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往年のウォークマンの音質に近づける!? 令和復刻カセットプレーヤー「CP13」を改造してみた
2025年3月25日 08:00
近年、レコードの増産とともにコンパクトカセットも注目を浴び、信じ難いことに音楽の流通媒体としてカセットテープが使われ始めている。そういった中、昨年4月26日にFiiOから音質に拘ったとされるカセットプレーヤー「CP13」が海外で発売され、当時国内販売を待ちきれなかった友人がAliExpress経由で輸入したというシロモノを1台融通してもらった。
大型の真鍮フライホイールを搭載したことで得られたであろう、ブレの少ないその安定した再生音や、ガチャコンメカによるオーソドックスな操作感は、タッチパネル操作が当たり前になった今となっては非常に直感的なものであり、友人との会話の中でもCP13は頻繁に話題となった。何より、この時代に、音にこだわったカセットプレーヤーを作るという決断をして実行できたということが素晴らしい。
発売後はいろいろな方面で好評だったようで、カラーバリエーションも展開された。特にスケルトンモデルはテープ走行中の様子が贅沢に確認できるので、私も欲しいと思ってしまった(既に1台あるので我慢した)。
ちなみに私にCP13を融通してくれた友人は、案の定全色コンプリートし、外装を入れ替えてオリジナルのカラーバリエーションを楽しんでいる。
そんな中、複数のCP13を聴き比べてみると、どうにも自分のCP13は音が違う……というより、友人のCP13の方が、かなり音はいい気がする。個体差なのだと思うが、特に高域の伸びに違いを感じるのだ。
製造時期によって搭載されている磁気ヘッドや音声回路が異なるのかとも思ったが、友人が後日買い増した並行輸入品と見比べてみても、特筆できるような差は見当たらなかった。
つまり、自分のCP13と友人のCP13は基本的には同じ物。ということは、自分のCP13を何かしら弄ったら友人持つ個体の音に近づけるのではないか……?という結論に至り、保証対象外になることを覚悟して、自分でCP13の音質改善に挑戦してみることにした。
【注意】分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害はAV Watch編集部および、メーカー、購入したショップもその責を負いません。AV Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。
なお、記事で使用しているCP13は海外で販売されているモデルです。エミライが代理店として扱い、現在日本で正規輸入品として流通している「CP13」は、テープの走行安定性にも配慮した選別品とのことです。
高域の伸びが足りない理由を探ってみる
カセット再生時に高域の伸びで差がつく理由はいくつか考えられる。部品や回路に故障がなければ、録音時と再生時のヘッド対テープ接触角度(アジマス)ズレが原因であることが多い。
アジマスがズレる原因は、単に磁気ヘッド取り付け位置の調整崩れによる場合と、テープの走行系(テープパス)のどこかに問題があってテープが蛇行し、結果的にアジマスがズレるといった2パターンが存在する。
後者の場合、いくらヘッド取り付け位置を調整しても最良の状態にならないどころか、かえってテープの蛇行が大きくなり大切なテープに傷を付けかねない。そのため、アジマスを調整する前にテープパスを確認してみることにした。
テープパスを確認するには専用の治具を使う。カセットリッドを外してベースプレートをセットし、測定用のバーをテープガイドにくぐらせて引っ掛かりがないか確認する。また、ヘッドの突き出し量も重要なファクターであり、これはバーをヘッド頭頂部に載せて、ベースプレートに刻まれているラインとの重なり具合を見る。
測定の結果、ヘッド高さ、突き出し量共に規格の範囲内であることが確認できた。ヘッド突き出し量は下限ギリギリといったところで、できれば突き出し量を増やしたいが、メカデッキの構造上調整は難しい。ポータブルカセットプレーヤーであるため、こればかりはやむなしといったところだろう。
アジマスを調整して高域特性は改善!
