麻倉怜士の大閻魔帳

第14回

邦画がついにハリウッドと比肩した! 「ガルパンに感動」第11回ブルーレイ大賞

1年間で発売されたブルーレイ・UHD BDの中から、最も優れたタイトルを選んで表彰する“ブルーレイのアカデミー賞”こと「日本ブルーレイ大賞」。10の部門賞の中からグランプリ以下4アワード5タイトルが発表され、秋葉原で表彰式が催された。

2018年に名称を変更し、新たなスタートを切った日本ブルーレイ大賞。麻倉氏は第1回から審査委員長を務め、ブルーレイソフトの成長と発展を見つめ続けている

グランプリが作品としても、クオリティ面でも大喝采を受ける中で、今年の見どころは大きく3つあり、中でも“邦画の躍進”には目を見張るものがあった。そう語るのは審査委員長を務める麻倉怜士氏。表現としてもパッケージとしても洗練されてゆく中で、この動向は業界全体で喜ばしいものだという。ではその内容、今年も大いに語ってもらおう。

引退しても“いつでも安室ちゃんに会える”ソフト

麻倉:2月19日にDEG(Digital Entertainment Group)ジャパンが「第11回 日本ブルーレイ大賞」を発表しました。これは一昨年まで「DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」として開かれていた、ブルーレイソフトの画質・音質面を評価するクオリティ志向のアワードです。それが第10回を迎えた昨年より名称とシステムが変更され、従来通りの品質評価をする「クオリティ部門」に加え、市場性を加味した「カテゴリ部門」が新設されました。

――カテゴリ部門は「どれくらい売れたか」という市場性がポイントになりますが、とはいえ昨年の場合はこちらでもクオリティに対するこだわりが感じられました。今年はどうでしょうか。

麻倉:ソフトの具体的なクオリティで前年1年間のブルーレイ動向を指し示す本アワードも、回を重ねること11となりました。“ブルーレイのアカデミー賞”を通して、今回の大閻魔帳は日本のセルソフト市場における最新動向を報告したいと思います。

今回のアンバサダーは乃木坂46の堀未央奈さん。ブルーレイに因んだ毎年恒例のドレスコードとして、無数の青い花柄を敷き詰めたワンピースで登壇

麻倉:まず今年のアワード概要をおさらいしましょう。今年は最高賞のグランプリが1作品に、準グランプリが2作品、審査員特別賞とユーザー大賞が各1作品ずつ、それからアンバサダー特別賞が用意されました。いずれもクオリティ/カテゴリの各部門賞を受賞した作品からベスト・オブ・ベストを選ぶ、ボトムアップ型の表彰です。

これは米国アカデミー賞などと同じタイプであり、コンテンツ業界の習わしに沿っているというのは大きなポイントです。対してオーディオのアワードは正反対のトップダウン型です。例えばステレオサウンド社が主催する「HiViグランプリ」の場合、まずグランプリを選び、各部門賞はそれ以外から選出します。

ブルーレイ大賞では作品性を考慮しつつ、様々な方向の切り口を正当に評価しています。クオリティ部門の受賞作であっても、作品性も同時に評価するため、往々にしてそういうものがグランプリに選出される流れがある様に感じます。

――今年の流れとして、どの様な特徴が見られましたか。何か象徴的なタイトルはあったでしょうか?

麻倉:映像作品とパッケージのあり方について、カテゴリ部門の音楽賞に今年を反映するタイトルがあった事をまずお話しましょう。カテゴリ部門は先述の通り、市場性重視のタイトルです。要するに“売れたかどうか”もっと言うと“ブルーレイというフォーマットの普及に貢献したか”が大きく評価されます。それを象徴するのが、音楽賞を受賞した「namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~」。これは2018年限りでの引退を宣言した安室奈美恵さんのファイナルツアーを収録した作品で、市場性という切り口からブルーレイを大きくしたという意味でたいへん注目されたと言えるでしょう。と言うのも、本作はなんと100万枚近くものセールスを記録しています。前例がないわけではないですが、これほどの大記録は極めて稀です。

