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世界最大級の115型ミニLEDから印刷OLEDまで。最先端のTCL CSOTパネル工場に潜入!
2025年6月24日 08:00
世界最大級のパネル製造企業「TCL CSOT」を傘下にもち、液晶テレビの世界シェア第2位を誇るグローバルブランドが「TCL」だ。
6月上旬、中国・広東省にあるTCL CSOT工場とTCL本社を巡るメディアツアーに参加し、パネル・テレビ開発に携わるメンバーや事業責任者らから新製品や日本市場での今後の戦略などについて話を聞くことができた。その模様を全3回にわたって取り上げる。
本稿では“液晶パネル”の生産場所、TCL CSOT工場と展示ホールの取材をレポートする。
世界No.2の液晶パネルメーカー「TCL CSOT」
TCL CSOT(TCL China Star Optoelectronics Technology/TCL華星光電技術有限公司)は、テレビからパソコン、スマートフォン、車載用ディスプレイ、業務用ディスプレイ、そしてAR/VRデバイス向けに様々なパネルを開発・製造・販売する企業だ。
会社設立は2009年。深圳(シンセン)でのT1・第8.5世代ラインの起ち上げを皮切りに、中国各地にパネル工場を次々に建設。
中国のBOE(京東方科技集団)やHKC(惠科股份)、また台湾のAUO(友達光電)、INNOLUX(群創光電)など、シェア争いを繰り広げるパネルメーカーが乱立する中、TCL CSOTは徐々に生産力・技術力を高め、ついにはサムスンディスプレイ(2020年)とLGディスプレイ(2024年)が所有していた液晶パネル工場をも買収するまでに成長する。
これまでの投資総額は、業界トップクラスの約6兆円(2,600億元)。従業員数は37,000人を超え、現在では深圳、武漢、恵州、蘇州、広州、インドに11のパネル生産ラインと5つのモジュール拠点を有する世界No.2の液晶パネルメーカーになっている。
TCL CSOTの強みが、世界最大規模のライン数とパネル製造能力の高さだ。
前述したとおり、TCL CSOTが抱える生産ラインの数は11。このうち大型テレビ向けの液晶パネル製造を担っているのが、第8.5世代ラインのT1/T2/T10、そして第11世代ラインのT6/T7であり、ひと月の生産可能枚数は合算で70万枚以上にも及ぶ。
ちなみに“第X世代”とは、マザーガラスの大きさのこと。第8.5世代ラインでは2,500×2,200mm、第11世代では3,370×2,940mm(※第10.5世代と呼ぶ場合もあるが、本稿ではTCL CSOTの呼称に準じる)もの巨大な一枚のガラスに対し、カラーフィルタやTFT回路などを形成しパネルを作製してゆく。
巨大なマザーガラスであればあるほど、大型サイズのパネルも、一度に多く製造できる。
TCL CSOTのT6/T7・第11世代ラインでは、主に75型と65型がメインサイズとして製造されている。75型の場合は一枚ガラスから6面、65型の場合は8面に切り出すことで、ガラスの利用率は94%を実現(数字が高ければ高いほど無駄になるガラスが少なく効率的ということ)。75型は業界1位、65型においても業界2位の生産能力を誇り、T6では業界最大サイズの115型(2面)も製造している。
また、T1/T2/T10・第8.5世代ラインでは、98型と55型をメインに製造。テレビの売れ筋サイズである55型の供給を支えながら、T2では98型も効率的に切断する(ガラスの利用率は97%)。98型サイズでは、業界シェア1位を実現しているという。
こうした製造能力の高さは、コスト競争力にも大きく寄与している。
英国の市場調査会社Omdiaによれば、TCL CSOTのミニLEDモジュールコストは、同型のWOLEDと比べてもほぼ半額程度に抑え込むことができていると分析。QD-OLEDの場合は、コストメリットはさらに1.2~1.5倍に拡大するという。TCL CSOT幹部も「高品質な大型テレビ向けパネルを、低コストかつ安定供給できるのが、我々の強み」とアピールする。
第11世代&第8.5世代ラインを持つパネル製造拠点「深圳工場」
TCL CSOTの“深圳工場”は、深圳中心部から車で40分ほどの場所(光明区)にあるパネル製造の一大拠点だ。
広大な敷地内には、T1/T2/T6/T7のパネル工場のほか、AGC(旧旭硝子)のマザーガラス製造・研磨工場、電力施設、廃水処理施設のほか、TCL CSOTの頭脳が集まる研究開発ビルが建ち並ぶ。
今回訪れたのは、第8.5世代ラインがあるT2棟。見学者用に設けられた2階通路からは、液晶パネルの“アレイ工程”を覗き見ることができる。
ここで簡単に液晶パネルの作り方を説明しておこう。
まず大前提として、液晶パネルは“2枚”のガラス基板からできている。液晶パネル工場では、片側のガラスにカラーフィルタを作製し(カラーフィルタ工程)、もう片側のガラスにTFTアレイと呼ばれる回路を作る(アレイ工程)。
両方のガラス基板が出来上がったら、いったん洗浄。その後、片側のガラス基板に液晶を滴下。シール材を使って、真空中で2枚のガラス基板を1枚に貼り合わせる。硬化したら、55型、65型、75型といったインチサイズにガラス基板を切断し、偏光板等を貼り付ける(ここまでがセル工程)。こうして出来上がった液晶セルは、モジュール工場へと送られる。
T2ラインは、サッカー場12面分に相当(約8万平方メートル)する広さを誇り、月15万枚もの生産能力を持つ。
