レビュー
7千円を切る超小型アダプタでスマホ音楽が一変! iBasso「DC01」と「DC02」を使った
2019年10月2日 07:30
スマートフォンでストリーミング音楽をより良い音で聴いたり、ハイレゾ楽曲を本来の高音質で楽しめる外付けのUSB DACやヘッドフォンアンプ。既に数多くの製品が販売されている中、6,000円台と低価格でコンパクトながら高機能な注目モデルが登場した。iBasso Audio製の「DC01」と「DC02」を紹介したい。
スマホ用のヘッドフォンアンプなどを既に愛用している人もいる一方で、そうした機器のサイズやデザインを目にして使うのをためらったり、最初は使っていたけれど、持ち運びが煩わしくて使わなくなった人もいるのではないだろうか? 好きなアーティストのハイレゾ盤リリースなどをきっかけに高音質へ興味を持っても「スマホ以外に大きな機器を持ち歩くのはちょっと……」と思う人にも朗報なのが、今回の2モデルだ。
MUSINが輸入販売する中国・深センのオーディオメーカーiBasso Audioは、ヘッドフォンアンプやハイレゾ対応のポータブルオーディオプレーヤーを展開。10万円を超えるミドルハイエンドの高級機もラインナップしている。同社が8月に発売した「DC01」と「DC02」は、超小型のUSB DAC内蔵ヘッドフォンアダプター。イヤフォン端子を持たないスマホに、メーカー純正のUSB接続アダプターを付けている人もいると思うが、その高機能&高音質版と考えるとわかりやすい。
約11gの本体で、バランス接続も
DC01とDC02の大きな違いは、「内蔵するDAC(デジタル/アナログ変換)チップのグレード」と、「より高音質なバランス接続に対応しているかどうか」の2点。DACチップは旭化成エレクトロニクス製で、DC01が「AK4493EQ」、DC02が「AK4490EQ」。DC01に搭載するAK4493EQの方が、SN比などスペック面が優れた上位モデルだ。そのDC01はバランス接続にも対応している。ヘッドフォン端子はDC01が2.5mm 4極バランス、DC02が3.5mmステレオミニ。
いずれもスマホとの接続端子はUSB Type-Cで、付属アダプターを使うとPCなどとのType-A接続も可能。最近のスマホはUSB-C端子の採用率が高いため汎用性の面でも安心だ。
価格はオープンプライスで、直販価格はDC01が6,926円(税込)、DC02が6,213円(税込)。いずれも1万円を切る低価格だが、決して性能面を妥協しているわけではないことを実感できたので、詳しくは試聴を交えて紹介していく。
3.5mmアンバランス接続対応モデルであるDC02の重量は8gで、スマホにぶら下げて操作しても支障のないレベル。
サイズも小さく、本体部の長さが4cm弱、ケーブル部が6cm。全体でも12cmほど。長くて邪魔になることはほぼ無さそうだ。特に最近のスマホは大型化しているので、導入時のハードルは低いといえる。銀色の本体はシンプルなデザインで、「ヘッドフォンアンプを持ち歩いてます」と主張したくはない人にも使いやすいだろう。
2.5mmバランス接続対応のDC01も重さは11gとほぼ変わらない。全体の長さも同一で12cm。本体の形が若干変わっているが、DC02と比べて携帯性に違いは感じなかった。
ケーブルは両製品ともオーディオグレードのものを採用しているが、外観からは、ケーブルの構成が異なるのが見える。多くのテストや試作を繰り返し、ピュアな信号伝送と耐久性にこだわったという。
最も基本的な使い方であるAndroidのスマートフォンに接続してみた。今回はHUAWEIのスマートフォンを使用。再生アプリは、無償のMusic Centerとメーカー動作確認済みのNeutron Music Playerをそれぞれ試した。どちらのアプリもDSDのネイティブ出力に対応しており、DoPからDSDネイティブに切り替えて試聴した。イコライザー等のネイティブ再生を阻害する機能はすべてOFFに設定している。
再生アプリ側からの操作に音が出遅れることはなく、バッファーの設定にもよるが、基本ノーストレスで使用できるだろう。なお、DC01/DC02ともに据え置き高級オーディオにも使われるようなハイクラスのDACチップを使っているためか、本体部は結構発熱するようだ。