“安室ちゃん”の愛称で親しまれた、'90年代を代表する大スターである安室奈美恵さん。大セールスの原動力が彼女の持っているコンテンツ力であることに間違いはないですが、DVDではなくブルーレイを選ぶというファン心理は大いに理解できます。引退後に生ライブはおそらくもうないかと思いますが、ブルーレイを買っておくとツアーが最高の状態でいつでも再現が可能です。これはパッケージメディアとしての特性・強みを表していると言えるでしょう。ファンにとってはスターと共にする時間というのが何にも代えがたい価値であり、ブルーレイは単に再生するということに留まらず、引退したとしても“いつでも安室ちゃんに会うことができる”という体験は、ファンにとってかけがえのない資産なのです。

――大好きなスターのライブを音で・絵で持ち続けられれば、その時間と記憶を何度も反芻できますからね。

麻倉:配信サービス全盛の中で、あえてパッケージという選択を取るファン心理と、反復性・永遠性に対してのエビデンスが与えられたことがよくわかりますね。ライブ映像というものは、音楽はもちろん、コスチュームやダンスなどを含めたビジュアルな作品です。ならばより良い姿をいつでも、それが100万枚近くという音楽映像史上最大規模の大セールスにつながったのでしょう。この実績は審査会でも大きく評価され、パッケージメディアとしての良さをブルーレイディスクが提供していることを改めて認識させられました。
ただし音質はもう一声欲しいところ。テレビでの再生ならともかく、本格的なホームシアター環境での再生を考慮した場合、音の伸びやクリアさなどをもう少し頑張っていれば、作品性はさらに向上したはずだと感じました。

前年も音楽賞を獲得した安室奈美恵さん、そのラストを飾るライブツアーディスクが、今年は準グランプリを獲得。全国のアムラーに贈る、平成の大スター最後の映像作品だ

充実のメイキングでアニメをもっと深く楽しむ

麻倉:アニメ賞(邦画)部門は「劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』」が選出されました。コナンと言えば毎年ゴールデンウィークに新作映画が公開される定番タイトルですが、本作は画質に関して一定の水準を超えた良いものを得ています。

――私立探偵・安室透、黒の組織・バーボン、そして警視庁“ゼロ”のデカ・降谷零という、トリプルフェイスを持つ人気キャラクターに焦点を当てたタイトルですね。爆発的に増えた女性ファンは“安室の女”と呼ばれ、SNSなどを賑わせました。

麻倉:劇場作品なので映画館で観ることが前提ですが、謎解きや作品づくりにおける仕掛けが満載されているタイトルです。マニアックな内容だけあり、劇場で一度観ただけでは気づかないところも、パッケージであれば何度も視聴できるので、より作品の中に入っていけるでしょう。先程の安室ちゃんと同じコメントになりますが、監督が「何度も観てほしい」と話している通り、BDでの繰り返し視聴に堪える作品性を持っています。

加えて今回のものは特典が良いですね。アニメソフトの特典には大きく分けると2種類あり、1つはフィギュアやイラスト集といったノベルティが付くタイプ。コナンにはポストカードが封入されています。

もう1つは作品の資料がついてくるタイプ。本作にはデジタル絵コンテ集やアートボードなどが収録さています。特に後者は作品を多面的に、より深く理解するという観点から、パッケージならではのあり方を示しているのではないでしょうか。アニメを作るにあたって、どういった工程を踏んできたか。舞台裏のメイキングに関する特典には大きな魅力があり、それがパッケージメディアの魅力を確実にする大きなポイントでもあります。絵コンテやアートボードなどを見れば、作品が進んでゆく過程をつぶさに見てゆく事ができる。そういう事もあるので、特典は重要な要素です。これも大変に評価されました。市場性と画質・音質の良さが相まった上で、特典の良さも加わったことでアニメ賞を獲得したタイトルなのです。

