トピック

ジャパニーズアンプの頂点!? マランツ「MODEL 10」で麻倉怜士のJBL「K2」を鳴らす

昨年登場した国内メーカーの製品で、最もインパクトがあったのはマランツの新たなリファレンス「10シリーズ」だろう。プリメインアンプ「MODEL 10」(242万円)、SACDプレーヤー「SACD 10」(198万円)、ストリーミング・プリアンプ「LINK 10n」(220万円)……と、これまでの同社ハイエンド製品を遙かに凌駕する価格帯。海外の超ハイエンド機器に挑むラインナップを出せるまでになったとは、感慨深い。これらは、自社工場の白河オーディオワークスで造られている。

その中核がプリメインアンプのMODEL 10だ。超ハイエンド市場ではプリとパワーを分けたセパレートスタイルが定番だが、あえて合体させることにより、プリとパワーを統合した一体設計が可能になる。一般的なゲイン配分に囚われない作りにでき、カップリングコンデンサを削減、外部ケーブルを使わない最短接続……というメリットを追求している。

上にあるのがプリメインアンプのMODEL 10

さらに、左右各チャンネルにひとつずつMODEL 10を使い、2台のボリュームやセレクターを連動させることで、究極のチャンネルセパレーションを実現できる"コンプリート・バイアンプ・ドライブ"が可能な点もユニークだ。

マランツの試聴室にて、Bowers & Wilkinsのスピーカー「801 D4」で聴いたクオリティにも感心したが、同時に、「このMODEL 10を、我が家のJBLスピーカー K2 S9500で鳴らしたら、どんな音になるのだろう」と興味が湧いた。

というのも、昨年末にK2の振動板のエッジ部分が劣化したので、振動板を交換したところ、新品同様のフレッシュなサウンドに生まれ変わったからだ。最新ハイエンドプリメインアンプMODEL 10と、往年の名機K2 S9500の組み合わせがどんな音になるか、実に興味深い。やってみようではないか。

我が家のJBLスピーカー K2 S9500
昨年末に振動板を交換し、新品同様に生まれ変わった

重いのには理由がある

かくして、我が家に2台のMODEL 10が届いた。

セッティングが、大変だ。というのも、MODEL 10は外形寸法は440×473×192mm(幅×奥行き×高さ)、重量は1台33.7kgもある。編集部員×2人と、ディーアンドエム 営業企画室の田中清崇氏の手も借りて、なんとかリスニングルームに運び込んだ。

重いのには理由がある。MODEL 10のフロントパネルは、一塊の巨大なアルミニウム・ブロックから切削加工で作られており、厚みはなんと最大45mm。サイドカバーも同様に最大15.8mm厚のアルミニウム製だ。振動が音声信号に与える悪影響を低減する狙いだ。

アルミニウム・ブロックを切削加工して作られたフロントパネル

メインシャーシには1.2mm厚の銅メッキ鋼板を使い、回路間干渉を排除するため、プリ、パワー、電源回路をそれぞれを専用スペースに隔離。このメインシャーシに3.2mmと1.2mmのボトムプレートを追加し、構造を3層にして、剛性を強化している。インシュレーターも、アルミニウムの無垢材と銅板を組み合わせた本格的なハイブリッド型。

アルミニウムの無垢材と銅板を組み合わせたハイブリッド型のインシュレーター

面白いのは、これだけ剛性のある筐体の天板をメッシュにしていること。「Waved Top Mesh」と名付けられ、上から見ると内部のパーツが透けて見え、ライティングで彩れる。

天板がメッシュの「Waved Top Mesh」
ライティング機能まである

これまでマランツは上級モデルでは一貫して、非磁性体のアルミニウムトップカバーを採用してきたが、MODEL 10ではこの考え方を突き詰め、非磁性体のステンレス製メッシュを採用。放熱性を高め、音で開放感に優れた空間表現を狙ったことだ。

内部にも最新技術が使われている。パワー部は、新開発のデュアルモノ・シンメトリカルClass Dパワーアンプだ。

新開発のデュアルモノ・シンメトリカルClass Dパワーアンプ

マランツがHi-FiオーディオでClass D方式のパワーアンプを採用したのは2015年の「HD-AMP1」を嚆矢とする。それ以降、プリメインのフラッグシップ「PM-10」や、「MODEL 30」、そして2023年に我が家に導入したホームシアター用の16chパワーアンプ「AMP 10」にも、Class Dアンプが使われている。

