レビュー
目の前にステージ出現。USB DAC「HA-1」とモニタースピーカーで楽しむハイレゾ
(2016/2/25 10:18)
大きなスピーカーやアンプをいくつも置くのが難しい机の上でも、シンプルな構成でハイレゾなどのオーディオを聴けるシステムとして使えるのが「アクティブスピーカー & USB DAC」という組み合わせ。入力や対応フォーマットが豊富なUSB DACを使えば、パソコンやポータブルプレーヤーなど様々な機器と接続して再生できる。今回、OPPO DigitalのUSB DAC「HA-1」を、手持ちのアクティブモニタースピーカーと組み合わせた使い方と、実感したメリットなどをお伝えしたい。
机の上の限られた空間でいい音を楽しむには
筆者がUSB DACとアクティブスピーカーの組み合わせを気に入っている大きな理由は、机の上の限られたスペースでなるべく最小構成でスピーカーとヘッドフォンの両方を良い音で楽しめるから。
USB DACは据え置き型からポータブル型まで様々なバリエーションが存在し、多くはヘッドフォンアンプも内蔵している。OPPOのHA-1はUSB、光、同軸、AES/EBUデジタル入力に加え、アナログ出力はRCAアンバランスとXLRバランスを装備する。この中で注目したいのがXLRバランス出力を備えている点。これにより、手持ちのアクティブスピーカー、GENELEC「8010A」とバランス接続できる。
バランス接続の主なメリットの一つを挙げると「ノイズに強い構造」という点がある。詳細な説明は省くが、特にプロ向けの機器や楽器などでも多く使われており、XLR端子の強固な接続などで信頼性も高い。レコーディングスタジオなどでモニタースピーカーの音を聴くと「エンジニアやアーティストが普段聴いているのはここまで“生”に近い音なのか」と驚かされることも少なくない。
今回重視したのはXLRバランス接続だが、せっかくなので1台でヘッドフォンアンプとしても十分な機能を備えたモデルが理想的だ。今回使ったのは、DSD 11.2MHz再生に対応し、フルバランス設計のヘッドフォンアンプなども備えた「HA-1」。これ1台あれば、スピーカー用とヘッドフォン用で別のアンプを机に置く必要はないだろう。実際に手持ちのスピーカーと組み合わせて、使用感や音質などをチェックした。
「HA-1」は、Blu-rayプレーヤーなどで知られるOPPO DigitalによるUSB DAC/ヘッドフォンアンプ。DACチップはESSの「ES9018S」を搭載し、384kHzまでのPCMや11.2MHz DSDに対応(11.2MHz再生はASIOでのDSDネイティブ伝送に限定)。発売は'14年だが、今スペックで見ても遜色ない、ハイレゾ再生に必要な機能を備えたモデルと言える。価格はオープンプライスで、直販価格は167,400円(税込)。使用したのは、直販限定のシルバーモデル。
スピーカーの「8010A」(実売約4万円/1台)は、76mm径ウーファと19mm径メタルドームツイータの2ウェイ構成で、左右それぞれに25W + 25W(低域+高域)のバイアンプを内蔵。主にパーソナルスタジオや、プロが外出先のライブレコーディングなどに利用する目的で作られた小型モニターだ。XLRバランス入力専用のため、RCA/XLR出力の両方備えたOPPO「HA-1」の場合、バランス接続により高品位な音で利用できる。ボリューム調整は、プリアンプとなるHA-1側で行なう。
PCを使った再生までの準備は一般的なUSB DACと同様にシンプルで、Windows PCの場合はOPPO Digital Japanのサイトから専用ドライバをダウンロード/インストール。なお、現在の最新版はVer.2.24。Macの場合はOS X標準ドライバで動作する。今回はWindows 8.1搭載PCにドライバを入れ、USB接続したHA-1の入力をセレクタノブで[USB DAC]に設定。PC側では、再生デバイスとして「OPPO HA-1 USB AUDIO 2.0 DAC」が追加され、これを既定のデバイスとして設定すれば準備OK。
再生ソフトには、フリーのハイレゾ対応プレーヤーとして知られる「foobar2000」などが利用可能。今回は、初期設定がシンプルですぐ使い始められ、こだわる人には細かな設定項目も用意されている「TuneBrowser」を使った。1,500円のシェアウェアだが、無料版(管理できる曲数は500曲まで)も用意されている。このソフトはインストールした後に特に設定なく日本語で利用でき、DSD 11.2MHzを含むハイレゾ再生もすぐに行なえる。細かい点では、ジャケットの表示方法などが多様なのも特徴。特に不満点も無く、普段から使っている。
HA-1のドライバをインストールすると、設定画面にあるASIOドライバの項目に「OPPO USB AUDIO 2.0 ASIO Driver」が追加。ASIOドライバにより、Windowsのオーディオエンジンによる音質劣化を回避して再生できる。
