レビュー

“ながら聴き”でも衝撃の低音、Cleerの革命児「ARC2」

Cleerの「ARC2」

耳をふさがず“ながら聴き”できるイヤフォンが人気だ。リモートワークで使えば音楽を流しつつ玄関のチャイムに気付けるし、運動する時も車の音が適度に聴こえるので安心だ。骨伝導やイヤカフタイプなど、様々な製品が登場しているが、知る人ぞ知るあのメーカーからも、新たな製品が登場する。Cleerの「ARC2」だ。

Cleerと聞いて、イヤフォンに詳しい読者はニヤリとするかもしれない。2012年にアメリカ・南カリフォルニアのサンディエゴで設立されたオーディオメーカーで、米ソニーで長年オーディオ製品に関するキャリアを積んだパトリック・ファン氏が創業。音響チームにも、元ソニーや元フォステクスの日本人エンジニアが参加しているほか、チーフデザイナーは、初代AIBOのデザインを手掛けた事でも知られ、日本のソニーで勤務後は、米SONY Design Centerで副社長を務めたアレックス・アリエ・イサム氏が担当するなど、凄腕のメンバーが揃っている。

そのため、比較的新しいメーカーではあるが、生み出すモデルのクオリティとデザイン性がすこぶる高く、ここが重要だがお値段もリーズナブル。海外で人気モデルを連発し、国際的なオーディオ賞も受賞するなど、人気ブランドに成長した。

昨年AV Watchでも、完全ワイヤレスの「ALLY PLUS II」と「Roam NC」をレビューしたが、2万円を切るとは思えない音質とデザインで正直驚いた。

そんなCleerから、新たに登場した“耳をふさがない”オープンイヤー型完全ワイヤレスが「Cleer ARC2」だ。GREEN FUNDINGで11日から先行販売がスタートしている。ベーシックなMUSIC Editionの一般販売価格は26,400円前後の予定だ。

超大口径ドライバーで低音不足を解決

Cleer「ARC2」。左から「Sports」、「Music」

このCleer ARC2、「Music(一般販売価格26,400円前後)」「Sports(同28,600円前後)」「Game(同30,800円前後)」という3つバリエーションがある。違いを説明していると長くなるので、ベーシックな“Music”から見ていこう。ちなみに音質に関する部分は3機種共通。ザックリ言えば「Sportsは防水性能強化」、Gameは「遅延をさらに低減」したモデルとなる。ちなみにGREEN FUNDINGでは数量限定だが、早期購入で値引きされるプランも用意されている。

形状としては“耳掛け型”

写真を見るとわかる通り、Cleer ARC2は“耳掛け型”だ。イヤフォン全体がフックのような形状で、耳に引っ掛けて装着する。フックの先端に、内側に向けてドライバーユニットを内蔵している。この配置により、イヤフォンを耳に掛けると、ちょうど耳穴の上にドライバーユニットが来るカタチになる。

装着すると、耳穴の上にユニットが来て、蓋をするようなカタチになる

ドライバーを内蔵したハウジング部分とフック部分は“ヒンジ”で結合されている。このヒンジにはバネが使われているようで、ハウジングを内側、つまり“耳穴がある方向に”倒そうとする力が働いている。この動きにより、ARC2を装着した場合に、ユニットがしっかりと耳穴方向に向いてくれるわけだ。

上から見たところ。写真では指に力を入れて、外側に向けてハウジングを“開く”ようにしているが、力を抜くと、バネの力でハウジングが内側に戻る

構造としては“耳穴の上からユニットで蓋をする”感じになるが、実際は“耳穴の上にユニットが来る”だけで、完全に密着・密閉されるわけではない。そのため、閉塞感の無い開放的なサウンドと、外の音が適度に聴こえるオープン型イヤフォンの利点が得られる。

また、フックで耳に固定するため、イヤフォンの筐体自体を耳に挿入しなくて良い。これにより、“異物を耳に入れている不快感”とは無縁で、長時間使っても負担が少ない。

同時に、筐体が巨大になりすぎるので通常のイヤフォンでは難しい、巨大なドライバーユニットを採用できるのも利点だ。ARC2にはなんと、16.2mmという超大口径ドライバーが使われている。

