す高音質」にはならないですね。
――AK100/120は、既に高機能なハイレゾプレーヤーとして日本でも話題となっていますが、AK240は、それよりさらに上の価格帯になると予想されます。AK240の完成度に対する自信をお聞かせ下さい。
Park:まず、価格は現時点で決まっていませんが(※取材時点、アメリカでは税別2,499ドル)、スタンドアロンの製品では、例えばハイエンドSACDプレーヤーだと5,000ドル以上するものも珍しくありません。我々のAK240は、高品質パーツなどにより、この小ささでSACDプレーヤーを超える5.6MHzのネイティブ再生を可能とし、SACDプレーヤーと同等、もしくはそれを超える音質を実現しています。また、DSDフォーマットだけでなく、32bit-FloatなどのPCMファイルにも対応しています。そして、16bit楽曲の場合、62,000曲以上を持ち運べます。それで、エンドユーザーの皆さんはどちらを選びますか? ということだと思います。
――ポータブルプレーヤーのユーザーだけでなく、SACDなど据え置きのプレーヤーを使っている人もターゲットとした製品ということですね。それでは、発売を楽しみにしています。ありがとうございました。
今回のインタビュー時点では、価格や発売日はまだ明らかにされなかったが、アユートによれば、近日中に何らかの発表を行なうとのことだ。今後の動向にも注目したい。