続いてPCと接続。PCはWindows、Macともにサポートしている。USB Audio Class 2.0に対応しているため、Windows 10ではドライバーが不要。挿してすぐ使用できる。ハイレゾ対応の再生ソフトウェアにて使用してみると、サウンドデバイスとしてはWASAPIの一覧に表示される。PCMは384kHz/32bit整数まで。DSDは11.2MHzまで対応しているので、現存するほぼすべてのハイレゾ音源を再生できる。安い製品だから、一部楽曲の再生を諦めるという切ない結果にはならなくて済みそうだ。
なお、筆者のWindows 10のノートPCでは、手持ちの有償無償様々なソフトを試したものの、DSDのDoP再生はレートの大小を問わず音飛びが発生してしまった。USB-CおよびUSB-Aで試しつつ、再生バッファーを最大にしてみたが変わらず。そこでメーカーから提供されたドライバーのBRAVO-HD Audioを使い、ASIOによるDSDネイティブ再生で問題なく楽しめた。ドライバーは、メーカーの製品サポートページで今後公開予定だという。
DSD 11.2MHzまでサポートしているが、DoP再生の場合はDSD 5.6MHzまでの対応となり、DSD 11.2MHzをネイティブ再生するときはドライバーが必要となる。これは、USB DACとしてPCM 384kHzまでの対応となっている点に起因する。Windows 10の方もドライバーをインストールしASIOによる再生を個人的にはお勧めしたい。なお、Windows 7/8はドライバーが必須となる。
iPad mini 4にも接続してみた。iPhoneを含むiOS端末は、メーカーのサポート対象ではないので使用は自己責任であるが、まったく問題なく動作した。ただ、Lightning端子のiPad mini 4だと、USBカメラアダプターを介して接点が合計3つになっており、信号のロスを避けたいピュアオーディオの観点からはあまり望ましくない。iOS端末の場合は、USB-C端子採用iPadなどとの組み合わせの方が良いかもしれない。
Androidアプリとの組み合わせで価格以上の音質
では、実際に聴いた音のインプレッションをお届けする。前述のAndroidスマホHUAWEI Mate 9に純正のボリュームコントロールアプリ「iBasso UAC」をインストールして使って聴いた。
一般的にAndroidスマートフォンで音楽を聴く場合、標準のSRC(サンプリングレートコンバーター)を介して音声出力するため、音量調整にソフトウェアのボリューム機能を使うことになる。デフォルトでは最大になっている音量をソフトウェアで下げることはできても、ノイズフロアを下げることはできないことから、iBassoでは64段階のハードウェアボリュームコントロールが可能な専用アプリ「iBasso UAC」を開発して採用したという。つまり、ソフトウェアボリュームが音質劣化の原因となるため、対策として作られたアプリがiBasso UACというわけだ。
同アプリを使うときは再生アプリの音量を最大にして、実際の調整はiBasso UACのアプリに切り替えて行なう。これによって、アプリからDC01/DC02のハードウェアボリュームを直接調整できる。ひと手間は必要だが、劇的に音質が向上するので、Androidユーザーはぜひこれを使ってほしい。
具体的には、SN、解像度、躍動感、低域の密度などが大幅に向上してリッチなサウンドになった。iBasso UACは、今回使った他社の再生アプリとも連携し、一部では音が出なくなる現象も発生したが、端末を再起動すれば直った。再生アプリは、基本的にNeutron Music Playerを使っている。
帯域バランスは、予想していたよりフラットで音楽のジャンルを選ばない。低コスト品にありがちな、“高域が強めに出て、中低域が腰砕けの軽い音”では全くない。フュージョンは、ドラムの実在感、ベースの肉厚さを違和感なく描写しているし、劇伴ではストリングスの質感を適度に醸し出しつつ、余計な癖を乗せないバランスの良さに感心した。
384kHz/32bit整数のハイレゾも満足の音質
続いて、本機が対応するPCMフォーマットの最大である384kHz/32bit整数の音源を試してみた。筆者は知人の作曲家と音楽ユニットBeagle Kickとしても活動しており、珍しいハイレゾ音源をいくつか発表してきた。先月リリースしたエレクトロ系のジャズ「SUPER GENOME」はネイティブ32bit整数録音をおそらく世界で初めて実現した配信音源としてe-onkyo musicなどで配信している。