MODEL 10には、これらの製品で培われた回路設計技術やパーツ選定、サウンドチューニングのノウハウなどがこれでもかという程、盛り込まれている。Class Dアンプにてパワーアンプ部を小型化できるから、セパレートアンプグレードのプリアンプ部を、1つの筐体に収められたという背景もある。

このClass Dアンプは、デンマークPURIFI(ピューリファイ)とマランツが共同開発した、独自設計のデュアルモノ・シンメトリカルClass Dパワーアンプ。既成モジュールを購入して使うのではなく、パワーアンプおよびSMPS(スイッチング電源回路)の基板設計からパーツ選定まで、すべてを新規で行なった。

本パワーアンプ回路は、バランス回路によるBTL接続で構成され、出力は500W + 500W(4Ω)。マランツのプリメインアンプ史上で最大のパワーを誇る。組み合わせるプリアンプは、単体のリファレンスプリアンプ「SC-7S2」と同規模の回路という。高性能なステレオボリュームコントロールICと、最新型のHDAM + HDAM-SA3による電圧帰還型回路によるデジタル制御の可変ゲインアンプだ。電源部にもこだわり、プリアンプ専用のリニア電源を搭載。

MODEL 10でJBL K2 S9500を鳴らす!

まずは、MODEL 10×1台でK2 S9500を鳴らす。ソースのCDプレーヤーはLINN「CD12」で、XLRケーブルでアンプと接続した。私が普段使っているパワーアンプは、ZAIKAの真空管アンプ「845プッシュプル」で、その前段にイコライザー補正している。

CDプレーヤーのLINN「CD12」

MODEL 10は、イコライザーを使わずにJBL K2 S9500と接続。果たして、ちゃんと鳴ってくれるのか。本スピーカーはたいへん鳴らしにくいというのが定説になっている。K2ユーザーからは、そんな話をもの凄く聞く。私も、天下の有名アンプを何台も試したが、なかなか満足する音が得られず、その到達点として、ZAIKAの845PPに落ち着いたという経緯がある。

「情家みえ/エトレーヌ」CDから「チーク・トゥ・チーク」を再生すると、そんな懸念も吹き飛ばす、刮目の音が飛び出してきた。ボーカルの丁寧さ、語尾のすべらかさ、端正さがストレートに感じられ、情家の艶々した声の表情がたっぷりと再現されている。低域と中域のバランスが適切で、ピラミッド的な音調だ。前述したようにK2は、鳴らすアンプをもの凄く選ぶスピーカーなのだが、いきなりK2をしっかりと駆動して、驚いた。MODEL 10×1台でも、K2を鳴らすに十分な再現能力があるのである。これはなかなか凄いことではないか。

音調は誠実で、余計な色付けをせず、ナチュラルで清々しい。清涼感があって、気持ちの良い音だ。ピアノなどの音像もシャープで、明確。

ZAIKAの845アンプでは、真空管らしい情緒感や色気を追求しているが、MODEL 10はどこまでもストレートに、楽曲の魅力をそのまま伝えてくれる。このアンプの持つ誠実さを感じる音だ。欲を言うと、低域の量感は十分なのだが、剛性感がもう少し欲しい。

普段使っている、ZAIKAの真空管アンプ「845プッシュプルアンプ」

2曲目は、今夏にUAレコード合同会社で発売予定の情家の新アルバム「ボヌール」から、一曲目「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」を聴く。1月にレコーディングした、出来たての2ミックスの音源(USBメモリー)をCD-Rに焼いたもの。今後正式なミックスを経て、UHQCDとして7月発売予定だ。

UAレコードの録音はテイク編集なしのすべてが一発録り、訂正や人工的残響などは一切加えない。つまり後加工せずに、演奏時のエモーションをそのままパッケージしている。前述の「チーク・トゥ・チーク」から約8年後の新譜であり、情家のジャズボーカリストとして成長を感じ、また、自分のレーベルなので手前味噌になるが、収録しているサウンド的にも圧倒的にクリアーな音になった。このラフミックス音源を、MODEL 10はどんな音で聴かせてくれるだろうか。

