レビュー

最強デスクトップオーディオついに登場、FiiO「R7」を使い倒す

パソコン前で過ごす時間が増えた昨今。音楽配信やYouTube、アマプラなどを観る時間も増えたので「どうせなら良い音で聴きたい」、「家でイヤフォンは嫌だからスピーカーで聴きたい」と考えている、私のような人も多いだろう。

しかし、「オーディオアンプやスピーカー買おう!」と調べても、ガチなヤツはとにかく“デカい”。オーディオルームなんて夢のまた夢、机の上に置きたいがデカくて置けない。かと言って、巨大なアンプを足元に置くのは邪魔。

省スペースで、パソコンと接続しやすく、音楽配信とも親和性が高いオーディオ機器が出ないものか……悩める我々の前に、ついに「これだよ!」という製品が現れた。FiiOのデスクトップオーディオ「R7」(オープンプライス/店頭予想価格112,200円前後)だ。

FiiOのデスクトップオーディオ「R7」

これが「デスクトップオーディオ向け」なのは、写真を見れば一目瞭然。“縦に長い”のだ。狭い机の上でなるべく場所をとらないよう横幅や奥行きは短く、縦に長い筐体。そして手を伸ばせばすぐ届く前面にボリュームノブ。そしてスマホのような巨大なディスプレイ。明らかに今までのオーディオ機器とは異なる、新しい製品だ。

縦長なオーディオ機器

とにかく使ってみたくて借りたのだが、結論から言うと、便利過ぎてもう返却したくない。「求めていたデスクトップオーディオ」が、そのままカタチになったような製品だ。

小さいけどやたらと機能豊富。まずはパワードスピーカーで聴いてみる

いきなり興奮ぎみに話しはじめてしまったが、まず「R7とは何なのか」をおさらいしよう。

奥行きが短い

前述の通り、R7はデスクトップ向けのオーディオストリーマー製品だ。外形寸法は約110×134×160mm(幅×奥行き×高さ)と、奥行きは短く、縦に長いボディに、4.97インチ、解像度1,280×720ドットのタッチパネル・ディスプレイを備えている。OSはAndroid 10だ。

簡単に言えば、以下のオーディオ機器をムギュッとこの縦型ボディに詰め込んでいる。

  • USB DAC
  • バランス対応ヘッドフォンアンプ
  • デジタルオーディオプレーヤー(DAP)
  • ネットワークプレーヤー
  • 同軸デジタル、光デジタル入力付き単体DAC
  • Bluetoothレシーバー

注意が必要なのは、スピーカー駆動用のアンプは搭載していない事。別途、PC用やオーディオ用などのアクティブスピーカーを接続する製品だ。ヘッドフォンアンプは超強力なものが搭載されている。

R7の背面。ギッシリと端子が並んでおり、高機能さを物語っている

R7は機能が多く、1つ1つを紹介していると長くなるので、それはひとまず置いておいて、いきなり使い始めよう。

そこで、やはりパソコンと接続し、デスクトップオーディオとして使ってみたい人が大半だと思うので、まずはアクティブスピーカーを用意し、パソコンの音を再生してみよう。

用意したのはフォステクスのアクティブスピーカー「PM0.4c」(オープンプライス/直販ペア44,000円)だ。10cmウーファーを採用した2ウェイブックシェルフで、外形寸法は130×169×220mm(幅×奥行き×高さ)と、R7とベストマッチするサイズだ。

フォステクスのアクティブスピーカー「PM0.4c」
「PM0.4c」とR7を並べるとサイズ感バッチリ

R7のRCA出力と、PM0.4cのRCA入力を接続。R7とパソコンはUSB-Cで接続。R7を起動し、動作モードからUSB DACモードを選べば、パソコン側がR7を出力先として認識し、無事にパソコンの音がR7を通って、フォステクスから再生された。

「PM0.4c」背面のRCA入力

R7のモード切替を「PRE OUT」にし、音量調整は右上のボリュームノブで行なう。前面に搭載しているので手を伸ばしやすく、直感的に操作しやすい。アクティブスピーカーはボリュームが背面についている事も多いので、スピーカー側のボリュームは一定して、R7側で微調整する使い方が便利だ。

