トピック
ニコンはREDとのシナジーで生まれた「ZR」がイチオシ。動画用カメラの選び方とおすすめレンズを聞いた
2025年10月30日 08:00
「動画撮影を意識してミラーレスカメラを選んでみたい」というニーズが増えている昨今。しかし、何を買えばいいのか、どう選べばいいのか、なかなか難しい。大きいカメラのほうが何でもできそうだが、使いこなせないのではないか。小さいカメラは発熱ですぐに止まってしまうのではないか……などなど、動画撮影以前の悩みが尽きない。
そこで、そうしたカメラの企画・開発を行っているメーカーに直接聞いてみようというのが本稿の主旨。今回は、REDとのシナジーにより生まれたZ CINEMAシリーズの最新カメラ「ZR」(10月24日発売)に注目が集まるニコンに話を聞いた。
今回登場するカメラとレンズは以下の通り。
- ZR ボディ単体直販299,200円
- V-RAPTOR [X] Z Mount ボディ単体6,340,400円
- KOMODO-X Z Mount ボディ単体1,521,300円
【Z CINEMA】
- Z9 ボディ単体直販772,200円
- Z8 ボディ単体直販599,500円
- Z6III ボディ単体直販396,000円
- Zf ボディ単体直販299,200円
- Z50II ボディ単体直販145,200円
【Zシリーズ】
- NIKKOR Z 28mm f/2.8 直販36,300円
- NIKKOR Z 35mm f/1.4 直販104,500円
- NIKKOR Z 40mm f/2 直販36,300円
- NIKKOR Z 50mm f/1.4 直販81,400円
- NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ 直販368,500円
- NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR 直販277,200円
【NIKKOR Z】
- NIKKOR Z 20mm f/1.8 S 直販157,300円
- NIKKOR Z 85mm f/1.8 S 直販118,800円
- NIKKOR Z 24-70mm f/4 S 直販134,750円
- NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II 直販371,800円
【NIKKOR Z S-Line】
おすすめは今ホットな「ZR」。REDとのシナジーを発揮
——これからミラーレスカメラで動画を撮りたい人に、オススメの1台を教えてください。
加藤:将来的に本格的な映像制作を目指すのであれば「ZR」(直販29.9万円。ボディのみ。以下同)がおすすめです。ニコンとREDの技術を融合したシネマ向けの製品である「Z CINEMA」シリーズに属するフルサイズセンサー搭載機です。本格的なシネマカメラのようにアクセサリーを組み合わせなくても撮影できるオールインワンのカメラです。
ZRは、ワンオペや少人数で動画制作を手がけるクリエイター、プロダクションに所属していてコーポレートコンテンツやミュージックビデオ、クライアントワークなど幅広い映像制作を1台で始めたい場合に向きます。ユーザーの成長に合わせて長く使ってもらえる懐の深いカメラになっています。
例えば、RED「KOMODO-X」のような機種では撮影時に外付けモニターが必要ですから、機材が大掛かりになります。ZRは4インチの大型モニターが内蔵されていますし、音割れ対策の32bitフロート録音にも内蔵機能で対応しています。
——ニコンのカメラを動画目線でカテゴリー分けすると、どうなりますか?
櫻井:2つに分けられます。1つめはZシリーズです。FX(35mmフルサイズ)の「Z9」(直販77.2万円)や「Z6III」(直販39.6万円)、ヘリテージデザインの「Zf」(直販29.9万円)、DX(APS-C)の「Z50II」(直販14.5万円)など幅広いラインナップがあり、これらは静止画と動画の両方を撮りたい方向けのハイブリッドなミラーレスカメラです。
2つめはZ CINEMAシリーズです。REDのシネマカメラ「V-RAPTOR[X]」(約634万円)、「V-RAPTOR XE」(約266万円)および「KOMODO-X」(約152万円)のZマウント版と、ニコンのZRがここに含まれます。REDとの融合によってハイエンド・プロダクションまで想定した、かなり“動画寄り”のシリーズになっています。
——動画撮影を目的に2台目のサブカメラを選ぶとき、ニコンならどんな機種がオススメですか?
