レビュー

コスパ最強!? 元国内メーカーエンジニア達による高音質、Cleer TWS

左から「ALLY PLUS II」、「Roam NC」

製品数が膨大になっている完全ワイヤレスイヤフォン。低価格化も進み、5,000円を切るモデルも珍しくなくなっている。購入しやすくなったのは嬉しい事だが、“コスパ”という観点で見ると、低価格なだけでなく、“音質も良く”や“デザイン性も良く”なければならない。そんな厳しい条件をクリアした注目製品がある。米国のCleerというブランドが手掛けた、「ALLY PLUS II」と「Roam NC」だ。

詳しい話の前に価格を見ていこう。10mm径グラフェンドライバーユニットを採用し、ハイブリッド方式アクティブノイズキャンセル(ANC)機能と、周囲の音を取り込むアンビエントモードも搭載した上位機が「ALLY PLUS II」実売17,820円前後。

ALLY PLUS II

そして、ハイブリッド方式ではないがANC機能を搭載し、独自設計の5.8mm径カスタムドライバーを搭載した、シンプルコンパクトな「Roam NC」は、12,100円前後となっている。

Roam NC

コスパが良い製品なので“安っぽいイヤフォンか?”と思いきや、写真でおわかりのように、結構カッコ良くて、品のあるデザインで驚く。だが、Cleerというブランドの事を知ると、「なるほど、そういう事か」と納得する。

Cleerとはどんなブランドなのか

Cleerは、2012年にアメリカ・南カリフォルニアのサンディエゴで設立されたオーディオメーカーだ。設立からは約10年だが、それ以前に、創業者は、米ソニーで長年オーディオ製品に関するキャリアを積んだ人物。その経験も活かし、海外ではクオリティの高い製品を既に40モデル以上発売。国際的なオーディオ賞も受賞するなど、人気ブランドに成長している。

日本と関わりが深いのは創業者だけではない。音響チームには、元ソニーや元フォステクスの日本人エンジニアが参加。ブランド名の通り、“透き通るほど美しいクリア音質”を追求しているそうだ。

ALLY PLUS II
Roam NC

デザイン面は、日本のソニーで勤務後、米国のSONY Design Centerで副社長を務めたデザイナー、アレックス・アリエ・イサム氏がチーフデザイナーを担当。シンプルさを突き詰めたミニマルなデザインが特徴だ。

ALLY PLUS II

製造・開発しているファクトリーも普通ではない。国際的なオーディオブランドの製品も手掛けているファクトリーで、とにかく技術力と信頼性が高く、なんとQualcommのリファレンス設計も手掛けているという。つまり、Qualcommのチップセットを採用したイヤフォンを各メーカーが作る時に、“お手本”として参考にするTWSを、このファクトリーが作っている……というわけだ。

ファクトリーだけでなく、Cleer自身もQualcommなどともパートナーシップを結び、研究開発に注力。オリジナルドライバーやオーディオソフトなどを開発できるほか、スマートオーディオやAIに関しての研究も行なっているそうだ。

こうした背景を踏まえて「ALLY PLUS II」と「Roam NC」を見てみると、カラーリングも含めて、“ありがちなTWS”とは良い意味で違う理由がわかる。シンプルかつ上質なデザインと、価格を超える高級感には、こうした背景があったわけだ。

ALLY PLUS IIの充電ケース。中のイヤフォンが見える

ALLY PLUS IIなどは、充電ケースの見た目からしてインパクトがある。透明なガラスが使われており、中に収納されているイヤフォンがそのまま見えている。筆者は一度、外出先で音楽を聴こうと充電ケースを開けたら、イヤフォンが入ってなかった(家にあるズボンのポケットにイヤフォンだけ入れたままだった)というミスをした事があるが、このケースであればそんな心配も無用だ。

実用的なだけでなく“カッコいいイヤフォンを常に目にできる楽しさ”もある。イヤフォン自体のデザインに自信があるからこそのケースデザインと言えるかもしれない。ちなみに、このケースはワイヤレス充電(Qi)対応だ。

ALLY PLUS II

筐体は円形を主体としているが、耳に触れる内側は人間工学的なデザインになっている。ハウジングの外周と、中央のロゴには光沢感のある塗装が施されていて、落ち着いた発色と見た目ながら、高級感が漂う。女性にも好まれそうなデザインだ。

