西川善司の大画面☆マニア

第236回

170万円のソニー4Kプロジェクタ「VPL-VW745」を(たぶん)買う。レーザーとHDRと善司

ソニー「VPL-VW745」

 ホームシアター向けプロジェクタの進化の方向性として近年は「4K」「HDR対応」がメインテーマとなってきた。この点について、いまだ「疑似4K」対「リアル4K」の戦いは継続中なワケだが、ここにきて新しい技術テーマが台頭しつつある。

 それは「レーザー光源」である。

 ソニーは「4K」「HDR対応」を「リアル4K」で実現し、さらに光源を「レーザー光源」としたモデルとして「VPL-VW5000」を2016年末に投入。しかし、価格が800万円と一般家庭では手の届かないクラスの製品であった。

 その後、同じ要素を備えた「VPL-VZ1000」も2017年春に発売。こちらは「床置き設置専用」「超短焦点モデル」というユニークな商品価値を伴ったモデルで、価格は220万円。

VPL-VW5000
VPL-VZ1000

 VPL-VW5000とVPL-VZ1000は、それぞれがやや異なったユースケースを想定された製品なので同一評価軸で並べて評価するのは難しいが、それでも「4K」、「HDR」、「レーザー光源」という3要素を全て取り揃えたモデルが200万円台になってきたという事実は、ホームシアタープロジェクタファンからすればワクワクさせるものがあった。「近い将来、レーザー光源搭載モデルが、頑張れば買える価格帯にやってくるのかも」という期待感がもたらされたのだ。

 そんなファンの目の「キラキラ」が収まらぬうちに、ソニーは今年、また新製品を投入してきた。それが「VPL-VW745」である。「4K」「HDR」「レーザー光源」を搭載して170万円。プロジェクタの歴史において「100万円台に入って来た技術」の普及の加速度は凄く早いのだ。

 発売は12月だが、販売店の予約でも150万円程度となっており、世の大画面☆マニアはかなり盛り上がっているはず。かくいう、筆者も本格的に導入検討に入っている。

 ということで、いつもは製品発売後に家庭でじっくり評価する本連載だが、発売前のVPL-VW745をソニーの評価室で体験し、開発チームに気になることをアレコレ聞いてきた。

ソニーのプロジェクタ開発拠点 厚木テクノロジーセンターで、画質担当の酒井氏、設計担当の宮野氏、商品企画担当の吉江氏に話を聞いた

4Kプロジェクタと西川善司

 私事になるが、仕事の関係で単板式DLPプロジェクタを使っていた数年間を別にすれば、筆者のプロジェクタは、反射型液晶一筋であった。最初に購入したモデルは世界初の反射型液晶プロジェクタ、JVCの「DLA-G10」(1998年、SXGA+解像度)だ。当時の価格は168万円。その後、反射型液晶プロジェクタは価格低下が進み、30万円前後にまで値を下げて現在に至る。

 この後、ソニーが反射型液晶プロジェクタの製品開発に参入し、筆者は、DLA-G10のあとは、JVCとソニーの反射型液晶プロジェクタ製品を行ったり来たりして現在に至る。

 現在使っているのはソニー「VPL-HW50ES」で、2012年に購入。この年、実はVPL-VW1000ESがデビューしている。このVPL-VW1000ESは民生向け「リアル4K」の反射型液晶プロジェクタとしては初のモデルで168万円。奇しくもDLA-G10と同じ値段であった。

 この時は、車の買い換えがあって、財力が低下していたこともあり、コストパフォーマンスに優れたVPL-HW50ESを選択したのだ。

 その後、JVCからは「疑似4K」製品が続く。AV機器だけでなく、PCやゲーム機などの接続も考えると疑似4Kモデルは選択肢には入らず、ソニーの方に関心が傾いていったのだが、いかんせん「4K」関連製品は年を経るごとに新技術が追加されていたため、購入には踏み切れず……

 フルスペック4K伝送に対応した「HDMI 2.0」が2013年に発表され、対応した製品が2014年に発売。2015年には「4Kブルーレイ」こと「Ultra HD Blu-ray」が発表され、「HDR×広色域」対応の映像フォーマット規格が民生向けに提供された。実際に対応製品が登場したのは2015年後半から2016年頃にかけてであった。

