小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。金曜ランチビュッフェの購読はこちら(協力:夜間飛行)

日本でも「ダウンロード越え」が見えたストリーミング・ミュージックだが……?

11月27日、日本レコード協会(RIAJ)が公開した、2017年第3四半期(7~9月)の有料音楽配信売上実績は、なかなかに興味深い情報となった。ストリーミング・ミュージックの売上が約67億円で、ダウンロード販売の売上(約68億円)とほぼ同額に達したからだ。

RIAJ有料音楽配信売上実績

日本のストリーミング・ミュージックはまだ「マス」とはいえないのだが、それでも、順調に成長している。2月に発表された2016年の累計販売実績値では、ストリーミング・ミュージックは約200億円で、全体(528億8600万円)の4割だった。そこからさらに伸ばし、ついに、年末から来年にかけて、日本でもダウンロード販売を超えることが視野に入ってきた。

ただし、これでも「音楽全体」となると、まだまだ小さな値である。RIAJの統計では、2016年のCD/レコード売上は約1777億円。ネット配信全体でもその3割に満たず、ストリーミング・ミュージックはようやく11%程度だ。

10月の段階では、ディスク全体の販売金額は、前年同期比で95%となっている。
2016年が2015年に対し97%だったので、仮に95%で終わる、と推定すると、1688億円になる。それに対して、ダウンロードとストリーミングは前年比111%程度だから、2017年の売上は約578億円と推定できる。この場合で、ネット比率がディスクの約35%、ストリーミングが約17%程度……というところだろうか。

ディスクの減少に歯止めはかからない。ネットはストリーミング・ミュージックの順調な伸びで全体としては年率10%を超える伸びになっているものの、音楽市場全体の累計だと、微減、もしくは横ばい、という値になりそうである。

日本においては、ストリーミング・ミュージックの伸びがまだ小さい。これが、音楽市場の成長を阻害しているのは明らかだ。アメリカの場合、全米レコード協会(RIAA)の調べによれば、2016年の売上は全体で77億ドル(約8557億円)。もっとも多く売り上げているのがストリーミング・ミュージックであり、全体の半分以上を占める(以下図版はRIAAの資料より抜粋)。

RIAAの2016年統計資料より。売上の51%以上をストリーミング・ミュージックが占める

RIAAの統計資料(PDF)

アメリカの音楽市場は年率11%の割合で成長しており、その成長源泉は、完全にストリーミング・ミュージックによる消費の拡大となっている。もちろん、アーティストひとりあたりの売上が小さいのでは……という問題も指摘されているが、ストリーミング・ミュージックやYouTubeから生まれる新しいスターも出てきており、この形が「これからの音楽産業」であるのは間違いない。

では、いかに日本はトランジションするのか? スマートスピーカーのような存在は、いかにストリーミング・ミュージックの成長に影響を及ぼすのか?

一部インディ系アーティストでは、特に海外を中心としたヒットとして、ストリーミング・ミュージックからヒットを飛ばす動きも出てきている。

【 2017年最大の衝撃】大阪出身でSpotifyグローバルチャート1位、Jojiとは何者か

そこにどう続くのか? 音楽出版社がそのヒットをどう持続的・安定的なものにするのか? そこが、2018年の大きなテーマになる。

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」

本稿はメールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」からの転載です。

コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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2017年12月1日 Vol.152 <誰がために鐘は鳴る号>

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01 論壇【小寺】
検討が進むリーチサイト規制の今
02 余談【西田】
日本でも「ダウンロード越え」が見えたストリーミング・ミュージックだが……?
03 対談【西田】
トリニティ・星川哲視氏と語る「スマートフォン関連市場の今」(2)
04 過去記事【小寺】
家庭内の「家事ハラ」事情を考える
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41