レビュー

高音質とエレガントを両立、beyerのテスラテクノロジー投入イヤフォン「XELENTO REMOTE」

 テスラテクノロジーを使ったヘッドフォンが人気のbeyerdynamic。その技術をイヤフォンにも投入した注目機「XELENTO REMOTE」が登場した。価格はオープンプライスで、実売は12万円前後。……“登場した”と書いたが、人気で品切れのお店が多く、“買いたくても買えない”状態のようだ。取り扱うティアックによれば、ドイツのbeyerdynamic本社で鋭意生産中とのこと。注目のイヤフォンがいかなるサウンドなのか、聴いてみよう。

XELENTO REMOTE

 「XELENTO REMOTE」の話の前に、「AK T8iE」という機種についておさらいしておきたい。ご存知の方も多いと思うが、ハイレゾプレーヤーのAstell&Kernとbeyerdynamicがコラボしたイヤフォンとして、2015年に登場。その後、ブラッシュアップした「AK T8iE MkII」(直販税込129,980円)が昨年の7月から発売されている。

 AK T8iE MkIIとXELENTO REMOTEを見比べると、カタチはソックリ……というか、まったく同じに見える。違うのは筐体とケーブルのカラーくらいで、AK T8iE MkIIは若干ゴールドっぽく、XELENTO REMOTEはシルバーっぽい……という程度だ。

イヤーピースを外して筐体のカラーを見やすくしたところ。左のシルバーっぽく見えるのがXELENTO REMOTE、右のゴールドっぽく見えるのがAK T8iE MkII

 そのため、イヤフォンに詳しい人ほど「ああ、AKとbeyerのコラボイヤフォンが、カラーを変えて、beyerdynamic単体から発売されたのか」と思ってしまうだろう。だが、実際に聴き比べると、この2機種は確実に“音が違う”。さらに言えば、付属品などの仕様も微妙に違っているのだ。

テスラテクノロジーを投入したイヤフォン

 「XELENTO REMOTE」は、beyerdynamicの代名詞と言っても良いテスラテクノロジーを採用している。これは、1テスラ(=10,000ガウス)を超える磁束密度を生み出す強力な磁気回路を使ったユニットを搭載している、という事だ。

 方式はダイナミック型。単に磁気回路が強力なだけでなく、その磁気回路で薄型・軽量の振動板を駆動するのが特徴だ。前述の「AK T8iE MkII」は、11mm径で薄さ1/100mmの振動板を使っているが、XELENTO REMOTEの振動板については詳細な情報が無い。ただ、「XELENTO REMOTEの為に再び開発されたテスラドライバ」と説明されている。このあたりに、AK T8iE MkIIとXELENTO REMOTEの違いがありそうだ。

左がXELENTO REMOTE、右がAK T8iE MkII。筐体サイズや形状はほぼ同じだ

 スペックの数字を比べてみると、XELENTO REMOTEの再生周波数帯域は8Hz~48kHzで、インピーダンスは16Ω。出力音圧レベルは110dBだ。AK T8iE MkIIは8Hz~48kHz、16Ωと同じだが、音圧レベルは109dBと異なっている。ただ、大きな違いは無いと言える。

XELENTO REMOTEの内部構造

 筐体は角の無い、なめらかなフォルム。各社の10万円を超えるイヤフォンは、BA(バランスド・アーマチュア)ユニットを多数内蔵するため、筐体が大きくなる傾向にあるが、それと比べるとXELENTO REMOTEはコンパクトだ。

 装着しても耳にミッチリとイヤフォンが“詰まる”感覚は無く、耳穴に小さな蓋をしたような感覚で装着できる。装着方法は耳掛け式だ。筐体が小さくて軽いので、装着感は良いイヤフォンだ。ただ、ケーブルの部分にメモリーワイヤーが欲しいところだ。

 イヤーピースはシリコンタイプをXS~3XLの7サイズ同梱。通常のピースよりも裾が平たくなったタイプだ。フォームタイプのComplyイヤーピースも3サイズ付属している。

