レビュー
“全スピーカーワイヤレス接続”の5.1chシステムをオンキヨーで聴いた
2021年3月11日 11:00
部屋に沢山のスピーカーを設置するホームシアター。当然ながら、カーペットやモールなどで隠さないと、何本ものスピーカーケーブルが床を這い回る事になる。美観や掃除などの面で理想と言えるのが“スピーカーケーブルが要らないホームシアター”だが、オンキヨーホームエンターテイメントがその名も「Innovative Wireless Speaker System」として先行販売を開始しようとしている。実際にどんなシステムなのか、同社で体験してきた。
「Innovative Wireless Speaker System」が発表されたのは3月5日。まだ製品は開発途中で、CCCグループの「GREEN FUNDING」にて3月15日より先行発売をスタートする。詳細はまだ未定だが、7月に支援者へと製品を配送する予定で、その後一般販売を予定している。
先行販売時の製品ラインナップは3つ。価格(税込)は2.1chシステムが54,800円(一般販売予定価格74,800円)、3.1chシステムが69,800円(同89,800円)、5.1chが89,800円(109,800円)だ。先行販売価格は、一般販売価格よりも低価格になっている。先行販売の実施期間は5月13日までだ。
設置や片付けも簡単。ゲームのクオリティ強化にも
通常のホームシアターは、複数のアンプを筐体に内蔵したAVアンプが核となり、そのAVアンプでセンタースピーカー、フロントスピーカー、リアスピーカーなどを鳴らす。その際に、AVアンプと各スピーカーをスピーカーケーブルで有線接続する必要がある。
Innovative Wireless Speaker Systemで核となるのはAVアンプではなく、手のひらサイズのワイヤレス音声送信機。HDMI(eARC/ARC)入力と光デジタル音声入力を備えており、内部にDSPや信号伝送用のアンテナなどを内蔵しているが、アンプは備えていない。
HDMIから入ってきたテレビや映画などのサウンドを、DSPでデコード。それを「WiSA」というワイヤレス音声伝送技術を使って無線で送信。個々のワイヤレススピーカーがそれを受信し、個々に内蔵しているアンプで増幅、ユニットから音を鳴らす……というのが全体像だ。
ワイヤレスの音声伝送としてはBluetoothがお馴染みだが、5GHz/UNIIバンドを使う「WiSA」(Wireless Speaker and Audio)を採用したのは、8chまで音声データを、さらに非圧縮の高音質で伝送できるためだ。具体的には96kHz/24bitまでのデータを伝送できる。また、遅延も約2.6~5.2msecと抑えられており、テレビの映像と遅延の少ない再生を実現できる。ゲームも快適にプレイできるというわけだ。
注意しなければならないのは、“スピーカーケーブルは不要”だが“ケーブルレスではない”という事。前述のように、各スピーカーはアンプを内蔵したアクティブスピーカーであるため、“電源ケーブル”は接続しなくてはならない。そのため、例えば5.1chスピーカーシステムの場合は、スピーカーが6台、そして送信機も存在するため、合計7本の電源ケーブルを使う事になる。
ただ、全スピーカーが1台のAVアンプにスピーカーケーブルで接続するのと比べ、「ケーブルが部屋を縦断しない」、「スピーカーケーブルの接続よりも、電源ケーブルの接続の方が作業が楽」、「スピーカーケーブルの長さに依存しない自由度の高いレイアウトができる」といった利点がある。
また、スピーカーの追加も気軽にできる。例えば、2.1chシステムを買ったあとで、センタースピーカーを追加で買って3.1chにしたり、そこにさらにリアスピーカーを追加すれば、5.1chシステムを完成できる。
スピーカーの割当は、専用アプリで実施。アプリの画面に、認識されたスピーカーがアイコンで表示されるので、各アイコンを押すと、それに該当するスピーカーから確認用の音が出る。このアイコンを長押しすると、指でドラッグして移動できるようになる。例えば「右に置いたスピーカーが、左チャンネル用スピーカーと認識されてしまった」ような場合は、指でアイコンの配置を逆にすれば解消される。
セットアップも簡単