ハウジングの丸い部分に16.2mm径のドライバーが内蔵されており、下部のメッシュ部分から音が放出される

耳穴に挿入しない“ながら聴き”イヤフォンは、閉塞感が無い反面、密閉できず“低音が出にくい”という欠点がある。ARC2はその課題を、超大口径ドライバーで解決しようという発想だ。ユニットの大型化だけでなく、デュアルサイド・チャンバー構造や、独自のDBE(Dynamic Bass Enhancement)テクノロジーでも、低音を補っている。実際にどんなサウンドが楽しめるのか、聴くのが楽しみだ。

耳への負担が少ないのに軽やかな装着感

まずはともかく装着しよう。といってもやり方は超簡単で、フックを耳裏に沿わせる感覚で、引っ掛けるだけだ。形状として“それしかない”カタチをしているので、左と右を間違える事もない。

細かい話なのだが、「ポケットから取り出した時に左右を確認する」とか「装着時に向きを確認する」みたいな工程が発生するイヤフォンは、その細かなストレスが蓄積して、使わなくなるパターンが多い。ARC2のように“何も見ずにサッと着けられる”気軽さは、愛用する上で重要な要素だ。

装着した上で外を散歩してみたが、歩いたり、小走りする程度では落下の心配は全くない。よほど頭を強くブンブン振ったりしない限り、ズレる気配すらないのは驚きだ。決して耳を締め付けるようなイヤフォンではなく、単に引っ掛けているだけなのだが、形状と重量配分がうまく出来ているのだろう。

1点だけ気を付けたいのが、マスクを着脱する時。マスクの紐がARC2のフックに引っかかりやすいので、無理にマスクを引っ張るとARC2も外れてしまう。これは注意した方がいいだろう。

装着イメージ

“ながら聴きイヤフォン”なのに低音がしっかり出る!

さっそく聴いてみよう。Pixel 6 Proとペアリングし、Amazon Musicでハイレゾの楽曲をメインに再生してみる。ちなみに、ARC2の対応コーデックはSBC、AAC、aptX Lossless、aptX Adaptive(96kHz/24bit)で、Qualcommの定める接続性・低遅延・音質の基準をクリアした「Snapdragon sound」認証も取得している。

ジャズボーカルの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生。この曲は、ピアノのソロからスタートし、途中でアコースティックベースなどが入ってくるのだが、この段階でARC2のサウンドに驚く。

特筆すべきポイントは2つある。1つは「低音がしっかり出る事」だ。一般的な“ながら聴き”イヤフォンは、開放的ではあるが、どうしても低域が出ない。中高域がメインの、悪く言うと“スカスカ”した音になってしまう。ラジオのトーク番組は良いが、低域が大切なジャズやロックなどの迫力を楽しむにはツライ事が多い。

しかし、ARC2にその常識は当てはまらない。「月とてもなく」では、ベースの弦を指ではじく「バチン」という鋭い音と、それによってベースの筐体で増幅された低音が「ズン」と音圧豊かに迫ってくる。骨伝導イヤフォンも含め、こんなに“重い低音”がしっかり描写できるオープン型イヤフォンは今まで聴いたことがない。

16.2mmという超大口径ドライバーが効いているのだろう。ロックの「米津玄師/KICK BACK」を聴くと、冒頭のエレキベースが「ゴリゴリ」と鋭く、重く、パワフルに張り出してきて「うっほ!」と嬉しくなる。ロックを聴く喜びは、迫力のある低域のパンチを浴びる事だが、その醍醐味がオープン型でも味わえるとは驚きだ。

ここで1つ実験。前述のようにヒンジには“ユニットを耳穴方向に倒そう”とする力が働いているが、指で少しユニットを外側に倒してみる。つまり、耳穴の上にかぶせていたユニットの蓋を、少し開けるわけだ。

すると「ズンズン」「ゴンゴン」と鋭く重く響いていた低域が弱くなり、スカスカと低音のパワーが抜けてしまう。そこで、ユニットを指で少し内側に押して、耳穴と正対する位置に戻すと、失われていた低音が復活。「ズンズン」と重さが戻るのだ。

単純に“超大口径ユニットを搭載したから低音が出る”わけではない。ユニットをしっかり耳穴に向ける“機構”と組み合わせる事で、この迫力のサウンドを実現しているわけだ。