上の列がシリコンタイプ、下がComplyイヤーピース。シリコンタイプは、裾が広がったタイプも同梱しているのが特徴だ

 ノズルの先端に取り付ける交換用グリルも同梱。付属パーツの充実ぶりは、高級イヤフォンならではだ。

 ハウジングの表面はシルバーで光沢があり、一見するとプラチナのようにも見える。デザインコンセプトは「ジュエリーを連想させるイヤフォン」だそうで、確かに宝飾品のような気品がある。余談だが、ケースを開けると黒地にイヤフォンの筐体部分がポツンと2つはめ込まれており、まるでイヤリングか指輪を購入したような演出がニクイ。高級イヤフォンでは、こういった心配りも楽しみどころだ。

ケースを開けたところ。イヤフォンの筐体部分がポツンと2つはめ込まれており、まるでイヤリングか指輪を購入したような演出がニクイ

バランスケーブルは付属せず

 ケーブルは着脱可能で、イヤフォン側の端子はMMCX。入力端子は3.5mmのステレオミニだ。3ボタンマイクリモコン付きのケーブルと、リモコンの無いケーブルの2本をセットにしている。長さは1.3m。

ケーブルは2本付属するが、入力端子はどちらもステレオミニ
マイクリモコン付きのケーブルも同梱する

 ここで注目したいのは、バランス接続用ケーブルは同梱していないという点だ。AK T8iE MkII(直販税込129,980円)は、AKとのコラボモデルだけあり、3.5mmのアンバランスに加え、2.5mm 4極のバランス接続用ケーブルも同梱している。XELENTO REMOTE(同129,600円)は、3.5mmのアンバランス×2本という違いがある。

 AKなど、2.5mm 4極バランス出力対応のプレーヤーやアンプを使っているという人には、バランスケーブルの付属は魅力だ。ただ、XELENTO REMOTEを購入するような人は、既にバランスケーブルを持っている場合もある。その際は、スマホで気軽に使うためのリモコンケーブルが付いていた方が嬉しいかもしれない。このあたりの状況で、コストパフォーマンスの感じ方は変わってくるだろう。

MMCX端子で着脱が可能

 また、ケーブルもAK T8iE MkIIとXELENTO REMOTEでは異なっている。カラーの違いはハウジング部の違いと同じで、AK T8iE MkIIはゴールドっぽい温かみのある色、XELENTO REMOTEは鮮やかなシルバーになっている。

左がAK T8iE MkII、右がXELENTO REMOTEのケーブル

音を聴いてみる

 音質チェックの前に、スマホのHUAWEI「Mate9」と接続。ボリュームを上げていくと、70%くらいでもうギブアップというほどの音量が出る。鳴らしやすいイヤフォンと言えるだろう。

 個人的な話だが、私は「AK T8iE/AK T8iE MkII」が好きだ。どちらかと言うと、バランスド・アーマチュア(BA)の音よりも、ダイナミック型の方が響きが自然で好きなのだが、BAの高解像度な描写力も捨てがたい……。そんなタイプの人間なので、ダイナミック型ではあるのだが、超薄型の振動板を、超強力な磁気回路でドライブし、まるでBAのような微細な描写力も備えたAK T8iEはお気に入りのイヤフォンで、日常生活でも頻繁に利用しており、音もよく知っている。

 気に入っているからこそ、「AK T8iE MkIIの音から変に変わっているとイヤだなぁ」と思いながら、XELENTO REMOTEを装着。AK380と接続して音を出してみると、不安は消し飛び、むしろ“より好きな音”が出てきて思わず椅子の上で座り直した。

AK T8iE/AK T8iE MkII

 AK T8iE MkIIとXELENTO REMOTEの大きな違いは、中低域の張り出しだ。AK T8iE MkIIで「藤田恵美/Best OF My Love」を聴いた後で、XELENTO REMOTEに交換すると、アコースティック・ベースの「グォン」という張り出しが、XELENTO REMOTEではやや弱くなる。