テープパスに大きなズレは見当たらなかったため、アジマスの調整で特性の改善を試みる。この調整にはフルトラックで記録されたテストテープを再生して、出力レベルとチャンネル間の位相差を見ながら最良ポイントを探る。
調整ポイントはヘッドを固定しているビスで、ネジロック材を解かしてからビス回して微調整する。磁気ヘッド付近であるため、使用するドライバーは入念に消磁したものか、調整用のセラミックドライバーを使うのが好ましい。
もう一歩何かできないか?メカデッキの改良に挑戦
アジマスの調整で高域再生の特性は大きく改善し、当初CP13に抱いていた違和感は完全に解消した。いい気になって様々なカセットを取っ換え引っ換え再生してみると、カセットによってはまたアジマスずれが生じているような音に逆戻りしてしまった。
アジマス調整ビスはネジロック材で固定されているため、テープパスのズレは考えにくい。残る要素はテープ走行そのもの……ピンチローラーの硬化や真円度だったり、キャプスタンシャフトの平行が出ていないといった問題が考えられる。ということで、ミラーカセットとトルクメーターを使って走行状態をチェックしてみる。
測定の結果巻き取り(テイクアップ)のトルクは35g前後、送り出し(サプライ)のバックテンションはほぼゼロであった。
トルクの指定はメカデッキによって異なるため、本機で必要なトルクは分からない。そのため、今回は過去に修理したソニーの「TC-FX77」というシングルキャプスタン・2ヘッド機のデータを参考にする。
TC-FX77では、テイクアップ側が30~60g、サプライ側は2.5~4.5gという指定。テイクアップ側は良いが、サプライ側はもう少しバックテンションを強めたい。
次にミラーカセットを再生すると、すぐに問題が判明した。写真では分かりにくいが、キャプスタンシャフト部分でテープがウネウネと蛇行しているのだ。
キャプスタンシャフト付近で蛇行を引き起こす原因は前記の通りであるため、再生と停止を繰り返しながら立ち上がりの状態を注意深く観察し続けると、再生ボタンを押下してピンチローラーがキャプスタンシャフトに接触するタイミングでシャフト側がわずかに動いていることが分かった。
CP13のメカデッキはシャーシがプラスチックのため、再生時のピンチローラー圧力に負けて変形してしまい、シャフトの平行度に影響を与えていると思われる。
これら2点の対策だが、まずバックテンションの増強はサプライ側リールの軸に高粘度グリスを入れてみることにした。グリスなので気温やセットの温度上昇で粘度は変わってしまうものの、室内温度20度の環境では安定して3g強のバックテンションを持たせることに成功。
個人的には2.5g程度に持っていきたくてグリスの粘度を調整したりしたが、微細な差でトルクが大きく変わってしまい、3g強に落ち着いた。
シャーシの変形対策は、まず試しにピンチローラーを圧着しているバネを曲げてピンチローラーの圧着力を下げてみた。シャーシの変形は押さえられたものの、残念ながらテープがスリップするようになってしまった。このメカデッキでは圧着力を変えない方が無難だということがわかった。
そこで、シャーシの力がかかる部分に補強用のブラケットを追加した。取り付けは操作部分の化粧ボタンを引き抜き、シャーシに下穴を開けてタッピングビスで打ち込む。
この補強プレートの追加は、筆者にCP13融通してくれた友人氏のアイディアで、氏もシャーシの変形に気がついて製作したとのこと。取り付け後はシャーシを手で曲げようとしてもなかなか曲がらず、テープの蛇行もピタリと収まった。
メカの改善で音は激変!! 往年のウォークマンの音質にかなり近づいた
改造したCP13の音質は、オリジナルと全く別物で往年のカセットウォークマンに引けを取らないものに進化した。バックテンションの増強によってテープ走行の安定度が改善された結果、高域の量だけではなく、歪みっぽさが更に抑えらたように感じられる。
補強ブラケットの追加によってテープの蛇行が抑えられたため、カセットによる相性問題も解消。
これで安心していろいろなテープをかけられるようになったので、往年録音したカセットを引っ張り出してきたり、最新のミュージックカセットの封を切ったりして、しばらく聴き入ってしまった。
なお、編集部を通じて代理店のエミライに質問したところ、『現在日本で正規輸入品として流通しているCP13はテープの走行安定性の品質にも配慮した選別品を出荷している』とのことだった。仮に改造をするにしても、素性の良い個体の方が引き出せる性能もより高いはず。CP13を買う時は間違いなく正規輸入品を選んだほうがいいと思う。
当初CP13を手に入れた時、音質に対しては「以外にもいい」といった認識だったものが、改造後は「かなりいい」に変化した。改造を通じてCP13のポテンシャルを引き出せ、今回も大満足なのである!