ミニレビュー

4K/HDRプロジェクタ導入で直面した18Gbps伝送問題。光ファイバーHDMIを検証

4K/HDRプロジェクタの購入で直面した18Gbps HDMIの伝送問題

 筆者はソニーの4K/HDRプロジェクタ「VPL-VW745」を導入した。「たぶん買う」といって実際に買ったので、その導入期については追ってお伝えしたいが、そこで問題となったのが「HDMIケーブル」だ。なぜか? という話を今回はお伝えしながら、4K/HDR時代のHDMIケーブル問題について考えてみたい。

筆者宅に新導入された4Kプロジェクタ「VPL-VW745」。18Gbps HDMI対応機だ

 HDMIは、いまや最も身近なマルチメディア伝送規格といえる。映像、音声、Ethernet(HDMI-HEC)までが伝送でき、オーディオビジュル機器のみならず、パソコンやゲーム機、車に至るまで普及した。

 伝送速度は、最初期の4.95Gbpsから、フルHD解像度に対応した10.2Gbps(HDMI 1.3)を経て、4K/60pに対応(HDMI 2.0)と進化し、ついに18Gbpsにまで高速化された。超高速な電気信号を導線(本稿では、電気を通すための金属線の意)でパラレル方式に送るHDMIの伝送手法は、そろそろ物理的な限界に到達しようとしている。長尺ケーブルになると外界ノイズの影響や信号損失が大きくなりがちで、「映像が映らない」という症状が起こる。

 フルHDの60fps伝送程度であれば、10m近くの長いケーブルでも送れることが多い。しかし、これが4Kの60fps伝送、あるいは4K/HDR映像の伝送になると、さらにシビアになり、HDMIのケーブル長が5mを超えると厳しくなる。

 テレビとAVアンプやゲーム機などを繋ぐくらいならば5m超のHDMIケーブルが必要になる局面はそうそうないと思うが、プロジェクタを核としたホームシアターを構築しているユーザーにとって、10m超のHDMIケーブルは必要なものだ。

 一般的なホームシアターでは、テレビを部屋の前側に設置し、これを基準として、AVアンプなどの様々なAV機器を設置、スクリーンはそのテレビの前に下ろすレイアウトが主流だろう。この場合、プロジェクタは部屋の後部へ設置することになり、プロジェクタとAVアンプやAV機器を結ぶHDMIケーブルは、部屋を縦断するように這わせて接続しなければならない。

 つまり、長尺のHDMIケーブルを天井裏に通したり、部屋の隅に這わせるように配線することになる。そう、たかだか6畳~8畳程度のホームシアターでも10m超のHDMIケーブルは普通に必要になってくるのである。

 そして、繰り返しになるが、10m超のHDMIケーブルで4K/60p伝送はかなりシビアなのである。筆者も「VPL-VW745」の導入にあたり、この問題に取り組まざるを得なかった。結果、光ファイバー化することになったのだが、そのためにいろいろ試したことを紹介したい。

18Gbps HDMIを10m超のケーブルで伝送するには、光ファイバーが最適

 その実験とは、10m超のHDMIケーブルでPCと4Kプロジェクタ「VPL-VW745」を直結して、RGB888の4K/60pのPC画面が映るかどうかを調べるというシンプルなものだ。

 まず、ハリウッドのスタジオなど使われているという高品位なHDMIケーブル(12.5m)だ。メーカーからは「5mを超えるケーブルでの、18Gbps伝送はサポート外」というお断りがあり、それを踏まえた上でのテストしたのだが、やはり映像は映らず。

 もう一本は、エーディテクノの10m長の光ファイバーHDMIケーブルの「AHT-10B」だ。こちらは、性能保証として18Gbps対応を謳っており、実際に試してみたところ、ちゃんと映し出すことができた。

エーディテクノの10m長の光ファイバーHDMIケーブルの「AHT-10B」。テスト終了後、メーカーの直販サイトで購入したが、Amazonの販売価格より安かった

 次に、最近耳にした「光ファイバーHDMIケーブルにまつわる噂」についても検証して見ることにした。

 それは「AVアンプなどにおいて、テレビとプロジェクタの両方に映像を同時出力する分配機能を利用すると、光ファイバー側の映像出力がうまく行かない場合がある」というもの。