なお、TuneBrowserのバージョンは、今回のレビュー時点では'15年12月アップデートのVer.3.1.1で使用している。2月6日にもアップデートが行なわれてVer.3.2.0になり、プレイリストの取り扱いなどに変更が行なわれている。
机の上に自分用のステージが再現
さっそく、PCから家のNAS内にある楽曲を再生。HA-1からバランス出力し、スピーカーの8010Aから出力した。モニタースピーカーとの組み合わせで感じられる大きな利点は、左右のスピーカーを自分に向くように置く(基準は真正面から左右各30度)と、ボーカルなどの定位が明確で、演奏のステージを再現したような臨場感を味わえること。音楽を流した瞬間に演奏者の立ち位置や口の場所がはっきり見えるような感覚だ。
そういった長所が特に分かりやすいのがボーカルを中心としたアコースティックな作品。Diana Krallが名曲をカバーしたアルバム「Wallflower」から「Desperado」を再生すると、詞の内容の通り優しく語り掛けてくる歌声が、目の前の空間からはっきり聴こえる場所が分かる。ライブ音源を聞いても、ステージの広さを想像しやすい。Suara「DSD live session」の「POWDER SNOW」でも、空間の広さとギターとボーカルの距離感がイメージできる。スピーカーのエンクロージャを鳴らして大きく響かせるスピーカーとは異なるが、「モニターだから味気ない」という単純な話ではなく、適度な中低域の厚みを活かしたまま、輪郭のはっきりした音が耳へとまっすぐ届く。
ヘッドフォンで聴くように頭の中で定位するのではなく、目の前の空間にステージが展開されているような感覚が味わえるのは、スピーカーならではの良さ。それがDAC/アンプとアクティブスピーカーのシンプルな構成で楽しめる。
これまで、主に使っていたティアック「UD-301」と比較すると、HA-1の方が目の前に広がるステージを、より細かなディテールまで描き込んでいると感じる。山中千尋のピアノを中心に、管楽器、弦楽器の6人構成(セクステット)「Sometin' Blue」は、トランペットやサックス、ピアノといった各パートのソロも聴きどころだが、終盤のクライマックスにかけて全パートが重なる部分でも、広い帯域に渡って密度が損なわれず全体が分厚い音となって押し寄せる。机の上でスピーカーが耳に近い環境だからこそ、広く響かなくても、いい音を独り占めしているような楽しみがある。
もう一つの大きな変化は、これまでのUD-301に比べると、ハイレゾがDSD 11.2MHz、PCM 384kHz/32bitまでサポートできたこと(UD-301はDSDが最高5.6MHz、PCMは32bit/192kHz)。まだ11.2MHzや384kHzのファイルは配信数が多くないが、どんなスペックのファイルでも変換する必要なく再生できるのはうれしい。
今回聴いたのは、録音の評価も高い「Jazz at the Pawnshop」(Arne Domnerus/Georg Riedel/Bengt Hallberg/Lars Erstrand/Egil Johansen)から「Barbados」や「Take Five」(352.8kHz/24bit)で、ライブの良さを丸ごと詰め込んだような濃密な音が繰り出される。また、DSD 11.2MHz楽曲「Rougequeue」(千葉史絵)の「backstroke」では、波のように次々と畳みかけてくるスピード感と重厚感が味わえた。これらのファイルは容量も大きいので、NASなどに十分な保存スペースも必要だが、アーティストが「この音を届けたい」と意図した音源を再生できる、ちょっとした贅沢ともいえる。
なお、HA-1本体の奥行きは333mmで、UD-301(238mm)と比べると10cm近くの差がある。製品のクラスが違い、搭載するパーツの量が多いためではあるが、置き場所には注意したい。
PCレス環境や、ヘッドフォン接続も
USB DACはパソコンやスマートフォンとの接続が一般的だが、それ以外にも普段から筆者が利用しているのが、ハイレゾ対応ウォークマンとの接続。ウォークマン用のハイレゾ出力対応クレードル「BCR-NWH10」を使うと、ウォークマンを充電しながら、USB DACなどに音声をデジタル出力できる。ソニーがサポートしているのは同社製の「UDA-1」や「PHA-3」などだが、普段使っているUD-301でも利用できたため、今回のHA-1でも使えるかどうか試した。
HA-1背面のUSB端子に、クレードルのBCR-NWH10を接続し、ウォークマンの「NW-A16」を装着。特に問題無くウォークマンからハイレゾ楽曲をそのまま出力できた。再生できるのは当然ウォークマン本体またはmicroSDカード内の楽曲のみで、ネットワーク再生ではないが、パソコンやNASが無くても再生できる、シンプルな構成のハイレゾオーディオシステムになるのがポイント。
