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KDDIがスマートグラスをODGと開発。ARドローンや初音ミクの「xR」
2018年4月26日 20:52
KDDIは26日、米ODG (Osterhout Design Group)とスマートグラスの企画・開発を共同で行なう戦略的パートナーシップを締結したと発表。現実世界を認識してコミュニケーションできるバーチャルキャラクターAIなど、AR/VRに代表される「xR技術」を活用したサービス実現に向け、ビジネストライアルを開始する。
KDDIが持つ通信やxR技術のノウハウと、VR/ARスマートグラスなどを手がけるODGの技術開発力を活かし、6月以降パートナー企業と実証実験を推進。具体的には、ODGのスマートグラス「R-9」をベースに、日本人が着用しやすいデザインにカスタマイズし、スマートグラスの可能性を追求していく。
発表会で披露されたR-9は実証実験のための端末で、現時点で一般発売の予定はなく、価格も未定だが、AV機器としての見どころは多い。
グラスの向こう側の実風景が透過して見えるタイプのスマートグラスで、単体で動作する。サングラスを一回り大きくしたサイズ感で重量は約181gと、一般的なVRヘッドマウントディスプレイと比べて軽量。装着時の頭部への負担も少ない。
シネマワイドの22:9と16:9表示に対応。50度の広い視野角に加え、スマートグラスで初めてTHXディスプレイ規格を取得した表示性能も特徴とする。さらに、度入りのレンズをグラスの内側に取り付けられるオプションが用意され、普段メガネを使っている人がAR/VR体験のためにメガネを外しても、映像が見えるよう工夫されている。
クアルコムのプロセッサ「Snapdragon 835」と、13MPカメラ、ステレオキャプチャ・深度計測用の5MPカメラを搭載。VR空間を自由に動ける「6DoF(Six Degree of Freedom)」と、センサーから取得した情報を元に、単体で自分の位置推定とマッピングを同時に行なうSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)に対応。システムはAndroidベースの「Reticle OS」で、単体で装着したユーザーの位置トラッキングに対応したAR/VRアプリを利用可能。KDDIによれば、既存のAndroidアプリと親和性があり、新たなアプリも開発しやすいという。
R-9は無線LANを搭載しているが、今後はスマートグラス単体で、2020年開始を目指す5Gのセルラー通信が行なえるよう、クアルコムとKDDIで検討を進めていく。
日本航空(JAL)と連携し、今夏に羽田空港国際線ターミナルのJAL国際線サクララウンジ・スカイビューで、スマートグラスを利用した映像視聴に関する実証実験を実施する。希望者にスマートグラスを貸し出し、ユーザーは「スマートグラス越しの目の前に広がる大きなスクリーンで、複数種類の映像を楽しめる」というもの。
実験内容については「端末に入れたコンテンツと、映像ストリーミング配信の両方が再生可能だが、詳細は検討中」(KDDI)。実証実験を通じて、ラウンジでの新たな過ごし方を提案し、今後、映像をはじめとしたエンターテインメントの新たなユースケースの可能性を検討するという。
また、5G普及による新たなビジネスモデルの創出を目的とし、「ヒトとバーチャルキャラクターがインタラクティブにコミュニケーションできる世界」の実現に向けて、バーチャルキャラクターとxR技術などを活用したビジネスの開発を開始。'18年5月以降、パートナー企業とともにビジネストライアルを実施する。パートナーとトライアル内容は以下の通り。
- クリプトン・フューチャー・メディア:初音ミクARアプリ「ミク☆さんぽ」を活用したロケーションARビジネス
- フィールズグループ:フォトリアル領域のインタラクティブ化を目指したビジネス実証
- パソナテック、パソナテックシステムズ:バーチャルキャラクターの派遣事業
- 長野県飯田市:伝統文化と先端技術を融合させた「キャラクターとまちの共生」に向けたxR実証実験
室内ドローンでバーチャルレース、ミクと触れあいなど、R-9活用デモ
発表会では、R-9を使った複数のデモを実施。ORSO(オルソ)は、ドローンの操縦トレーニング用スマートフォンアプリ「DRONE STAR」 と、専用の超小型ドローン「DRONE STAR 01」をスマートグラスと連携させ、ドローン操縦の楽しさをバーチャルで拡張したコンセプトゲーム「DRONE STAR(C)レーシングカップ」を出展していた。
R-9のAR機能を用いることで、 室内で実際のドローンを操縦しながら、バーチャルのドローン飛行コースでレースゲームを体験できるというもの。ドローンは、ORSOの18gの室内専用機を使う。バーチャルな室内環境を通じて初心者でも安心して「楽しみながら、 学ぶ、 コミュニケーション」を実現する。
注目を集めていたのが、R-9を装着して初音ミクとコミュニケーションできるデモ。KDDIとクリプトン・フューチャー・メディアが開発したARアプリ「ミク☆さんぽ」で培ったAR表現に加え、周囲の物体や音声など現実世界の状況を認識・理解してバーチャルキャラクターが行動するAIを独自開発し、より自然なキャラクターとのコミュニケーションを実現するもの。
室内を模した空間には本物のテレビや電気が置かれ、人と変わらないサイズの初音ミクがその中を歩き回る様子が、R-9を通して見える。「テレビの電源を点けて」「電気を消して」と声を掛けると、音声認識技術によってミクが反応し、それらの電源をON/OFFしてくれた。簡単な挨拶や雑談に応じる仕組みも備え、「かわいい」や「嫌い」といった言葉に反応してユーザーへの対応も変化するという。映像認識やAIの分野で高度な技術を持つクーガーのリアルタイム映像認識エンジンと、バーチャルキャラクターAIに関する技術協力で実現した。
5GとxR技術で「ワクワクを提案し続けたい」
KDDIの山田靖久商品・CS副統括本部長は、同社が5Gなどの次世代ネットワーク展開に向けて、「xR技術」(既存のVRやAR、MRの総称)に関して取り組んできたことを説明。野球を自由視点映像で楽しむ「4D REPLAY」の実証実験や、「音場のズーム合成技術」で音のVRを実現した音楽コンテンツなどで、「“時間と空間を超えた世界”を様々なパートナー企業と共創してきた。デバイスの進化に伴ってライフスタイルの進化に貢献。5Gの時代を見据えた取り組みを加速したい。xR技術で“ワクワクを提案し続ける会社でありたい”」と話した。
今回、暗視ゴーグルやヘッドマウントディスプレイの開発で30年近い実績を持つODGと提携することで、5Gの高速・低遅延・高信頼化・多接続といった特徴を活かす新サービスの開発を目指す。
ODG COOのピート・ジェイムソン氏は、R-9の特徴を説明し、「スマートグラスはいずれ次のプラットフォームになる。今回の発表は、そのビジョンを現実にするための大きな1歩。KDDIと次世代のモバイルコンピューティングの実現に携われることは光栄だ」とコメント。
クアルコムのシニアディレクターのヒューゴ・スワート氏は、R-9搭載のプロセッサや最新プロセッサ「SnapDragon 845」の機能などを紹介し、「将来のコンピューティングは、5年、10年とかかるかもしれないが、スマホからスマートグラスに移るだろう。5GとxRの掛けあわせで多くの可能性が生まれ、新たなサービスを提供できるプラットフォームになる。通信会社、デバイスメーカー、チップメーカーが手を取り合い、黎明期のxRを成功に導きたい」とした。