 2016年に登場した「VPL-VW535」は、「お! ようやく買えるか? 」と思ったのだが、HDMI 2.0の18Gbps伝送モードに対応していないため、PCやゲーム機を接続する筆者からすると、選べず。このあたりの詳細は「2016年を振り返る企画」に詳しく記しているのでそちらを参照頂きたい。

 と、2012年以降、4Kプロジェクタは、購入に踏み切るための「最後の背中の一押し」が微弱だったのである。

 しかし、VPL-VW745は、違う。

 「リアル4K」「HDR×広色域」「レーザー光源」そして「18Gbps HDMI対応」なのである。

 価格は安くなったとは言え、まだまだ高価だ。しかし、今、筆者のようなマニアが欲している要素をVPL-VW745は全て備えている。なので、今回の評価にあたってはかなり高めのモチベーションで臨んだのであった。

予想よりもコンパクト。背面排気の恩恵で静穏性もまずまず

 VPL-VW745は、本体サイズは560×495×223mm(幅×奥行き×高さ)で、意外にコンパクトだ。ソニーのプロジェクタは型番の数字の大小がサイズの大きさに比例していることが多いのだが、かつてこの価格帯でリリースされていたVPL-VW1000ES(520×640×200mm)と比較すれば小さくまとまっている。VPL-VW745の下位機種「VPL-VW245」(55万円)がラインナップされているが、その495.6×463.6×195.3mm(幅×奥行き×高さ)とそれほどサイズ感に違いは無いように思える。

予想していたよりはコンパクトだった「VPL-VW745」のボディ

 重さは約20kgで、これはVPL-VW1000ESと同等だ。見かけはVPL-VW535とほぼ同じくらいなのだが重量はけっこう重くなっている。

 動作音は意外に静か。

 ソニーの評価ルームは静かな場所だが、そこで空調の音の方が聞こえるくらい。公称騒音レベルは約24dBだが、これは光源輝度モード「Min」(最低:1,200ルーメン相当)の時の値だそうである。2,000ルーメンの「Max」(標準)モードでは30dB前後となるが、VPL-VW745は背面排気のエアフローデザインを採用しているため、プロジェクタ本体より前に
着座して視聴した場合には、かなり静かに感じられる。

光源の輝度調整は「ハイ/ロー」の切換ではなく、スライダーでの無数の段階調整が可能。最低設定は1,200ルーメン相当だとのこと
VPL-VW745は全面吸気の背面排気の構造。VPL-VW500系および新モデルのVPL-VW245とはエアーフローが逆転している

 投射レンズは、VPL-VW500系から変更はないそうで、ズーム倍率、レンズシフト量はVPL-VW500系のプロファイルをそのまま引き継いでいる。つまり、既存VPL-VW500系ユーザーはすんなりと移行できるよう配慮されている。レンズ性能はVPL-VW500系初代のVPL-VW500ESの時から優秀だったので不満はないだろう。

 光源はレーザー。具体的には青色レーザーを蛍光体にぶつけて波長変換を行ない、白色光を取り出す方式だ。

 この光源の寿命の公称値は2万時間となっていて、光源のユーザー交換は行なえない。万が一、光源にトラブルが発生した場合はサービスセンターでの有償交換対応になり、、本体を取り外してソニーのサポートへ発送することとなる。その際の修理コストは示されていないが、交換技術料も加味されることを考えれば、これまでの水銀ランプの価格(およそ5万円前後)よりは高価になるだろう。

 消費電力は定格430W。レーザーと言うキーワードのイメージからもっと高いと思っていたのだが、これはVPL-VW535の410Wと大差はない。VW535が輝度1,800ルーメンで410Wなのだから、2,000ルーメンのVPL-VW745が430Wでも文句はないだろう。

SXRDパネルとレーザー光源のマッチングは? 色再現性は?

 まず、視聴室で最初に見たのは「PLANET EARTH II」だ。

 疑似4Kでは表現が難しい、4K解像度のドットバイドットの表現が分かりやすいコンテンツだ。「Mountains」のチャプターでは、雪山の地表をユキヒョウが歩き回るシーンがあるが、ユキヒョウの毛並がきめ細やかに描かれているだけでなく、山斜面の砂利の粒の1つ1つにまで煌めくハイライトが素晴らしい。「4K解像感とHDR感の共演」と言った風情である。

