レビュー
10万円以下でスピーカーも鳴らせるデスクトップオーディオ「POWERNODE EDGE」を活用しまくる
2023年2月28日 08:00
外出する機会が増えたとはいえ、家で過ごす時間はまだ多い。そんな「おうち時間」に楽しむといえば、やはり音楽や映像のサブスク配信サービス。選びきれないほど多様なコンテンツがあるが、その魅力を最大限に味わおうとしたとき、抑えたいのが“音質”だ。同じ楽曲でもスマホのスピーカーからBluetoothスピーカーに変えただけで「おっ!」と驚くように、音が良くなると得られる体験は驚くほど高まる。
だが、いい音を楽しむために本格的なオーディオシステムやホームシアターを導入するのは、金額的にもスペース的にもハードルが高い。そこで実践したいのが、机の上にスピーカーを置いて音楽を楽しむ”デスクトップオーディオ”だ。省スペースで良質なサウンドを楽しめるだけでなく、機器が比較的安いというメリットもある。オーディオに興味を持った人が最初に挑戦するのにちょうどいい。
「小さいと音がしょぼいのでは?」と思われるかも知れないが、それは大きな間違い。小さくて、サウンドも優れた製品は多数登場している。中でも注目なのが、カナダのオーディオブランドBluesound(ブルーサウンド)が昨年末に発売した「POWERNODE EDGE」(N230)だ。
薄くてコンパクトなボディにネットワークプレーヤーとスピーカー用アンプを格納し、さらにテレビと連携可能なHDMI端子に、アナログ入力まで備える。それでいて実売10万円を切る、約99,000円というバーゲンプライス。筆者も発表直後から「コンパクトで最強じゃん!」と注目していた。そんな本機を試して実感した“スゴかったポイント”を紹介していこう。
対応サービスの多様さと使いやすさを追求したネットワークプレーヤー
Bluesoundは、新しい世代の音楽愛好家をターゲットに“高音質なワイヤレス・オーディオシステムを提供すること”を目指し、2012年にカナダで創業したオーディオブランド。日本に上陸したのが2018年なのでまだ馴染みが薄いかもしれないが、ワールドワイドで、ネットワークオーディオの使いやすさや洗練されたサウンドが人気を博している。
Bluesoundの製品が高い評価を得ている理由の一つに、独自OS「BluOS」の“出来の良さ”が挙げられる。
BluOSは日々進化を遂げており、ハイレゾ音源のほかに多様なストリーミングサービスの再生に対応する。ネットワークオーディオは、膨大な量のデータを途切れずに送受信する必要があり、頻繁に接続が途切れたり、操作アプリが機器を見失ったりと動作が不安定なことが少なくないが、BluOS搭載モデルは極めて動作が安定している。連続で曲を切替えようが、ソースを切替えようが、不安定になることがまずない。この安心感とサウンド良さの相乗効果で、ユーザーの信頼を一気に勝ち取った。
今回紹介するPOWERNODE EDGEは、219×193×44.5mm(幅×奥行き×高さ)のコンパクトボディに、BluesoundのDNAともいえるBluOSと、スピーカーを駆動するアンプ機能を搭載する。それでいて10万円を切る“ちょうどいい”ネットワークオーディオだ。
スピーカーを駆動できるモデルとしては以前から「POWERNODE」があった。高い駆動力が魅力だが、実売価格が13万前後とPOWERNODE EDGEより少し高額。また、高さも70mmあった。POWERNODE EDGEは“より安価で、より薄型の新モデル”というわけだ。
実際にPOWERNODE EDGEを手にすると、数値以上に小さく感じる。MacBook Airと並べても二回り以上小さく、それこそ、家具のすき間や液晶ディスプレイの背面など、ちょっとしたスペースに置けてしまう。重さも1.37kgと軽く、付属のブラケットを使えばなんと壁掛け設置も可能だ。デスクトップで使うなら、机のサイドや天板の裏につけることも可能だ。
コンパクトボディを実現できたのは、アンプ機能とDACを組み合わせたフルデジタルの「DirectDigitalアンププラットフォーム」を採用したため。チップにはAXIGNの「AX5689」を搭載。AXIGNは、Dクラスアンプの設計を得意とし、AX5689もSN比が高いのが特徴。ここに、入力信号と出力信号を比べて修正する「クローズドループ」設計が加わることで、「クリーンで歪みのない信号出力を実現した」そうだ。アンプ出力についても40W×2ch(8Ω)と、デスクトップで使うには十分な駆動力を備えている。