 ただ、音が“痩せた”とか“大人しくなった”のではない。全体の分解能は、XELENTO REMOTEの方が一枚上手で、傾向としては全体として REMOTEの方がモニターライクで、細かな音の聴き分けに向いているサウンドと感じる。両者は目指している方向がちょっと違う印象だ。

 例えば「Donald Fagen/I.G.Y.」のベースで聴き比べると、AK T8iE MkIIの方が低域の量感が豊かで、振動板が“やらかい”ような気がしてくる。「ブオンブオン」とたるみながら大量の空気を動かしているイメージで、ゆったりとした、温かみのあるサウンドだ。

XELENTO REMOTE

 XELENTO REMOTEに交換すると、低音がシャキッとして、振動板がたゆまず、硬く、キビキビと動いているようなイメージが浮かぶ。トランジェントが良く、Donald Fagenらしい、ソリッドで歯切れの良い低音が刻み込まれるようで気持ちが良い。

 嬉しいのは、キビキビさ、シャープさがあっても“音が硬くない”ところだ。金属質な響きが乗ったりせず、人の声やアコースティック・ギターの響きはあくまでナチュラルなまま。このあたりはダイナミック型ならではの利点と言えるだろう。

 ただ、「トランジェントが良くてシャープなのでXELENTO REMOTEの方が良い」と簡単に言うのは難しい。ハイレゾっぽい情報量を細かく聴き取るのは確かにXELENTO REMOTEの方がわかりやすいが、「Yes/Roundabout」のような、ベースラインがグイグイとうねるように吹き出してくる楽曲では、AK T8iE MkIIの方が迫力があって気持ちが良い。XELENTO REMOTEの方が“今風”なサウンドだが、「AK T8iE MkIIの方がグッと来る」という人も間違いなくいると思う。好きな音楽のジャンルによっても、どちらが気に入るかは変わってくるだろう。

 バランス接続用ケーブルは同梱していないが、AK T8iE MkII用のバランスケーブルがあるので、それを使ってXELENTO REMOTEをAK380でバランス駆動してみた。効果は歴然で、チャンネルセパレーションが良好になり、音場の広がりがアップ。低域の制動力もアップしており、低域の沈み込みが深く“凄み”や“余裕”のようなものが感じられる。XELENTO REMOTEのポテンシャルの高さなら、バランス駆動で常用したいところ。その点では、バランス接続ケーブルをオマケで付属してほしかったところだ。

“高音質”と“エレガント”の両立

 前述の通り、「AK T8iE MkII」が好きな理由は「ダイナミック型らしいナチュラル」さ、「量感の豊かさ」があると同時に、「BAのようなトランジェントの良さ」、「音の細かさ」が味わえるためだ。この「いいとこ取り」な特徴を維持しながら、分解能とトランジェントの良さにちょっと傾けたのが「XELENTO REMOTE」だと感じる。

 音の純度や分解能、ハイレゾの情報量をどこまで聴き取れるかといった点を重視している人が、XELENTO REMOTEの方が気に入る確率が高いかもしれない。

 「AK T8iE MkII」も「XELENTO REMOTE」も、実売は12万円前後で、大きな価格の違いは無い。この価格になると、カスタムイヤフォンもライバルに入ってくるが、BAドライバを大量に投入したハイエンドイヤフォンにも負けない音質は実現している。音の傾向でのライバルと言えば、Unique Melodyのダイナミック+BAのハイブリッド「MAVERICK II」(実売137,600円前後)などかもしれない。

 音質以外の特徴として、小型の筐体である事と、エレガントなデザインも見逃せない。各社の高級イヤフォンはどうしても大型になりがちで、悪く言うと“大げさ”で“マニアック”な雰囲気が漂う。そうしたモデルに負けない音質を実現しながら、さり気なく使える「XELENTO REMOTE」には、その事自体に大きな価値があるだろう。

山崎健太郎