 画面に近づいて見ても、画素格子がほとんど見えないのは、ソニー独自の反射型液晶パネル「SXRD」(Silicon X-tal Reflective Display)の恩恵によるものだ。VPL-VW745に採用される0.74型サイズのSXRDはドットピッチがわずか4μmで、画素を仕切る格子筋はなんと0.2μm。今回は120インチの画面サイズの投影だったのだが、ドット感がなく、良い意味で表示はアナログ的だ。くっきりと見えているのにしっとりしているようにも見える、独特な味わいなのだ。

 このシーンでは野生の山羊(アイベックス)も登場し、霜が降りた岩肌を飛び走るシーンがあるが、陽光に照らされた山羊たちの黄土色の毛皮、赤茶けた岩肌、そして澄んだ青空の配色がなんとも鮮烈で美しい。

 続いて見たのは「ラ・ラ・ランド」のチャプター5、夕闇のもとで主役二人が歌い踊るシーンだ。

 ここは、かなり暗めのシーンで、照明は街灯と暮れゆく太陽が赤らめた空からの淡い光だけ。にもかかわらず、主役の二人の肌の色はちゃんと「暗がりの中の肌の色」をちゃんと表現できている。

 こうして見てきて感じたのは「色の再現性はかなり優秀だ」ということだったのだが、実際問題、同系の光源システムを採用している800万円のVPL-VW5000と比較して、VPL-VW745はどう違うのだろうか。

 ソニーの説明によれば、VW745とVW5000とでは、青色レーザーダイオードも採用している無機蛍光体も異なるのだという。また、光学系が異なるので、それとのマッチングに配慮したとも。

 なお、VPL-VW5000では、レーザー光源から作り出した白色光に対してカラーフィルタを適用して調光する工程が介入する。VPL-VW745はカラーフィルターは搭載されていないので、表現可能な色域は、VW5000の方が広いそうだ。VW5000では、このカラーフィルター適用時のDCI-P3色空間に関してはカバー率100%となる。VW745についてはこの色空間カバー率については一切が非公開だが、VW5000には及ばないとのこと。VPL-VW5000でもカラーフィルタを適用した場合、発色が良くなる代わりに、輝度が約30%減退してしまうそうだが、VW5000は5,000ルーメンもあるため、問題にはならないのだろう。

 気になるVPL-VW745の表現可能色域は、水銀ランプモデルのVPL-VW500系+α程度とのことである。また「VW745は、VW5000のカラーフィルタ適用なし時よりは広色域である」「実際の投射映像において、色空間の最外周付近の色を多用していない限り、投射映像の発色において、VW745は、VW5000に対して大きく見劣りすることはない」といった補足もあった。このあたりの情報は、VW745の色表現能力を見定める上で有用な情報となりそうである。

 いつものようにスペクトロメーターを用いて、VPL-VW745の白色光を、各画調モードごとにスペクトル分析したところ、以下のようになった。なお、このグラフは絶対量ではなく、正規化された値になっている点に留意したい。

リファレンス
シネマフィルム1
シネマフィルム2
ゲーム

 発光体が青色レーザーなので、純色青色光のゲインがとてつもなく鋭い。この青色を蛍光体にぶつけて波長変換して赤と緑を得るのでどうしてもこうした対比にはなる。

 一般論として、3つの原色ピークが鋭く分離しているスペクトルの方が混色時の色再現性が良くなるが、その意味では計測した4つのモードの中ではシネマフィルム2が最も分離感が良好だ。

 ちなみに、筆者私物のVPL-HW50ESのシネマフィルム2のスペクトルを下に示すが、青色のゲインを無視すると、意外にも両方のスペクトル分布は似たものになっているのが興味深い。具体的には両方とも波長の長い赤が弱い。ただし、3つの原色ピークの分離感はレーザー光源の方が優秀なので、色再現性においてVPL-VW745の方が優秀そうである。

VPL-HW50ESのシネマフィルム2のスペクトル

レーザーならではの輝度「ダイナミックコントロール」

 続いて、HDR映像の評価のために、「マリアンヌ」のUHD BDを再生して視聴した。

 再生したのはチャプター2で、高貴な人達が集う夜の街に車に乗った主演のブラッドピットが到着して、マリオン・コティヤールが待つ会員制の高級クラブに来場するシーンだ。

 ここは、夜の街を行き交う人々が暗めの階調で描かれると同時に、点在する街に灯る街灯の光達とのコントラスト感が楽しめる映像なのだが、プロジェクタにはけっこう厳しい映像である。高輝度を軸足にHDR階調を作り込んでしまえば、エリア駆動(ローカルディミング)ができないプロジェクタの映像では黒浮きがシビアに出てしまう。逆に暗がり基準でHDR階調を作ってしまえば、高輝度のパンチが足りずに「HDRらしさ」が損なわれかねない。