ギガビット対応の有線LANとデュアルバンド対応の無線LANを備え、BluOSからインターネット経由で様々なコンテンツを楽しめる。対応するのは、Amazon Musicなどを含めた20以上の音楽配信サービスと、数千のインターネットラジオ局。聴けないサービスはないくらいの充実度だ。Spotify Connect、Tidal Connect、Roon Readyにも対応し、見慣れたインターフェースからの選曲も可能だ。
さらに、LAN内に保存した音楽ファイルや、搭載するUSB端子に接続したストレージ内の音楽ファイルも再生できる。対応形式はWAV、FLAC、ALACで最大192kHz/24bitまで。AirPlay 2やBluetoothも利用できるうえ、Bluetoothのコーデックには高音質のaptX HDをサポートしている。
テレビとの連携も可能。背面にはHDMI端子を用意し、eARC対応のためケーブル1本でテレビと接続・音声を出力でき、ゲーム機やHDDレコーダー経由のサウンドも楽しめる。ドルビーデジタルのサラウンド音声も、テレビ側でPCMステレオ変換すれば再生できるので、Netflixのような映像配信を臨場感ある音で楽しめるのも魅力だ。他にも光デジタル/アナログステレオミニ兼用端子やサブウーファー端子を備えるなど、小さくても十分な拡張性を確保している。
BluOSのコントロールは、独自アプリ「BluOS Controller」から行なう。iOS(iPadOS)やAndroidに対応したスマホはもちろん、MacOSやWindowsといったPC用のアプリも提供されており、どれもインターフェースがほぼ同じ。デバイスが変わっても同じ感覚で操作できる。
狭い机でも置けるコンパクトサイズ
試聴は筆者のデスクで行なった。机のサイズは幅が140cm、奥行は60cm。普段はMacBook Airを開いて2画面で表示し、作業等で広く使いたい場合は、ノートPCを閉じる「クラムシェルモード」にしている。今回はスピーカーの準備もあるため、後者の机を広く使うバージョンでテストしている。
組み合わせたスピーカーは、カナダのトロント郊外に本社があるParadigmの「CINEMA 100 2.0」(以下、CINEMA 100/予定価格55,000円前後)。CINEMAはホームシアター用途も想定したシリーズで、サブウーファーやセンタースピーカーもラインナップされている。北米市場では人気でブラッシュアップを重ねており、現行モデルは4世代目という。
CINEMAシリーズは、これまで日本で販売されていなかったのだが、今後日本市場にお目見えする予定だ。メインやサテライトとして使うことを想定したモデルで、122×157×212mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトながらも、90mm径ミッドレンジと25mm径ツイーターを備えた2ウェイ。コンパクトながら88dBと高効率でアンプへの負荷が少ない。今回のようなデスクトップ利用と相性が良いスピーカーといえる。
CINEMA 100はスタンド設置だけでなく、壁掛けにも対応している。そのため、設置用器具はスピーカーケーブルを端子に接続した後、そこを覆うように取り付ける。今回はデスクトップに置くため、スタンドを取り付けた。
いざ並べてみるとPOWERNODE EDGEもCINEMA 100もコンパクトなため、設置自由度が極めて高い。仮に机のサイズが足りなくても、POWERNODE EDGEをディスプレイの裏のスペースに立てるなど、ちょっと配置を工夫すれば問題なく置けそうだ。
POWERNODE EDGEをディスプレイの右に置くか左に置くかで迷ったが、色々試してディスプレイの左側で落ち着いた。決め手は本体上面にあるタッチボタン。作業中、タッチ操作がしやすかったためだ。
位置が決まったら、POWERNODE EDGEをLANに接続。電源ケーブルを接続して、Androidスマホにインストールした「BluOS Controller」を立ち上げる。今回は無線でつなぐことにしたのだが、このネットワーク接続こそ、初心者が躓きやすいポイント。身構えて取り組んだところ、画面の指示に従うだけであっさり接続できた。これなら、難しい知識も必要ない。BluOSの優秀さをいきなり実感した。