驚いたポイントの2つ目は“音の自然さ”だ。

これはダイナミック型ユニットを採用した成果だ。骨伝導の場合は、骨などを介して振動が蝸牛へ伝搬するので、普通に耳で音楽を聴くよりも明瞭度が下がり、余分な付帯音が音にまとわりついてしまう。ARC2の場合はそうした問題が無く、音が非常に自然なのだ。

また、耳穴を密閉しないので、音場がどこまでも広がっていく。この“広大さ”は、骨伝導どころか、普通のカナル型イヤフォンすら凌駕する圧倒的な広さだ。開放型のヘッドフォンを聴いている感覚に近い。空間が広く、低域もしっかり聴こえるので、スピーカーでのリスニング体験に近いと言っても良い。

外の世界と音楽が混じり合う、映画のような感覚

静かな部屋で音を聴いた後、そのまま外に出てみる。

すると、密閉されていないので、道路を行き交う車の音や、人の話し声が隙間から入ってくる。一般的な“ながら聴きイヤフォン”は、どうしてもそれらの騒音に音楽が負けてしまいがちだ。しかし、ARC2は低域がしっかり出るため、7~8割くらいのボリューム値に上げれば、十分な音圧とレンジで音楽が耳に入り、外の騒音に負けない。

また、先程“音の自然さ”が魅力と書いたが、“外の音も自然に聞こえる”というのも大きな魅力だと気づく。

最近のTWSは“外音取り込み機能”を備えるのが当たり前になっているが、マイクを使って取り込んだ音はどうしても不自然なので、“ずっと外音取り込み機能をONにして使う”のは正直ツライ。

だがARC2の場合は、マイクも何も使わず、外の音がそのまま自然に入り込んでくるので不自然さは一切ない。自然な外の音と、音楽が混ざり合うのだ。まるで、映画のラストシーンでエンディングの曲がすっと入り込んでいくようなイメージ。日常生活にBGMが溶け込むような聴き方ができる。

夜、近くのコンビニまで歩きながら「手嶌葵/明日への手紙」を聴いたのだが、彼女の歌声とピアノの余韻が、夜空まで際限なく広がっていくように聴こえて「このまま別の世界に行ってしまうのでは」という謎の感覚を覚えて最高だった。試してはいないが、森の中でハイキングしながら神秘的な音楽を流しても異世界に迷い込めるかもしれない。

今まで“隙間から入ってくる外の音”はノイズという悪者のように感じていたが、ARC2の場合は共存しているため、不快感がまったくない。これは新しい音楽の楽しみ方だ。

なお、注意しなければならないのは、地下鉄や飛行機の中など、外の騒音が圧倒的に強い場面だ。外を走る電車程度の騒音であれば、ボリュームを上げ目にすれば音楽は聴き取れる。しかし、地下鉄では騒音が大きすぎるので、対抗するにはフルボリュームに近い音量が必要となる。オープン型としては、音漏れはかなり少ないイヤフォンだが、車内が混雑している場合は近くの人の迷惑になる可能性もあるので、控えたほうがいいだろう。

外を走る電車程度の騒音であれば、ボリュームを上げ目にすれば音楽は聴き取れる

空間オーディオ対応。映画を楽しむイヤフォンとしても優秀

機能面も先進的だ。空間オーディオに対応しており、リアルタイムに頭の動きを自動検知する高精度6軸センサーも搭載している。

まだ対応機器が少ないが、複数人で同じ音楽を聴いたり、音楽をシェアしたり。自由な使い方を可能にする新世代Bluetoothオーディオ「LE Audio」規格もサポートする。

便利な機能としては、Bluetooth 5.3に対応し、複数機器と同時接続が可能なマルチデバイス(マルチポイント接続)も利用できる。例えば、パソコン・スマホとARC2を同時に接続して、パソコンの音をARC2で聴きながら、スマホに着信があったらそのままARC2で通話する……なんて使い方が可能。いちいちペアリングし直さなくて済むわけだ。

空間オーディオは「オマケ機能かな?」と思っていたのだが、実際に使ってみると、なかなかおもしろい。Amazon MusicやApple Musicで空間オーディオ対応の「BTS/Butter」や「サム・スミス/Unholy」を聴いてみたが、ONにすると、ステレオ再生で感じる音場が、さらにグッと広く、立体的になる。

密閉されていないARC2は、もともと“音場の広さ”が凄いのだが、そこに空間オーディオが加わると、その凄さがさらに際立つ。

音楽以外もマッチするのではと、試しにNetflixアプリで「トップガン マーヴェリック」を再生してみたが、予想通り、映画館のような音の広がりと、中低域の迫力がしっかり出せるARC2の利点が、映画と相性バツグン。