加藤:やはり今はZRです。高性能なAFや手ブレ補正機構も搭載しており、入門向けから上級向けの機能までカバーしています。1台目に何を選ばれ、2台目に何を求めるかにもよりますが、仮に1台目がZ9のようなZシリーズ上級機だったとしても、より本格的な動画機能を搭載し、機材が軽量になるというメリットが得られます。
ちなみにZRには静止画撮影の機能も付いておりまして、Z6IIIからメカシャッターを外したぐらいのイメージで十分にお使いいただけます。
——ZRがボディ単体で30万円を切る価格は話題となりましたが、やはり戦略的な価格設定なのでしょうか?
加藤:多くの方に動画のより深い表現を楽しんでいただくためにこの価格設定にしています。価格以上の機能が備わっていますので、これを機にZ CINEMAシリーズをより多くの方にお使いいただきたいです。
「ZR」はREDのカメラとどう違う?
——REDとの共同開発で、どのような強みが得られましたか?
加藤:Z CINEMAは、REDの製品群とともに2025年2月に立ち上げました。REDと技術を融合させたシネマ向けの製品シリーズです。
RED機はシネマ業界向けに特化した機能や使い勝手を持っています。一方、Z CINEMAの中でもニコンが作ったZRでは、一部にREDのカラーサイエンスなどを反映したコーデックを取り入れています。REDが長年築き、業界内でもワークフローが確立されているものがニコンのカメラと融合して、ZRで第一弾として使えるようになりました。2種類のベースISO感度を採用するISO制御方式のような、今までのニコン機になかった部分も搭載しています。
REDのカラーサイエンスを搭載しているということは、REDのカメラと同じワークフローに組み込んだ時に“ポストプロダクションでの色合わせに苦労しない”というのが売りです。
それだけではなく、映像表現の入門者向けとして、プリセット的に選んで使える「シネマティックモード」や、「スローモーション動画」の機能も用意しています。ユーザーの力量に応じて長くお使いいただくための工夫です。
古川:Z CINEMAの機種として、REDのRAW規格「R3D」をニコン版とした「R3D NE」コーデックを搭載しつつ、より幅広い方に使っていただくには、ハイエンドだけでなく、初心者や中級社向けの中間的な選択肢も重要だと考えました。カメラ内のシネマティックモードや、Z6IIIにも搭載している「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」も、“自分の表現”をカメラ内の機能で作れるように意識したものでした。その後のステップとして搭載したのがR3D NEです。ハイエンドを意識した仕様を搭載しても、そこにユーザーの発展が繋がっていかなければ意味がないと考え、関連機能を充実させました。
私は「D90」(※初めて動画機能を搭載したデジタル一眼レフカメラ。2008年発売)から担当していましたが、まさかあのREDと一緒になるとは想像もしていませんでした。ミラーレスカメラを開発していく中では、いつかREDのような業務用動画機に匹敵する性能やクオリティを実現したいと考えており、そのために8K動画記録や熱対策に取り組み、Z9やZ8に結実しました。
目指していた相手であるREDと共に仕事ができることには、非常に意義深く、刺激的な挑戦だと感じました。お互いの強みを融合させ、新たな価値を生み出すことに取り組んだのがZ CINEMAシリーズです。
加藤:Z CINEMAでも、REDのV-RAPTOR[X]のようなシネマカメラとニコンのZRで大きく違うのは、例えば起動時間です。ZRは一般的なデジタルカメラと同じように1秒未満で撮影可能な状態になり、静止画・動画のモード切り替えも一瞬です。しかし、REDのシネマカメラは起動に30秒ほど掛かりますから、それと比べれば圧倒的に軽快で、撮りたい瞬間を狙えます。
ZRは機動性重視でコンパクトですから、全ての機能に物理ボタンを用意できているわけではありません。その代わり、タッチパネルも活用して使いやすくデザインしています。例えば撮影画面の右下にあるボタンを押すと、撮影アシスト系の機能を呼び出すショートカットになっています。
おすすめレンズや、使い勝手のこだわりポイント
——動画向けのおすすめレンズはありますか?