アニメ賞(洋画)を獲得した「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」には、個人的に感心しました。本作はストップモーションを用いたアニメ作品で、日本的な感覚・テクスチャを上手く活かして、様々な絵のこだわりを見せています。制作は米国・ポートランドに本拠を置くストップモーションの大家、スタジオライカ。劇場公開の規模がそれほど大きくないため知名度は一歩譲りますが、古き日本を非常なこだわりを持って描いた渾身の一本です。

そのこだわり様を端的に示すのが、ストップモーションゆえの制作時間の長さ。103分の本編映像制作に莫大な時間を費やしており、平均して一週間にわずか“3.3秒ぶん”しか作ることができなかったそうです。そんな途方もない苦労の結果、CGとは違うリアリティ、動きの暖かさ、ぬくもりといった、ヒューマンな動きや質感を感じた事に大変感心しました。「こういう切り口の映像があったのか」という驚きも含めて、非常に新鮮なアニメ体験を得ることができました。

名探偵コナンの劇場版は毎年4月の劇場公開が恒例となっている。22作目にあたる「ゼロの執行人」は敵組織や警察といった、作品の表裏を行き来する人気キャラクター“安室透”にスポットライトを当てたタイトル
(C)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
アニメ賞の洋画部門は、「ズートピア」等を手がけたスタジオライカ作品「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」。CG全盛の現代海外アニメにあって、あえて手間のかかるストップモーションを選択したところにアンチテーゼのようなものを感じる
(C)2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

CGであることを忘れさせる「ジュラシック・ワールド/炎の王国」

麻倉:感心した、とは言えど、ここまで紹介したタイトルは画質・音質はそこそこで、ずば抜けてて素晴らしいという程ではありません。でもカテゴリ部門・映画賞(洋画)は違います、スターウォーズやアベンジャーズにパシフィック・リムなど錚々たるタイトルが候補に上がり、最終的には「ジュラシック・ワールド/炎の王国」が選ばれました。バイオテクノロジーで恐竜を復活させたテーマパーク「ジュラシック・ワールド」で火山噴火が発生してパニックに陥る、というアクション大作です。

――スピルバーグ監督「ジュラシック・パーク」の流れを汲む恐竜シリーズの最新作ですね。オーディオビジュアル的にはどこが見どころなのでしょう?

麻倉:カテゴリ部門なので市場性メインの評価による選出ですが、単に売れたというだけでなく画質の良さにも感心しました。まず解像感が高く、細かい部分までしっかりディテールが出ています。加えてS/Nも良く、クリアなテクスチャが全編を通して見られます。

映像のほとんどがCGでアクションシーンも多いですが、描き込みは実に手慣れていますね。CGであることを忘れさせる綺麗なリアリティのある恐竜、火山爆発など、最新技術の流れを充分に感じさせる映像です。音も素晴らしく、低音から高音まで情報は豊富で、DTS:Xによるめくるめく音の移動感や配置などを堪能できます。恐竜は地上も空も大活躍。絵と音の相乗効果も新次元へ入ったことを見せてくれました。まさに部門賞に相応しいクオリティです。最新作だけありUHD BDの4K版も出ていますが、2K版となるBDでも4Kに迫るクオリティを持っていることを付け加えておきましょう。

激戦区のカテゴリ部門・映画賞(洋画)を制したのは、ジュラシックワールドシリーズ最新作「ジュラシック・ワールド/炎の王国」。大迫力映像を支えるCGの使いこなしは熟練の域に達しており、麻倉氏も「不気味の谷はもう超えた」と舌を巻く
(C)2017 Universal Studios & Amblin Entertainment, Inc. All Rights Reserved

今年もビコムのハイクオリティソフトは見逃せない!

