レビュー

狭い机の上に置けるスピーカーを探せ!Polk Audio「ES10」、YAMAHA「NS-B700」を試す

デスクトップオーディオのスピーカー、置く場所ない問題。

オーディオをお勧めする仕事をしている筆者は、日ごろより様々な製品を体験しては記事を発信しているが、「そうはいっても、置けないから」という感想には共感できる。筆者の机の上も、広くないからだ。

デスクトップオーディオでスピーカーを置くにあたって、ハードルとなる要素はなんだろうか。ケーブル配線や電源の問題などは工夫次第で解決できる反面、置くスペースについては如何ともしがたいという人は少なくない。

スピーカーの寸法は、幅、高さ、奥行きの三要素からなる。気になるのは、幅と奥行きだ。幅の大きいスピーカーは圧迫感があるし、物理的にデスクに置けないこともある。奥行きも重要な要素だ。試聴ポイントからの距離、背面の壁からの距離、バスレフポートが前か後ろか。これらを総合的に考慮して、奥行きも念入りにチェックしたい。

ここ数年でデスクトップオーディオにハマってきた筆者。さらなる魅力的なサウンドを求めて薄型パッシブスピーカーを試したい欲求がふつふつと芽生えてきた。薄型――もっと言えば、奥行きが短くて、幅もコンパクトなスピーカーだ。お店ではなかなか試聴できない、コンパクトで手頃なスピーカーを本記事では取り上げることにした。

左からPolk Audio「ES10」、YAMAHAの「NS-B700」

奥行きの短いスピーカーを探す

あらかじめ、普段、筆者が使用しているスピーカー「Control 1 PRO」を紹介しておこう。2007年にJBLから発売されたプロ向けの製品であり、主に店舗のBGM用として人気のモデル。19mmツイーターと133mmのウーファーを備えたキャビネットは、幅152mm、高さ232mm、奥行き143mmとコンパクト。重さは2.3kgと軽量だ。

筆者が使用しているスピーカー「Control 1 PRO」

サイズとフロントバスレフに惹かれて購入したら、モニターライクな癖のないサウンドが期待を超えていい感じ。デスクに置く初めてのパッシブスピーカーとしてお手頃価格だったのも思い出深い。気に入ってはいるのだが、「他のスピーカーも試してみたい」という欲求が湧き上がってきた。

コンパクトスピーカーの候補は2機種に絞った。Polk Audioの「SIGNATURE ELITE」シリーズから最小サイズの「ES10」(ペア37,400円)と、YAMAHAのサラウンド/プレゼンススピーカー用に最適と謳われた「NS-B700(BP/ピアノブラック)」(1台34,100円)だ。

左からPolk Audio「ES10」、YAMAHAの「NS-B700」

この2機種を選んだ理由は、本当に申し訳ないことに、“奥行きの短さ”だ。ブランドへの信頼感や筆者の興味は多分にあるのだが、いかんせん設置場所の条件がシビアすぎた。現状を踏まえると、奥行き17cm、幅15cm程度が限界なのだ。周りの他の家具を考慮すると、机の移動はできない。また、スピーカー背面の壁との距離が取れないことから、フロントバスレフか密閉型を探したところ、想像を超えて選択肢が狭まった。

筆者のデスクでは、設置できるスピーカーは奥行き17cm、幅15cm程度が限界

PC周辺機器の小型アクティブスピーカーも良質な製品があるから、アクティブ型というチョイスもなくはない。ただ、筆者の場合、アンプやDACを組み合わせる楽しみをデスクでもやりたいという気持ちがあって、現時点ではパッシブタイプを常用している次第だ。

Polk Audioの「ES10」

今回チョイスしたスピーカーの概要をさらう。

Polk Audio「ES10」

Polk Audioの「ES10」は、同社のミドルクラスのシリーズで最も小型のブックシェルフスピーカー。ツイーターは40kHzまでの帯域をカバーする「テリレン・ドーム・ツイーター」(2.5cm)、ウーファーは「ダイナミック・バランス・ポリプロピレン・ドライバー」(10cm)をそれぞれ採用。

本機を選んだ一番の理由は、137×158×213mm(幅×奥行き×高さ)というコンパクトさもさることながら、独特な設計のバスレフポートにあった。Polk Audioの特許技術「パワーポート」テクノロジーは、綿密に設計されたその形状によって、ポートを出入りする空気の流れをスムーズにし、一般的なバスレフポートよりも低音の歪みや空気の乱流を抑えることができるという。

