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なんだこれは!? パナソニックが提案する2025年のAR/MRライブが凄い
2018年1月16日 12:34
CES2018のパナソニックブースは、企業向けビジネス(B2B)の出展がメインで、コンシューマ・エレクトロニクス(一般消費者向け電機)の展示はほとんどなし。それでも展示内容はなかなか意欲的なもので、勇気を出して各展示ブースに飛び込めば、意外に楽しめる内容になっていた。特にパナソニックという企業の成り立ちや、“万博”的なパナソニックの考える未来技術を語るものについてが興味深かった。
ただ、4日間の会期のうち3日目と4日目は、ブースへの来場者数は少なめであった。「通」好みだったが、実はかなりユニークな未来を提示していた2018年のパナソニックブースの模様をレポートしたい。
魅惑の劇場型ブース展示「IMMERSIVE ENTERTAINMENT」
ブースの奥に設けられた「IMMERSIVE ENTERTAINMENT - ADVANCED AV SOLUTIONS」というシアターアトラクションは、B2Bコンセプトのパナソニックブーの中にあって、最も異彩を放っていたブースであった。
来場者はブースに入ると、かなり長編の世界観解説映像を立ち見状態で見せられることになる。
時は2018年の現代。そばかすが初々しい小学生くらいのメガネのピーター少年の元へ、箱詰めされたロボットが送られてくる。
ロボットは丸形で手足もなく移動機能もなく、外見は実に幾何学的な球体ベースで、喜怒哀楽を表現する表情の表現も行なえない。無邪気に話しかけてくるピーターに対する会話に対して、人工知能の性能も低いためか、微妙に会話も噛み合わない。「君はもう少し笑った方がいいね」と優しく語りかけてくるピーター少年に、このロボットは「ソフィー」という可愛らしい名前をもらう。
その直後、なぜかソフィーは電源を落とされ、その後、再び電源が投入されたときには、やや成長したピーターが目の前に現れ、未来都市が広がるガラス窓の向こうには、うっすらとやや人型に近づいたソフィーの姿が映り込んでいた。
その後、再び電源が落とされ、目が覚めるたびにピーターは成長し、ソフィはより人間に近づいていき、ガラス窓の景色の都市の様子は未来感が強まっていくループが繰り返される。最終シーンでは、なかなかのイケメン青年に成長したピーターと美しい女性型アンドロイドになったソフィーが対面する。
一連の映像は、正面の大型ビデオウォールに表示されていたのだが、気が付けば、来場者達の左右には窓ガラスを模した画面も埋め込まれていて、その窓の外には未来都市が広がっている。時を示すカレンダーには2025の数字が表示されていて、どうやら時は2025年にまでジャンプしてしたという設定らしい。
ここで部屋がブラックアウトし、部屋の一部にスポットライトがあたったかと思うと白塗り化粧に青紫ルージュをあてた美女が登場。このドラゴンボールのフリーザっぽい女性は具の少ない春巻きのような衣装に身を包み「ワタシはソフィー」と自己紹介し「ワタシの後に続いてください」と話し出して歩き出す。
「我々は一体何を見せられているんだ?」という疑問符をそれぞれの頭に浮かべる来場者は3テンポくらい遅れて春巻きフリーザっぽい"出で立ち"のソフィーの後に続く。
ソフィーに連れられてきた次の部屋は真っ暗。ただ、スポットライトがあてられている先にはソフィーとそっくりな女ロボが数人いた。ソフィーは、未来的な図版が表示されたタブレットを、もう一人の女ロボと交換したあと、ここで何が起こるのかを説明し始める。その後、本物(?)のソフィは次の来場者達に「ピーターとソフィーの出会い」映像を見せるためなのか、前の部屋に戻っていく。ちなみに、これ以降、ピーターは登場しないので、ピーターとの「ロボと人との淡い恋物語」はほったらかしでその結末は描かれない。
来場者は気持ちの切換を迫られるのである。
この部屋の主っぽい方のソフィーロボは、「ここは2025年の未来都市です。この時代は、ACRONSと呼ばれる仮想現実と拡張現実がクロスオーバーする最新エンターテインメントライブが流行していて、その様子を今からご覧頂きます」と前説し、戸惑う来場者を落ち着かせる。
結末のない未来SFドラマのあとは、脈絡も希薄に未来コンサートが始まるというわけである。