R7のモード切替画面
USB DACモードに設定したところ

音質的にはR7のモードをLO(ラインアウト)に設定し、R7の出力を最大値として、アクティブスピーカー側でボリューム調整するのが理想だが、音量調整のたびスピーカーの裏に手を伸ばすのは面倒なので、現実的には「PRE OUT」を使う事になるだろう。

ボリューム調整中の画面

パソコンからAmazon Musicアプリを起動し、排他モードで音楽を再生してみる。

音は非常に良い。FiiOらしい、色付けの少ないクリアかつ情報量の多いサウンド。例えば「手嶌葵/明日への手紙」のような、静かな空間にヴォーカルやピアノがシンプルに響くような楽曲では、部屋の中に楽器や声の余韻が波紋のように広がっていく様子がよく見渡せる。その中央に定位するヴォーカルの音像もシャープでリアル。歌い始める直前に息を吸い込む「スッ」という微かな音さえ聴き取れる。DACチップに、繊細な描写が得意なESS「ES9068AS」を搭載しているのも効いているのだろう。

音の分解能が高いので、「米津玄師/KICK BACK」のような、様々な音が入り乱れるような楽曲でも、1つ1つの音がクッキリ聴き取れる。これは重要な事で、例えば、分解能が甘い製品では、音と音がくっついて不明瞭になり、「ゴチャゴチャした音」に聴こえてしまい、音量を上げると「うるさい」と感じてしまう。

一方で、R7はボリュームを上げても個々の音がしっかり分離したまま、それぞれの音の勢いだけがアップするので、聴いていて気持ちが良い。「俺はこの楽曲の音を全て聴き取れている!」みたいな全能感に包まれるくらいだ。

R7の素直で情報量の多いサウンドを、そのまま届けてくれるフォステクスの「PM0.4c」も実力派だ。サイズが小さいので「音のスケールもそれなりかな?」と思っていたのだが、10cmウーファー + 1.9cmソフトドームツイーターと思えないほど立派な音が出て驚く。

低音が超豊富な「James Taylor/Live!」から「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を再生しても、ジェームス・テイラーの低く、音圧豊かな声が、しっかりと前に出てくる。低音もボワボワと膨らまず、タイトで締りがあり、ベースラインがクッキリと見えて聴いていて気持ちが良い。30W+30Wの内蔵デジタルアンプも、癖の無い音で好印象だ。

もちろん、大型スピーカーのように地鳴りのような低音は出ない。しかし、低域の情報量の多さと音圧の豊かさでそれをカバーしているため、スピーカーから出ている音全体として腰高になっていない。ウェルバランスなので満足度が高い。

R7 + PM0.4cの組み合わせは、サイズ的には“PCスピーカー”ではあるが、出てくる音は、一般的なPCスピーカーとは桁違いのクオリティだ。そこらへんのBluetoothスピーカーでは相手にならない。完全にピュアオーディオの世界に片足を突っ込んでいる。

R7の内部には30W出力のスイッチング電源を搭載しており、AC電源入力には大電流チョークコイルや高電圧コンデンサを投入してノイズを除去している。小さくても電源にこだわる姿勢は、R7がオーディオ機器である証拠と言えるだろう。

また、マニアックにもAC電源だけでなく、DC入力(12V-3A対応)も備えており、背面のスイッチで切り替えられる。例えば、Ferrum Audioのオーディオ機器用DCパワーサプライ「HYPSOS」などを接続すれば、よりクオリティアップが図れる。

R7の背面。AC電源だけでなく、DC入力(12V-3A対応)も備えており、背面のスイッチで切り替えられる
Ferrum Audioのオーディオ機器用DCパワーサプライ「HYPSOS」と接続したところ

定番モニタースピーカーとも組み合わせてみる

R7は小さくても立派に“ピュアオーディオ”な音質なので、もっとサイズの大きなアクティブスピーカーとも組み合わせてみたくなる。そこで、ヤマハの定番モニタースピーカー「HS5」(オープンプライス/実売1台約15,000円)を2台用意。こちらでも聴いてみた。