録音からミックス、書き出しまですべて32bit整数というこの楽曲をDC02がどれほどのマスタークオリティで奏でることができるのか。同レート(384kHz)の24bit版と合わせて比較試聴してみた。なお、32bit出力はアプリの「64bitオーディオ処理」を有効にする必要がある。
スタジオで録音とミックスの現場に同席した筆者からも、太鼓判を押せる音質。この価格の製品としては十分過ぎる出音だ。32bitと24bitの違いはPCよりも鮮明に聴き取れた。SNが向上したことで、32bitに変えたとき弱音の表現力が増したことをハッキリ判別できたのには息をのんだ。同時に鳴っている大きい音にも埋もれない描写力だ。
24bitでは気づかなかった、かすかな音のリズムトラックにハッとさせられる。コーラスの繊細なニュアンスの変化も32bitは素晴らしい再現度。据え置きハイエンドDACで聴いたときの音場の広がりや楽器の立体感といった要素も確かに感じられた。これは期待以上だ。Android端末とiBasso UACを組み合わせれば、価格を遙かに超えたパフォーマンスを発揮する。自分たちの作品は、ぜひこういった音で聴いていただきたいと思った。
DC01は、バランス接続にも対応する。Astell&Kernとbeyerdynamicがコラボしたイヤフォン「AK T8Ie」を用いて、DC02とのバランス/アンバランスの音質比較を行った。映画 天気の子 オリジナルサウンドトラックより「芝公園」。DC02ではちょっと打ち込みっぽさもあったストリングスがDC01になるとスコアリングスタジオで演奏されている生らしさをハッキリと感じさせる。エアーボリュームの再現、つまり音場空間が俄然リアルになる。
「ゼノブレイド2 黄金の国イーラ」より主題歌「A Moment of Eternity」を、DC01からDC02に変えて聴くと、チャンネルセパレーションが低下して左右の音場が少し混濁する印象。解像度もやや低下するため、生楽器のディテールが損なわれていると感じた。広がり感も縮小するので、耳の近くで全部の音が鳴っているように感じられて、窮屈さは否めない。特に本楽曲のような大編成のストリングスと女性ボーカルのバラードでは、ムード感も変わってくるからその影響は無視できないだろう。
上記の「SUPER GENOME」も比較してみたが、圧倒的にDC01が良い。音場の広がりと透明度が大きく向上する。32bit整数の良さを味わい尽くすなら、バランス接続のイヤフォンを揃えたいところだ。
なお、アンバランスのDC02だけ聴けば、正直大きな不満はない。ただ、わずかな価格差でこれだけの音質向上が見込めるなら、やはりDC01を薦めたくなる。
PCやiOS端末とも接続して聴いた。PCではハイレゾ対応の有償/無償ソフトウェアを複数使用し、iPad mini 4はOnkyo HF Playerを使った。
PCに比べると、iPad mini 4は接続接点が増えていることも影響するのか、音質が劣っていると感じた。PCは、SN、音像の鮮明さ、純度、低域のエネルギー感などで、価格相応の性能という印象だ。6,000円台という低価格を考えると十分健闘している。USBバスパワーかつ超小型のボディに反して、駆動力不足は感じなかった。低感度/ハイインピーダンスのイヤフォンでは厳しいだろうが、一般的なダイナミック型のイヤフォンであれば必要十分かと思う。なお、DC02の仕様上の出力は、900mV(32Ω負荷時)。
言うまでもないが、PC内蔵のイヤフォン端子から直接聴くとSNが悪く、DC02を経由した場合とは比較にならないレベル。普段、YouTubeなどで動画を見る人も、パソコンに挿して手軽に音質をグレードアップできるので試してほしい。
一方で、前述したAndroid端末で専用アプリ「iBasso UAC」を使って聴いた時の方が音質はよかったため、欲を言えばPCやiOSにも同様のボリュームコントロールアプリを開発して欲しいと思う。
イヤフォン接続アダプター感覚で手軽に高音質体験
音楽を聴くのにオーディオ機器やパソコンを使わず、スマートフォンだけで十分という人は増えていると思う。
スマホに合わせやすいコンパクトなデザインと、ハイレゾも高いクオリティで楽しめる音質。DC01/DC02を使ってみて、コストパフォーマンスの優れたUSB DACイヤフォンアダプターとして手軽に音質をアップできることが確認できた。価格はもちろん、使い勝手の面で現実的な選択肢として、ハイレゾ未体験の方にこそ使ってみてほしい。