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音にこだわる“ワンテイク録音” 情家みえ「BONHEUR」MQACD + UHQCDで9月。潮晴男 & 麻倉怜士UAレコード

情家みえ/BONHEUR

音質にこだわるジャズレーベル、ウルトラアートレコードは、情家みえさんの新アルバム「BONHEUR(ボヌール)」をMQACD + UHQCDで、9月10日に発売する。価格は4,000円(税抜)。同日からQobuzでハイレゾ(リニアPCM)のダウンロードも開始する。予約は8月4日からディスクユニオン・ECサイトと、Amazonで受け付ける。

そして4日には、プロデューサーの潮晴男氏と、「麻倉怜士の大閻魔帳」でもおなじみの麻倉怜士氏、さらに情家さんが参加し、表参道にあるKEF Music Galleryにて記者発表会が開催された。

左から潮晴男氏、情家みえさん、麻倉怜士氏

音にこだわる“ワンテイク録音”

持ち前の豊かな感情表現と、円熟の歌唱力でファンを魅了している情家みえさん。ウルトラアートレコードからの第1弾「エトレーヌ」(2018年)は、ジャズ作品として異例の大ヒットを記録。CDからSACD、アナログ盤まで展開した。

その「エトレーヌ」から7年が経ち、数々のライブをこなし、大きく進化した情家さん。

新アルバムのタイトル、BONHEURは、フランス語で“幸せ”を意味する。バラードがメインとなっているが、初挑戦の「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」など、多彩な10曲を収録している。

  • 1. ラバー・カムバック・トゥ・ミー
  • 2. メディテーション
  • 3. ホワット・ザ・ワールド・ニード・イズ・ラブ
  • 4. オーバー・ザ・レインボウ
  • 5. ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル
  • 6. イット・ドント・ミーン・ア・シング
  • 7. ラブ・イズ・メニー・スプレンディド・シング
  • 8. アルフィー
  • 9. マン・アンド・オンリー・ラブ
  • 10. アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ

メンバーは、ボーカル・情家みえ、ピアノ・後藤浩二、ベース・古木佳祐、ドラム・ジーン・ジャクソン、ギター・田辺充邦、サックス・山口真文という構成だ。

情家みえ/ボーカル(左から二人目)、後藤浩二/ピアノ(左から三人目)、古木佳祐/ベース(右から二人目)、ジーン・ジャクソン/ドラム(右から三人目)、田辺充邦/ギター(右)、山口真文/サックス(左)

ウルトラアートレコードの特徴は、徹底的に音質にこだわっている事。レコーディングスタジオは、前作「エトレーヌ」を収録したのと同じ、都内有数の高音質を誇るポニーキャニオン代々木スタジオ。レコーディング・エンジニアはプロ録音賞を20数回授賞した塩澤利安氏が今回も担当した。

潮氏は、「麻倉さんといろいろなスタジオをまわったのですが、その中でも音が素晴らしかったのが代々木スタジオ。もともと久石譲さんのフランチャイズ・スタジオとしてオープンしたところで、現在はポニーキャニオンのスタジオになっていますが、縁があって使わせてもらえる事なりました」という。

スタジオには、フルコンサートモデルのスタインウェイがあり、「スタジオの残響特性がピアノにもマッチしていた。今回のアルバムでも、電気的なエコーは加えず、その場の残響を収録しています」(潮氏)とのこと。

上質な音楽を、修飾加工せずに録音することにこだわっており、生成りの素直な音を得るため手直し編集はしない“ワンテイク録音”を実施。イコライジングやコンプレッションも使わず、ピュアなハイレゾ録音(192kHz/32bit)をしているのが特徴だ。

「まるでアナログレコードのダイレクトカッティングのように、録音が始まったら、終わるまで止められない。そういう緊張感を持って録音しました」(潮氏)。

さらに、代々木スタジオには往年の名レコーダー「STUDER A-800」も設置されているため、これを用いて、76cm/secの2インチテープに、24トラックでアナログでも録音。年内を目標に、アナログレコードのLP盤の発売も検討しているとのこと。その後の構想としては、SACD盤も考えているとのこと。

「このように、使っている機材は、前作とほとんど変わっていませんが、完成したディスクの音は飛躍的に良くなっています」と語る麻倉氏。その裏側にあるのが、3つのこだわりだ。