続けて、音楽配信サービスにログインし、アプリに紐付ける。メニューから「音楽サービス」を選ぶと、ずらりと対応サービスが並ぶ。リストからAmazon Musicを選択し、ログイン認証する。あとは、プレイリストやステーションから曲を選べば再生される。
クリアで均整の取れたサウンド。普段は冷静、でもエネルギッシュな一面も
Official髭男dismの「Subtitle」を再生した途端、スッと自分の周囲が音に包まれる。サイズ感からは想像できないほど音場が広く、音のカーテンで仕切られて一人用のリスニングルームにいるようだ。この心地よい“包まれ感”こそ、デスクトップオーディオの醍醐味といえよう。
DirectDigitalアンププラットフォームの恩恵なのだろう。音の密度が高く音像がクリアだ。高域から低域まで、フラットなバランスで癖がない。量感は豊かというより、音の密度やボリュームに合わせて必要な分は余裕を持って出すといった、無駄の少ない駆動をしているイメージ。
サウンドは歯切れがよく、ほどよい距離感だ。ボーカルが手前に定位し、バンドがその後ろにある様がよく分かる。総じてフラットで、モニターライクなカッチリサウンドなのだが、イントロのささやくような繊細な歌声と、サビのシャウトに近い高域を描き分ける表現力を備えている。
Y.M.O.「RYDEEN」は、本機と相性抜群。テクノのカチッとしたリズムが心地よい。どこか懐かしいのに今聴いても新鮮なサウンドだ。音の粒立ちがよく、一つひとつの音がパラッとばらける。そのため、聴けば聴くほど「この部分にこんなサウンドが!」と今まで気がつかなかった音との出会いがあった。
面白くなってよく聴こうと近づいたのだが、筆者的にはすぐ近くで聴くとちょっと窮屈に感じられた。そこで、スピーカーをディスプレイより前に置いたり、机の端に遠ざけたりしてみた。結果的に、スピーカーと適度に距離があった方が聴きやすかった。
筆者が楽しく聴くことができたのは、スピーカーと自分の距離が70cm~80cmほどだったとき。近づくよりもボリュームを上げた方が、音のディテールまでよく聴ける。ただし、個人差やスピーカーを置く角度、聴く高さなどでも変わるので、ぜひ自身で試してもらいたい。
MacBook AirにもBluOS Controllerをインストールして、使い勝手を試してみた。画面が大きい分、ジャケット等の表示エリアが大きくなっているが、基本的なUIはアプリと同じ。まったく戸惑うことなく操作できた。秀逸なのが、スマホ版もPC版も頻繁に選曲しても、不安定にならないこと。さすがに切替えた際にワンテンポ間があるが、スムーズに切り替わる。
驚きは、同じシステムを複数のアプリから同時にコントロールしてもスムーズだったこと。例えばPC版アプリで「RYDEEN」を再生し、曲の途中でスマホ版アプリから「Subtitle」に切替えても、通常の選曲と同じように動作する。まさにシームレスに行き来できてしまうのだ。筆者も様々なネットワークオーディオに触れてきたが、トップクラスの安定感と安心感だと断言できる。
音源ファイルの再生はどうだろうか。POWERNODE EDGEのUSB端子に外付けHDDをつないでYes「Fragile」のハイレゾファイルを再生する。イントロのギターのハーモニクスが美しく、はっと息を呑む。ストリーミング配信の再生よりも、解像度が高く滑らかだ。同じ曲をストリーミング配信で聴くと、いい意味で音圧が強く荒々しいサウンドなのに対し、ハイレゾは落ち着いたサウンドといった印象。
ハイレゾは全体的に音圧が抑え気味で音が整理されているが、決して大人しい訳ではないのもポイントだ。Aメロやサビでは、弾むようにうねるベースとキレ味鋭いギターのバッキングが分厚く重なる。そこに、小気味よいドラムが加わり、いっそうエネルギッシュになる。やはり、POWERNODE EDGEはここぞと言うときにはパワフルに鳴らしてくれる。
テレビでは部屋中に音が広がるパワフルサウンドを味わえる
POWERNODE EDGEをテレビと組み合わせたらどんな体験ができるのだろうか。背面のeARC対応HDMIとテレビを接続してサウンドを聴いてみた。