送信機はeARC(Enhanced Audio Return Channel)に対応する。対応しているテレビと、HDMIケーブル1本で接続できる。ここまでは「ARC」でも同じだが、eARCに対応しているテレビとであれば、Blu-rayの非圧縮の96kHz音声も伝送できる。
送信機のDSPではDolby Atmosや、MPEG-2 AACのデコードも対応予定。デコードした音声を、デジタルのままスピーカーへワイヤレス伝送するため、余計なアナログ変換が入らないという利点もある。
電源ケーブルさえ接続すれば、あとはアプリからスピーカーの割り当てなどをするだけでセットアップが完了する。スピーカーケーブルの先端を処理して、重いAVアンプを動かして背面に手を入れて接続して……という作業が不要なので、AV機器に詳しくない人でもセットアップができるという。
スピーカーはコンパクトで、サブウーファーも薄型
実は、このInnovative Wireless Speaker Systemは、海外メーカーのWiSA LLCとオンキヨーとの共同開発製品だという。今回見せていただいたモデルは、まだ製品版ではなく、送信機のDSP処理まわりのブラッシュアップや、アプリの日本語化などが今後進められる予定。また、音質面も今後さらに進化する見込みだ。
フロントスピーカーとリアスピーカーは同じもので、外形寸法は110×150×170mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクト。7.6cm径ウーファーと、2cm径ドーム型ツイーターの2ウェイで、ウーファーにはグラスファイバーコーンが使われている。アンプの出力は30W。筐体にはMDFが使われている。
サブウーファーは110mmと背が低く、平たい形状。幅は380mm、奥行きも310mmに抑えられている。このサイズであるため、ソファーなどの下にも設置できる。ユニットは底面に搭載したダウンファイアリングタイプで、口径は16.5cm。アンプ出力は150Wだ。
センターは7.6cmウーファー2基で、2cm径ツイーターを挟んだバーチカルツインタイプ。アンプ出力は50Wとなっている。
音を体験してみる
前述の通り、製品化に向けてはさらに音がブラッシュアップされる予定だが、現時点のサウンドを、Atmosのデモディスクや映画「ボヘミアン・ラプソディ」のライブシーンなどで体験した。
フロントやリアスピーカーは片手で簡単に持ち運べるサイズのコンパクトさだが、筐体の剛性が高いようで、音量を上げても付帯音が少なく、音がクリア。ユニットの振動板も剛性が高く、タイトでキレのある、情報量の多い中高域を再生してくれる。
そのため、音場の空間表現にも優れ、屋外ライブシーンの空間の広さや、奥行きの深さが良く分かる。ワイヤレスではあるが、リアルなスピーカーを背後に置いているので、自分が音に包み込まれるような感覚がしっかりと味わえる。この臨場感は、バーチャルサラウンドを駆使したサウンドバーではなかなか得られないもので、リアスピーカーをしっかり設置したホームシアターの醍醐味と言えるだろう。サウンドバーやヘッドフォンでしからサラウンドを体験したことがない人は、音像が自分のまわりをグルグルとまわるような演出のシーンで、移動感のリアルさに驚くだろう。
薄型サブウーファーも、サイズからすると頑張っており、量感のある中低域を聴かせてくれる。さすがに、本格的な大型サブウーファーと比べると、地響きのような低音は出ないが、お腹にドスドスと響く程度の低音は味わえる。無理に中域を膨らませて派手さを出そうとするタイプではないので、中高域のクリアさを邪魔しておらず、好感が持てる。小型フロントスピーカー&リアスピーカーとの音のつながりも良好。ワイヤレスであっても、ホームシアターの醍醐味を手軽に味わえる入門スピーカーとしての実力は備えていると感じた。
セットアップが電源ケーブル接続とアプリ操作だけと簡単なので、例えば「普段は2.1chで楽しんで、映画を楽しむ時だけリアスピーカーを出してきてホームシアターにする」といった使い方や、大きくて重くて移動しにくいAVアンプが無いので「書斎で楽しんでいたシステムを、週末はリビングに移動させて楽しむ」といった使い方もできそう。ホームシアターの新たな可能性を感じさせる製品だと感じた。