1つは、「BONHEUR」がMQACDである事。MQACDは、ハイレゾ音源を「クオリティそのままに小さくできる」というMQAでエンコードされている。MQAに対応していないプレーヤーで再生した場合は、通常のPCMデータとして認識され、CDと同じように再生できるのだが、MQA対応のプレーヤーで再生すると、ハイレゾサウンドで楽しめるというもの。

音楽を低域から高域までの部分と、それ以上の高周波な信号に分け、高周波信号を、低域~高域までの音楽信号の中にある耳に聞こえないレベルのノイズ信号の中に移動させる。まるで“折り紙を折りたたむように”コンパクトにする独自のエンコード方法だ。

これにより、MQAに対応していないプレーヤーで再生した場合は、通常のPCMデータとして認識されて再生される。高周波な信号は、耳に聞こえないノイズの中に入っているので聞こえないというわけだ。

MQAはこれだけでなく、時間軸方向の精度も向上させている。アナログサウンドをデジタル信号に変換すると、時間的な音のボケが生じ、過渡的な音が滲む。MQAでは、これを10分の1以下にしている。

麻倉氏によれば、BONHEURのエンコードはMQAの生みの親であるボブ・スチュワート氏自らが行なっているそうだ。

もう1つのこだわりが、CDの製造方法で「UHQCD」だ。メモリーテックが開発したもので、通常の音楽CDでは、ポリカーボネートにデータのピット(ミゾ)を記録する際に、スタンパとよばれる金型を使用し、高熱で溶かしたポリカーボネートを流しこむことで、スタンパ上のピット模様を転写する。

だが、ポリカーボネートは粘り気があり、スタンパのピットの隅々まで入りきらず、スタンパ原盤のピットを完全に転写することはできない。

そこでHQCDでは、ポリカーボネートではなく、フォトポリマーを使用して、スタンパのピットを転写。フォトポリマーは通常状態では液体だが、特定の波長の光を当てると固まる特性がある。この特性を利用することで、液体状態でスタンパの微細なミゾに浸透し、その凹凸を高精度に再現できる。これにより、CDプレーヤーが情報を読み取る際の精度を飛躍的に向上できるという。

ディスクレーベルの色までこだわった。

「いろいろと実験をして、ブルーがいいか、赤がいいかと聴き比べて、絶対的に良かった緑をレーベルに使っています。レーザーの赤色の補色として、赤の迷光を減少させ、センサーに戻るノイズを減らしている」(麻倉氏)とのこと。レーベルに書かれる、アルバム名の白文字の大きさまで、音質にこだわって決定しそうだ。

ちなみに、アルバムジャケットは歌う情家さんを点描で描いたイラスト。手掛けたのは、大学生のイラストレーター・清水優美さんだ。

BONHEURのサウンドを体験する

KEF Music Galleryの試聴室で、サウンドを体験した。スピーカーはKEFのBlade、CDプレーヤーはマッキントッシュの「MA5200」、MQA対応のCDプレーヤーは「MERIDIAN 808」を使用。「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」や「オーバー・ザ・レインボウ」を聴いた。

KEFのBlade

1曲目の「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」は、録音したトラックを2chにまとめただけの、ラフミックスと、ミキシングをした完成版を特別に聴き比べることができた。

ラフミックスは、個々の楽器の音量などはバランスがとれておらず、まさに「現場で録音したそのままの音」だが、ワンテイク録音の緊張感も伝わってくるような、生々しさがある。

このラフミックスが完成版となると、ボーカルの定位が明瞭になり、音がグッと前に出てくる。個々の楽器の位置関係もわかりやすくなり、まさに目の前にミュージシャンが出現して、演奏してくれているような臨場感が出る。

マッキントッシュの「MA5200」

音の良さは、マッキントッシュの「MA5200」で、通常のCDとして再生していても、よくわかる。とにかく音がダイレクトで、鮮度感が凄い。ベースの弦が震える細かな音や、ボーカルの表現まで聴き取れる繊細さと、ドラムやベースの低域がパワフルに押し寄せる激しさが同居している。

また、低音のフォーカス感が素晴らしい。音像の輪郭がシャープであると同時に、トランジェントも鋭く、聴いていると体が勝手にスゥイングする。時間軸方向の精度を向上させた効果もあるのだろう。

MQA対応「MERIDIAN 808」

これをMQA対応の「MERIDIAN 808」で再生すると、さらに情報量が増加。音の余韻が、音場の奥に消えていく様子が良く見えるようになり、リアリティに磨きがかかる。情家さんのファンはもちろんだが、オーディオファンにとっても、要注目の高音質ディスク登場と言えそうだ。