 VPL-VW745の映像はどうかというと、うまくチューニングされている。

 SXRD特有の黒浮きの少なさを活かし、プロジェクタ映像としてはかなり上質の暗部階調表現を実現出来ていた。闇に半ば沈んだような行き交う人々の、暗部階調で描かれた衣服の立体感も良好で、それでいて、暗がりではまばゆく見える街灯の光の鋭さ(≒分かりやすく言えば「HDR感」)も素晴らしい。

 高級クラブのドアをくぐり抜けて目の当たりにする、ホール内に煌めくシャンデリアの1つ1つのクリスタルの輝きも、ただ明るいだけではなく、その多面体の各面に出るハイライト達が飽和せずに目を凝らせばちゃんと見えるのも立派だ。

 暗いシーンで効果的に黒浮きがかなり押さえられているのはなぜなのか。

 こうした黒浮き低減を、ソニーは、動的絞り機構を用いて、1フレーム単位で適切な輝度コントロールを行う事で実践していた。この動的絞り機構の現行版は「アドバンストアイリス3」という技術名で訴求されている。

 ところが、VPL-VW745にはこのアドバンストアイリス3は搭載されていない。ではなぜ、こうした黒浮き低減が実現出来ているのか。

 それは、アドバンストアイリス3相当の制御を、レーザー光源の輝度コントロールで実践してしまっているからだ。超高圧水銀ランプでは、その発光原理と発色特性に起因する問題で、なかなか光源の輝度を色味を変えずにリアルタイムに変化させるのが難しい。しかし、レーザー光源はそれが可能なのだ。

 なので「VPL-VW500系には搭載されていたアドバンストアイリス3が、VPL-VW745で省かれた」と考えていた人も心配しないでほしい。レーザー光源の導入により、動的絞り機構自体が不要となったのだ。

 ソニー側の補足説明によれば、このレーザー光源の輝度変化制御のニュアンスは「レーザーライト設定」の「ダイナミックコントロール」で調整ができるとのことだ。

 「ダイナミックコントロール」は「フル」「リミテッド」が選べるが、「フル」設定は輝度変移制御を最大輝度から-40%範囲まで制御するもので、対する「リミテッド」は-20%範囲にまで抑制するものになる。絞り機構で喩えれば「フルはけっこう絞る」「リミテッドはあまり絞らない」となる。「ダイナミックコントロール」は「切」設定も用意されていて、これは絞り機構でいえば「絞り機構キャンセル」ということに相当する。

レーザー光源の輝度変化制御のニュアンスは「レーザーライト設定」の「ダイナミックコントロール」で調整ができる

HDR映像をよりマニアックに見るための「コントラスト(HDR)」

 さて、HDR対応はVPL-VW515での初対応以来、今年で3年目。「プロジェクタ映像におけるHDR表現」の作り込みが、熟成されてきた感がある。

 こうしたHDR映像の画作りは、どうなっているのだろうか。

 現在のUHD BDに採用されている「HDR10」フォーマットでは、仕様上は、1万nitまでを出力できる規格になっている。これは直視型の4Kテレビでも、VPL-VW745を含めた現在のプロジェクタでも再現できない。なので、テレビでもプロジェクタでも、HDR映像をそのデバイスで表示するための最適な手法について各メーカーで独自のアプローチがとられている。

 VPL-VW745では、この取り組みについて、デフォルトでは「ソニーの考える画作りによるHDR映像の見せ方」を提供し、オプションとしてソニーが約400万円で発売しているリファレンスモニター「BVM-X300」に近い画質を選べるようにしたという。

ソニーの4K有機ELマスターモニター「BVM-X300」

 順を追って解説しよう。

 VPL-VW745で、HDR映像表示に関わる設定で重要な位置づけとなるのは「コントラスト(HDR)」と「HDR」モードの2つだ。

 デフォルト設定では「コントラスト(HDR)」は「60」が設定されていて0(Min)から100(Max)までが設定できるようになっている。

「コントラスト(HDR)」の設定

 この60という値は、VPL-VW745が提示する外向けのパラメータであり、値自体に深い意味はないが、およそ最大1,300nit~1,400nitが想定される映像コンテンツが見られる設定になっているとのこと。

 この値を上げていくと、表示映像自体は明るくなっていくので、HDR感が増していくのか……と思いきや、むしろ逆な点に注意したい。

 値を上げれば上げるほど確かに映像自体は明るくなるのだが、映像コンテンツ側の高輝度階調は早くから圧縮されはじめ飽和の開始も早まる。いうなれば、VPL-VW745の高輝度性能を、映像コンテンツ側の低いnit値に割り当てていくようなイメージだ。ちなみに、Max(100)設定時は、映像コンテンツの最大輝度は400nitを想定したチューニングに相当するとのこと。

 逆にこの値を下げていくと、表示映像全体としては段々、暗くはなるのだが、その分、HDR映像の高輝度階調をVPL-VW745の高輝度領域に贅沢に割り当てられるようになる。

 Min(0)設定時は、最大輝度3,000~4,000nitのコンテンツにも対応出来る設定となるが、そうした最大輝度の高い映画コンテンツであっても、その最大輝度表現がなされるシーンは一瞬にしか過ぎない。その一瞬の3,000~4,000nitのシーンのために、通常のシーンを暗い状態で見続けるべきかどうか…は、ユーザー側の選択になる。

 ソニー側としては「最大輝度が高く設定されている映画であっても、一般的には、デフォルト設定の60を基軸にして、お好みで上下調整する使い方が良いと思う」と述べていた。

 これは筆者の意見になるが、この設定は、画面サイズの大小、あるいは投射距離によっても微妙に変わってくる可能性があり、一概に「いくつ設定がオススメ」とは言いづらい。というのも、画面サイズが大きくなれば輝度密度が低くなり、表示映像は想定よりも暗くなる傾向になるし、投射距離が長くなれば光は進行距離の二乗に比例して減衰する物理法則があるので、同様のことが起こりうるからだ。最終的には自分の設置環境で一番納得の行く見え方を60を基準にして上げ下げして探る…というのが良いのかも知れない。

「HDRリファレンス」というマニアックな提案

 さて、「エキスパート設定」階層下にある「HDR」モード設定は、デフォルトでは「オート」が選択されており、通常のブルーレイでは「SDR」モードが選択され、UHD BDでHDR10対応のものであれば自動で「HDR10」モードが選択される。HLG対応コンテンツも自動認識し、「HLG」モードとなる。

「エキスパート設定」階層下にある「HDR」モード設定

 そして、この設定項目には「オート」設定では選ばれることのない「HDRリファレンス」というモードがある。このモードは、上位機のVPL-VZ1000ES、VPL-VW5000、従来のVPL-VW500系製品、および下位機種のVPL-VW245にもないVW745の「特別なモード」である。

 「オート」設定で選ばれる「HDR10」モードでは、最高輝度付近の階調に対し、意図的になだらかな傾斜を与えるトーンマッピングを行なっている。これは、ソニーいわく「画作り」とのことで、一般的なHDR映像においては、この画作りがうまくマッチングすると言うことで、このチューニングを標準仕様として採用しているそうである。だからこそ、基本的にはこのチューニングしか選べなくても問題ないという判断なのだ。

 この、最高輝度付近の階調をなだらかにしたことで、特定の色において色シフトが発生することがあるという。「偽色が出る」とまでは言わないものの、「その色ではないほうがいい」ということがあるというのだ。これは階調を優先させた画作りを行ったことで起きた、ある種のマイナーな弊害と言うことだ。

 そもそも、VPL-VW745では、「HDR10」モードにおいても、「HDRリファレンス」モードにおいても、表現対象の色空間において、VPL-VW745の色再現範囲(色域性能)でカバー出来ている色については、正しい発色が出来るような演算を行なっているが、カバー範囲を超えた色空間の最外周領域の色については、人為的な色変換が必要になる。「HDR10」モードの最高輝度階調の画作り(≒トーンマッピング)処理で、悪条件が重なると、画作りが裏目に出ることがあると言うことなのだろう。

 そこで、そのトーンマッピングをキャンセルする「HDRリファレンス」モードを設けたというわけである。これで、最高輝度階調付近で起きる色シフトを低減させることを狙うのだ。

