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NTT、4K映像の120pと60pを同時伝送できるHEVCソフトウェアエンコード技術

 日本電信電話(NTT)は2日、4K映像の120pと60pを同時に伝送可能にする、H.265/HEVC準拠のソフトウェアエンコードエンジンを世界で初めて開発したと発表した。同技術により、NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)が提供する業務向けのソフトウェアコーデック開発キット「HEVC-1000 SDK」や、ファイルコンバートソフト「RealFeel FileConvert 4K」を7月末にバージョンアップして販売する。

 新エンジンを用いて映像を符号化すると、将来120pの映像配信が開始された場合にも、既存のテレビでは60p映像として視聴することができるようになるのが特徴。新しい高圧縮技術を導入したことで、従来と同等画質で約40%のデータ量を削減。現在の配信サービスにおいても、設備のコスト削減などが期待できるという。

右側が新開発の技術。符号量制御により、120pや60pのストリームそれぞれに設定されたビットレート(M、N bps)を考慮しつつ、安定した画質を実現できるという

 スポーツなど動きの激しい被写体を4K/8Kの120p映像で配信する場合に、120p非対応のデコーダを持つ機器でも視聴できるように、ARIB(電波産業協会)の標準規格「STD-B32」では、時間方向階層符号化が規定されている。この符号化方式では、各フレームレートに異なるビットレートが設定されるため、精度の高い符号量推定技術が必要となる。

 NTTが開発した新ソフトウェアエンコードエンジンは、時間方向階層符号化に世界で初めて対応。秒間120フレームの映像の中から、部分的にフレームを取り出せるように符号化し、その際に各フレームを分析し符号量を推定する。

 この符号量推定の精度が低いと、各フレームレートへの符号量の割り当てが最適化されず、全体の画質が低下する場合がある。そのため、各フレームの要素を分解して分析することで符号量の推定精度を向上させ、効率的に符号量を割り当てる技術を開発した。

 新開発の符号量制御技術により、映像配信において固定ビットレート(CBR)だけでなく、可変ビットレート(VBR)も利用可能。今回の符号量推定技術を応用することで、複数の条件の組み合わせに対し高精度に符号量を推定し、効率的に割り当てられる。そのため、CBRに比べて40%のデータ量削減が可能になったという。

映像の複雑度に対する特徴を分析しながら、目標ビットレートおよび、デコード時に考慮すべき各種条件を同時に満たしながら、符号量を割り当てる制御方式を開発

 '14年にNTTが開発したソフトウェアエンコードエンジンは、現在NTT-ATのソフトウェア開発キットやファイルトランスコードソフトウェアを通じて、機器メーカーやポストプロダクション、配信事業者などのH.265/HEVCトランスコードに利用されている。新開発の技術をこれらの製品に組み込むことで、将来的に計画されている4K/8K 120p映像配信の検証などを、早期に開始できるほか、既存のHD/4K映像の圧縮率向上も図れるという。

 今回開発された技術は、7月8日~10日に幕張メッセで開催される「第2回ライブ&イベント産業展」のNTTビズリンクブースにおいて、イベント映像配信の将来像として展示する。

HEVCソフトウェアコーデック開発キットなどに採用。ロスレス音声対応も

 NTT-ATは、ソフトウェアコーデック「RealFeel」(リアフィール)シリーズに、今回のHEVCソフトウェアエンコードエンジンの採用を決定。「HEVC-1000 SDK」と「FileConvert 4K」を7月末にバージョンアップして販売開始する。

 「HEVC-1000 SDK」は、エンコーダとデコーダがセットになったソフトウェアコーデック開発キット。映像データの圧縮方法の変換やビットレートの変換を行なうソフトやオーサリングソフトなどへの組み込みに活用されている。

 今回のバージョンアップによる機能追加で、モバイル配信での低ビットレートで高画質な映像配信や高フレームレートでの次世代映像配信にも活用できるようになるという。

 具体的には、2パスVBR機能を追加。一度エンコード処理して全体のデータの複雑さを解析した後、それに合わせてビットレートを再調整してエンコード。これにより、高圧縮で高画質なエンコードと低ビットレート配信を可能にする。また、前述したARIB規格の時間方向階層符号化とフィールドペア符号化に対応。さらに、予測モードの決定アルゴリズムの効率化によりエンコード処理を高速化する。

 ファイルコンバートソフトの「RealFeel FileConvert 4K」は、SDから4Kまでの映像を、MPEG-DASH、HTTPライブストリーミング、スムースストリーミングなどのマルチデバイス向け配信フォーマットに変換可能。IP回線環境でのコンテンツ配信などに利用されている。バージョンアップにより、圧縮性能およびエンコード速度を向上。4Kコンテンツのエンコード時間を削減し、ポストプロダクションや配信事業者の要望に応えるという。

 さらに、8月末には「RealFeel FileConvert 4K」において、4K/60p映像を12~15Mbpsの低ビットレートで圧縮可能な2パスVBR機能や、ロスレス圧縮方式のALS(Audio Lossless)に対応する予定。

(中林暁)