麻倉:カテゴリ部門でずば抜けたクオリティと言うならば、ノンジャンル賞を獲得した「世界自然遺産 小笠原 ~ボニンブルーの海~」は外せません。この連載でも何度も取り上げているクオリティ超重視のソフトハウス、ビコムの4K最新作です。

ビコムの本業は鉄道映像ですが、年に1回日本各地の島を巡り、当代最高峰の映像・音声を可能な限り追求し、収録しています。そんな特別プロジェクトを8年ほど続けており、これまでも沖縄や宮古島、あるいは桜など、多彩なジャンルを高画質・高音質にこだわって出してきました。

――ビコムのハイクオリティプロジェクトは、家庭用パッケージメディアのマイルストーンと言って過言ではないでしょう。その仕事ぶりは米国・リュミエールアワードでもグランプリを獲得するなど、高く評価されています。

麻倉:そういう事なので、ブルーレイ大賞でもビコムは常連です。ここまでのこだわりを見せているので「自然映像はビコムで決まり」という様な、ある種の常識になってすらいます。

さて今回のこだわりはと言うと、初採用となる8K撮影でしょう。パッケージは4K HDRですが、8K素材ならではの解像感・クオリティを4Kへトランスファーしており、ここにビコムならではの新しい切り口が出ています。これが凄く効いていて「ここまでのハイクオリティ映像があったのか!」と言うくらいの、目を見張るものを手中に収めました。

作品は小笠原の各地を訪ねて最後に船で帰ってゆくという、小笠原探訪記を時間軸に沿って展開する内容です。小笠原は空港が無いため、今でも24時間かかる週1便のフェリーでしか行くことができないのですが、フェリーの景色から始まり、入港、島巡り、フェリーで帰るという構成がまず良いですね。特に最後の景色は感動的で、小笠原出港の時にはよくある紙テープではなく、派手な飾りを付けた船が何艘も伴走し、手を降ったり海に飛び込んだりするんです。そこには遠方からの訪問者を歓待し、送り出す様子が収められており、その4K映像は非常に美麗です。

多少の例外はあるものの、ビコムの特徴は“本物以上”というくらい色が濃いこと。着色・彩度感でより鮮やかな思い出を残すというのが、ビコムの画作り・色作りです。それは本作でも顕在で、画面を観ていても色の濃さから来る小笠原の特別な体験が脳裏に残り、最後の見送りシーンになるとまるで自分がフェリーに乗って帰ってゆく様な気持ちになります。ここは船から撮っている映像なので、自分の視点が船に居て、見送りの船が海を走る様子が眼前の体験感として得られる訳ですが、これの何と感動的なことでしょう!

また、水中撮影の時にはクジラが出てきます。水の透明感、そこにドッシリとした実存感豊かなクジラがグッとせせり出す様は、さすがの8Kならではという表現力。様々な島を巡る中で、南島の映像はまさにブレステイキングです。非常に細かいところまで解像しながら、そこにこってりした“ビコムカラー”が階調感を伴って出てきます。海は碧く、深く、波はHDRらしい鮮鋭感を見せています。8KとHDRを見事に活用しており、グレーディングも相当こだわったことがうかがわれます。

カメラやレンズへのこだわりがハイレベルな解像感につながっており、その使いこなしは映像制作における8Kの今後を指南しているようでもあります。4Kという膨大な資源を持つプラットフォームを最大限に活かし、8K撮影によって小笠原の魅力を見事にパッケージングしたことが、審査会で高い評価を受けました。画質に命をかけたビコムでしかできない作品であり、世界的に見てもワンアンドオンリーの高画質ソフトと言って過言ではありません。

昨年の“企画映像賞”から名称変更をした“ノンジャンル賞”は、ビコムがUHD BDに絞ってリリースをした「世界自然遺産 小笠原 ~ボニンブルーの海~」。昨年の「彩(IRODORI)にっぽん 4K HDR紀行 Vol.1」でタイトル獲得を逃していただけに、高画質ソフトの雄が雪辱を果たした
(C)2018 VICOM INC.

