レビュー

強靭にして繊細。ヤマハサウンドの“頂点”5000シリーズのセパレートアンプを聴いた

YAMAHA C-5000(写真左)とM-5000(右)

ヤマハの「5000シリーズ」は同社がハイファイコンポーネントの頂点を目指して開発した渾身の作だ。第一弾としてスピーカーの「NS-5000」(150万円・ペア)を2016年に発売し、プリアンプ「C-5000」とパワーアンプ「M-5000」のペアを昨年12月に導入。今年の11月にはレコードプレーヤー「GT-5000」(60万円)の発売も控えている。

この記事のテーマは、同シリーズのセパレートアンプ2機種に注目して、その実力を検証することだ。5000シリーズだけで組むシステムの試聴はGT-5000が登場したときのお楽しみということにして、まずは2台のアンプを筆者のオーディオ試聴室に持ち込んで普段使っているシステムに組み込み、アンプとしての実力を見きわめたい。

筆者試聴室に持ち込み、アンプの実力を検証した

久々の高級セパレート。回路設計からデザインまで妥協なし

“フラッグシップスピーカーを鳴らし切る”というミッションがあるので、C-5000とM-5000どちらも妥協のない設計を貫いている。ヤマハにとって久しぶりの高級セパレートアンプということもあり、回路設計からデザインまで入念に追い込んでいるのだ。

とはいえプリとパワーそれぞれ90万円、ペアで180万円という価格は高額と感じる人が多いはずだ。同社AVアンプのフラッグシップ(CX-A5200/MX-A5200)も同様にセパレート構成だが、そちらはペアで62万円。チャンネル数ははるかに多いのに、ステレオアンプの約1/3の価格に収まっている。性能を突き詰めるピュアオーディオのアンプと、使い勝手と性能のバランスを重視するAVアンプというコンセプトの違いはあるが、やはりその価格差は大きく感じる。

プリアンプのC-5000
前面
背面

ピュアオーディオのハイエンドモデルは近年価格の上昇が続いている。販売台数が限られることや部品の高騰など、理由はいくつかある。音にこだわると部品の精度や電源の余裕を確保する必要があるのだが、そもそもそうした部品は用途が限られるので大量生産によるコスト低減ができず、価格が高騰しがちだ。良質な大出力アンプを作るためには物量を投じることが不可欠と言われてきたが、それは基本的にいまでも変わっていない。

ハイエンドオーディオの世界に目を向けると、特にアンプとスピーカーでは海外ブランドの存在感が強く、日本のブランド以上に高価格モデルがひしめいている。大半は小規模な専業メーカーが手がけていることもあり、独創的な回路設計や個性的な筐体デザインの製品が多い。

そこまで突き詰めた製品を作り続けるメーカーがいまも健在なのは、ハイファイオーディオが趣味として熟成し、性能とデザインにこだわるファンが支えているからだ。その領域で再び市民権を得ること。それこそヤマハが5000シリーズで目指している最大の目標と言っていい。

パワーアンプのM-5000
前面
背面

「再び」と言ったのは、かつてヤマハの製品がハイファイの世界で特別な位置を占めていたからだ。1970年代以降、プリメインアンプの「CA-1000」、3ウェイブックシェルフ型のモニタースピーカー「NS-1000M」、いまも愛用者の多いターンテーブルの傑作「GT-2000」など、記念碑的モデルが数多く登場し、精悍なフェイスが美しいプリアンプの「C-2a」、ピラミッド型のパワーアンプ「B-6」など、GKデザインが手がけたセパレートアンプの名機は工業デザインの視点から語られることも多い。

ここに挙げた名機の数々は、筆者と同世代のオーディオファンなら知らぬ人はいない。いずれ手に入れようと貯金をしたり、実際に入手して使い続けたファンも多い。筆者もC-2aとNS-1000Mを所有していた時期があり、特に後者は1990年代後半まで使い続けていた。そして、このNS-1000Mのコンセプトを意識しつつ最先端の技術で新規に作り上げたのが、冒頭でも触れたスピーカーNS-5000なのだ。

このように、今日までほぼ半世紀近い歴史を思い出すと、NS-5000やC-5000/M-5000が唐突に出てきたわけではないことが理解できるはず。また当時の上位機種の定価を現在の基準に置き換えると、価格面でもそれほどかけ離れた差ではなくなる。

C-5000/M-5000のサウンドを他社・自社の組み合わせで検証する

前置きが長くなった。ここからはC-5000とM-5000の音と使い勝手を順番に紹介していこう。技術的な特徴についてはこちらのニュースが詳しいが、音質と関連する特徴は随時触れることにする。