「そうなる理由」は、よく分かっていないらしいが、そういう現象に見舞われた例は確かにあるようだ。

基本的にはHDMI端子からの給電で動作するが、フェイルセーフを兼ねてUSBケーブルで給電できる

 光ファイバーHDMIケーブルは、ケーブル両端のHDMI端子側のLSIチップが搭載されており、ソース機器側から出力された電気信号としてのHDMI信号を光信号に変換して伝送し、これを再び、電気信号に復号してディスプレイ機器側のHDMI端子に伝達する構造になっている。

10mの光ファイバーHDMIケーブル「AHT-10B」を接続したVPL-VW745
PL-VW745にはサービス用途のUSBがあるため、ここから給電する接続とした

 普通のHDMIケーブルは、導線を端子に結線しただけのシンプル構造。それと比べると光ファイバーHDMIケーブルはつくりとしてだいぶ複雑だ。確かに、両端のHDMI端子に組み込まれるインターフェースLSIチップの仕様によっては、光ファイバーHDMIケーブルでは互換性的な問題が出ることがあるのかもしれない。

 そこで、AHT-10Bを用いて、ヤマハのAVアンプ「RX-A3060」から、東芝「REGZA 55Z700X」と「VPL-VW745」の2画面同時出力の実験をしてみたが、特に問題なく映すことができた。

スクリーンを半分下ろした状態で奥の55Z700Xと手前のVPL-VW745のスクリーンへの投射映像がともに4K(3,840×2,160ピクセル)の60Hz(60fps)、RGB888を示している。RX-A3060から導線HDMI出力の55Z700Xと、光ファイバーHDMIのVPL-VW745がいずれも18Gbps伝送できている

 相性問題は、組み合わせで「できる/できない」の結果が変わってきそうなので、筆者が保証するわけではないが、一応、この組み合わせでは問題なかったことを報告しておく。

 2画面同時出力はできたのだが、AVアンプの「RX-A3060」が、光ファイバーHDMIケーブルのAHT-10Bを利用してから、おかしな振る舞いをするようになった。

 RX-A3060には2系統のHDMI出力端子から同一映像を出力する分配機能があるのだが、HDMI2端子に接続されたVPL-VW745の電源を落としていると、HDMI1端子に接続したテレビ(55Z700X)に映像が出力されなくなってしまったのだ。

 光ファイバーHDMIケーブルのAHT-10Bを抜くとちゃんと映るので、原因はここにあるのは間違いなさそうだ。

 少し戸惑ったが、解決案はすぐに見つかった。RX-A3060のリモコン操作で、HDMI1、HDMI2の同時分配機能をキャンセルしてしまえばいいのだ。

 RX-A3060のリモコン上の[HDMI OUT]ボタンは、押すたびにHDMI1とHDMI2の出力の設定を「OUT 1+2」(HDMI1,HDMI2への両方同時出力)、「OUT1」(HDMI1へのみ出力)、「OUT2」(HDMI2へのみ出力)、「OFF」(HDMI1,HDMI2へのいずれへも出力しない)と、切り換えることができる。ここで「OUT1」とするとHDMI2に接続したケーブルが抜かれたのと同じ状態となるようで、映像出力はHDMI1のみ(55Z700X)に、正常に映すことができるようになった。

 ただ、この「HDMI OUT」操作を連続でやっていたら、HDCPの認証に失敗して映らなくなってしまうトラブルが発生。これは、RX-A3060の電源ボタンの長押しの強制再起動で正常動作に戻ったが、なにかしらAVアンプ側の分配機能にAHT-10Bが悪さをするようである。対処法は見つかったので大きな実害はないが、少し気になるポイントではある。

OUT 1+2は、HDMI1とHDMI2の両方を使って映像を出力するモード。一種の2分配モードである
OUT1モードは、HDMI1にのみ、映像出力を明示的に出力するモード