独特な設計のバスレフポート「パワーポート」

また、開口部の面積を拡張することにより、一般的なバスレフポートに比べて約3dBも出力を向上させた。このパワーポートは、フロア型では底面に付いていて、床に向かってエアーが拡散されていく構造になっている。

対するブックシェルフであるES10では、エアーが当たって四方に拡散する壁を、まるでリュックを背負うかのような構造で背面に実装しているのだ。これにより、リアバスレフ型でありながら、背面の壁までの距離を気にしなくて済む。

その他の主なスペックは、再生周波数帯域が78Hz~40kHz。インピーダンスは4Ω。重量は2.7kg/1台。

YAMAHA「NS-B700」

YAMAHA「NS-B700」

YAMAHAの「NS-B700」は、おそらく存在自体を知らなかったという方もいるだろう。実際、筆者も今回のリサーチで初めて認知したが、展示されている店舗も少なく、筆者の近隣では新宿の2店舗でやっと現物を見たくらいだ。

ホームシアターのリアスピーカーとしてラインナップされている製品。つまりはサラウンド用であるため、フロント2chステレオの音を確かめるのが難しいモデルでもある。ただ、外形寸法150×154×270mm(幅×奥行き×高さ)と、薄型なのが特徴。デスクトップで使えそうだと目をつけたわけだ。

奥行き154mmと薄型だ

なんでもメーカーによるとNS-B700は、発売から15年経った今も継続して売れ続けているベストセラーだという。この薄型ボディが影響しているのだろうが、その他にも売れる理由があるはず。レビューの中で確かめていきたい。

ユニットは、定評のあるA-PMD(Advanced Polymer Injected Mica Diaphragm)振動板を採用した10cmウーファーと100kHz(-30dB)までの高域再生に対応したDC-ダイヤフラム方式ドームツイーターによる2ウェイ構成。

A-PMD振動板の10cmウーファー
DC-ダイヤフラム方式ドームツイーター

キャビネットは、ヤマハ伝統の「総三方留め構造」を採用し、不要共振を抑え剛性を高めた。また、伝統的な「曲げ練り」の技法を用いた天面のラウンドフォルムと、内部の平行面を少なくしたことによって、内部定在波やキャビネット表面の回折現象を抑えたという。

その他の主なスペックは、再生周波数帯域が65Hz~50kHz(-10dB)。インピーダンスは6Ω。質量は3.5kg/1台。

Polk Audio「ES10」

まずは、ES10からテストしていく。Control 1 PROを机からどかして、ES10を設置。スピーカーケーブルを結線するとき、後ろのスペースが狭いと作業がとてもやりづらい。スピーカーの奥行きを棚板と同じ20cmギリギリにできない理由はこの辺りにもある。組み合わせるパワーアンプはFX-1001Jx2、USB-DACはSWD-DA15だ。

ES10を設置したところ
パワーアンプはFX-1001Jx2

ES10のカラバリは、ブラウン/ブラック/ホワイトと3種類あるが、今回はブラウン。机の木目の柄と親和性があって、振動板の淡い金色はアクセントになっている。

映像と音楽と聴いてみて、「個性派スピーカー」というのが筆者の正直な思いだ。個々の音像の存在感が際立っており、前後感や広がりがスピーカーのサイズを超えている。低域はサイズ相応で、中域は芳醇、高域にややピークがあって煌びやか。はてさて、アメリカンなサウンドで気持ちよくなれる音楽はどれなのか。

最初は映像コンテンツから。今期放送中のSPY×FAMILY第3期から「MISSION:38」をABEMAで視聴。TV放送版で一度見ているはずなのに、思わずフルで見てしまった。

効果音、音楽、台詞の分離が良好だ。キャラクターの台詞は、数kHzの小さなピークが子音を強調しているように感じられて、喋ってる内容が聞き取りやすい。ミッドが盛り気味なため、少し太めの声に感じるが、低域の無理な増強はない。

BGMや効果音は、音像が強調されてグッと前に出てくる描き方だ。ハードFX(シャキーンみたいな電子音)は特に主張が強く「私、鳴ってます!」と言われているかのよう。音像のクリアさはもう一歩上を求めたい。輪郭の周りに少し膨張を感じる。