本作の音の特徴がMODEL 10×K2の組み合わせで、たいへん明瞭に分かる。表現力が増した情家のボーカルの濃い感情が実に細やかに表出されている。ベースも量感豊かでありながら同時にスピード感も持つという最新の本録音の特徴がよく再現されている。さらにピアノの語りが饒舌。プリメインアンプ1台とは思えない、実に豊かな表現ではないか。2台用意してもらったが、「2台目はいらないんじゃない?」と思ってしまうほどの完成度の高さだ。

3曲目は、ゲオルク・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるワーグナー「ニーベルングの指環」4部作から、第3幕「ワルキューレの騎行」SACD(1958年録音)。プレーヤーがCD12なので、CDレイヤーを聴くのだが、もとよりCD音源の情報量が非常に多い作品だ。

MODEL 10は、その情報量を実にリッチに引き出す。低音には、ドッシリと大地に足をついた安定感があり、その上に、トロンボーンの確信的な強い進行と、切れ味鋭い弦が重なる。60年代、特別な響きをもっていた時代のウィーン・フィルの馥郁たる香り、柔らかさ艶やかさ、熱き空気感がK2から直に伝わってきた。金管が勁く、しかも柔らかい。音場も広大で、録音会場のゾフィエンザールの天井の高さも聴き取れるほど。透明感、抜けも素晴らしい。ワルキューレの乙女たちの叫び声の金属質な質感も生々しい。

"K2をMODEL 10の色に染める"というわけではなく、K2ならではの剛力感、エッジ感と、MODEL 10が持つ端正で綿密な音調が、うまく融合している。迫力のみならず、階調や音色の豊かさなどが統合され、ワーグナー芸術を構成しているのがよく分かる。

4曲目は、イリーナ・メジューエワによるベートーヴェンの「ワルトシュタイン」CDの第1楽章。1925年製のニューヨーク・スタインウェイを、富山県の魚津市の新川文化ホールで弾いた作品だ。ベートーヴェンが持つ巨魁な迫力が再現されている。ピアノの左手が素早く打鍵するパッセージから始まる冒頭は低音の力と剛性感の合わせ技にて、まるで地の底で蠢くような、不気味さ。右手の高音との対比感が鮮烈だ。この楽曲は、力強いフレーズと優しいフレーズが交互のように出てくるのだが、優しいパートでは、階調がたいへんに細かく、粒立ちが緻密。1つ1つの音は尖っていないのに、情報量が多い。音色や音の強弱といった因子で、個別の音の個性を表現している。

最後に聴いたのは、1972年に当時最新の録音技術であったSQ方式4chステレオで録音された音源を、2ch SACDに再編した「岩井直溥指揮/ニュー・サウンズ・イン・ブラス」の「オブラディ・オブラダ」。ブラスバンドでポップスを演奏するということ自体が、当時としては珍しく、大変な人気だったそうだ。この録音には凄い音が入っている。f特(周波数特性)レンジもDレンジもたいへん広大で、とにかく音の体積が物凄く大きい。この音源のクオリティを、MODEL 10は見事に再生している。抜けがクリヤーで、高域の伸びも気持ち良い。「さすが、あえてハイエンドでプリメインアンプを作っただけはある」と感心した。

2台のMODEL 10を使ったコンプリート・バイアンプ・ドライブ

ハイエンドのプリメインとして、実に高い再現力を持つことは確認できた。では、これを2台組み合わせたらどうなるか。左右各チャンネルにひとつずつMODEL 10を使った"コンプリート・バイアンプ・ドライブ"で聴いてみよう。

2台のMODEL 10をケーブルで接続すると、ボリュームや入力切り替えなどの動作を連動できるようになる。最大4台(8チャンネル)まで連動可能な、「F.C.B.S.機能」を使う

なお、MODEL 10が2台では、パワーアンプが4ch分あるため、K2のウーファーとツイーターを個別アンプでドライブするダブル・ワイヤリングが可能だ。接続としてはそれが究極となるが、我が家のK2はトリプル・ワイヤリング。接続を変えるのが容易ではないので、今回の試聴では、2台のMODEL 10のそれぞれの片チャンネルのみの使用とする。

コンプリート・バイアンプ・ドライブの音、これは本当に凄い。

1台でも音場は広大だと感じたが、その奥行や、高さにさらに先の世界があった……という驚き。音楽の体積自体が大幅に増した。1台でドライブした時に、「チーク・トゥ・チーク」では、低音はしっかり出るものの、もう少し締まりが欲しいなと感じていたが、2台で駆動すると低音がよりリッチに、タイトになる。この曲の出だしのベースを2台で聴くと、低域のエッジがさらに締まり、その引き締まった低域の中に、はちきれんばかりの音の勢いと、綿密なディテールが存在することが分かる。

