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ヤマハ、オルソダイナミック搭載ながら価格を抑え、チューニングも変えたヘッドフォン「YH-4000」
2025年9月10日 13:00
ヤマハは、独自の「オルソダイナミックドライバー」を搭載した開放型ヘッドフォンの新モデル「YH-4000」10月23日に発売する。価格は426,800円。既存のハイエンド「YH-5000SE」から音のチューニングを変えつつ、音質に関わらない部分でコストダウンを行ない、パッケージも最小構成とする事で価格を抑えた弟モデル。
ドライバーは、YH-5000SEに搭載しているものと同じで、ヘッドフォンの形状や基本的なデザインも共通している。YH-4000では新規開発フィルターを投入し、ハウジング内やドライバー内の吸音材を削除。イヤーパッドも新しいものに変更するなどして、音の傾向はYH-5000SEと異なるものになっている。
オルソダイナミックドライバーを搭載
搭載しているドライバーは、自社設計の平面磁界型ドライバー「オルソダイナミックドライバー」。口径は50mm。ヤマハは1976年に「HP-1」というヘッドフォンを開発しており、そのヘッドフォンに平面磁界型ドライバーを既に搭載していた。
当時の開発ノートを参考に、このヘッドフォンの中核技術であり、薄膜フィルムに金属コイルパターニングを施した振動板を平面駆動させる独自のドライバー技術を、最新のテクノロジーと融合させ、新たなドライバーとして再構築するプロジェクトを2019年頃からスタート。完成したものを、オルソダイナミックドライバーとしてYH-5000SEに搭載し、それがYH-4000にも採用されている。
平面の非常に薄い振動板を採用。フィルム両面に独自のコイルパターンでボイスコイルをエッチング(表面処理)し、微細コルゲーション(波上の表面凹凸)を付与。一般的なダイナミック型ドライバーに比べ、大幅に軽量で、優れた応答性能を持つ。
さらに振動板両面に、透過度の高い微細孔ダンパーを配置することで、振動板を適切に制動。外周以外に固定点を持たない真円形状になっており、膜全体の動きを阻害することなく濃密で抜けのよい低域表現も可能にしている。
YH-5000SEとYH-4000の違い
こうした生まれたオルソダイナミックドライバーの可能性を、YH-5000SEの1つに縛らず、より多くの人に楽しんでもらえるモデルとしてYH-4000が開発された。
YH-4000もYH-5000SEと同じオープン型だが、サウンドのチューニングは、YH-5000SEが細かな描写が得意で、情報量が豊富な傾向であるのに対して、YH-4000はより温かみのあるサウンドで、クローズドなサウンドステージの、情熱的で没入感のある体験を目指したものに変更されている。
YH-4000とYH-5000SEの違いとして、YH-5000SEは平畳織ステンレスを使ったフィルターを配置していたが、YH-4000では新規に開発した日本製PETメッシュフィルターを搭載。音の広がりを維持しつつ密度感のある中域とタイトな低域を実現している。
開発にあたっては、網目の細かさが異なる複数の候補を用意し、試聴を繰り返し、YH-4000で目指した音に最適な通気量のフィルターを選定したという。
また、ハウジング内の吸音材を削除。ドライバー内の吸音材も省かれている。
付属のイヤーパッドも変更。YH-5000SEにはレザーとスエードのイヤーパッドが付属し、変更する事で音の違いを楽しめたが、YH-4000では新たに「HEP-5000LS」というイヤーパッドを開発し、この1種類のみが付属する。
このイヤーパッドは、正面部分に質感の高いベロアを、外周部に柔軟性の高い合成レザーという、異種素材を組み合わせたもので、ベロア素材特有のウォーム感と、レザー素材の解像感を両立したという。さらに、全面にパンチング加工を施すことで、広がり感のある音になっている。
なお、新開発イヤーパッドHEP-5000LSは、YH-5000SEに使うことも可能。27,500円で単品販売もする。
筐体の基本的なデザインは共通だが、全体的に黒を基調としているYH-5000SEに対して、YH-4000は黒、銀、白基調を組み合わせており、ジャックベースも黄色から白色に変わっている。ヘッドアーム部分にシリアルナンバーは無く、モデル名のみが記されてているほか、ヒンジ部分のメッキ塗装も省かれている。
付属品もYH-4000はシンプルになっており、入力プラグが3.5mmステレオミニの2mアンバランスケーブルと、キャリングケースのみが付属。YH-5000SEは、4.4mmバランスケーブルやヘッドフォンスタンドが付属していたが、それらは付属していない。ケーブル自体も少しコストダウンしたものになっている。
再生周波数帯域は5Hz~70kHz、インピーダンスは34Ω。感度は97dB/mW。重量は約320g。
音を聴いてみる
細かな部分やイヤーパッドに違いはあるが、装着感はYH-5000SEとYH-4000でほぼ同じだ。逆に言えば、コストダウンしたモデルながら、高級感はYH-5000SEとほぼ同じレベルであり、YH-4000はコストパフォーマンスを高めたモデルとも言えるだろう。
チューニングが異なるものの、ドライバーはまったく同じであり、ハウジングも同じ開放型なので、「そんなに音は違わないのでは?」と思いながら試聴したが、驚くほどサウンドの傾向が違う。楽曲は「グレゴリー・ポーター/ホエン・ラブ・ワズ・キング」や、「上原ひろみ/ドリーマー」などを聴いた。
まず、YH-4000の付属ケーブルがステレオミニのアンバランスなので、YH-5000SEもアンバランスケーブルで聴いた後で、YH-4000に切り替えたが、YH-5000SEがシャープで高解像度、どちらかというと硬質なサウンドであるのに対して、YH-4000は低音が厚めで、高音もすこしウォームで味わい深いサウンドになっている。
人の声で比べても、少し乾いた声であるYH-5000SEに対して、YH-4000の方が湿度が感じられる。
音場の広がりも、とにかく開放的で響きが遠くへ広がるYH-5000SEに対し、YH-4000は空間が少し狭く、空間の熱気が感じられる。クールで分析的なYH-5000SEに対し、YH-4000はエモーショナルな美味しいサウンドになっている。
低域の量感もYH-4000の方が音圧豊かで、パワフルに聴こえる。その一方で、低域の分解能はYH-5000SEの方が優れ、シャープでハイスピードに聴こえる。
ただし、これはアンバランスケーブルで聴き比べた場合であり、また、付属するアンバランスケーブルのクオリティもYH-5000SEとYH-4000で異なっている。
試しに、YH-5000SEに付属しているハイグレードなバランスケーブルを使い、YH-4000とYH-5000SEで聴き比べると、YH-4000で弱いと感じられた空間の広がりや、低域の分解能の高さは、YH-5000SEにかなり近づく。
つまり、YH-5000SEに肉薄する情報量の多さがありつつ、エモーショナルなサウンドに変化する。YH-4000の実力を全て引き出して聴くためには、別途バランスケーブルを用意したほうが良いだろう。