自身が総合プロデュースで関わっているBeagle Kickの楽曲、「SUPER GENOME」。384kHz/32bit整数の精細な表現はどう鳴らすか。

楽器やシンセは、音像のエッジが強調される印象。シンセの音に包まれる感覚は、サイズを超えていて、このデスクで聴いた記憶がないほど。ただ、前後の描き方は、演出されている感があると思った。個々のシンセの音が「私、ここにいるよ!」って主張している。リマスタリング版で前後感が変わる感覚に近い。

ラブライブ!スーパースターから第2期の主題歌「WE WILL!!」。とても快活なサウンド。楽曲全体のゴーシャスさがアップしていて、このスピーカーの演出具合とも相性は悪くない。また、疾走感のあるアニソンのスピード感にもしっかり追従している。

では、ゆったりした楽曲はどうか。熱帯JAZZ楽団XVIII ~25th Anniversary~より「LA VERDAD」。煌びやかな音色感は、ビックバンド、特に管楽器類が合うか。

音はサイズを超えて左右に広がってくれるので、小型スピーカーでもスケール感の不足はまったくない。高域の個性も手伝って、打楽器やドラムの金物系は耳にサクサクと入ってくる。

男性ボーカルも聴いてみる。西川貴教「HEROES」。ピアノや序盤のストリングスの広がりと浮遊感は、やや演出が効きすぎているが、楽曲の雰囲気は高めている。中低域を無理に増強していないため、シンセやボーカルが余裕を持って鳴っているようだ。

ベースとバスドラの量感はもう少し感じたいが、サイズも考えれば健闘している。シンセとバンドセクションの描き分けはとても高レベルなものの、やや演出掛かっている気がする。音の密度が高い現代的なPOPSでは、刺激マシマシで聴いた方が気持ちよくなれると思うので、普段聴く音楽と好みにハマればアリだろう。

この他にも色々と聴いてみて、割と派手めな音というのが筆者の率直な印象だった。この個性を活かす音楽の中で、特に打ち込みの割合が高いフュージョンは相性がよかった。

鍵盤ハーモニカ奏者、服部暁典のアルバムa Point of Lifeより「Astra」。シンセ中心の生演奏も含まれたフュージョンは、派手めな音で鳴っても気持ちよく聴ける。

ミックスで作られた前後感が強調されて、シンセのリズムトラックもこれでもかと目立つ音で鳴っている。それでいて、メインの鍵盤ハーモニカは、曲の主役としてセンターにしっかり存在していて安心感があった。

YAMAHA「NS-700B」

続いて、2台目の気になるスピーカーは、YAMAHAのNS-700B。密閉型でサラウンド/プレゼンス用という触れ込みだが、ステレオのフロントチャンネルに使ったらどうなるのか。

YAMAHA「NS-700B」を設置

例によって、映像と音楽で試してみたが、音像はクリアかつ写実的に描く高解像度タイプだ。高域がややブライトながら、他に目立った癖はなく、低域は密閉型らしいタイトさで淀みもない。

ピアノフィニッシュ仕上げの恩恵は、独特な響きに現れており、エレガント&浸透度の高いサウンドを提供してくれた。ローの量感や力強さは、容積を稼がない薄型キャビネットと小口径ウーファーな特徴も相まって、物足りなさは感じた。

映像ソースは、同じくABEMAでSPY×FAMILYから「MISSION:38」。SE、BGM、台詞、すべてが高解像で、音像の輪郭もクッキリと描いてくれる。分離がよく、劇伴と台詞はそれぞれの存在感が抜群なのに、相互に邪魔し合うことは決してない。

台詞のディテール評言は極めてクリアで、お芝居の繊細なニュアンスや感情の揺れ動きまで高いリアリティで伝えてくれた。高域はややブライトだが、刺激的ではなく耳に痛くはない。密閉型のお陰でバスレフ由来のエアー感は無く、低域はクリアでフォーカスもピシッと決まっている。

終盤の爆撃シーンは、吹き飛ぶ破片の一つ一つが存在感抜群。破片の音と爆風が両立していて、自然と各要素が際立っている。一方、低域の量感は物足りないため、アクションメインの作品だと迫力不足はありそう。

音楽ソースも聴いていく。きみのね「レイドバックジャーニー」。左に定位するバイオリンの胴体の響きを知覚できてハッとする。弦自身の実在感と胴体の響き、それぞれがあまりに生々しくてゾワッとした。シンセの音の粒子もきめ細かく、ピコピコとノリの良さも底上げしている。ボーカルの語尾は、一瞬のブレス感まで逃さず鳴らしきる。