さきほど触れた通り、ヤマハは日本のオーディオメーカーのなかではデザインへのこだわりが強いことで知られる。今回のC-5000とM-5000も切れの良いシャープな要素とウォームな感触がバランス良く両立した優れたデザインだ。写真ではシャープでスクエアな面が強調されがちだが、実際に部屋に入れてみるとサイドウッドのピアノフィニッシュが柔らかい感触を醸し出し、落ち着いた雰囲気を感じさせる。今回はシルバー仕上げが届いたが、ブラック仕上げの場合もサイドウッドはブラックのピアノフィニッシュとなる。

ウィルソンオーディオのスピーカー「Sophia3」を組み合わせた
分解能の高さが際立つC-5000。微小な音まで忠実に再現する

エソテリックのユニバーサルプレーヤー「K-01X」をバランス接続でC-5000につなぎ、CDとSACDを再生する。

プリアンプ単独で聴くと、一音一音の質感の高さに強い印象を受けるとともに、細部の精密な描写力がそなわっていることに気付く。ヤルヴィ指揮NHK交響楽団のR.シュトラウスやロト指揮レ・シエクルのストラヴィンスキーなど編成が大きい管弦楽を聴くと、旋律や低音楽器のリズムが強く前面に出てくるが、さらに耳を集中させると、脇役として細かい音符を刻む第2ヴァイオリンやヴィオラの音形、さらに旋律以外の音で和音を支える管楽器のフレーズが自然に耳に入ってくる。

弱音だけでなくフォルテシモでも全体がひとつながりの塊にならず、よくほぐれているが、線が細くなりすぎることはなく、それぞれの楽器の実体感や輪郭の太さは正確に再現する。

音の分解能が高く、楽器間の複雑な重なりを見通しよく再現するのは、セパレートアンプの長所の一つだ。特にC-5000では、独立した左右チャンネルの基板を背中合わせに配置するブックマッチ・コンストラクションと全段フルバランス伝送がもたらす効果が大きいように思う。ノイズフロアが低く余分な付帯音が乗らないので、微小な音を忠実に再現し、各楽器の音色を描き分ける能力が高いのだ。

C-5000の内部
LRのチャンネルボードを、上下完全対称・左右同一パターンで配置した「ブックマッチ・コンストラクション」。

同じくバランス接続でLINNのKLIMAX DS/3をつなぎ、「ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ」のハイレゾ音源を聴いた。楽器の数はオーケストラに比べれば桁違いに少ないが、ライヴ会場の物音やミュージシャンの息遣いなど、楽器の音以外にもいろいろな情報が入っている音源だ。

そうした微小な音を正確に再現すると、目の前の空間に楽器が立体的に展開し、プレイヤーたちを包み込む現場の雰囲気や空気感まで生々しく感じられるようになる。たくさんの楽器を細かく鳴らし分けるのと基本的には同じことなのだが、空間の立体感を引き出すための情報はさらに微妙なところがあり、それをどこまで再現するかによって臨場感に差が出てくるのだ。

C-5000で聴くライヴ音源はバーチャルなステージがスピーカーの間で3次元で広がり、しかもドラムとサックスの掛け合いなど、プレイヤー同士のインタープレイからも高揚感が伝わってくる。

フォノアンプ性能もハイレベル。MC入力は期待を大きく上回る出来

フォノ入力にフェーズメーションのPP-2000をつなぎ、レコードも聴いてみた。結論から言うとC-5000のMC入力は期待を大きく上回るクオリティだった。気が付いたら10枚以上のレコードを続けて聴いていたほどだ。入力インピーダンスはいろいろ試したが、筆者の耳には100Ωのポジションが一番好ましく感じた。

フロントパネルのつまみで入力インピーダンスの切り替えが可能

ハイレゾ音源でも聴いた「ジャズ・アット・ザ・ポーンショップ」はデジタル化された音源以上にアルトサックスの実在感が高く、空中に浮かぶ楽器のイメージは驚くほど生々しい。ライヴ空間の臨場感という意味ではハイレゾの方が一枚上手だが、レコードで聴くとソロ楽器にピタリとフォーカスが合い、聴かせどころが一番美味しい音で鳴る。没入感はレコードの方が強い。

クルレンツィス指揮ムジカエテルナの「モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》」はデジタルのセッション録音なので音源自体のS/Nが非常に高い。完全な静寂のなかから演奏がいきなり立ち上がる雰囲気はまるでCDのようだが、声の勢いやピリオド楽器の鋭い立ち上がりはレコードの方が刺激が強くて面白い。もちろん、どちらも再生システムで誇張しているのではなくて、演奏自体がクラシック演奏の常識を覆した過激なものなのだが、それをありのままに、しかも力まずに再現していることに感心させられた。

本機の開発陣は、秋に登場予定のGT-5000の試作機を筆頭にいろいろなプレーヤーを組み合わせてフォノイコライザーの音を追い込んでいるはずだ。今回は筆者の試聴室でデノンの「DP-80」やサエクの「WE-407/23」を組み合わせて聴いたわけだが、フォノアンプのポテンシャルが高いことは十分に伝わってきた。GT-5000との組み合わせでどんな音が出てくるのか、完成時にシステムで聴くのが楽しみだ。