白いウーファーが特徴的な、ヤマハの定番モニタースピーカー「HS5」

HS5はPM0.4cよりもかなり大きく、外形寸法は170×222×285mm(幅×奥行き×高さ)だ。今回設置しているデスクの天板は186×65×3.8cm(同)とかなり大きく、奥行きも65cmあるので問題なく設置できたが、奥行きが40cm程度のデスクの場合はちょっと窮屈になるだろう。また、これはPM0.4cも同じだが、リアバスレフなので、背後の壁にピッタリと寄せるのではなく、少し離して設置したい。そういった意味でもデスクには奥行方向の余裕が欲しい。

ヤマハの「HS5」とフォステクスの「PM0.4c」
奥行きも65cmのデスクであれば、HS5でもだいぶ余裕がある

HS5はモニタースピーカーらしく、XLR入力を備えている。R7もXLR出力を備えているので、バランス接続が可能になる。これもR7 + HS5の組み合わせの魅力だろう。

R7とHS5はXLR接続できる
HS5の背面
R7のXLR出力部分

HS5から音を出してみると、筐体が大きく、ウーファーも5インチになるため、音のスケールがアップ。低域もさらに深く沈み、迫力がアップする。ジャズボーカルの「ダイアナ・クラール/月とてもなく」では、アコースティックベースの低音が、PM0.4cでは肺にズンと響くような深さだったが、HS5では胃に響く深さになる。

HS5はウーファー用に45W、ツイーター用に25Wと、個別のアンプでドライブするバイアンプ仕様のためか、1つ1つの音がキビキビと描写され、音像の輪郭が極めてシャープ。時に“音のアラ探し”の道具となるモニタースピーカーらしい描写力だが、R7の情報量の多さとの親和性が高い。まさに目の覚めるようなサウンドだ。

ハイレゾファイルの微細な表現を聴くにも最高なのだが、ゲームやYouTubeの音も凄まじい。人気のFSPゲームの「Apex Legends」をプレイしたり、YouTubeでゲーム実況配信を見たりするのだが、プレイ中の音が、今までとまったく違う。

このゲームでは敵に一定以上のダメージを与えると、「パリーン」みたいな音と共に鎧が割れるのだが、R7 + HS5で聴くと「バッシャリィイーン!!」みたいな細かい音に分解され「え、アーマーが割れる音ってこんな音だったの!?」と驚いてしまう。弾丸を再装填する時の音など、今まで気にもしていなかったのだが、R7 + HS5ではマガジンを挿入する時の「カチャッ」「コクッ」みたいな細かな動作音がしっかり描写されて「うわーこんな細かな音まで作り込んでいたんだ、気が付かなくてすいません」とゲーム制作者に謝りたい気分になる。

VTuberが何人も集まってワイワイ話すような配信は、今までそんなに好きではなかったのだが、R7 + HS5で聴くと、1人1人の声の違いが明瞭で、誰が何を言っているのか聴き取りやすく、なおかつ音量を上げていてもうるさく感じないため、長時間鑑賞し続けられる。「音の良さがアップすると、見る動画も変わる」というのは驚きだ。

低域に十分な迫力があるため、Netflixでアクション映画を見る時でも満足度が高い。ニアフィールドで再生すると、自分の左右はおろか、背後の方まで音に包まれる感覚になるため、ちょっとしたホームシアター気分も味わえる。今まで“テレビじゃなくてパソコンで簡単に見るかぁ”だったのに、音がこれだけ良くなると“パソコンでじっくり楽しむか”という気分になる。パソコンの前にいる時間が長い人ほど、R7はQOL(クオリティ オブ ライフ)上昇するアイテムになるだろう。

デスクの天板にスピーカーの振動が伝わらないように、インシュレーターは設置したい

ありそうでなかった?DAPを丸ごと内蔵したような単体プレーヤー機能

USB DAC機能を使ったが、他の機能も試してみよう。R7の機能は“FiiOのDAP(デジタルオーディオプレーヤー)を据え置き機にしたモノ”と理解するとわかりやすい。

Androidモードの画面

基本的にはAndroid端末で、「FiiO Music」というアプリがプリインストールされている。本体の64GBストレージメモリや、SDカード(最大2TBまで使用可能)に保存した音楽ファイルをアプリから再生できる。SoCはQualcommの「Snapdragon 660」を搭載しているので、アプリの動作はスマホレベルでサクサクだ。