 まとめると「VPL-VW745に繋がったAHT-10BをRX-A3060のHDMI2に接続しているとき」は、

・HDMI1に接続されたテレビとの同時出力は問題なく行なえる
・HDMI2からAHT-10Bで接続されているVPL-VW745も単体で映せる
・しかし、HDMI1に接続されたテレビだけに出力したい場合には[HDMI OUT]ボタンで「OUT1」と設定して、HDMI2にはAHT-10Bが接続されていない振りをする必要がある

 ということがわかった。

 こうした相性問題は、使用機器の組み合わせで筆者宅のケースのような症状が発生する場合も、発生しない場合もあるだろう。万が一、同様の症状になったときには、本稿で試した対策を試してみる価値はある。

光ファイバーHDMIケーブルに「遅延」はあるか

 光ファイバーHDMIケーブルが有望なのはわかったが、ここでもう一つ気になってくることがある。「遅延」の問題だ。

 光ファイバーHDMIケーブルは、HDMI端子内のインターフェースチップで電気信号と光信号を相互変換していることを説明した。「この変換処理に遅延が発生していないか」という点は、ゲーマーとして遅延にこだわる筆者にはとても気になる。

 というわけで、いつものように公称遅延値約3ms、60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝REGZA「26ZP2」を2台用いて比較計測した。

 PCからの出力画面を分配器で2分配し、片方を導線のHDMIケーブルで1台の26ZP2へ、もう片方を光ファイバーHDMIケーブルのAHT-10Bで2台目の26ZP2へと接続。計測は2台とも最速の「ゲームダイレクト」モードで実施。計測撮影にはフルHDで960fpsで動画撮影できるソニーのデジカメ「DSC-RX100M5」を使用した。

 計測結果は、下の写真に示したように同一画面を表示しており、今回の計測では遅延は認められなかった。何らかの遅延があったと仮定したとしても、1/960秒未満。走査線数本レベルといったところだろうか。

左が導線、右が光ファイバーの表示。結論としては、光ファイバーのAHT-10Bは遅延なし。導線HDMIケーブルとほぼ同列に扱っても問題なさそうだ

導線か光か。それが問題だ!?

 18Gbps HDMIを長尺ケーブルで伝送する際には、光ファイバーHDMIケーブルが有望ということは、今回の実験で確認できた。筆者のほぼ個人的な関心から始まった実験なので、サンプル数が少なくて恐縮だが、これから同様の設備変更を考えている人には、ある程度の「傾向と対策」にはなったのではないかと思う。

 絶対に光ファイバーHDMIが必要というわけでもなく、導線HDMIケーブルでも、導線を徹底シールドした低ノイズ/低損失のケーブルは存在する。たとえばエイム電子の「SII」などは長尺な導線HDMIケーブルとしては有名だ。ただし18Gbps HDMI伝送の性能保証は10mモデルまでで、12m以上は性能保証はなし。10mモデルの「FLS2-10」も実売価格約12万円とやや高価である。これは、徹底したシールド構造の採用や、導線素材に純銀などを用いていることなどが要因だろう。

AIM「SII」

 光ファイバーHDMIケーブルは、最近は各社から登場している。日本でも入手できるものとしては、KRAMER ELECTRONICS(日本では株式会社コイケが代理店)の「CLS-AOCH」、AudioQuest社製(D&M Import Audioが代理店)の「Active HDMI」シリーズなどがあるし、Amazonを探すと、10m超でも2万円台という製品もある。

AudioQuest「Active HDMI Forest」

 20万円もするJVC KENWOODの「VX-HD1200LC」のような高価な製品もあるが、ファイバーHDMIケーブルの価格相場は10mくらいで、3万円台から見つかる。安価ともいいがたいが、「高級な長尺導線HDMIケーブル」よりは相対的にはお求めやすい、とは言えそうだ。

JVC「VX-HD1200LC」

 今後のプロジェクタは、4K化が進むだろう。4K/HDRプロジェクタの導入を考えている人は、いずれHDMIケーブルの置き換えに迫られる可能性は高い。プロジェクタ本体だけでなく、ケーブルについても準備を進めることをオススメする。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら