ミニレビュー
Apple Musicなど配信楽曲も手軽に高音質化。Lightningヘッドフォン「Fidelio M2L」
(2015/7/23 10:00)
この春から、日本でも盛り上がり始めている定額制音楽配信サービス。5月にスタートした「AWA」、6月の「LINE MUSIC」、そして7月からついに始まった「Apple Music」。それぞれ無料期間の終了が近づき、どのサービスを使うか決めようとしている人もいることだろう。その音楽配信サービスをiPhoneで聴くのに便利なヘッドフォンとして、PhilipsのLightning端子搭載モデル「Fidelio M2L」を紹介したい。
iPhoneとデジタル接続できるLightning搭載ヘッドフォン
筆者はとりあえず3サービスとも無料登録し、どれを使い続けるかを検討している最中。普段、外ではウォークマンのNW-A16を使ってCDからリッピングした曲やハイレゾ配信で購入した曲を聴いているが、定額配信サービスにも興味があるので、最近はiPhone 5sで各サービスを通勤時などに使っている。
ただ、iPhoneで聴いていると、音質面で物足りない時があるのも正直なところで、せっかくなら可能な限り良い音で聴きたいが、ポータブルアンプをつなげるほど規模を大きくはしたくない。そこで選んだのが今回のPhilips「M2L」。iPhoneなどのLightning端子と直接接続するヘッドフォンで、ヘッドフォンにDAC/アンプを内蔵。音楽専用プレーヤーではないiPhoneからそのまま聴くよりも、手軽に高音質での再生が期待できそうだと思ったからだ。
M2Lは、Fidelio(フィデリオ)シリーズの新モデルとして5月に発売された。40mm径ユニットを搭載した密閉オンイヤー型で、本体内部に48kHz/24bit対応のDACとアンプを内蔵。iOSデバイスとLightningで直結することで、左右チャンネル間のクロストークや干渉を排除して再生できるという点が最大の特徴。価格はオープンプライスで、実売価格は43,000円前後(税込)。
Lightningでダイレクト接続できるヘッドフォンは、まだ数が少ない。ソニーの「MDR-1ADAC」や、海外で発表された「JBL Reflect Aware」が存在するが、使ったことの無い人がほとんどだろう。M2Lは端子がLightningだけなので、もちろんAndroidスマホやウォークマンなどのプレーヤーでは使えない割り切った仕様だ。当然ながら、内蔵するDACやアンプの出来が良くないと、せっかくデジタル接続してもいい音にはならないだろう。このM2LとiPhoneで新しい音楽配信を聴いてみて、常用のヘッドフォンとして使えそうか検討することにした。
はっきり分かる音の違い
使い方はiPhoneなどのLightning端子に接続するだけなので、特に迷うこともない。iPhone側からの給電で動作するため、バッテリ充電なども不要。早速、Apple Musicなどを聴くのにM2Lを使ってみた。
DAC/アンプ内蔵とはいえ、ハウジングはアウトドアで聴くのにも違和感のないコンパクトなサイズ。重量は195gで、40mm径ユニットのオンイヤー型としては普通の重さと言える(ソニーの40mm径オンイヤー「MDR-ZX660」は約193g、beatsのオンイヤー「solo2」は205g)。音に関するプラス面は、ベースやバスドラムなど低域の力強さで、はっきりと実感できる。押し出しの強さだけでなく立ち上がりの俊敏さも併せ持っており、ボーカルなど中域部分を邪魔せず、適度なバランスで全帯域に厚みをプラスしていると感じる。
手持ちの他の密閉型ヘッドフォン、例えばソニーのMDR-1RやAKGのK490NCに比べると、細部の描写という意味ではこれら2機種の方がよく、音の再現性が高いと感じる。M2Lは方向性がやや異なり、最初に分かるのは低域の豊かさだが、定位は明確でバランスを損なわずに全体の密度を増しているため、不要な音の膨らみはない。音場の広さについては、ゆったり響かせるというよりは、ダイレクトに迫力を伝えるという印象。
そうした長所を特に感じられたのは、古めの洋楽ロックを聴いていた時だ。ウォークマンで普段聴いているのは、最近リッピング/ダウンロードした曲が中心だったため、iPhoneでの定額音楽配信では、最近聴いていなかった曲を久しぶりに聴く機会が増えている。ニルヴァーナやディープ・パープル、エアロスミスといった往年のロック名曲を聴くと、録音が古い圧縮音源でも、音の厚みに不足を感じることはほとんどなく、高域がカサつくようなこともなかった。
邦楽で昔聴いていた曲も再生してみた。当時はテープやMDに録音して聴いていた曲、例えばバービーボーイズや、PSY・S、PERSONZなども、AWAでは充実。これらを懐かしく思うと同時に、M2Lによって適度な厚みがプラスされ、どれも古臭く感じることはなく、ついついいろんな曲に聴き入ってしまった。「ダウンロードだと買うかどうかわからないが、ストリーミングなら久しぶりに聴いてみよう」と思える曲が聴けるのはうれしいポイントだ。一方、Apple Musicは洋楽のラインナップや、プレイリストのユニークさが他を上回っている。限られた曲数でも長く楽しめるという意味で、プレイリストの利便性は今後の配信サービスの魅力を左右しそうだ。
これまで聴いた楽曲は圧縮音源だが、M2Lの内蔵DACは48kHz/24bit対応なので、iPhone用のハイレゾ再生アプリ「Onkyo HF Player」で、iPhone本体内の楽曲も再生してみた。48kHz/24bitのμ's(ラブライブ)「soldier game」などは、アプリの画面表示でも48kHzのままダイレクトで再生できた。ハイレゾの解像感や豊富な情報量をそのまま楽しめるのも、M2Lの大きな魅力の一つ。ハイレゾをより深く楽しむなら、ポータブルUSB DAC/アンプと組み合わせるのがベストだが、ポータブル環境の規模をなるべく抑えたまま手軽にデジタル接続で高音質を楽しめるM2Lは、ユニークな存在と言える。
リモコン操作はサービスごとに違いも
Lightning採用によるもう一つのメリットは、接続したiPhoneなどのコントロールもできる点。iPhoneをポケットなどに入れたままで音楽再生の操作が行なえる。ケーブルが出ている右ハウジングの外側が操作部となっており、格子状の模様が刻まれている、欠けた月のような形の部分が1つのボタンになっている。再生/一時停止はボタン1回押し、曲送りは2回押しで、2回目を押し続けると早送り。曲戻しは3回で、3回目を押し続けると巻き戻しする。
これらの操作は、iPhone純正の音楽プレーヤーの利用を想定したものなので、当然Apple Musicの再生時も全て利用できた。一方、AWAやLINE MUSICでは、再生/一時停止や、曲送り/戻しはできたが、早送り/巻き戻し(2回/3回クリックで長押し)の操作はできなかった。
黒いボタンの内側にある銀色の円形部分はジョグレバーになっており、これを上下すると音量を増減できる。
本体にマイクも備えており、通話にも利用可能。ボタン1回押しで着信時の応答/終話の操作ができる。ボタンを2秒間押し続けると着信拒否となる。なお、着信時以外のときにボタンを長押しすると、iPhoneのSiriが起動した。
ケーブルの長さは実測で約120cm。Lightningケーブルのためか通常のヘッドフォンケーブルより手触りは硬めで、身に着けた時に余ったケーブルをポケットなどに収めにくいのは難点かもしれない。ただ、太さはソニーのMDR-1Rのケーブルよりもやや細い程度なので、極端に邪魔になるほどではない。ケーブル表面には溝が入っており、これはタッチノイズ軽減のためだと思われる。持ち運び時は、ハウジング部を回転し平らにすることも可能だ。
電車など騒音の多い場所で聴いていても、ソフトなイヤーパッドがフィットして密閉度が高く、低域の力強さをあまり逃がさずに聴けた。ただ、これからの季節は日中に外でヘッドフォンを着けるのは少し暑いので、涼しい室内や帰宅時などに使う方が良いかもしれない。
iPhoneのバッテリを使うため、消費電力は気になるところ。確かに他のヘッドフォンを使っているときに比べるとiPhoneのバッテリが減るのは早く感じたが、通勤(筆者は往復1時間半程度)など限られた時間で使う分には、1日持たないというほどの問題には至らないレベルだった。iPhoneのバッテリを消費することよりも、ヘッドフォン本体を充電しなくて済むメリットの方が、個人的には大きいと思う。
定額配信を利用する前によく聴いていた音源は、CDからのリッピングやハイレゾ配信からのダウンロードがほとんどだったため、以前から自分の好きなアーティストやジャンルの曲を中心になってしまう。定額音楽配信の魅力の一つは、これまで知らなかった曲やアーティストにも出会えるかもしれないということだ。LINE MUSICなどで、SNSの友達から新しい曲を知るということもあるだろう。
あまり知らなかった新しいアーティストや、これまで自分が聴いてこなかったジャンルなど、CDを買うほどではない場合でも気軽に聴いてみようと思えるのも聴き放題ならではの良さ。例えば、何年か前に少しだけ聴いたところ、自分に合わないと思い込んでいたサカナクションは、たまたまAWAのプレイリストの1曲として流れたことから、「ネイティブダンサー」や「三日月サンセット」が気に入って、お気に入りに登録した。「●●の音楽は、面白くないから聴かない」と決めつけずに「まだまだ知らない、面白い曲があるはず」と思い直すきっかけにもなった。配信で気にいったアーティストの曲を、ハイレゾ、あるいはアナログ盤で改めて購入してみるといったことも、今後はあるかもしれない。もちろん、好きなジャンル/年代の曲が配信ラインナップに多く揃っていれば、それだけをひたすら聴くというスタイルも良いだろう。
最近は、新しい曲に触れる機会としてYouTubeやニコニコ動画、SoundCloudを利用する機会も増えてきた。定額音楽配信が定着すれば、新しい曲と出会えるチャンスはもっと増えるだろう。音楽配信で使われている圧縮音源から、HF Playerなどのハイレゾまで、iPhoneのどんなアプリ/サービスで音楽を聴く場合でも、iPhoneにヘッドフォンを挿すだけの簡単さで良い音を聴きたいというニーズに、M2Lは応えてくれそうだ。
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Fidelio M2L |