ALLY PLUS II

下位モデルのRoam NCも、基本的な形状はALLY PLUS IIを踏襲しているのだが、全体的に小ぶりになっている。塗装がマット仕上げで、より落ち着いた雰囲気になっており、ALLY PLUS IIとは違う方向性のデザインだ。

Roam NC

ケースは薄型かつコンパクトで、こちらもイヤフォンとマッチするマット仕上げ。色味も合わさって、ミリタリー風というか、アウトドアグッズ的な雰囲気が漂っている。ALLY PLUS IIの高級感も良いが、デザイン的にはRoam NCの方が好きという人もいるだろう。

Roam NCの充電ケース

内部を詳しくチェック

ALLY PLUS II

ALLY PLUS IIのアクティブノイズキャンセリング機能(ANC)は、イヤフォンの外側にマイクを搭載し、外のノイズを集音、それと逆位相の音を再生する「フィードフォワード方式」と、イヤフォンの内側に搭載したマイクでノイズを拾い、ノイズと音楽を足したものの逆位相を作るフィードバック方式を組み合わせたハイブリッド方式だ。外部の音を取り込むヒアスルー機能も備えている。

ALLY PLUS IIの内部。10mm径と大口径なダイナミックグラフェンドライバーを搭載している

ALLY PLUS IIのもう1つの特徴は、10mm径と大口径なダイナミックグラフェンドライバーを搭載している事。「忠実度の高い音楽再生」を追求しており、音の傾向としては「聴き疲れが起きやすい高音域、低音域を過度に演出することなく、最適なバランスで自然に音源を鳴らすことで長時間リスニングにも最適」だという。本当にそうなのか、はあとで聴いてみよう。

なお、ALLY PLUS IIはQualcommのチップセットとして「QCC5141」を採用した。近年はリモートワークでもTWSが活躍しているので、マイクにもこだわっている。2つのマイクを用いたデュアルマイクテクノロジーと、Qualcommの第8世代「cVc」を組み合わせている。

Bluetoothのコーデックは、SBC、AAC、aptX Adaptiveに対応。なんと、AACに対応しているのは、日本向けモデルだけだそうだ。iPhoneの普及率が高い事を踏まえた心遣いで、これは嬉しいポイントだ。aptX Adaptiveは、対応するスマホと組み合わせると、音質と遅延が最適になるように自動調整してくれる。24bit/48kHzまで伝送に対応している。

IPX4準拠の防水設計も採用しており、雨の日や汗をかくスポーツでも使用できるという。

アプリ「Cleer+」も用意しており、ANCとヒアスルー機能のカスタマイズが可能。タッチコントロールやイコライザーの設定変更もできるほか、耳に装着した状態でテストを行ない、再生音をユーザーに最適化する機能も備えている。

バッテリーの持続時間はANC ON時で、イヤフォン本体が10時間、充電ケースで20時間。ANC OFFでは、イヤフォン本体が11時間、充電ケースが22時間。

Roam NC

Roam NCは、ハイブリッド方式ではないが、カスタムフィルターを使ったANC機能を搭載。外音の取り込み機能も備えている。搭載しているSoCは、こちらもQualcommで「QCC3046」だ。

コーデックも上位モデルと同じで、SBC、AAC(日本独自仕様)、aptX Adaptiveに対応。ALLY PLUS IIと同様にIPX4防汗仕様となり、雨やスポーツ中でも使用できる。

「CLEER+アプリ」も使用でき、ANC機能と外音取り込み機能のカスタマイズが可能。タッチコントロールとイコライザー設定も、自分好みに設定できる。

バッテリーの持続時間は、イヤフォン単体で5時間、ケース充電を含めるとそこにプラスで15時間の再生ができる。

音を聴いてみる:ALLY PLUS II

アプリで再生音を個人に最適化してくれる「Hearing ID」を作ってみる

ALLY PLUS IIを聴く前に、アプリで再生音を個人に最適化してくれる「Hearing ID」を作ってみよう。と言っても、やり方は簡単で、アプリからHearing IDのテストスタートを選び、ナビに従い、聴力テストの練習後に本番テストをするだけ。ノイズが流れる中、ビープ音が聴こえた時にボタンを押すというテストを左右それぞれの耳で行なう。

