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世界初HDR 4K IP生中継は今までと何が違う? 侍ジャパンの試合をひかりTVで観た

 映像配信サービスの「ひかりTV」は、世界初となるHDR(ハイダイナミックレンジ)対応4K-IP放送の生中継を11月10日より実施。その第1弾として配信された、野球の日本代表「侍ジャパン強化試合」の映像を、実際に4K HDR対応テレビで視聴してみた。

HDR生中継の映像をREGZA 50Z20Xで視聴した

 ひかりTVは、既に様々な4K放送を商用サービスとして展開しているため改めて整理すると、現在は4Kのコンテンツを選んで視聴できるVOD配信と、放送のようにチャンネル型で配信するIP放送を実施している。

 明暗差のあるコンテンツもより高い臨場感で楽しめるHDRコンテンツは、4K-VODで既に「HDR10」方式と「DolbyVision」方式で配信しており、10月時点で約20本をラインナップしている。

 これに加えて10月24日からは4K-IP放送でもHDRコンテンツを配信開始。VODとは異なり、NHK/BBCの共同開発による放送用のHDR方式「HLG」(Hybrid Log Gamma)を採用し、HLG対応テレビではHDR画質で、HLGやHDRに対応していないテレビでは、従来のSDR(スタンダードダイナミックレンジ)画質で視聴可能。送信側はHDR/SDRで個別に2本のストリームを用意する必要はなく、1つのチャンネルの映像を、視聴側の仕様によって自動でHDRまたはSDRで表示されるため、視聴者は対応テレビさえ用意すれば、特に意識することなく今までのチャンネルでHDRを楽しめる。

HDRにより、明暗差のある映像を、白飛び/黒つぶれを抑えてリアルに表現

 HLG方式のHDRに対応したひかりTVチューナ搭載の4Kテレビは、現時点では東芝REGZA「Z20X」(50型/58型/65型)のみで、10月東芝が提供したファームウェアに更新することで、正式に対応した。単体のひかりTV対応チューナは、「ST-3400」が'17年秋頃に対応予定。

 その4K-IP放送のHDRコンテンツにおいて、初めて生中継が実施されたのが今回の侍ジャパンの強化試合。これまで、放送波では'15年のInter BEE会場限定でスカパーJSATがHLG方式のHDR映像を中継したことはあったが、商用のIP配信ではひかりTVが世界初となった。

侍ジャパンの4試合を4K HDRで生中継

ユニフォームの質感など、“生に近い”映像を体験

 今回、4Kテレビは東芝の「50Z20X」を2台使って、HDR放送と従来のSDR放送の両画質を比較しながら視聴した。

 東京ドームに用意された中継車では、球場内のソニー4Kカメラ「HDC-4300」から、4Kチャンネル用のエンコーダで変換された映像が、IP回線を経由してひかりTV用の有明データセンターへ届き、そこで再度エンコードを掛けて、送出設備から各ユーザーへ配信。4K放送の送信ビットレートは、今回のHDRコンテンツも、従来のSDRと同じ約25Mbps。

 当日の試合は、ひかりTVの4Kチャンネル(HEVC/H.265)とHD(MPEG-4 AVC/H.264)のチャンネルの両方で配信されたため、同じ4Kカメラからの映像を、中継車でHDにダウンコンバートした映像も作られ、IP回線を通ってデータセンターへ届き、ユーザーに向けて送出された。

 現地に6人の番組制作スタッフが入り、REGZAでの見え方も確認しながら絵作りが行なわれており、「HLGの性能を満たせるHDRの絵を撮りながら、SDRでは、いかに従来のルックアップテーブル(色変換テーブル)に収められるか、という2つの技術的チャレンジがある(NTTぷらら 技術本部 ネットワーク管理部 チーフエンジニアの土井猛氏)」という。

 初めての試みとあって、技術本部 技術開発部長の宮里系一郎氏が、現地の制作スタッフからのコメントも交えて説明が行なわれた。それによると、今回はHDRの良さをしっかり伝えるため、従来よりもカメラの絞りを開放して(明るく)撮影し、照明などの強い光も白飛びさせず、映像全体としても階調などを正確に表現できるように意図したという。

今回のシステム構成を説明した技術本部の宮里系一郎氏

 侍ジャパンの縦縞のユニフォームを見ると、試合が始まったばかりで真っ白な部分が際立つ一方で縞とのコントラストもくっきりと表現。シワなどの陰影も精細に描写され、立体感が伝わってくる。現地の制作スタッフは、特にユニフォームの白さをキレイに見せることを意識して画質を調整していたとのことだ。

 REGZA本体の画質設定は、HDRが「リビングプロ」、SDRは「標準」を選択。単純に見比べると、明るさの違いから、SDR側の方が黒が沈み、赤や緑などの色が濃いようにも見えたが、現地からのコメントでは、SDRだと黒に近い色で見える侍ジャパンのヘルメットは濃紺で、審判のウェアは、黒でもすこし色あせた感じが実際はあって、それがHDRの方がそのまま反映されているという。HDRだと、現地で見た「素のまま」の映像が体験できるということだろう。

 なお、今回の中継ではスロー映像に関しては機材などの関係でSDR画質だったが、REGZA側でSDR映像のみ効かせる画質補正「アドバンスドHDR復元プロ」が適用されていた(SDR側のREGZAは同機能がOFFだった)こともあって、HDRに比べて大きく画質が変化するという印象はなく、「言われてみるとそう見える」というレベルだと感じた。

 何よりSDRと比べて高画質だと感じるのは、やはり明るい部分のインパクト。バックスクリーンのLEDディスプレイの映像は、隣のSDRと比べると存在感が全く異なる。また、グラウンドや客席全体を見渡せるような、カメラを引いた映像でも、選手の白いユニフォームとシルエットがクッキリと見えて、SDRと同じ解像度ながらより細かく描写されているように感じた。アップで見ると、ユニフォームの素材感、例えばメキシコのチームは背番号の部分だけ素材が違うのが、光沢の具合で分かりやすかった。

 テロップもHDRに合わせて制作され、SDRと見比べると文字の縁取りの部分などがクッキリと見える。ただ、カウント表示など同じテロップを長く見続けていると、SDRに比べて少し目が疲れる印象もあった。

 上映していた会場にいる宮里氏らと、現地制作スタッフと間で、実際の絵を見ながら画質の微調整を行なうといったやり取りもあり、それは今回が初めての中継だった故の珍しい場面だった。しかし、テロップの明るさについては、その場で切り替えることができなかったため、翌日以降の中継において検討されるという。今までも数多く重ねられた実験や、今回のような商用サービスで得られたノウハウの蓄積も、これからの画質やサービス全体の向上へつながっていくと考えると、今後も期待が持てそうだ。

 10日の第1戦は、残念ながらメキシコに負けてしまったが、11日以降の試合も、引き続きHDRで放送。今後のHDR生中継番組は決まっていないが、侍ジャパンの試合はもちろん、特に生中継のニーズが高いスポーツを含め、実施していく予定だという。

【侍ジャパン 強化試合のHDR生中継予定】
日本 vs メキシコ 11月11日 18時45分~
日本 vs オランダ 11月12日 18時15分~
日本 vs オランダ 11月13日 17時50分~