レビュー
トーンアームとデザイン一新、4万円を切る注目アナログプレーヤー。オーディオテクニカ「AT-LP70XBT」を聴く
2024年8月2日 08:00
今、レコードが熱い
世界的なレコード復権の中で、最も売れ筋なのはエントリー向けのシンプルなフルオートプレーヤーだ。そのゾーンに向けて各社が注力機を投入している中、オーディオテクニカは8月7日にニューモデルを発売する。「AT-LP70XBT」(オープンプライス/直販価格39,600円)と「AT-LP70X」(同33,000円)の2機種だ。
双方の違いは、Bluetoothのワイヤレス機能内蔵か否かのみ。ここではBluetooth機能を搭載したAT-LP70XBTを軸に、開発に携わった同社商品開発部ホームリスニング開発課の小泉洋介氏と白神智宏氏に話を伺った。
一新されたデザインとトーンアーム
AT-LP70Xは、現行機「AT-LP60X」の上位機種に当たるベルトドライブ/フルオート式レコードプレーヤー。フォノイコライザーの内蔵により、汎用的なアクティブスピーカーに結線してすぐにレコード再生を始めることができる(ケーブルも付属)。
オーディオテクニカ独自のVM型カートリッジを付属し、クラスを超えた高音質を実現している点が嬉しい。デザイン面はAT-LP60Xから刷新するとともに、横幅増で精悍さがアップし、よりスタイリッシュな趣きになった。
また、前面に備わっていた3つの操作ボタンを天面上部に移し、ルックスがさらにシンプルになっている。
本体のキャビネットはABS樹脂とPS樹脂を組み合わせた3層構造「アンチレゾナンスシャーシ」で、不要共振を排除する設計。モデルチェンジに合わせ、より高次元のレコード再生を目指して随所に手が加えられているわけだ。プラッターは共振しにくいアルミ合金製。
本機の最大の改善点は、トーンアームのデザインを一新し、より高性能なカートリッジの付属によってさらに本格的なパフォーマンスを実現したこと。
「当社伝統のJ字型トーンアームを新たに設計し、ハウジングと一体型としました。付属カートリッジAT-VM95Cとマッチするデザインに仕上げています。また、アームの実効長を長くしたことでトラッキングエラー角も2度以下になり、軸受け部のベアリングに高精度なものを採用したことと相まって、より繊細な音が再生可能になっています」(白神氏)。
このトーンアームは、ダイナミック型とスタティック型のハイブリッド式のような独自機構がユニークだ。これらは針圧印加の機構方式なのだが、バネの力を利用したダイナミック型トーンアームは過去にも音がいいものが多く誕生しており、特に低音の馬力と安定感が期待できる。
リフター部の形状も洒落ており、デザイン全体の印象は、個人的にもなかなかスマートで素敵と思う。
「付属カートリッジのAT-VM95Cは0.6milの接合丸針を採用していますが、同じシリーズの交換針として、接合楕円針のAT-VMN95E、無垢楕円針のAT-VMN95EN、無垢マイクロリニア針のAT-VMN95ML、無垢シバタ針のAT-VMN95SHと、合計5種類が用意されており、すべて互換性があります。つまりAT-LP70Xを使い続けながら、音質のグレードアップが図れるわけです」(小泉氏)
針先の形状の違いは、主に音の分解能と高域の伸びに違いが表れる。当然高い交換針の方がそうした特性は明確だ。レコードの扱いなどのスキルアップと共に、あるいは誤って針を折ってしまった場合に、ひとつ上のグレードの交換針を買い求めてもいいだろう。
なお、AT-LP70XBTについては、高音質が期待できる「Qualcomm aptX Adaptive」コーデックによるワイヤレス伝送方式を採用。スペック面での抜かりはない。また、AT-LP70Xにはないブラック/ブロンズのツートン・カラーも用意され、独特のエレガンスも備える。
ワイヤレスで聴いても驚きのクオリティ。シバタ針に交換すると……
場所を同社試聴室に移し、両機種を試聴した。
まずは、フォノカートリッジやレコードプレーヤーなど、オーディオテクニカのアナログ製品に最適な音質設計を施したアクティブスピーカー「AT-SP3X」(オープンプライス/直販価格29,700円)と組み合わせて、AT-LP70XBTでのワイヤレス再生を聴いた。
AT-SP3Xは3インチウーファーと1インチツイーターを搭載し、それを最大出力30Wの内蔵パワーアンプで駆動するコンパクトな2ウェイ・アクティブスピーカー。そしてBluetooth受信にも対応している。
ビートががっちりとした骨格を伴い、ある程度大きな音量で再生しても決して崩れたりしない。声の質感も瑞々しく、温度感が高い印象だ。カッティングギターの乗りのよさ、スラッピングベースの太い音程も克明に再現したのには少々驚いた次第。
続いてAT-LP70XBTを、試聴室常設のハイエンド・オーディオ機器群と組合せて試聴。イタリアのソナスファベールのフロア型スピーカーや、米パス・ラボラトリーズのモノラル型パワーアンプなど、いささかアンバランスな組み合わせではあったが、AT-LP70XBTの秘めたポテンシャルは予想以上であった。
ローエンドの量感は充分だし、情報量の差も歴然。システムのグレードが上がったことで、AT-LP70XBTも嬉々として潜在力を発揮し始めた印象だ。思いの外しっかりとした重心の低いエネルギーバランスを示したのだ。
ここでシバタ針採用のシリーズ最上級交換針のAT-VMN95SHに付け替える。針圧の再調整は無論不要だ。カッティングギターの抜けがよく、実に切れ味がよい。声のハイトーンもスーッと無理なく伸びやかだ。交換針だけでプレーヤー本体並みの価格だが、音の差は克明に感じ取れるし、付け替える意義も明瞭に実感できた。
便利で音のグレードアップも楽しめるプレーヤー
フルオートプレーヤーの利便性は、スタートボタンを押すとレコード再生が始まり、再生終了と共にトーンアームが元の位置に戻ること。再生途中で停止させたい時は、ストップボタンを押せば確実に止まる。そうした合理性が一番のセールスポイントだが、音質に対する欲求が高まってきたら他機種に買い替えるというのがこれまでの常だった。
しかしAT-LP70XBT、AT-LP70Xは、互換性のある交換針に付け替えるだけで音質向上が現実のものとなる。プレーヤー本体を買い直すことなく、使い慣れた手順のまま、よりいい音という欲求が満たされるわけだ。
簡便性を有しながら、音のグレードアップが果たせるプレーヤー。これまでありそうでなかった訴求力が、AT-LP70XBT、AT-LP70Xの大きな魅力といえそうだ。