テレビ視聴で組み合わせるスピーカーは、Paradigmの小型ブックシェルフ「MONITOR SE ATOM」(ペア55,000円)。2ウェイ・バスレフ型でサイズは180×270×320mm(幅×奥行き×高さ)。ウーファーは、軽くて剛性が高い140mm径のミネラル充填ポリプロピレンコーンを採用。ツイーターは25mm径X-PALピュア・アルミニウム・ドーム。位相プラグとして機能する、特許技術の「パーフォレイテッド・フェイズ・アライニング(PPA)レンズ」を搭載。位相のずれた周波数をブロックすることで、サウンドに色をつけることなく出力を向上させ、滑らかにする効果があるという。
POWERNODE EDGEとテレビの接続はHDMIケーブル1本。接続し、正しく認識されると、アプリ側に「HDMI ARC」という選択肢があり、これをタップすると切り替わる。テレビ側の設定は基本的にないが、出力がPCMでないと認識出来ないので、他の形式だった場合は切替えよう。
バラエティ番組では、一つ一つの音の解像感が高く、音像がくっきりしていることがわかる。デスクトップで使った時よりも明らかに音場空間が大きい。正面のソファに座って聴くと、左右に広がった音場の中央から、声がしっかりと届いてくる。普段はサウンドバーを使っているのだが、それよりもボリュームが小さめでもしっかり聞こえる力強いサウンドだ。
Netflixのホラードラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」は、ダイナミックレンジが広い作品でつい音量を上げたくなる。それが、この組み合わせだと、小さい話し声もクリアだ。定位が良いから、アクションシーンでは臨場感たっぷり。つい時間を忘れて楽しんでしまった。
ゲームではNintendo Switchの「スプラトゥーン3」をプレイ。音がクリアで定位が良いから、他のプレーヤーの位置が分かりやすい。特に、遠くからジャンプしてくる音や背後からローラーで迫ってくる音など、画面外の音の把握が楽だった。
テレビを消して、「MONITOR SE ATOM」で音楽を聴いてみた。これが驚きのサウンド。デスクトップで聴いていたアンプとは思えないほどエネルギッシュなサウンドだ。Official髭男dismの「ミックスナッツ」は、解像度が高く滑らか。ボーカルは力強く、高域まで瑞々しく伸びる。テレビのあるリビングは20畳ほどあるのだが、少しボリュームを上げると隅々まで音が浸透しているのが分かるほど力強い鳴りっぷりだった。
レコード再生にも使える。アナログらしさたっぷりの良音
冒頭、POWERNODE EDGEを「発表直後から注目していた」と話したが、その理由はアナログレコードをコンパクトなシステムで楽しみたいと考えていたから。昨年末にオーディオテクニカが数量限定で発売した、コンパクトなレコードプレーヤー「サウンドバーガー」を購入しており、これを自室で省スペースに楽しむ方法を模索している最中に、POWERNODE EDGEが発表されたのだ。さっそく両者を組み合わせてみた。
スピーカーはCINEMA 100。POWERNODE EDGEとサウンドバーガーを両端がステレオミニ端子のアナログケーブルで接続し、CINEMA 100と合わせて自室のコーヒーテーブルに並べる。レコード盤のサイズを考慮しても、スペースには余裕がある。
再生したのは高橋幸宏や小山田圭吾、TOWA TEIなど豪華メンバーの音楽ユニットMETAFIVEのミニアルバム「METAHALF」。B面1曲目の「Musical Chairs」に針を落とすと、クリアで鮮度の高いサウンドが飛び出す。イントロで音が左右を飛び交うのだが、明瞭な音像にもかかわらず、アナログらしい柔らかさを帯びる。いままで試聴してきたデジタル音源とは一線を画す質感だ。もっとデジタルらしい音を想像していたのだが、いい意味で裏切られるアナログらしいハイファイサウンドだ。アナログ再生にもPOWERNODE EDGEがマッチすることを確認できた。
注目のPOWERNODE EDGEをこれでもかと使い倒したが、「満足」という言葉では足りないくらいの満足感。ちょっとしたスペースがあれば使える便利さ、明瞭で力強いサウンド、どれだけ酷使しても安定感抜群のBluOS、テレビやアナログ接続にも対応する拡張性の高さなど、挙げればきりがない。
10万円でHDMI付きのオーディオ機器だとAVアンプも選択肢に入るが、大きすぎて設置場所が限られるし、サラウンドをしないなら持て余してしまう。一人暮らしでも、一軒家でも幅広く使えるPOWERNODE EDGEは、コンパクトネットワークオーディオの新定番と言ってもいい。一段上のいい音を求める人に、ピッタリの製品だろう。
(協力:PDN)