小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

スマホはこのまま「高くなる」のか

このメルマガが発行される11月3日は、iPhone Xの発売日だ。予約できた人もいない人も、そもそもしなかった人も色々だとは思うが、筆者は仕事柄予約した。同業者にも、かなりの数の予約者がいたようだ。

そして同様に、その一週間前には、もうひとつスマホを買っている。10月26日に発売された、サムスンの「Galaxy Note8」だ。

筆者は毎年、iPhoneとAndroidの双方で、日常的に使うための機種を選ぶようにしている。その中でもAndroidのスマホは、「プレーンである」「利用者が多い」「最新のスペックで、その年に気になっている機能を試せるものである」ことを前提に選ぶようにしており、昨年はモトローラの「moto Z」を選んでいる。利用者は多くない(世界的に見れば別だ)が、プレーンであり、OSのアップデートも早く、GoogleのVRプラットフォームであるDaydreamに対応済みだったことが理由だ。いや、本当はGoogleのPixelシリーズがいいのだ。だが、日本では販売されていないので、日常的な利用・検証用としては選べない。今年も同じ理由から、Pixel2が選べなかった。Galaxy Note8はプレーンな機種とは言い難いのだが、「利用者が多い」「最新のスペックを満たしている」という条件には合う。特に今年は、iPhone Xとの比較を考えると、同じようにOLEDのベゼルレス構造である最新機種である、という要素が重要だ。

だから、二週連続でスマホを買うことになったわけである。じつはこの辺も、かなり同業者に多い選択である。

スマホはこのまま「高くなる」のか 左から、iPhone 8 Plus、iPhone X、Galaxy Note8
左から、iPhone 8 Plus、iPhone X、Galaxy Note8

とはいうものの、財布的にはちょっと目の前が暗くなるくらいの打撃だ。

iPhone Xは256GBモデルなので、税込だと約14万円。Galaxy Note8も一括払いだと約12万円だ。どちらも携帯電話事業者による割引を加えると、実質的な負担金を最終的には半分に減らせるものの、これまでのスマホに比べ、かなり高額になっていることに違いはない。

ここで気になるのは、「ハイエンドスマホはこのまま高額になるのか」ということだ。

例年は「ハイエンド(800ドル)」「ミドル(500ドル)」「ローエンド(200ドル)」だった構造が、「スーパーハイ(1000ドルオーバー)」「ハイエンド(900ドル)」「ミドル(500ドル)」「ローエンド(200ドル)」の4層構造になったのが、今年の変化と言える。

iPhone Xのようなスーパーハイが登場した理由は、新技術への移行が前倒しされ、その分コストが高い製品が投入されたからである。だが来年以降、コストは当然落ち着いていく。そこで、ハイエンドとスーパーハイの間がなくなってスーパーハイに集約されるのか、それとも、スーパーハイがなくなってハイエンドに落ち着くかが、戦略のわかれ目だ。

スーパーハイエンドが出るのがあたりまえになり、価格が高止まりする可能性は十分にある。売れ行きが良ければ、メーカー目線では「問題なく高単価な製品が売れるから、急いで単価を下げる意味はない」と判断される可能性もある。

また、高価格路線に拍車をかけるのは、携帯電話事業者からの割引が存在するためだ。携帯電話の普及率が十分に高まった今、新規契約を集めるのは難しい。いかに長期安定顧客を集めるかが、経営上重要なことになる。そうなると、2年もしくは4年間顧客の流動を防げる「高価格スマホ」の存在は、携帯電話事業者にとってありがたい存在である。

もちろん、筆者のように毎年新しいスマホを買わねばならない人は少ない。2年もしくはそれ以上の感覚で買い換えるものになるなら、高価な製品であっても許容できる人はいるだろう。

スマートフォンの性能が一定の水準に達し、ハイエンド製品でなくても十分に多くの人の需要を満たせるようになったのは事実だ。一方で、そのことが低価格スマホへの移行を促したか……というと、そうでもない。もちろん、低価格スマホによって満たせる需要はあり、日本でも、MVNOを含めた携帯電話事業者のビジネスモデルに大きな影響を与えたのは間違いない。だが、特に日本の場合、割引の普及とiPhoneへの人気の集中が相乗効果を生んだ結果、思ったよりも低価格スマホに顧客は流れず、「最新のものを割引で買う」か「旧モデルを安く買うか」になり、結局はハイエンドといえる機種が売れる構造が維持されている。

この流れの中で、スーパーハイエンドスマホの登場が、思ったほど市場に対するブレーキにはならない可能性が高い。「高いなあ」と思いつつ、結局いいものを選ぶ顧客が大半になるからだ。

一方で、他国も同じとは限らない。超高価格機種がどこまで売れるかで、世界的な今後の市場動向が決まってくる。筆者の予想では、「比率ではトップモデルは少ないものの、売上面では大きなものになる」「昨年モデルやミドルクラスモデルとのミックスが増える」と予想している。そういう意味で、昨年モデルをうまく使うアップルは、かなり有利な形になるのではないだろうか。

筆者は、スーパーハイへの流れは一時的なものだ、と予想している。多少楽観的な見方だが。あまりに高コスト志向が続くと、買い替えサイクルをさらに長くする可能性が高いからだ。それは、今のスマホメーカーにとって歓迎すべきことではない。24カ月のサイクルは崩したくないはずだ。単に売れ行きが下がるだけでなく、部材開発のサイクルも変化してしまうため、業界全体に与える影響が大きい。だとすれば、来年からはコストを下げ、スーパーハイの影が薄くなり、買い替え促進になる……という予想になるのだが、こればかりはなんとも言えない。

まずは、iPhone Xが世界でどのくらい売れるのか。

それを注視する必要がある。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

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コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2017年11月3日 Vol.148 <なんだよ今日みんな休みなのかよ号>

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01 論壇【小寺】
aiboの先にあるもの
02 余談【西田】
スマホはこのまま「高くなる」のか
03 対談【小寺】
沖縄から全国へ。撮影機材通販を展開する「プロ機材ドットコム」の秘密 (3)
04 過去記事【小寺】
洗濯機を分解して掃除する
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41