ヴォーカルも、違う。高域がさらに伸び、1階建てが2階建てになったような感覚。情家は語尾に濃密な表情を乗せるが、そのボキャブラリーが、より細やかに描写される。冒頭はHeaven,I'm in Heavenと「Heaven」が2回でてくるが、情家は1回目はやや粗く、2回目はすごくスィートな歌い方に変化をつけている。その表情の違いが、コンプリート・バイアンプ・ドライブではより明瞭に再現される。

新譜「ボヌール」の「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」も同様。チーク・トゥ・チークでピアノを弾いた山本剛が揺るがない安定感と表情の豊かさ、叙情感を聴かせたのに対して、ラバー・カムバック・トゥ・ミーでの後藤浩二のピアノは、ストレートでキレがある。そうしたピアニズムの違いが、より分かる。ベースもピチカートのスピード感と、地を這うような力強さ、量感がトリプルで、しっかり出ている。

ワーグナーの「ワルキューレの騎行」も、広がる音場と、そこに展開する音楽の体積がすごく増えたなあと感じる。天井も高くなり、金管楽器の抜けと、躍動感が素晴らしい。弦のグリッサンドの表情も、細かい。冷静さを失わない描写なのだが、その中に興奮を秘めている。

マランツの試聴室でB&W「801 D4」で聴いた時も、コンプリート・バイアンプ・ドライブにすると、音場感がさらに緻密になったのは実感したが、我が家のK2で聴いても、音場の見渡し感が透明になり、録音演出の精密さがより聴き取れる。ワルキューレの乙女の声も、透明感が増し、艶も乗り、質感がさらに向上した。金管の倍音も増えた。このように2台使いの効果は抜群といえよう。

ワルトシュタインもピアノの低音の左手が、さらに左に移動したのではと感じるほど、低音がより深くなり、右手の高音も、さらに右に移動したかのように、レンジが格段に広がった。弾けるスタッカートの躍動感も増し、カンタービレのしなやかさにも磨きがかかった。

メジューエワが弾いたニューヨーク・スタインウェイの美質もさらに濃密になった。ハンブルグ製のスタインウェイは、街中にホールがあるヨーロッパの伝統の中で作られたものだ。一方、アメリカにはホールが少なかったので、ニューヨーク製は屋外で演奏される事が多かった。そこで、ピアノの音が屋外でもより遠くまで飛ぶように、音量が大きく、瞬発力や敏捷さのあるハイスピード音に仕立てられた。そうした歴史的な特徴を、メジューエワが巧みに活用し、微小信号まで非常にダイナミックな表現を与えている。そのことがコンプリート・バイアンプ・ドライブではさらに分かる。

ニュー・サウンズ・イン・ブラスの音にも驚いた。色彩がよりカラフルになり、映像に例えると色域がBT.709からBT.2020になったような感覚。f特もDレンジも拡大。驚いたのは、途中に登場する木琴の音像が、後方に定位するように聴こえたこと。もともと4chで収録されたものを、2chでCD化した作品だから、最初から2ch収録されたものより、位相操作による臨場感が残っているのだろう。

まとめ

MODEL 10は、1台でもお釣りがくるほどK2をよく鳴らしていたが、2台になると、2倍以上の豊穣なる表現力が得られた。情報量がさらに増えたことで音の抜け感、表情、音場の描き方の次元が違った。価格的に手が出せるのであれば、ぜひ2台導入して、ハイエンドプリメインアンプの、新しい提案と、その音を体験することをお勧めしたい。

なお、これまであまりアピールされてこなかったが、コンプリート・バイアンプ・ドライブは、従来のマランツの上級プリメインアンプに搭載されてきた。将来、MODEL 10の技術を投入した下位モデルにも、コンプリート・バイアンプ・ドライブへの対応を期待したい。

ハイエンドのアンプでは、音色に色があったり、とにかく勢いで鳴らすような、個性の強い製品も、ある。そんな中で、MODEL 10は、性能の高いだけでなく、日本らしいハイエンドアンプとして、音楽に対して誠実に向き合って作られていることが、音から伝わってくる。まさしく名実共にジャパニーズアンプの頂点である。

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表