テスト中の画面

テスト後に、自分に最適化されたサウンドが聴こえるようになるのだが、ON/OFFしてみると、低音の沈み込みがより深くなり、再生音全体に深みが増し、メリハリがついたサウンドになる。基本的にはONにした方が良いだろう。面白いのは、このHearing ID効果自体も調整できる事。つまり「最も自分に最適化された音」も選べるし、「そこからデフォルトの音に少しだけ戻した音」なども、好みのさじ加減で調整できるわけだ。Hearing ID効果が強すぎると感じた場合は、ここを調整するといいだろう。

テスト結果
「Hearing ID」の最適化効果も調整できる
「Hearing ID」とは別に、イコライザー機能もアプリに搭載されている

では、試聴してみよう。Hearing IDをONにした状態で、Amazon Music HDのハイレゾ楽曲などを再生してみる。

ALLY PLUS II

まずは「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」を再生する。冒頭のギターソロから、「あ、これは実力派だ」とわかる。まず、音が高解像度でギターの弦が震える細かな様子が良く見える。また、弦が震える硬質な音と、ギター筐体が反響する木の暖かな音の、音色の描き分けもしっかりできており、ダイナミック型らしい、ピュアかつナチュラルなサウンドを再生できるイヤフォンだとわかる。

1分ほど経過して入ってくるアコースティックベースの低音は、ズシンと深く沈み、重さもしっかり出ている。低域の輪郭もシャープで、ボワボワ膨らんだりしない。タイトさを兼ね備えたビシッと芯のある低域だ。ユニットの口径が大きいだけでなく、ドライブするアンプ部分や、振動板の剛性なども含めてこの低音が出ているのだろう。

これだけクオリティの高い低音が再生できるならと、「James Taylor/Live!」から「ジェイムス・テイラー/ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を再生すると、地を這うような「グォーン」というベースが押し寄せてきて、最高に気持ちがいい。この圧倒的なベースのうねりの中でも、ギターの音や「キャー!」という観客の歓声などはまったく埋もれず、鋭く描写されている。低域から高域まで、どの帯域もキチッと情報量豊かなに再生できている証拠であり、余分な響きをしっかり抑え込んでいる事もわかる。

低域がしっかり再生できるので、音楽全体を下からしっかり支えてくれる安定感のあるサウンドだ。それでいて中高域もクリアに奏でてくれるため、例えば「イーグルス/ホテル・カリフォルニア」を聴いても、冒頭のベースの深さ、重さ、迫力に惚れ惚れしながら、ドン・ヘンリーのキレの良い高域や、コーラスの美声、エレキギター哀愁漂う旋律といった部分もしっかりと耳に残る。

本当に、不満点が見当たらない“よく出来たサウンド”だ。モニターライクなサウンドが好き人、ピュアなサウンドを好むマニアだけでなく、低域もパワフルなので、迫力重視という人にもマッチするだろう。優等生的なイヤフォンなので、どんな人にオススメしても、気に入ってもらえそうな安心感がある。

音を聴いてみる:Roam NC

Roam NC

ALLY PLUS IIのクオリティが非常に高かったので、その後に聴くRoam NCが気の毒に思っていたのだが、耳に装着して音を出すと、「お! 悪くないじゃん!」とニヤニヤしてしまう。

確かにALLY PLUS IIと比べると全体的なレンジは狭いのだが、低域から高域までバランス良いサウンドが出ているのはALLY PLUS IIと同じであるため、大きな不満は感じない。モニターライクな、色付けの少ないサウンドは上位機と同じで、こちらも低価格ながら“超まじめなサウンド”がするイヤフォンだ。

「ジェイムス・テイラー/ユーヴ・ガット・ア・フレンド」の低音も、地鳴りのような迫力はないが、肺を圧迫するような音圧はしっかり出ており、音楽をしっかり支えてくれる。5.8mm径とは思えない低音だ。

特筆すべきは、低域の分解能の高さ。低価格なイヤフォンは、どうしても低音の迫力を出そうと頑張ると、音が膨らんでボヤけるものが多いのだが、Roam NCは低音の1つ1つの音がシャープに描かれ、余分な膨らみが感じられない。ネオジウムマグネットドライバーの強力な磁気回路と、ドライブするアンプ、共振対策が効いているのだろう。