もちろん、スピーカーだけでなくヘッドフォンアンプとしても楽しめる。手持ちのAKG「K812」を接続して聴いてみた。1.5テスラの強力な磁気回路を持つハイエンドモデルであるK812も、HA-1のヘッドフォンアンプは余裕を持ってドライブしていた。
HA-1はフルバランス設計のアナログ回路部を採用。クラスAパワーアンプ回路も左右対称の選別品を使ったマッチドペア・ディスクリート設計となっている。今回使ったK812とはアンバランス接続の組み合わせにはなるが、ハイレゾファイルの広い帯域をK812で再現。前述したDiana Krallの「Desperado」をヘッドフォンで聴くと、先ほどのスピーカー再生とは違って、目の前ではなく頭の中に音が広がるような感覚だが、ヘッドフォンの特徴とマッチして適度な広がりをもって響くため、窮屈さは全くない。
ちなみに、クラスAアンプと聞くと発熱を気にする人もいるかもしれない。天面にはメッシュ状の放熱部があり、数時間動作していると確かに温かくなってくるが、使っていて気になるほどの熱さではなかったので、上に物をのせて塞いだりしなければ心配ないレベルだろう。
なお、ヘッドフォンとスピーカーの両方をつないだ場合、手持ちのUD-301ではライン出力をせずヘッドフォンのみから聴こえるように自動で切り替わるが、HA-1の場合は特に設定しなければ両方から鳴る。もちろんヘッドフォンで聴きたい場合はスピーカーでも同時出力する必要はないので、設定でライン出力のみをミュート可能だ。マニュアルにある通り、セレクトノブを2回プッシュすると設定メニューに入るので、そこから[MUTE OPERATION]を[MUTE PRE-AMP OUTPUT ONLY]にすると、リモコンなどでミュートにした時にスピーカー側だけ音が鳴らないようにできる。
なお、この方法でミュートしたところ、8010Aからは再生音は出ないものの小さく「ブーン」という音が鳴り続けた。これは接続したDACなどの電源をOFFにした時に発する音で、8010側の仕様だ。ヘッドフォンを装着していると全く気にならないが、音が出ていることが気になる場合は、スピーカーの電源を切ると良いだろう。
Bluetoothが意外に便利。これからスピーカーを始めたい人にも
HA-1にはBluetoothも搭載されており、スマートフォンなどと接続可能なのも特徴。これを使ってみると意外に便利だった。
Bluetoothを使ってできるのは、専用リモコンアプリで操作することと、スマホの音楽をワイヤレスで受信してHA-1のアンプを通して聴くこと。HA-1にはハードウェアのリモコンも付属しているが、これと同じ操作がBluetoothリモコンアプリでも行なえる。違いとしては、Bluetoothの場合はスマホをHA-1本体に向けなくても操作できるという点で、画面を見ながら入力切り替えやボリュームなどの操作が行なえる。パソコンと接続して音楽再生している時は再生/一時停止や、曲送り/戻しの操作がも可能で、今回使ったソフトのTunebrowserでも利用できた。
一方、Bluetooth音楽再生に関しては、聴いてみると音も案外悪くない。コーデックはSBCだけでなくaptXもサポート。ウォークマンで聴くなら、前述したクレードル経由の方が良い音だとは思うが、iPhoneで定額配信の楽曲やネットラジオを聴くのにも、HA-1を通すと、手持ちのBluetoothヘッドフ1ォン/スピーカーで聴くのとは大きく違い、それほど音のアラが気になることもなかった。Amazonの「プライムミュージック」や、SoundCloudのチャンネル配信「Stream」などを聴いたが、CDやハイレゾで持っていない曲をこうした配信サービスで探すときも、より良い音で楽しめる便利さを実感した。
HA-1は、バランス接続のヘッドフォンとして同社の「PM-1」という相棒が存在するため、これら2つがあれば、他の機器と組み合わせる必要はないかもしれないと思っていたが、今回アクティブスピーカーとの組み合わせを試したところ、このコンビも良い相性のように思えた。今持っているスピーカーは、片手でも持てるコンパクトなサイズだが、もっと上位のモデルと組み合わせてみると、音にどんな違いが出てくるのか? など、新たな興味も出てくる。
最近では、スピーカーよりもヘッドフォンで音楽を聴く時間が長い人は少なくないと思う。筆者も通勤時を含めると圧倒的にヘッドフォン/イヤフォン利用の方が多いが、デスクトップのスペースで、自分だけのステージを再現できるスピーカーの魅力は離れがたいものがある。USB DACに、プリメインアンプとスピーカーを個別で追加するよりも、アクティブスピーカーとUSB DACのシンプルなタッグの方が、比較的導入もしやすいだろう。既にHA-1をヘッドフォンメインで使っているユーザーには、スピーカーとの組み合わせも勧めたい。
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OPPO HA-1 | GENELEC 8010A(1台) |
(協力:OPPO Digital Japan)