SDカードに保存した音楽ファイルも再生できる

対応ファイルとしては384kHz/32bit、DSD 256(Native)で、これはUSB DACで動作している時も同じ。MQAは8xデコード対応する。

「FiiO Music」アプリで音楽再生しているところ

当たり前の話だが、パソコンが起動していない状態でも、R7を起動させ、FiiO Musicから音楽を選べば、スピーカーから音が出る。R7 + アクティブスピーカーが単体のオーディオシステムとして機能するわけだ。

ちなみにこの際、モード一覧から「Pure Music」を選ぶと、FiiO Musicだけが全画面表示され、このアプリだけが動作するモードとなり、再生音の純度が高まる。マニアックな機能だが、ピュアオーディオっぽくて面白い。

モード一覧

一方で、Androidモードにすれば、スマホのように様々なアプリが使える。Google Playストアも使えるので、例えば「radiko」を入れてラジオを聴いたり、Amazon Musicアプリを入れて、音楽配信を再生することもできる。Roonの認証を受けたRoon Readyモードも備えているので、対応するNASやパソコンを用意すれば、ネットワークプレーヤーとしても動作する。

Amazon Musicアプリで音楽配信を聴いているところ
Roon Readyモードも備えている

背面には同軸デジタル入出力、光デジタル入出力、さらにUSB 2.0ホスト用の端子も備える。より本格的なオーディオシステムの中にR7を入れて、デジタルオーディオトランスポートとして使うこともできる。光デジタル入力は、ゲーム機やテレビと接続する時にも使える。なお無線LANを内蔵しているが、LAN端子も備えている。コンパクトな筐体に、無数の端子がギュッと詰め込まれた背面は、見てると燃えてくる。

さらには、Bluetooth受信モードやAirPlay受信モードも備えている。スマホで聴いている曲を、手軽にR7にワイヤレス伝送して、スピーカーから楽しむという使い方も可能だ。Bluetooth受信対応コーデックはSBC、AAC、LDACをサポート。

当然Bluetooth送信機能も備えており、こちらはSBC、AAC、aptX、aptX HD、LDAC、LHDCをサポート。深夜でスピーカーから音が出せない時は、Bluetoothヘッドフォンを使うとか、パソコンから離れてベッドに入ったら、枕元のBluetoothスピーカーを鳴らす……なんて使い方も可能だ。

BluetoothやAirPlayでスマホからワイヤレス再生も可能。Bluetoothヘッドフォンなどにワイヤレス送信もできる

据え置きヘッドフォンアンプとしても大活躍

先程“Bluetoothヘッドフォンも使える”と書いたが、R7のもう一つの顔が「有線ヘッドフォン用の強力なヘッドフォンアンプ」というものだ。

今まではモードダイヤルから「PRE OUT」を使っていたが、R7には以下のモードがある。

  • PO+PRE OUT:前面と背面の音声出力が全て有効。音量調整は有効
  • PO:前面の音声出力のみが有効。音量調整は有効
  • PRE OUT:背面の音声出力のみが有効。音量調整は有効
  • LO:背面の音声出力のみが有効。音量調整は無効(最大音量で固定)
上から2つ目がモードダイヤル

この中から「PO+PRE OUT」か「PO」を選べば、前面にあるヘッドフォン出力が利用できる。ヘッドフォン出力は、6.3mmシングルエンド、4.4mmバランス、4ピンXLRを各1系統用意する。

注目すべきは、一般的な3.5mmのアンバランス出力が“無い”事だ。これはおそらく「ヘッドフォンアンプを使う人は、4.4mmかXLRのバランス接続を使うよね?」という意味で、R7が“ガチなポータブルオーディオファン”を意識した、本格的なヘッドフォンアンプだというメッセージでもあるだろう。

イヤフォン/ヘッドフォン出力部分。上からXLR、4.4mmバランス、6.3mmシングルエンド。3.5mmが無い

それを裏付けるようにR7には、FiiOとTHXが共同開発した「THX AAA-788+」というヘッドフォンアンプ回路が2基搭載されている。

THXは、映画とかAVアンプなどのホームシアターで良く聞く、あのTHXだ。ルーカスフィルムの1部門としてスタートし、主に、映画館の音響や、AVアンプなどの家庭用オーディオ機器が、THXが定めた基準をクリアしているかどうかをチェック。合格すると“THX認定を受けた製品”としてマークが得られるアレだ。