よく観察すると、眼下には未来都市の広大な模型……というか精巧なジオラマが展開しており、設定としては「未来都市のタワービルの高層階から街並みを見下ろしている」という状況らしい。しかし、どのくらいお金をかけたんだ、というくらい精巧にできていて、ほとんどSF映画のセット並みである。プロジェクションマッピングなどの技術も駆使して、街並みの照明は点滅したり動いたりしているし、実際にレーザーエミッターなどを使って、こちら側に自発光の光を打ち出したりしてくるほど作りは細かい。
また、背景部分の街並みは巨大な大画面に映し出された映像で作り出されており、その街並みの雰囲気は「ブレードランナーか攻殻機動隊か」といった風情。登場する巨大な電子看板の全てが「Panasonic」という表示になっているのは、ちょっとしたディストピア感があってホンワカさせられる(笑)。
そうこうしているうちにACRONSライブがスタート。
大音量で奏でられるシンセ主体のエレクトリックダンスミュージックは、中田ヤスタカ風サウンドで、未来都市ジオラマの上空には立体的な映像が音楽に合わせて再生される。
SF映画でお馴染みの「ホログラフィックな空中結像映像」は、実際には透過型スクリーンを使ってそこにプロジェクタから映像を投射している。ただし、この2枚の透過型スクリーンの間にはある程度の隙間を開け、重ね合わせるように設置されているようだ。そして、これに対し前後からプロジェクタで映像を表示することで、2レイヤーながらも立体感を感じさせる表示を実現していたのだと思う。
音楽が中田ヤスタカ風なので、映像自体もPerfumeっぽい女性ユニットのダンス&ボーカルパフォーマンスがメイン。ボーカルの声質も女性の声をボコーダーを通したような感じで、Perfume的。もしかすると「日本を想起させる未来的なポップ・ミュージック」ということで、このジャンルが選択されたのかもしれない。
いずれにせよ曲も映像も完成度は高く、これに合わせて演出されるプロジェクションマッピングも大迫力で見応えがあった。
パナソニックは2025年頃に今回の展示の実現化を目指す!
ブースの外に出て、ブース横にいた日本のパナソニック関係者に「これは一体どういう展示なのか」「そもそもパナソニックのどんなビジネスを来場者に訴求するものなのか」を伺ったところ、意外な回答が返って来た。
筆者は、こうした大画面映像技術、プロジェクションマッピング、透明スクリーンを応用した疑似立体映像技術などを使って、イベントやアミューズメント施設などにおいて、このようなアトラクションを構築するための技術的なソリューションを提供する、というメッセージを打ち出しているのか、と思っていたのだが「狙いはそこではない」という。
実は、今回の展示は、今回のシアターで示された時代の2025年くらいまでに、今回表現した「ACRONS」のような、HMD使わずに、現実空間にAR/MR的なコンテンツを実現する技術を磨き上げていく、というような所信表明だというのだ。
2018年にパナソニックは創立100周年を迎えるにあたり「新しい技術を開発する」だけでなく「新しい体験を生み出す」トータル技術企業になっていきたいという願望があるそうで、それを分かりやすい形で表現したのがこの展示なのだという。
今回のACRONSコンサートは、ある都市で行なわれているアーティストの演奏を音だけでなく、アーティスト自身の動きを3Dグラフィックスとしてリアルタイムスキャンし、これを別の場所でリアルタイムに加工したり、新しい演出を加えて別の都市で、全く異なるコンセプトのライブを見られるようにする事例として紹介したのだとか。
そう、パナソニックは2025年までに、この映像で描かれたACRONSシステムを実現したいと考えているのである。
現在、遠方の都市で行なわれているスポーツイベントを、大勢で大画面で鑑賞する「パブリックビューイング」という楽しみ方があるが、どうしても「現地」が「本物」で、遠方で映像で楽しんでみているパブリックビューイング側は「サテライト会場」という感覚が否めない。
ACRONSは、遠隔地でも、現地と同等かそれ以上の楽しみ方ができるコンテンツを構成することで、そうした「サテライト感」を払拭しようというのだ。
なかなか壮大な構想を打ち立てた感はあるが「夢を語る万博」ではなく、家電ショーたるCESで発表したということは、パナソニックとしてはかなり本気で取り組んでいることなのだ。
なお、今回のACRONSコンサートの映像やサウンド、その他の女性ロボのソフィーを含めた演出は、日本の音楽制作企業のエイベックスと共同開発されたものだそうだ。
2018年、我々は新型aiboと巡り会えたが、2025年はパナソニックが我々にソフィーを提供する未来になるということだろうか。できれば、来年はピーター少年とソフィのその後を語ってほしいものだが……。