ヤマハ、薄さ1.5mmの「TLFスピーカー」を12月に発売

-“音響看板”向け。遠くまで、ささやくような音声


TLFスピーカーの利用例。布製のポスターにも見えるが、ここから音が聴こえる

 ヤマハは、「サウンドサイネージ」の第1弾製品「TLFスピーカー」を12月に発売する。サンプル出荷は10月上旬より行ない、サンプル価格は105,000円。

 同社は、ディスプレイやプロジェクタに情報を表示するデジタルサイネージ(電子看板)と同様に、平面のスピーカーで情報を提供する「サウンドサイネージ」(音響看板)を提唱。

 10月よりサンプル出荷される「TLFスピーカー」(Thin-Light-Flexible Speaker)は、早稲田大学 山崎芳男教授の基本アイディアを元にヤマハが独自開発した薄型・軽量の静電スピーカー。A0サイズまたはB1サイズのスピーカーとアンプモジュールのセットで業務向けに販売される。印刷情報などを載せた表面カバーは別途必要。サンプル出荷の予定数は100セット。

 スピーカー自体が布のようなフレキシブルな構造で、印刷した表面カバーなどで覆うことにより、視覚情報と同時に音声で情報を提供できる。消費電力は2Wで、省エネ性にも優れている。同社は今後、印刷業界、販促業界やコンテンツプロバイダと協力しながら、サウンドサイネージのビジネス推進を図る。

側面から見たところTLFスピーカーの本体アンプ部

 薄さ約1.5mmの平面スピーカーから、指向性の高い音声を出力。スピーカーのほぼ正面方向のみに音を出すことができ、離れた場所でも明瞭に聴き取ることが可能。周囲に音をまき散らさず、高い訴求効果が得られるという。また、複数台の同時利用にも対応し、アンプ/スピーカーを最大各20台連結可能。そのほか、複数台を利用して、それぞれ別の音を再生するといった使い方もできる。なお、防水対応ではないため、設置は屋内を想定。メーカー保証の耐用期間は1年。

 音の特徴としては、一般的なダイナミック型スピーカーが球面状に音を放出するのに対し、TLFスピーカーは平面波として放出されるため、平面の看板として利用した場合は一定距離まで離れても明瞭さが保たれ、「頭の近くでささやかれているような感覚で聴こえる」としている。

 看板として利用する際は外側に印刷物などの表面カバーを掛けることになるが、カバー素材としては、音を遮断しにくい布が最も適しているという。なお、紙やフィルムのような素材も表面カバーとして利用可能。

TLFスピーカーの仕組み音が平面波として届くダイナミック型に比べて、音の指向性が高い
主な利用例複数台の接続も可能平面だけでなく、曲面でも利用できる

 スピーカー部の外形寸法と重量は、A0サイズ「TLF-SP1-A0」が1,159×811×1.5mm(縦×横×厚さ)、460g、B1サイズが1,000×698×1.5mm(同)、350g。再生周波数帯域はいずれも400Hz~4kHz。出力音圧レベルはA0サイズが最大92dB、B1サイズが最大89dB。

 アンプ部はスピーカー出力端子と、ステレオミニのアナログ音声入力/出力を各1系統装備。消費電力は2W。外形寸法は144×68×32mm(幅×奥行き×高さ)、重量は200g。別売で、スピーカーの10m延長ケーブル「TLF-EX1-10」も用意する。

アンプとの接続部アンプの背面A0は大型看板、B1はポスター用を想定したサイズとなっている


■ 遠くからでも、ささやかれるような不思議な感覚

 実際に聴いてみると、看板が自分の方を向いているときは、それほど音量が大きくなくても、スピーカーからの人の声が内容まではっきりと分かる。遠くに看板があるときにも、まるで近くで話しかけられているような聴こえ方をするのが新鮮だ。一方、角度を付けて斜め方向から聴くと、極端に音が聴こえにくくなる。また、斜めを向いているときは、音が壁に反射して、壁の方から聴こえてくるという不思議な感覚も体験できた。なお、スピーカーの真後ろでも、正面と同様の聴こえ方となった。

正面と、斜めからでは聴こえ方が大きく変わった

 TLFスピーカーの技術は、既に展示会などで実証実験が行なわれており、例えばアサヒ飲料「十六茶」のJR新宿駅などでの新商品キャンペーンや、日本テレビのイベント、シルク・ドゥ・ソレイユでの注意喚起、トレードショー「Embedded Technology 2010」などで利用された。こうした採用事例で好評だったことから、スピーカーの製品化に至ったという。

十六茶のキャンペーン、日本テレビのイベントでの採用例7月6日からの「販促EXPO」にも出展される

 ヤマハのサウンドネットワーク事業部 執行役員事業部長の長谷川豊氏は、「いまデジタルサイネージが注目されているが、“音”はあまり活用されていない。『サウンドサイネージ』はヤマハが商標登録しており、今後も音を使った情報提供媒体としてモールや店舗、イベント会場、ホテル、公共空間などで使いたい」との意向を示した。

 また、同事業部 TLF推進室の室井國昌氏は「TLFスピーカーの音は、自然界に無い聴こえ方。近くからささやかれるような音のため、個人に話されているような感覚を呼び起こし、気になる音に感じられる」とし、サイネージとしての効果の高さに自信を見せた。

長谷川豊氏室井國昌氏


(2011年 7月 5日)

[AV Watch編集部 中林暁]