上位機と同様の優等生サウンド。あえて違いを表現するなら、ALLY PLUS IIが“全教科ほぼ満点”の優等生に対し、Roam NCは“全教科80点”みたいな感じだ。この価格を考えると、コスパの高さは驚愕すべきレベルだ。

また、ALLY PLUS IIと比べて優れている点もある。Roam NCは小ぶりかつ軽量であるため、より装着しやすく、装着後の安定感も高い。サッと取り出して装着して、パッと仕舞う一連の動作が本当に楽で、使いやすいイヤフォンだ。

ANC効果もチェック!

ALLY PLUS IIとRoam NCのANC機能をチェック

アクティブノイズキャンセリングの効果も試してみよう。ALLY PLUS IIは、ANC機能のON/OFFに加え、アプリから「スマートノイズキャンセル」機能もON/OFFできる。これは、NCの効果を、周囲の騒音レベルに合わせて自動的に調整してくれるものだ。

まず、電車内でANCをONにすると「カタンカタン」というレールの繋ぎ目を通過する音や、電車のボディが振動する「グォオオ」という騒音が綺麗に消える。不規則な「カタンカタン」音も、低音が消えて、小さな「タタンタタン」という音に抑えられる。

この時点で、騒音がほとんど気にならなくなるので、音楽への没入感が増す。NC ONでも消えずに残るのは、時折、車体がきしむ「キィー!」という高音くらいだ。ざわついた騒音が抑えられる事で、静かな空間が得られ、そこで音楽を聴く事になるので、細かな音の描写がわかりやすい。また、騒音に負けじと大きな音を出す必要も無くなるので、耳の健康のためにもANC機能を活用すると良いだろう。

なお、ANCのON/OFFで再生音に違いはあり、ONの時のほうが低域が深く、パワフルな音になる。この部分も含めて、基本的に常時ANC ONで使うイヤフォンと考えたほうがいいだろう。

アンビエントモードでは、マイクで取り込む外の音の量を調整できる。電車内で試してみたところ、メモリ「5」あたりで、車内のアナウンスは問題なく聴き取れた。前述したスマートノイズキャンセル機能は、ANCをONにした時の閉塞感が気になる人には有用だろう。ただ、ALLY PLUS IIのANC機能自体、そこまで閉塞感はアップしないので、OFFでもあまり気にならないと思う。個人的には、せっかく搭載されている機能なのでONで試用した。

Roam NCのアクティブノイズキャンセリング機能は非常にベーシックなもので、ONにすると、風の音や、電車の「ゴー」という走行ノイズをある程度低減してくれる。効果としてはALLY PLUS IIよりは弱いが、ON/OFFで再生音がほとんど変わらず、効き方としてもソフトで自然なので、この程度のANCでも十分と感じる人も多いだろう。

全体的なクオリティの高さに驚く

ALLY PLUS IIとRoam NCを使って感じるのは、Cleerブランドの高い実力だ。デザイン性の良さだけでなく、音や機能もハイクオリティで、隙がない。世界的に評価が高いのもうなずける。それでいて、価格は抑えられており、「この完成度をこの価格で出されると、他社はやっかいだろうな」と変な心配もしてしまう。

ALLY PLUS IIは、本当によくできたTWSだ。サウンドは万人が気に入るであろう音作りなので、何を買ったらいいかわからないという人にも、「とりあえずこれを聴いてみて」とオススメしやすい。この価格帯における、定番モデルになりうるイヤフォンだ。

個人的にはRoam NCも“推し”だ。「低価格モデルをうまく作れるメーカーは強い」というのが持論なのだが、聴いていると、上位モデルの魅力を取り入れながら、うまくコストダウンしており、こちらも大きな弱点が無い。満足度はあまり下げず、価格を下げているのが実にうまい。

海外サイトを見るとヘッドフォンやスピーカーなども手掛けており、それらもデザイン性が高く、いずれ日本に登場するかもしれない。いずれにせよ、要注目メーカーが日本に上陸したのは間違いないだろう。

(協力:エミライ)

山崎健太郎