そのTHXが開発したアンプ技術が「THX AAA」。ホームシアターのイメージが強いTHXなので、“デジタルの信号処理で音をいじる技術なの?”と思われるかもしれないが、まったく違って、超ピュアオーディオ向けなアナログアンプ向けの技術だ。

詳細は省くが、このTHX AAAは、信号の増幅時に発生する歪みを効果的に補正する技術が盛り込まれており、FiiOのDAPや、据え置きのヘッドフォンアンプをはじめ、他社製品にも採用が広がっている。オーディオ界では話題の技術だ。

ヘッドフォンアンプ回路は「THX AAA-788+」×2基を搭載

最大出力も3.2W(32Ω/バランス出力/Ultra highゲイン)、630mW(300Ω/バランス出力/Ultra highゲイン)と強力で、対応インピーダンスはシングルエンドで16~150Ω、バランスで16~300Ωと、鳴らしにくいヘッドフォンやイヤフォンでも駆動できるパワーがある。

試しに、手持ちの中でも鳴らしにくいフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」(インピーダンス50Ω)をバランス接続してみた。R7はUltra high、Super high、High、Medium、Lowと、ゲイン調整が5段階も用意されているが、一番下のLow状態で、ボリューム値80%程度で十分な音量が得られて驚いた。Mediumに設定すると、音量だけでなく低域にも重さがしっかり出る。据え置きのヘッドフォンアンプとして見ても、非常にパワフルな製品だ。

ゲイン切り替え画面

ヘッドフォンで聴くと、R7の音の良さがよりダイレクトにわかる。キリッと精密な描写で、雑味の少ない高域を描き、その解像度のまま低域もクリアに見通せる。「ノラ・ジョーンズ/Don't Know Why」でも、歌い上げるヴォーカルの背後に広がるコーラス、ピアノ、ドラム、全体を支えるベースと、個々の音がしっかり聴き分けられるだけでなく、人の声の暖かさ、ピアノの綺羅びやかさなど、質感の違いもリアルに伝わってくる。

これなら「バランス駆動もできる据え置きヘッドフォンアンプが欲しい」という人が、R7を購入しても十分満足できるだろう。ポータブルからオーディオに興味を持ち、スピーカーオーディオの世界にも挑戦したい人にも、良いチョイスになるはずだ。

ディスプレイや単体プレーヤー機能は必要なのか?

前述の通り、R7は単体で音楽配信やハイレゾ音楽ファイルを再生できる。一方で、これらはパソコンでも可能なので、パソコンと接続される事が多いであろうR7では“機能が重複している”と感じる読者も多いだろう。

ぶっちゃけ私も使う前は「単なるUSB DAC兼ヘッドフォンアンプでいいんじゃないの? ディスプレイとか必要なのかな?」と思っていた。しかし、実際に使ってみると「コレ良いわ」と考えを改めた。

理由は2つある。1つは“うるさいパソコンを起動しなくても使える”、もう1つは“パソコンの挙動と関係なく音楽が再生できる”事だ。

1つ目の“うるさいパソコンを起動しなくても使える”は、そのままの意味。デスクトップパソコンもノートパソコンも、最近は発熱が大きいのでファンを内蔵しているのが基本だ。そのため、USB DACを使ってパソコンから高音質で再生している時は、常に部屋の中に「フィー」とか「グォオオ」みたいなファンノイズが混じってしまう。

しかし、R7はファンレスだ。うるさいパソコンを起動せず、静かな部屋の状態で音楽が聴ける。これは実際にやってみると、想像以上に恩恵が大きい。例えば、「手嶌葵/明日への手紙」のような、静かなで広々とした音場の中に、ピアノとヴォーカルがシンプルに流れるような楽曲を聴いてうっとりしたいのに、「グォオオ」というノイズが耳に入ったら、うっとりどころではない。

しかし、パソコンが動いていない無音の部屋であれば、ノイズに邪魔されず「ああ……静かな空間からスッとボーカルが立ち上がる様子が良いなぁ」とか「ハイレゾっぽいなぁ」みたいな聴き方ができる。逆に、R7を使ってみて初めて「俺はパソコンの騒音も込みで音楽を聴いていたんだな」と気が付いた次第だ。

