レビュー
ウッド振動板×音のカスタマイズ、“技術力と個性”が光るTWISTURA「WOODNOTE」を聴く
2025年6月24日 08:00
最近の中国製イヤフォンは単に安いだけではなく個性的な製品が多い。今回取り上げるTWISTURA「WOODNOTE」(オープンプライス/実売21,780円前後)は、名の通りにウッド振動板を用いたイヤフォンというだけでもユニークだが、加えてノズル交換が可能で、豊富なイヤーピースも使って音をカスタマイズできるという個性的な有線イヤフォンだ。価格も2万円台と安価。
開発元のTWISTURA(ツウィスチュラ)は聴き慣れない名前だが、TWISTURAのCEOは日本でも人気の高い水月雨(MOONDROP)の品質管理を担当した経験があるとのこと。たしかにスタートアップとは思えないほど随所に細かい作り込みと手慣れたパッケージングが感じられる製品でもある。
ウッドドーム振動板を採用
「WOODNOTE」は10mmのウッドドーム振動板を採用したシングル・ダイナミックの有線イヤフォンだ。ホームページの説明によると振動板は「厳選された天然木繊維をプレス加工技術でドーム形状へ加工した」とある。実際の振動板を見ると木目が見えるので繊維を固めたというよりも木材の細かいスライスを使用しているようだ。
木材は樺(カバノキ)を使用している。樺は密度が高く、硬度と軽量性を兼ね備えた木材であり、振動板としての適合性は高い。軽いので素早く応答し、優れた高音域特性と細やかな音のニュアンスが再現でき、木材として温かみのある音色も期待できる。また振動板のエッジが柔らかく設計されていて、豊かな低音の再現が可能だ。
つまりWOODNOTEにおけるウッド振動板の利点とは、自然で温かみのある音、軽量のため解像力が高く、豊かな低音と伸びやかな高音を両立できるということになる。
またWOODNOTEでは単に振動板にウッドを採用しただけではなく、デュアル・マグネット回路により駆動力を向上させている。さらにデュアル・リアチャンバー構造を採用、ダイナミックドライバーには必須のベントホールもかなり凝った設計がなされている。これにより、エアフローが最適化されることで振動板の動きを最適化して歪みも抑えている。
ハウジングは、CNC加工によって形成された航空機グレードアルミニウム合金であり、ハウジングの造形も美しい。また装着時に耳の支えとなるシェルの下部にシリコンサポートが取り付けられているなど細かい配慮もなされている。
このようにWOODNOTEではドライバーと内部設計が凝ったものとなっている。
カスタマイズの豊富さにも注目
もう一つ特筆すべき点は音質をカスタマイズできるという点だ。
WOODNOTEは交換可能なノズルが採用され、ネジではめ込むことで簡単に交換ができる。3種類のノズルが付属していて、スタンダード(ステンレス・スチール)、インストゥルメンタル(アルミニウム合金)、ボーカル(真鍮製)と素材が異なっている。それらはWebサイトの解説図にあるように、周波数特性が異なっていて音質を変えることができる。これは後述のインプレッションで試してみよう。
イヤーピースも3サイズ、4種類の異なるものが付属し、イヤーピースを変えることでも音をカスタマイズできる。4種類ともシリコンタイプなので、後のインプレッションでは軸の色で黄色、白色、青色、灰色と区別して試している。つまり3種類のノズルと4種類のイヤーピースの組み合わせで好みの音をカスタマイズすることができる。
標準ケーブルには、無酸素銅(OFC)、銅合金、銀銅合金、グラフェン銅の複合素材で構成された線材が採用され、端子交換方式で3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスの両方に対応している。
製品のパッケージにはこうした多数の付属品が多層式の内箱に綺麗に格納されているが、その内箱にも指係りが設けられていてパッケージを展開しやすい。まるで日本製品を想起させるような丁寧な配慮が感じられるが、こうした点にもWOODNOTEのCEOの過去の経験が活かされているのだろう。
音を聴いてみる
次に実機を使用したインプレッションを紹介する。