ガラス張りの通路からは、「1セットだけで十数億」という巨大なFPD製造装置が何台も設置されている。手前から工場の奥まで、5レーンほど並んでいるだろうか。
アレイ工程は、成膜→レジスト塗布→露光→現像→エッチング→剥離→洗浄といった工程を何度も繰り返すことでパターンを積層して行くのだが、当日は、アームがガラス基板をラインに運び入れる様子やガラス基板に作られたパターンを検査する様子、ガラス基板を洗浄する様子を見ることができた。
特に巨大なガラス基板(2,500×2,200mm)を、アームが運ぶ光景は圧巻だ。こうした作業は全てオートメーション化されており、工場の作業員が介入するのは、機械をメンテナンスする場合や機械がパネルの不具合を見つけた場合などに限られる。
床には、格子状の穴を設けたマンホール(のようなもの)が点在している。これはTCLが特許を持つ空気循環システムの一部だそうで、下から新鮮な空気を送って建屋全体を“クリーンルーム”にする効果がある。結果、「一般的な手術室と比べて5倍以上、クリーンな空気になっている」と説明する。
残念ながら工場内は一切撮影がNG(本稿で掲載している写真はTCL CSOT提供の宣材)。キヤノン・ニコンの露光装置など、FPD製造装置には日本メーカーのものが多いそうだが、それらをどのように配置し組み合わせて、効率のよいシステムを組み上げるかが工場のノウハウなのだという。
年間6,000万の生産能力を有するモジュール施設「恵州工場」
次に、恵州工場(恵州市恵城区)を訪れた。ここはパネルを製造する施設ではなく、深圳工場などで出来上がった液晶セルを運び入れ、ドライバICなどを取り付ける“モジュール工程”を行なう施設だ(敷地面積は51万9,000平方メートル)。着工は2017年5月で、翌6月にはモジュールの生産を開始。現在は年間6,000万モジュールの生産能力を有しているという。
工場では、右側からコンベアで流れてきた液晶セルに対して、側面をクリーニングした後、フィルムやパーツを貼り付ける様子を見ることができた。インチサイズがラインに混在しても、アームとコンベアが液晶セルを所定の位置に即座に移動させて、ドライバICなどを数秒で貼り付けていく。その動きは非常に素早く、目を凝らしてみていないと分からないほどだ。
貼り付けの工程が終わったパネルは再度検査にかけられ、エラーが出たパネルは一度ラインから取り除かれる。正常なパネルは、電極露出部に対して保護膜を塗布したり(UV Dispense)、電極の接続(PCB Bonding)がラインで続けられる。
作業が見学できる通路の長さは約90mと深圳工場の半分だったが、無駄のない、完全に自動化された製造ラインの一端を知ることができた。
最大級の115型ミニLEDや印刷式OLEDパネルを発見
ここからは、深圳工場・恵州工場に隣接する来館者用ホールで展示されていた、TCL CSOT製造の最新パネルを、写真と合わせて紹介していく。
TCLは2024年、ミニLEDテレビにおける全世界出荷台数シェアで1位を獲得するなど、ミニLEDテレビ市場のけん引役となっている。展示ホールでも、最新のミニLEDテレビが陳列されていた。
史上最大と謳う“量子ドット搭載115型4KミニLEDパネル”はその代表の1つ。日本国内では昨年発売した4Kテレビ「115X955MAX」(約500万円前後)に採用されている。TCL CSOT独自のVAパネル「HVA」を採用し、ネイティブコントラストは7,000:1。量子ドットとの合わせ技で、DCIカバー率は98%に達している。リフレッシュレートは144Hz。
一回り小さい“量子ドット搭載98型4KミニLEDパネル”は、T2ラインなどで製造されているものだ。ピーク輝度は5,000nitsで、ローカルディミング技術を使うことでダイナミックコントラスト比は5,000万:1を実現しているという。
ミニLEDバックライトと液晶層の距離間を0mmに縮めることで筐体の薄型化にも寄与する技術「OD Zero」を採用したパネルも展示されていた。解像度は8Kで、サイズは85型。
TCLの2025年フラッグシップシリーズ「X11K」では、レンズとパネル間の距離を30mmまで狭めてハローを抑制する「スーパーマイクロOD」技術が採用されているが、こうした最新技術を量産ベースで搭載できるのも、OD Zeroで培った技術とノウハウが生かされているのだろう。
展示スペースでは8K解像度のパネルも多数見ることができた。8KパネルはT7ラインなどで製造されているようだが、中国国内においてもやはりメインは4Kテレビであり、「8Kが盛り上がるのはこれから」とのことだ。
AV Watchの読者であれば、TCL CSOTのことを、JOLEDと共に印刷式有機ELパネルを共同開発していたメーカー、と記憶している方もいるだろう。JOLEDは残念ながら2023年3月末に経営破綻してしまったものの、TCL CSOTでは継続して印刷式有機ELパネルの量産研究が続けられている。
最新ディスプレイの研究・開発者が集まる展示会「SID Display Week」では度々、65型8K解像度の印刷式有機ELパネルが披露されている。展示ホールではそれを見ることは叶わなかったが(残念!)、業務用ディスプレイ向けの21.6型4Kパネル、そしてノートPC向けWUXGA(1,920×1,200解像度)パネルの展示品を見ることができた。
ほかにも、日本展開を検討しているという太陽光パネルのほか、タッチ操作に対応したディスプレイ付き洗濯機、スマートエアコンなども展示されていた。
<インタビュー編へ続く>