櫻井:エントリーユーザーの方でしたら、まずは「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」(直販13.4万円)をおすすめします。ZRのキットレンズにもなっており、標準的な画角とF値固定のズームレンズであるのが特徴です。普段使いから多くのシーンでお使いいただけます。
また、ボケを生かした撮影を楽しみたいのであれば、大口径の単焦点レンズ「NIKKOR Z 40mm f/2」(直販3.6万円)がコンパクトでお求めになりやすい価格です。「NIKKOR Z 28mm f/2.8」(直販3.6万円)も同じくコンパクトで手頃です。
より大きなボケを求めるのであれは、「NIKKOR Z 35mm f/1.4」(直販10.4万円)や「NIKKOR Z 50mm f/1.4」(直販8.1万円)もおすすめです。いずれも、レンズのAF動作音がマイクに収録されにくく、動画撮影にも向くレンズです。
加藤:もうワンランク上の映像表現を求め、本格的なジンバルワークや手持ち撮影を想定するのでしたら、S-Lineの単焦点F1.8シリーズにもご注目ください。超広角の「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」(直販15.7万円)から中望遠の「NIKKOR Z 85mm f/1.8 S」(直販11.8万円)まで5本を揃え、各レンズの重心や長さが大きく変わらないシリーズとして構成しています。
撮影中にレンズを交換しにくいシチュエーションでしたら「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」(直販37.1万円)をおすすめします。より動画にオプティマイズされている製品です。さらに高いズーム比を求めるのでしたら「NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ」(直販36.8万円)を用意しています。こちらは“PZ”とある通りパワーズームに対応しており、より動画撮影時の操作性に特化したレンズです。
古川:NIKKOR Zレンズは超望遠や望遠ズームレンズも豊富にラインナップしており、その一例が「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」(直販27.7万円)です。
ZRというよりは、しっかりとしたグリップを持つZ8やZ6IIIと組み合わせた方が使いやすいレンズですので、静止画の作品撮りの延長として、動画にもぜひ挑戦してみてください。静止画とほぼ変わらないAF性能を活かして、スポーツや動物の動画撮影に取り組んでみてはいかがでしょうか。
また、VR(手ブレ補正)をSPORTモードに設定したり、eVR(電子手ブレ補正)を併用すれば、手持ち撮影もより安定して行なえます。
——ニコンのミラーレスカメラの動画機能は、どれぐらい動画リテラシーのある人を想定していますか?
櫻井:機種ごとに想定しているユーザーレベルがあります。ZシリーズでもフラッグシップのZ9やZ8は本格的ですし、手頃なZ50IIやZ30ではカメラ自体を初めて手にする方も多いと想定して、わかりやすさを意識しています。例えばモードダイヤルの「AUTO」に合わせて撮影ボタンを押していただくだけで、最適な設定で間違いのない動画撮影を楽しんでいただけます。
古川:上級機においては、オートフォーカスや被写体検出の性能が大幅に向上しており、その技術はZ5IIやZ50IIなどの比較的手頃なモデルにも搭載されています。これにより、従来必要だったカメラ設定や撮影技術を駆使しなくても、被写体の検出から追尾まで全てカメラが自動で行ない、浅い被写界深度を生かした印象的な映像を「カメラ任せ」で撮影できるようになっています。
加藤:入門者向けという点では、カメラの設定を意識していなくても撮影が成功するように意識しています。画作りの面では静止画カメラから続く「ピクチャーコントロール」もありますし、シネマ的な表現を試してみたい場合は「シネマティックモード」を選んでいただければ、動画撮影の知識がなくても楽しんでいただけるよう、ふさわしい設定をプリセットしています。
——他に動画撮影に関するこだわりポイントはありますか? また、今後の展開について発表していることはありますか?