編注:5月18日~19日まで秋葉原・損保会館(東京都千代田区神田淡路町2丁目9番地)で開催される「アナログオーディオフェア2019」で、ヤマハ5000シリーズの試聴が可能

M-5000の音調はアクティブで伸びやか。何より瞬発力の大きさに驚いた

パワーアンプM-5000は手持ちのプリアンプと組み合わせ、まずは単独で聴いて音調をあらかじめ確認しておく。

C-5000と同じく完全バランス構成のため、電力増幅ブロックは4回路で構成される。グラウンドからの影響を切り離すフローティングバランス回路はヤマハのオリジナル技術で、本機もそれを踏襲。中央前方に巨大なトロイダルコアトランスを配置し、その左右にパラレルMOS-FET出力段を並べるレイアウトは完全に左右対称で、信号の流れから見ても理想的なもの。プリメインアンプでは、ここまで理想的な回路配置を実現するのはきわめて難しく、セパレートアンプの独壇場だ。前面パネル中央に配置したレベルメーターは照明が暖色系で配光も柔らかく、見た目も美しいので、常時オンにして試聴した。

M-5000の内部
暖色系の柔らかいイルミネーションが楽しめる前面パネル

C-5000の第一印象は繊細で落ち着いた音調というものだったが、M-5000は微妙に方向が異なる。まずオーケストラを聴いた瞬間、その瞬発力の大きさに驚いた。音調はアクティブで伸びやかだし、低音は芯が緩まず、打楽器のインパクトも強靭だ。山田和樹指揮スイス・ロマンド管弦楽団のルーセル《バッカスとアリアーヌ》冒頭で弦、管、打楽器すべてが最大音量で演奏するフレーズは、どの楽器も鳴りっぷりが良く、音がぶつかっても音像がにじんだり広がりすぎることがない。

スピーカーは筆者が常用しているウィルソンオーディオの「Sophia3」を鳴らしたが、このスピーカーは音域によってはインピーダンスが3Ω前後に下がることがあり、低インピーダンスに強いアンプを組み合わせないと芯のある低音を引き出しにくい面がある。プリメインアンプだと難度が高く、セパレートアンプでも製品を選ぶのだ。

音を出す前はそこに少し不安に感じていたのだが、低音楽器の強靭なサウンドを聴いて、まずは安心した。このクラスのフロア型スピーカーをここまで鳴らせれば、NS-5000と組み合わせても質感が高く反応の良い低音を引き出すはずだ。

レコードで「アンナ・ネトレプコとローランド・ビリャソンの二重唱(グノー:ロミオとジュリエットから)」は、ソプラノとテノールの音色がどの音域でも硬くならず、柔らかく溶け合って厚みのあるハーモニーを生む。いろいろなジャンルの音源のなかでもオペラは特に再現が難しいものの一つで、特にソプラノとテノールという人間の声の極限ともいうべき高音のテンションの強さや明るさを正確に引き出すのはとても難しい課題だ。

ネトレプコとビリャソンが最も力強い声を有していた時期の録音なので、ここまでなめらかでしかも力強い声が聴けると、思わず嬉しくなる。

繊細なプリとアクティブなパワーが協調したバランスの良い再生音

C-5000とM-5000を組み合わせて聴くと、プリアンプの繊細な表現力とパワーアンプのアクティブな面が重なり、バランスの良い再生音が生まれる。それぞれの特徴がぶつかって互いに打ち消してしまうのではなく、個性を活かしつつ、協調していくような関係だ。

セパレートアンプはプリとパワーを別々のメーカーで組み合わせる楽しみもあるが、やはり同じブランドで揃えるメリットも無視できない。今回はC-5000とM-5000それぞれを他社のアンプと組み合わせて聴いてからペアで試聴したが、音源のジャンルやフォーマットを問わず、ヤマハ同士の組み合わせが音色、質感、エネルギー感など多くのポイントで良い結果を引き出していた。

組み合わせるプレーヤーやスピーカーによっては違う結果になることもあるが、その変化を楽しむのも、趣味性の高いハイファイオーディオならではの面白さ。またハイエンドクラスのコンポーネントはデザインだけでなく音自体も意外なほど個性が強いので、組み合わせを工夫するプロセスも奥が深いのだ。

(協力:ヤマハ)

山之内正

神奈川県横浜市出身。オーディオ専門誌編集を経て1990年以降オーディオ、AV、ホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も演奏活動を継続。年に数回オペラやコンサート鑑賞のために欧州を訪れ、海外の見本市やオーディオショウの取材も積極的に行っている。近著:「ネットオーディオ入門」(講談社、ブルーバックス)、「目指せ!耳の達人」(音楽之友社、共著)など。