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オンキヨー、和楽器の響きヒントに、桐を活用した“異端のスピーカー”開発

 オンキヨー&パイオニアは、“桐”を使ったオンキヨーブランドのブックシェルフスピーカーを開発。クラウドファンディングサイトの未来ショッピングで、先行販売を実施する。募集期間は8月8日~9月30日。2つのプランを用意。桐スピーカー、スタンド、アンプ、CD、スピーカーケーブルをセットにして、オンキヨースタッフによる出張設置・接続サービスも行なうプランが130万円、桐スピーカーとスタンドだけを販売するプランが120万円。どちらも各5セット限定となる。一般販売は「先行販売の様子を見ながら、今後どうしていくかを検討していきたい」という。

桐スピーカー

 「虫の声や風の音など、自然界の音で四季や風情を感じるほど豊かな日本人の感性。この感性に響くスピーカーを作りたい」という、B2B 本部 技術部 開発技術課のエンジニア・井上岳氏の想いを具現化したという製品。

B2B 本部 技術部 開発技術課のエンジニア・井上岳氏

 自然界の音を聴くと、直接的な音の情報だけでなく、そのまわりの環境までを考えながら音を聴く事があるが、「スピーカーで再現するのは難しい、そうした耳に聞こえない音もお客様に聴いていただけるようなスピーカーを開発したいと考えた。そのために、コスト、マーケティングを度外視した、ある意味“異端の、スピーカー”」(営業本部 営業企画部 販売促進課の八重口能孝氏)だという。

桐スピーカー

 2ウェイ2スピーカー構成のブックシェルフ。最大の特徴はウーファにあり、振動板に鋼鉄の1/5の軽さながら、5倍以上の強度を誇るバイオマス素材の「セルロースナノファイバー」と、和紙の原料である楮(こうぞ)、厳選した高緯度地域の針葉樹パルプ材を配合してノンプレス成形。

 自然由来の癖のない素材を使うことで、軽量化、高剛性化、高内部ロスを高い次元で実現したという。サイズは10cm口径。

セルロースナノファイバー、楮(こうぞ)、厳選した高緯度地域の針葉樹パルプ材を配合したウーファ

 振動板の表面には、楽器の製造にも使用される天然の接着剤“にかわ”をコーティング。物性を適正化した。さらに、ボイスコイルとの接着部には、「桐油煙墨」という高価な墨をグラデーション含浸させ、微小振動の伝達を適正化している。この墨は、桐を燃やして得られたススを、こそぎ落として作ったもので、時間と手間をかけて作られたものだという。中央のイコライザ部分にはローズウッド木材を使っている。

楽器の製造にも使用される天然の接着剤“にかわ”

 このウーファユニットが1つの“技術シーズ”となっている。「シーズを究極に追い求める中で生まれたのがこのウーファ。これが面白いので、世に出してみようという事で生まれたのが今回の桐スピーカー」(八重口氏)だという。

営業本部 営業企画部 販売促進課の八重口能孝氏

 ツイータもこのスピーカーのために開発されたもので、3cm径のリング型。クロスオーバーネットワークには、厳選パーツを投入。空芯コイルや低歪ケイ素鋼板コアコイル、ムンドルフ製コンデンサなどを使い、表現力や奥行き感を高めたという。再生周波数帯域は全体で65Hz~90kHz、クロスオーバー周波数は4kHz。

ツイータ
ネットワーク

 エンクロージャはリアバスレフ。特徴的なユニットを活かせるエンクロージャとして、桐という素材が選ばれた。同じく、桐を素材として使っている和楽器の技術もスピーカーに取り入れたという。

エンクロージャはリアバスレフ

 和楽器では、適度に“響く”事が重要だが、桐をエンクロージャに使うと「予想以上に響き、響きすぎる部分もある。これを適度な響きに調整するために、今までのスピーカーの手法では吸音材を沢山入れるなどするが、それをしないで、和楽器がどのようにして適度な響き方になっているのかを検証した。その結果、桐の“彫り方”で響きが変化するとわかった。そこで、側板の内側に、和太鼓の内側などで使われている“網状鱗彫り”を採用した」(八重口氏)。

エンクロージャ内部。鱗のような模様が見えるが、これが“網状鱗彫り”だ。手掘りではなく機械が使われているが、この加工自体も難易度が高いものだという

 さらに、筐体で発生する複雑な分割振動や、内部定在波の発生を避け、余計な付帯音を抑えるために「Resonance Sculpting Control」テクノロジーを適用した積層構造を採用。響きをコントロールしている。

 専用のスピーカースタンドはタモ材を使用。一部に黒檀も使ったオイルフィニッシュ仕上げを施し、スピーカーの特性を最大限に発揮するために設計したという。スピーカーの振動モードを解析し、自然な振動をそのまま活かす発想で作られ、重心支持構造を採用。若干上向きのセッティグになっており、2.5mほど離れたところに座った際に、耳に音が届きやすい角度になっている。

