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アドビ、“日本のデジタル課題”支援に注力。人材育成も
2022年6月30日 18:30
アドビは30日、事業戦略説明会を実施。日本のデジタル課題に対する取り組みについて発表した。説明会には竹中平蔵氏も登壇し、今後のデジタル化社会における日本の課題について説明した。
2021年度のアドビの収益は、157億9,000万ドルで前年比23%増を達成。このうち、Creative Cloudの収益は95億5,000万ドル(前年比23%増)、紙媒体のデジタル化をメインとしたDocument Cloudの収益は19億7,000万ドル(前年比32%増)、デジタルマーケットにおけるプラットフォームを提供するExperience Cloudは38億7,000万ドル(前年比24%増)となった。
アドビ代表取締役社長の神谷知信氏は、コロナ禍におけるリモートワークなどの影響に加えて、SDGsの側面でも対応が急がれている紙のデジタル化において、PDFやAcrobat Signなどを提供するDocument Cloudが3つのクラウド事業の中で一番高い成長率となったほか、今年に入っても同じような勢いで伸びていると説明。
また、今後のデジタル化社会において最も成長が見込まれるのがExperience Cloudであり、デジタルが生活の中で当たり前のように使われることで、企業と消費者の距離がデジタルを通して縮まっていくと説明。そのデジタルの体験をサポートする領域において、2024年には1,100億ドルの市場規模まで成長すると予想していると述べた。
デジタル化社会においての日本の課題については、竹中氏が登壇して説明。「デジタルエコノミーの拡大」「デジタルトラストの必要性」「デジタル人材の確保」の3点を中心に、政府の役割も重要だが、テクノロジーを持った民間企業の役割が極めて重要であるとした。
デジタルエコノミーは、デジタルテクノロジーやデータを活用した経済活動のことを指し、現状日本においてはまだ規制に阻まれている状況にあるため、これから加速していく分野であるとコメント。
今後予想されるデジタル資本主義の競争に対応できるようデジタル庁の発足など、政府も本格的な姿勢を見せているが、デジタルエコノミーの発展について日本は、多くの主要国から後塵を拝している状況となっており、今後の経済成長の為にもデジタル化への対応が重要であると説明した。
また、デジタルエコノミーの発展に際して重要な要素として、デジタルトラスト(デジタルにおける信頼性)をどう担保するかという点も課題とし、デジタルトラストを高めることで、デジタルテクノロジーに馴染みのない人々にも、その利便性を実感してもらう機会を作っていかなければ、デジタル化を進めることができないとした。
デジタル人材についても、日本は「主要国から後塵を拝している状況」と表現。その理由として、「大学教育や企業の人事の硬直性の問題なども背景にあるが、今後の発展のためには早急にこのデジタル人材を作る必要があり、岸田内閣の打ち出した骨太の方針には、人材を作るという意味で、これから3年間で4,000億円の予算を使うと明言しているが、その使い方については民間の知恵を借りながら実現していくとしているため、民間企業の役割がここでも極めて重要になってくる」と述べた。
竹中氏が説明したこれら課題に対して、神谷社長はアドビが今後行なっていく取り組みを発表した。
デジタルエコノミーの推進では、今後成長していくメタバース領域や3DCGについても、CreativeCloudを中心に新しいテクノロジートレンドのリーダーであり続けることが重要であるとしつつ、昨年から展開しているAdobe Expressについても説明。プロ向けのツールであるというイメージから、誰でも使えるツールも展開していることをアピールしていくという。
その一環として、デジタルの力で個人商店や伝統文化を活性化するプロジェクトを展開。東京都世田谷区下北沢にて約800店舗を対象としたAdobe Expressのワークショップを実施し、各店舗の担当者がビジネスを加速させるために必要となる、チラシ・ポスター・SNS用コンテンツなどのクリエイティブを使った情報発信を、デザインの側面から支援する。
誰もが作りたいものを簡単に作ることができ、自分の手で発信できるまでサポートすることで、デジタルを通して地域の活性化を目指すとしている。下北沢駅周辺商店街の店舗担当者を対象としており、7月中旬から実施する。
また、アドビが擁するクリエイターSNS「Behance」を使った活動も実施。生産額の減少や従事者の高齢化が進む伝統工芸の分野を支援するため、日本の伝統工芸品を紹介する取り組みを開始した。海外のクリエイターやマーケターに向けてその魅力を伝えるとともに、NFTに対応した作品を公開するなど、新たな収益モデル構築を支援するとしている。
デジタルトラストの実現については、デジタル作品の盗用やディープフェイク対策として、Creative Cloudなどでテクノロジーで対応する取り組みを進めているほか、業界を横断した「コンテンツ認証イニシアチブ」を組織。750社以上の企業が参加しているという。
デジタル文書のセキュリティにおいては、PDFの開発元として、高い安全性と信頼性を備えるAdobe Document Cloudを提供。セキュリティ要件が厳しい行政機関や金融機関などにおける重要書類の長期保存にも幅広く利用されているとする。
顧客体験の分野においても、Cookielessへの対応、GDPRや個人情報保護法の改正といった企業が顧客のプライバシーに配慮したコミュニケーションをすることが求められている。アドビでは、データ活用を行うためのデータガバナンス機能も搭載した顧客体験管理(CXM)ソリューションのExperience Cloudで、企業がデータを活用し、より高度なパーソナライズした顧客体験を提供できるよう支援するとしている。
デジタル人材の育成については、社長直下の専門組織を設置し、デジタル人材の育成を加速。小中高等学校の教育現場に加えて、社会人に対しても、「学び直し(リスキリング)」の場を提供するとし、官民連携のもと発足した「日本リスキリングコンソーシアム」に参画。
リスキリングパートナーの1社として、デジタルスキルの向上に繋がるトレーニングプログラムを提供。プログラムはCreative Cloud、Document Cloud、Experience Cloudから構成され、初心者向けのオンライン講座からビジネスですぐに応用できる実践的なスキル取得など、レベルに合わせて選択できるとしている。
教育現場における支援では、2022年度から高等学校で必履修化された情報科の授業の一環として、関西学院千里国際高等部と提携。「データサイエンス」のカリキュラムを共同で開発し、11月より授業を実施する。生徒たちはアドビのWeb分析ツール「Adobe Analytics」を活用して自校の入学検討者向けWebサイトの来訪者データを分析し、課題を見つけ、解決のためのアイディアを立案。プロトタイピングツールのXDでプロトタイプを作成、プレゼンテーションまでを行なう内容だという。