作品にマッチした絵と音が重要、「リメンバー・ミー」

麻倉:クオリティ部門の高音質賞を受賞したのは、メキシコでの少年と骸骨の友達による、心温まるヒューマンドラマ・アニメーション作品「リメンバー・ミー」です。

高音質賞での受賞ですが、本作は画質も大変素晴らしい。作品性に合った画質はとても大事です。映像には作品性に合った画調・画質というものがあり、すべて高解像度的にクッキリしてピークが立っている、というだけではダメなのです。そういう意味からすると、本タイトルの暖かい画質は作品の物語・ヒューマン性を反映しており、作品性のあるアーティスティックな画調だと言えるでしょう。

それでも本作は音質賞での受賞です。音質賞は映画/音楽といったジャンルに限らず、音の良さを評価するもので、今回は映画タイトルが受賞しましたが、これはそれだけ本作が音楽の、特に音質の良さが高い水準にあったという事を示しています。

――音楽タイトルを抑えての受賞ですから、相当にハイレベルだったのでしょう。それも単に音が良いというだけでなく、作品性に関わる良音だったのだと推測します。

麻倉:ご明察! ギターの天才少年であるミゲルが旅に出る本作は音楽がテーマというところがミソで、中でも特に重要なのがギターのサウンドです。随所で象徴的にかき鳴らされるギターが素晴らしい。広大なダイナミックレンジに支えられたハイレゾ的な高解像度もさることながら、“柔らかで尖っている”という、アコースティックギターが持つボディー感ある音の質感がとてもよくとらえられています。

その音の質感はヒューマンな暖かい画調ともマッチしており、映像と音声のどちらもが緻密で綿密、極めて高い水準でバランスしているのです。もちろん音質賞なので音単独で評価されるべきではありますが、作品性の中にある音はとても重要です。その点において本作の持つギターサウンド、サウンドエフェクトのクリアさは、やはり特筆すべきでしょう。

音質が作品性に寄り添い、音が作品を前進させたアニメ映画「リメンバー・ミー」が、クオリティ部門・高音質賞を獲得。映画における音楽・効果音のあり方に一石を投じる作品だ
(C) 2018 Disney/Pixar

日本アニメの偉大な遺産「劇場版 あしたのジョー2 4K ULTRA HD」

麻倉:ブルーレイ大賞のウェブサイトには、アワード獲得タイトルとは別に“審査員イチオシ作品”が掲載されています。言わばこれは、審査員が注目した個人賞。私は「劇場版 あしたのジョー2 4K ULTRA HD」を推しました。

日本オリジナルの劇場公開アニメ劇画を、35mmフィルムからダイレクトネガスキャンで4K化し、そこから色修正された本作。アニメの4Kタイトルはまだまだハリウッド中心ですが、日本が誇るアニメ文化を最良の状態でデジタル化し、今考えられる最高のパッケージに仕上げた事の意義はとても大きい。20世紀フォックスは本作と「劇場版 SPACE ADVENTURE コブラ 4K ULTRA HD」を一昨年後半から昨年前半にかけて立て続けに発表しており、いずれも作品性の高さと圧倒的な画質の良さでファンや関係者などの度肝を抜きました。

そもそも本作は作品性と元々の画質が優れているんです。テレビタイトルとは違った贅沢な制作環境の35mmネガフィルムをTMS(東京ムービー)でスキャン・修復しており、'80年代に作られたという年月を感じさせない、ものすごくクリアな映像に仕上がっています。色はとても厚いですが、透明感がとてつもなく高い。これは修復とスキャンの技であり、非常にこだわりを持ってレストアされたことがここからうかがえます。

HDR効果もバッチリで、出崎統監督の光効果が全編にわたって出ています。画面上部からの光線が何本も照射され、星が光るかのようなキラキラ感が全編に渡って出てきます。監督の特徴である光の演出が、HDRの採用によって階調を保ちながら、煌めきの内容までわかる。これが非常に素晴らしいですね。天下の名作が最良の形で甦った、日本のアニメにおける偉大な遺産です。

――マスキングと二重露光で鮮烈な光を出す演出は、出崎監督を象徴する表現のひとつですね。非常に手間がかかるセル画時代の技法ですが、本物の光が持つ先鋭さには強烈なインパクトと説得力があります。あまりに強烈な光なので、放送当時のテレビではなかなかこの光を表現しきることはできなかったでしょう。HDRが出てきた現代で、ようやく本当の威力を目にすることができたのだと思います。