 ソニーによれば「トーンマッピングを辞めてST.2084(PQカーブ)を忠実に再現する方針にしたのが『HDRリファレンス』モードになる。結果的に、映像製作で使われているソニーの有機EL/HDRマスターモニター『BVM-X300』の画作りに極めて近い表示となった」と述べている。

 これらの情報を踏まえた上で、「アメイジング・スパイダーマン2」のチャプター7、エレクトロがニューヨークのタイムズスクエアに登場するシーンを見た。

 確かに、ここで登場するビル壁面に掲げられたデジタルサイネージの高輝度表示の表現に違いが確認できた。

 「HDR10」モードでは、その表示面の高輝度部の階調は残るが、高輝度色はやや彩度が薄くなる印象がある。一方、「HDRリファレンス」モードでは、高輝度部の階調はやや喪失気味になるものの、高輝度部の輝度は伸びやかになり、高輝度色の彩度も幾分上がって見える。おそらく、これが「本来は出したい色に近い色」なのだろう。

 「階調をとるか」「発色をとるか」の究極の選択にはなるが、こここそが「VPL-VW745の使いこなし」の部分になっていると言える。

 一連のHDR映像デモを見ての、筆者の個人的な活用指針を述べさせてもらうとすれば、「HDR」モードは、階調優先であれば「オート」設定、発色優先であれば「HDRリファレンス」ということになるだろうか。

全部入りの4Kネイティブプロジェクタ登場。あとは資金

 3Dコンテンツとして、いつもの「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンを視聴。ここは、暗めなトンネルに列んだ電球が、比較的大きめの視差が与えられて表示されるので、クロストーク現象(二重映り)のチェックに最適なのだが、VPL-VW745は、このテストでも優秀であった。クロストークが皆無とは言わないまでも、ほぼ感じられないレベル。少なくとも視聴には全く影響がない。ソニー側によれば「テレビ製品が3D対応を辞めてしまった今、プロジェクター製品が最後の砦。3D画質はちゃんと設計している」とのこと。3Dファンには頼もしいお言葉である(笑)。

 その後は「グランツーリスモスポーツ」をPS4 Proで4K/HDRでデモ画面を見たり実際にゲームをプレイしてみた。18Gbps HDMI対応のVPL-VW745では、ドット単位の表現も色滲みが少なく描画できている。これはVPL-VW500系、VPL-VW245では実現出来ない優位性になる。

4K/HDRモードで「グランツーリスモ・スポーツ」プレイ時のインフォメーション表示の様子。YUV422/4K/BT.2020色空間/HDR10モードとなっていることが確認できる

 なお、VPL-VW745は、低遅延モード(ゲームモード)が搭載されており、これを有効にすると60fps時、約1.5フレーム程度(約25ms)の遅延に短縮される。VPL-VW745は、表示システムが120Hz/倍速駆動なので、原理的に60fps表示に対して0.5フレームの遅延が避けられないが、これに+1.0フレームの遅延で収まっているのは、まずまずといったところ。ソニーのテレビ製品のBRAVIAが1フレーム未満を達成してきているので、次モデルではこのあたりを目指して欲しい気はするが。

 さて、ソニーの評価室での視聴はでわずか2時間程度だったがそれでも完成度は高いことは、十分に垣間見られたと思っている。

 VPL-VW500系と同等かそれ以上の色再現性が実現されているのは、「レーザー光源の光源色特性を活かした意欲的な画作り」がなされていることの賜だろう。

 そして、とてもマニアックな「HDRリファレンス」モードは、画質設計に関して開発陣の「HDR映像の画作りに対する熟練度が上がった」ことと、「ユーザーコミュニティ側のHDRコンテンツへの理解の高まり」とうまく連動できそうで、特に中級以上の映像マニア層には訴求力の高い機能になっていると思う。

 単に「レーザー光源に置き換えて18Gbps HDMIに対応しただけのVPL-VW500系モデル」とは違うことは、今回の取材でよく理解ができた。価格は上がってはいるが、冒頭で述べたように約150万円であれば、“頑張れば買える”レンジといえるかもしれない。

 4Kプロジェクタの「リアル4K」「HDR×広色域」「レーザー光源」そして「18Gbps HDMI対応」の最新「技術テーマ全部入り」モデルとして、今期、要チェックモデルとして推しておく。筆者も設置および資金繰りのシミュレーション中だが、購入できたら続報を届けしたい。果たして……

約150万円。買うべきなのか……続く(かもしれない)

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。3D立体視支持者。ブログはこちら