放熱のため、R7の側面はパンチングメタルになっており、内部パーツが見える。これはこれでカッコいい

音の聴こえ方だけでなく、音楽を楽しむ時の姿勢もちょっと変わる。パソコン+USB DACで使っている時は、どうしてもWebブラウザでブログ読んだり、SNSを眺めたりしながら、音楽を“ながら聴き”するスタイルになってしまうが、R7だけで音楽を流すと、パソコンに意識を邪魔されないので「よし、今からは音楽を真剣に楽しむオーディオの時間だ」という気分になる。

寝る前にR7だけ起動して音楽を聴いてリラックスしてからベッドに入る……、休日の朝にR7だけ起動して爽やかな音楽を流してコーヒーを飲む……なんて使い方をすると、デジタルデトックスではないが、「ああ、俺はピュアオーディオを楽しんでいるなぁ」という気分になって最高だ。

2つ目の“パソコンの挙動と関係なく音楽が再生できる”は、パソコンを起動させた状態でも、“R7をUSB DACとして使わない”という意味だ。例えば、パソコンでネットワークゲームをプレイして、単調なレベル上げ作業をしている時などに、ゲームの音をわざわざR7から流す必要はない。そこで、パソコンの音はディスプレイ内蔵のチープなスピーカーで小音量で流し、R7はAndroidモードにして音楽配信アプリで好きな曲を流すと非常に便利。

パソコン画面でゲームがフルスクリーンで表示されていても、それとは関係なく、R7のディスプレイで好きな音楽を検索したり、再生操作できる。細かい使い勝手の話ではあるのだが、“パソコンから独立している事”が便利なシーンは、意外に多いだろう。

デスクトップオーディオの新時代到来

“音が良くて多機能”だけでなく、便利な製品でもある。視認性の高い大きなディスプレイには、スクリーンセーバーとして時計や日付などを表示できて便利だ。

時計を表示しているところ
カレンダー表示も
選べるスクリーンセーバー

また、FiiO Musicアプリで音楽再生中は、VUメーターも表示できる。揺れる針のビジュアルを見ながら、じっくり音楽を楽しんでいると「俺の机まわりイケてるじゃん」といい気分になる。“映えるデスクトップ”を追求している人にも注目の製品だろう。

FiiO MusicアプリにはVUメーター表示機能も

なお、R7には筐体を斜め上に向かせる傾斜付きのスペーサーも付属している。R7と自分の距離が近い場合は、少し上を向かせた方が、ディスプレイが見やすく、ボリュームノブも触りやすくなるだろう。

傾斜付きのスペーサーで、本体の角度を変えられる

ポータブルオーディオで世界的なブランドへと成長したFiiOだが、R7は同社がデスクトップオーディオの世界へ進出する第一弾モデルとなり、それだけ気合が入っている。また、どうやらFiiO自身もR7と組み合わせるアクティブスピーカーを開発しているようだ。

昨今のピュアオーディオ市場では、高音質なアクティブスピーカーが人気を集めており、各社から様々な製品が登場している。R7は、それらのスピーカーと非常に組み合わせやすい。デスクトップオーディオ新時代を象徴する製品になるだろう。

実売約11万円という価格は、PC周辺機器として見ると高く感じる人もいるだろう。ただ、オーディオ機器として見た場合、音の良い据え置きのUSB DAC兼ヘッドフォンアンプ単体でも10万円くらいする製品は多く、DAP単体だって10万円するモデルは珍しくない。そもそもピュアオーディオ用のDACやネットワークプレーヤーであれば、10万円じゃとても買えない。そう考えると、それらの機能を一つにまとめたR7は「むしろ安いのでは?」と思えてくる。

なにより、それらを収めた筐体を縦長にし、デスクトップに置きやすくしてくれた事がうれしい。今まで「買いたくても物理的に置けなかった」多くのパソコンユーザーにとっても、待望のデスクトップオーディオ機器と言えるだろう。注目している人も多く、予約の段階で注文殺到、2月3日の発売後即完売になっている。エミライによれば、次回入荷は春頃の予定とのこと。組み合わせるスピーカー選びなどをしながら入荷を待とう。

(協力:エミライ)

山崎健太郎