専用のスピーカースタンドはタモ材を使用
スピーカーを斜め上向きにホールドするようになっている

 八重口氏は、「今までのスピーカーの開発工程とはまったく異なり、“いかに響かせるか”、“倍音がどれだけ聴こえるか”を重視した。通常のスピーカーは余分な振動を減らす、響きを抑えるという考え方だが、今回はスタンドも含め、いかに響かせるかという真逆の発想で作っている。それは楽器の“鳴り方”がそうであり、それこそが、“我々が出したい音の理想”にもとづいてるのでは? と考えたため」と説明。

 さらに、開発のキーマンであるエンジニアの井上氏の「音に魂が宿っている、と感じるくらい、音を自然に、ありのままに感じられるスピーカーをつくりたかった。言霊という言葉があるように、このスピーカーには『音魂』を宿らせたいと思った」というコメントを紹介した。

 スピーカーターミナルはWBT製。インピーダンスは4Ω。出力音圧レベルは85dB/W/m。外形寸法は153×274×289mm。重量は3.4kg。スタンドはスパイクを取り付けない状態で240×333×431mm。重量は2.5kg。

 なお、クラウドファンディングのプラン1に付属するコンポは、ハイコンポ「INTEC」シリーズのラインナップから、ネットワーク対応のハイレゾ対応ステレオアンプ「R-N855」(通常モデルの価格は88,000円)と、CDプレーヤー「C-755」(同47,000円)。既存製品をベースにしているが、桐スピーカーにマッチするようチューニングしたモデルだという。

プラン1に付属するコンポは、ハイコンポ「INTEC」シリーズのラインナップから、ネットワーク対応のハイレゾ対応ステレオアンプ「R-N855」、CDプレーヤー「C-755」

 なお、8日から東京・八重洲の「Gibson Brands Showroom TOKYO」において、試聴も可能になっている。

八重洲の「Gibson Brands Showroom TOKYO」で試聴も可能だ

音を聴いてみる

 10cmウーファのブックシェルフであるため、実物を見ると意外なほど小さい。八重口氏は、「大きくするのは簡単だが、我々は“最適なサイズであればいい”、“このユニットで最適なサイズは何なのか”を追求し、この大きさに辿り着いた。必要以上に大きくする考えはなかった」という。

 桐の上品な質感も手伝い、洋室はもちろんだが、和室に置いても自然に溶け込むデザインに見える。高価な製品でもあるため、「オーディオに詳しくない方にも当然興味を持っていただきたいと考え、アンプとCDとスピーカーケーブルをセットにして、さらにスタッフが設置・接続に伺うプランも用意した」という。

 「和楽器のように響かせる」をコンセプトにした珍しいスピーカーだが、そのサウンドも非常に珍しく、また面白い。

 ギターデュオの楽曲を再生すると、アコースティックギターの木の響きが、桐のスピーカーから非常にナチュラルに、なおかつリアルに流れ出してくる。小型のスピーカーだが鳴りっぷりは雄大で、広い試聴室に音が充満するほど元気良く音が吹き出してくる。ヴァイオリンも躍動感豊かで、中高域の抜けも良い。

 面白いのは“響き”の感じ方だ。一般的に、響きが多いスピーカーは、音がボワッと膨らみ、音像が不明瞭な、モワモワした音になりがちだ。しかし、桐スピーカーは気持ちよく響きが広がるが、響き自体がスッと空間を抜けていくようなスピード感があり、見通しが良く、音像は不明瞭にならない。低音も過度に膨らまない絶妙な響きのコントロールと、桐という素材の響き自体の特性がマッチした結果のサウンドなのだろう。

 また、ヴァイオリンの高域が連続するような楽曲では、ともすると耳に高音が突き刺さるような“痛い音”になる事がある。しかし、桐スピーカーの場合は、音量を挙げて、高音が押し寄せてきても、そこに不思議なしなやかさ、艶やかさがあり、まったく不快には感じない。

 ポップスなどを再生すると、サイズやユニット口径が小ぶりであるため、地鳴りのような低音は出ないが、肺を圧迫されるような音圧豊かな低音はしっかり出ており、バランスの良さも感じる。吸音材を沢山入れて音を吸わせたスピーカーと異なり、音に躍動感があり、元気良く飛び出している感覚が、低音の迫力も補っているようだ。かといって、音が好き勝手に飛び出して“とっちらかって”はいない。素材の音を活かしながら、聴きやすいサウンドを実現するため、入念に試行錯誤が繰り返された事をうかがわせる完成度の高さだ。

使用イメージ