麻倉:実はこのタイトル、20世紀フォックスの試写室にユーザーを呼んで試写会をやったんです。ソニーのプロジェクター「VPL-VW5000」を持ち込んで私が解説を入れるというイベントだったのですが、そこでも反応が凄く、中には公開当時に劇場で観たという人も居て、劇場とは圧倒的に違うという声も聞かれました。劇場映画、特にフィルム映画の場合、オリジナルネガからトランスファーします。コピーを重ねることでノイズも増えるし、解像感も輪郭感も失われてゆく。ところが本作はオリジナルマスターからの直接トランスファーで、何度もコピーされた劇場フィルムよりもずっと良い、オリジナル性の高い映像な訳です。光演出とHDRの話が出ましたが、そういう意味においても「こんな映像は初めて観た」という声に納得できます。ホームシアターを超えた大きな試写室でも、充分な感動性と絵のリソース感をたっぷりと感じました。

昭和を代表するアニメ作品「あしたのジョー2」がUHD BDになって登場。鮮烈な光が差し込む通称“出崎演出”は、4K・HDRを手に入れた現代になって益々映えている
(C)高森朝雄・ちばてつや/講談社・TMS (C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

「ガルパンには大変に感動させられた」

麻倉:アニメタイトルの話をもうひとつしましょう。ユーザー大賞に選ばれた「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」です。

――何と、麻倉怜士のレビューにガルパンが出てきましたよ! 確かに音も絵も定評があるシリーズですが、ユーザー大賞は品質評価よりもファン活動的な側面が強いですから、ここで話題に上がるのはちょっと意外です。

麻倉:いやいや、これには大変に感動させられましたよ。クオリティ部門の高音質賞で惜しくも選外となりましたが、審査会で私は準グランプリくらいに推したほどです。

話に上がった通りガルパンはクオリティに定評があるタイトルで、アニメ作品の中では画質・音質が抜群に良いと言われていました。中でも特に本作は素晴らしく、これまでに比べてコントラストが明瞭・明確で、絵の力がくっきりと出ています。今回は特別で非常にクオリティが高い。解像感はアニメのブルーレイということでそれほどでもないですが、コントラストが鮮明さにつながっていて、全編・全画面を通じてクリアに再現されています。

もうひとつ特筆すべきは音の良さでしょう。音そのものはもちろん、5.1chサラウンドが魅力で、戦車の砲撃戦で飛び交う砲弾の飛翔感・移動感が非常に優れています。キューテックが持っている特別な音のトリートメント技術「FORS(フォルス)」でオーサリングされており、ヌケの良さに一役買っています。爆発音も立ち上がりの切れが良好でした。

ブルーレイ大賞のWebサイトでは一般ユーザーからのコメントが掲載されていますが、次の一文は正鵠を射ているでしょう。「欲を言えばドルビーアトモスでの収録があるとパーフェクトだったと思います」作品の特性からして、やはり立体的に弾丸が飛び交う感じは欲しい。まだ最終章の第1話という事ですから、この点は是非とも次作以降に期待したいです。

舞台である大洗が街ぐるみで盛り上げている人気タイトルの最新作「ガールズ&パンツァー 最終章 第1話」、徹底的に手を抜かない制作姿勢は画質・音質の面でも大いに評価されている。そんな誠実さが多くの人に愛されて、今回はユーザー大賞を獲得した。戦車戦のリアリティを追求するならば、次作以降は音声収録にイマーシブサウンドの採用を期待したい
(C)GIRLS und PANZER Finale Projekt

パッケージならではの面白さ「2001年宇宙の旅」

麻倉:審査員特別賞受賞作、「2001年宇宙の旅」。これはひとつ、今年のアワードを象徴するタイトルです。

昨年は1968年の劇場公開から50周年で、これに因んで様々なイベントが開催されました。例えば今どき珍しい70mmフィルムによる国立映画アーカイブでの特別上映。これは人気が凄まじく、朝5時に並ばないと午後の上映に入れないというほどだったとか。そのほかIMAX上映や、8K開始記念放送など。そのラストを飾ったのがUHD BD発売です。