加藤:ZRに関しては、背面のコマンドダイヤルがカチカチと音を立てないように設計しています。また、録画(シャッター)ボタン同軸のズームレバーは、カメラをウエストレベルで構えても親指で操作できるよう、形状を工夫しています。
古川:ズームレバーも、操作のしやすさを追求した設計の一部です。人差し指と親指のどちらで操作しても快適に使えるように、指掛かりの凸量や形状については何度も議論や試作を重ねてきました。
これは、長年にわたりニコンが大切にしてきた「体の一部のように自然でストレスのない使い心地」を追求したものであり、そのような「カメラづくりの哲学」はZ CINEMAにも引き継がれています。
加藤:9月12日から15日でオランダのアムステルダムで開催された展示会「IBC2025」では、ニコンのシネマ用レンズを予告しました。現状では、シルエットだけが公開されています。そういった方面への広がりにも、今後はご期待いただきたいです。
——最後に、皆さんそれぞれのおすすめ機種と使い方を教えてください。
加藤:オールインワンで撮れるZRにご注目ください。Z CINEMAでもREDのV-RAPTOR[X]のような機種はなかなか手にする機会が少ないと思うので、フィルムスクールに通っている学生さんや、本格的に学びたい人には特におすすめです。
櫻井:私からはZ5IIをおすすめしたいです。これから動画を始めたいと考える方には、CFexpress Type-Bという新たな記録メディアを用意するハードルもあるかと思います。Z5IIはSDカード2枚が使えますので、抵抗なく手にしていただける方が多そうです。かつ動画RAWの内部記録にも対応していますから、入門から長くお使いいただける1台でもあります。
古川:静止画も動画も積極的に楽しみたい方には、見やすい電子ビューファインダーや握りやすい深いグリップを備えたZ8やZ6IIIがおすすめです。これらのカメラでもZRと同様に、4Kを超える高解像度映像や8K動画の記録が可能です(Z8は8K撮影に対応)。お気に入りのZレンズと組み合わせて、静止画や動画だけでなく、タイムラプスやスローモーションといった多彩な表現も楽しめます。さまざまな撮影スタイルに挑戦して、撮影の幅を広げてみてはいかがでしょうか。
まとめ:各機種ごとに用意された、動画スキルの“登山ルート”
ニュースメディア的な観点では、2025年9月10日という同じ日にニコンからは「ZR」、キヤノンからは「EOS C50」と、いずれも35mmフルサイズセンサーを搭載する動画特化のミラーレスカメラが発表された。これまではソニー「FX3」の一強と言われていた分野に強力なライバルが登場した格好だ。
そこでZRが興味深かったのは、REDのRAWコーデックをベースとした「R3D NE」を搭載したことで、RED機と同等のカラーサイエンスを採用していることをアピールしている点。既存のREDワークフローに組み込みやすいハンディ機材であることももちろん、“ニコン ZRで入門すれば、そこで学んだことを将来的にREDのシネマカメラにも応用できる”という道筋が見えてくる。カメラ単体での使いやすさや高画質を謳うだけでなく、シネマカメラという映像制作のテッペンに向かう登山ルートまで示しているようなところが新しいと感じた。
一方、エントリーユーザー向けには「モードダイヤルのAUTOが有効であること」、そしてスチルメインのユーザーには「静止画の感覚でそのまま動画を撮ってみることができる」というヒントもあった。写真のついでに動画を撮らねばならない人、仕事のスキルとして動画を学んでいきたい人など、動画撮影に対する向き合い方は多様化している。そんな世相を反映し、メーカーとしても多様な登山口を提供していることを実感する機会となった。





