ダークスターの離陸シーンも「ズゴオオーン!」音圧の迫力が感じられつつ、そのエンジン音が自然に広がる事で、大空の広大さを実感できる。

こうした音の広がりの中でも、マーヴェリックが管制と通信する声や、操縦しながら「スッ」と息を吸い込む細かな音が聞き取れる。“シアターイヤフォン”としてもなかなかの実力だ。

SportsとGame Editionも用意

ここまではベーシックな「Music」を使ったが、前述の通り「Sports」と「Game」というバリエーションモデルも存在する。

Sports Edition

Sportsは、フックの部分にスポーティーな柄が描かれているほか、運動中に、ユーザーがどんな動きをしているかを検知し、それに合わせて音質を自動でコントロールする機能も搭載。どんな動きをしていても、安定した音質が楽しめるのが特徴だ。

また、イヤフォン充電ケースに入れると青い光が出る。このLED自体はデザイン上のアクセントなのだが、ケースには紫外線照射機能が搭載されており、ケースの蓋を閉めると10秒間紫外線をイヤフォンに照射、なんと充電時に雑菌を99.9%除菌して、消臭してくれる。これは便利だ。

紫外線LEDランプで雑菌を99.9%除菌

MusicとGame Editionも、汗や水濡れを気にせず使えるIPX4防水設計だが、Sportsは防水性能をさらに高め、水洗いも可能な「IPX5」に対応し、撥水加工も施している。つまり、汚れが酷ければ水洗いでき、そうでない時も紫外線LEDで消臭してくれるわけだ。

フックの部分にスポーティーな柄
Game Edition

Game Editionは、ヒンジの部分がパープルカラーになっているほか、製品に、59msという低遅延を実現する専用USB-Cドングルを同梱する。このドングルの送信コーデックはSBCとaptX adaptiveに対応しており、PCなどに接続すると、さらに遅延が抑えられ、ゲームで有利になるというわけだ。

また、イコライジングにも追加があり、正確に敵・味方の位置を把握するための「FPSモード」と、より広い空間表現を生み出す「RTSモード」を切り替えられる専用ゲーミングモードを備えている。

なお、いずれのモデルもバッテリー持続時間は8時間。充電ケース併用で最大35時間の使用が可能だ。急速充電にも対応し、5分充電すると1時間、10分の充電で2時間の連続使用が可能。

純正アプリ「Cleer+」も用意しており、イコライザーや操作部分のカスタマイズ、頭の傾きで操作する設定、イヤフォン落下検知機能など、様々な機能を備えている。

純正アプリ「Cleer+」

音楽がしっかり楽しめる“ながら聴き”イヤフォン

“ながら聴き”イヤフォンと聞くと、どうしても音は二の次という印象があるが、ARC2は、“気軽な装着感”と“音楽をしっかり再生できる音質”を両立している点が高く評価できる。「音をあきらめなくていい、ながら聴きイヤフォン」は非常に貴重だ。

マイクを使わず、外の音を自然なまま取り込む事で、“外の空間に溶け込むような音楽再生”が楽しめるのも魅力的なポイント。日常生活を音楽でドラマチックに演出してくれるイヤフォンなので、散歩の時はARC2が手放せなくなってしまった。

特に便利だと感じたのは、外の音の入り込み具合をヒンジの開き具合で微調整できること。「低域をしっかり感じるためにはドライバー部分を少し内側に押し込むことが大事」と書いたが、逆に外向きに開くと、外の音がたくさん入るようになる。

車が背後からガンガン来る狭い道路など、「外の音をしっかり聴いておいたほうがいい」という場所に来たら、指でドライバーを少しさわって広げるだけで安心感がアップする。イヤフォンを何回かタップしたり、アプリを操作する必要すらなく、非常に便利だ。

仕事中のBGMや、オンライン会議のマイクなど、“リモートワークを便利にするツール”として人気になった“ながら聴き”イヤフォンだが、ARC2ではその便利さに磨きをかけつつ、音楽を楽しむイヤフォンとしての実力も向上させており、それによって利用シーンがさらに増加する。“新時代のながら聴きイヤフォン”と言える完成度だ。

(協力:エミライ)

山崎健太郎