試聴はAstell&Kern「A&norma SR35」を使用して主に4.4mmバランスでさまざまな曲を試した。WOODNOTEはカスタマイズの幅が大きいが、まずスタンダードノズルと灰色イヤーピースの組み合わせで聴き始めた。
基本的なWOODNOTEの音質は滑らかで温かみがあるサウンドだ。高音域は伸びやかだが落ち着きがある。低音域の再現性も高く、深く沈むような音が再現できる。また解像力が高く、細かい音もよく聴こえる。特に低域の解像感が高いのが特徴だ。ウッドベースの鳴りが心地よい。価格にしてはかなり良好な音質と言える。
このままでもエレクトリック系やロックのような音楽では良いが、アニソンの「LiSA/ブラックボックス」を聴くと、ボーカルが多少クリアさに欠けるのが気になった。
そこでイヤーピースを白色に変えるとボーカルの明瞭感が上がり、曲も全体的に華やかで聴き取りやすくなる。さらにノズルをボーカルに変えると声がより鮮明に聴こえるようになり、LiSAの声がより伸びやかでさらに魅力的に楽しめるようになった。
このように曲に合わせたり、好みに合わせたりしながら音をカスタマイズできるのがWOODNOTEの楽しみ方だ。
次にノズルをボーカルで固定したままイヤーピースを変えていき、ノズルとイヤーピースの組み合わせでどのように音が変わるのかを試してみた。
黄色イヤーピースはやや低域寄りで重みのある音になる。低音の解像力が高く、ウッドベースの細かな弦の擦れる音まで聴こえる。この価格で低音の弦楽器の擦れる音がこれほど生々しいのは稀だと思う。低域の誇張感は少なく、楽器音の歯切れも良い。
青色イヤーピースはよりボーカルに向いている。音が中高音域寄りになり、声がよく通るようになる。その代わり低音楽器のウッドベースの音は軽めとなる。低域の誇張感が少なくなったことにより、全体的な音バランスも悪くない。華やかで中高音が好きな人向けだ。ただし軸が少し硬めなので着脱にはやや苦労する。
白色イヤーピースもボーカルに向いている。こちらは傘が浅いのでより奥まで嵌め込むことができる。
音がよりダイナミックで華やかになり、低音のインパクトもよりアタック感が強くなる。全体に音のクリアさが高くなり、より鮮明に感じられる。低音の解像感は高いが、黄色イヤーピースよりは軽めの音になる。明るく派手な音が好きな人向けだ。
灰色イヤーピースは先に書いたようにボーカルには不向きだが、低音がよく出るようになる。黄色イヤーピースにも似ていて、一番ウッドベースの重みがある。
次にイヤーピースを灰色に固定したまま、ノズルを変えてみる。ノズルの着脱は容易で、ネジのように回して嵌め込むだけである。ただし落下防止のため、下に空箱などを置いておくと安心できる。
ノズルをスタンダードからボーカルに変えると、より声が鮮明で音の明瞭感が上がり楽器音も鮮明になる。反面でやや低音の深みが失われてウッドベースが多少軽めになる。
ノズルをスタンダードからインストゥルメンタルに変えるとアコースティック楽器の音がより鮮明になるが、声はやや刺激的になりすぎるきらいはある。こちらも低音は軽くなるので、中高音域を上げたい場合に良いだろう。
ノズルとイヤーピースを両方変えてみると、ノズルの音の変化は小さいが、イヤーピースの変化は大きい。そのためお勧めのカスタマイズ方法は、まずノズルをスタンダードに固定してから、よく聴く音楽でイヤーピースを変え、好みのイヤーピースが見つかったら、ノズルを変えて微調整するという方法だ。もちろんこれだという正解はないので、各自さまざまな自分流のカスタマイズ法を編み出してもよいだろう。
自分だけの“音の森”を探し歩くような楽しさがあるイヤフォン
WOODNOTEは木のぬくもりを音にしたような温かみと性能の高さを併せ持つイヤフォンだ。
ノズルやイヤーピースを替えるたびに音の表情が変わり、自分だけの“音の森”を探し歩くような楽しさがある。パッケージのデザインもよく練られていて全体の完成度は高い。
ウッド振動板の雄であるJVCケンウッドでは最近シルク振動板の製品も開発している。これはウッド素材はスピーカーには好適だが、イヤフォンでは作りにくい面があるためだそうだ。そうしたウッド振動板という難しい素材にあえて挑戦し、個性的なパッケージに仕上げた点は評価すべきだろう。
WOODNOTEは、そうしたチャレンジ精神と高い完成度が両立された、近年の中国製イヤフォンの“技術力と個性”を象徴する好例だと言えるだろう。