密閉型ということもあってか、低音の量感はControl 1 PROに比べても物足りない感じは否めない。ただ、クリアでタイトなベーストラックはこのデスクで味わったことのない感動を覚えた。一長一短で、どちらがいいとは言及しにくく、もはや好みで選ぶ領域かもしれない。

Beagle Kickのピアノジャズバラード「UTAKATA」。ピアノのメロディーが立ち上がるときのエレガントさと言ったら、もう! ベーゼンドルファーImperialの音色がどこまでも高貴だったレコーディングの時間を思い出させてくれる。左にいる和泉氏のエレキギターも実にムーディー。解像度が高く、余韻の濁りも感じられない。演奏そのものに自然と集中できる。

激しめのインストとして、ゼノブレイド3 オリジナル・サウンドトラックより「Keves Battle」。戦闘曲ならではのテンポの速さ、リズムの瞬発力といった要素は、きっちり表現できていると感じる。ローも曇りなく、ひたすらにクリア。

バンドものとしてヨルシカの「晴る」を聴いてみると、開放感やスカッとするような疾走感は味わえる反面、中低域のエネルギッシュさはもう少しほしい。バトル曲も同じ感想を抱いたが、音量を上げても大きな変化はなく、いずれうるさくなってしまう。

ちなみにFX-1001Jx2は、DALIの「KUPID」も試しており、決して低音が出ないアンプではない。

そして、何を聴いても共通しているのが “ピアノフィニッシュ仕上げによる響きと質感”の付与だ。これは本当に素晴らしかった。ピアノメーカーのYAMAHAならではだろう。

ゼノブレイド3より「Where We Belong」では、ストリングスが適度な気品をまとうし、アコースティックピアノの存在感はアップする。Qobuzから飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ2024より「モーツァルト: 歌劇「魔笛」 K. 620 – 序曲」は、会場の響きが麗しいほどに美しく、なんだか部屋着でのんびり聴いているのが申し訳なくなってくる。サウンドステージの透明感は高く、広さや奥行きを正確に描いていることも特筆したい。

反面、牛尾憲輔の「水金地火木土天アーメン」を再生すると、本来は電気の音を浴びたいシンセサウンドにエレガントさが乗ってくるので、純粋なソースの音を聴かせて欲しいと思うこともあった。

デスクトップスピーカー探しの旅は続く……

ということで、ES10とNS-B700、筆者のデスクでも設置できる極薄スピーカーを2機種試してきた。Control 1 PROも改めて優れたスピーカーであることを実感したが、空間の透明感や解像度の面では、さらに上の選択肢があることを確かめられたのは暁光である。

「デスクにも置ける小型パッシブスピーカー」を試す本企画。実のところ、試してみて、買い換えも決めてしまおうくらいの意気込みなのだが、奥行き17cmの幅15cmという厳しい条件では、「まんべんなくあらゆる要素が文句なし」という結果にはならなかった。

しかし、その厳しい設置スペース制限の中でも、Polk AudioとYAMAHAという2つのブランド、それぞれの個性を発揮した、ユニークなスピーカーを体験できたのは予想外の収穫だったと思う。

Polk Audioは、デジタルサウンドや現代的なPOPSなどの音楽はもちろん、ゲームや映像コンテンツなどのエンタメを、適度な刺激も込みで楽しみたい方にピッタリ。

YAMAHAは、サラウンドスピーカーに適した正確かつリアルなサウンドと薄型コンパクトさを両立している。それらをデスクのステレオ再生に使っても、音楽のジャンルを選ばず、楽しませるポテンシャルを持っていた。何度か言及した低域の量感については、住環境などの事情でむしろ「豊かに鳴ってもらっては困る」という方にはお勧めだ。タイトでクリア、淀みのないローは、本当に素晴らしかった。

省スペースで置けるスピーカーといっても、個性や方向性は様々である。お店で聴ける機会は少ないと思うが、ぜひ読者の方も関心を持っていただけたら幸いだ。

私は今回の試聴を経て、「アクティブスピーカーにもまだ見ぬ世界が広がっているのではないか」と探究心が芽生え始めている。省スペースオーディオ、まだまだ面白さの種は尽きなさそうだ。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site