4K作品の作り方は3パターンくらいあって、ひとつは6Kや8Kといったハイレゾ映像で撮影するデジタル映画というパターン、例えば「マリアンヌ」などです。それから現代の65mm IMAX大判フィルムで撮影するフィルム映画、これは「ダンケルク」などが該当します。

そしてかつての黄金時代に大判で制作された旧作をネガスキャンする大作フィルム映画。これに類するのは「アラビアのロレンス」などでしょう。まだ4K化されていないですが「サウンド・オブ・ミュージック」も期待したいです。3月10日には「マイ・フェア・レディ」の8K放送も予定されています。もちろん「2001年宇宙の旅」もこれに該当します。

放送された8Kも素晴らしいですが、4Kも良いですよ。元のフィルムが持っている情報を足しもせず引きもせず、キューブリック監督の作品性をそのままトランスファーしています。「キューブリック監督の絵作りを絶対に変えない」というNHK用の8Kスキャンでは、70mmポジフィルムを試写室で上映して、グレーディングエンジニアが視聴、その記憶が薄れないうちにデジタルグレーディングルームまで走っていった、という面白いエピソードもあります。

そこまで作品の正しさ、特に色再現の正確性にこだわっているわけで、今回のUHD BDも元の作品、特に画質・色が持っている壮大な世界観・表現性を損なうことなく、最大限にパッケージ化されています。4KパッケージとしてはHDRであることも得点です。様々なメディアで観られた本作ですが、こういった意味ではパッケージとして持つのが最高の鑑賞でしょう。パッケージとしての面白さは、本編のUHD BDだけでなく、パッケージメディアならではの物理的な特典にあると感じます。その内容はBD、特典映像、20ページのパンフレット、66年の制作当時にキューブリック監督へインタビューした音声特典の翻訳冊子、アートカード4枚など。音質面でも面白い試みがあります。オリジナル音声とレストア音声が同時に収録されており、再生中に手軽に切り替えられます。試してみると、レストアの広がり感・音の緻密さが感じられます。

この様にパッケージメディアとしては画質・音質・特典が満載で、様々な観点から楽しめる。そういう意味でパッケージならではの面白さ、ワクワク感が大きく評価されました。

IMAX版公開や8K放送での放映など、2018年はSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」が大いに盛り上がった。原典忠実主義を貫いたUHD BD版は、レストア版と原典版の音声を同時収録したり、当時の監督インタビュー冊子を封入したりと、巨匠スタンリー・キューブリック監督への深い敬意を感じさせる
(C)1968 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

邦画のクオリティもここまで来たか「8年越しの花嫁 奇跡の実話」

麻倉:準グランプリは2タイトルあり、1本はカテゴリ部門・音楽賞の安室ちゃんです。もう1本は高画質賞(ブルーレイ)を獲得した「8年越しの花嫁 奇跡の実話」。これも今年を象徴するタイトルです。と言うのも、邦画で実写作品の準グランプリ以上は史上初。これが今年イチバンの大トピックと言って過言ではないでしょう。

原因不明の病気で昏睡状態に陥った婚約者を8年待ち続けた、という実話を基に作られた作品で、物語も感動的ですが画質も感動的。これまでの邦画とは全く違うリッチさがあります。従来のイメージだと「ハリウッドはリッチ」。制作費が画質に表れているところがあり、コントラストは良く、黒はちゃんと深く、白は伸びていて、そこに色の階調が多く、解像感は高い。これがハリウッド作品でした。対して「邦画はなんだか物足りない」。コントラストは狭いし、黒は浮いているし、白は伸びないし、色は伸びないし、輪郭はボケている。こんな印象が往々にして邦画にはあり、ブルーレイでもこの印象はなかなか変わりませんでした。

このようなアワードの意義として、コンテンツメーカーに頑張ってもらう、そこに賞を与えられるような素晴らしい作品を創ってもらう。それが重要なミッションです。ハリウッドではブルーレイ以前からリッチなコンテンツが多数作られていたのに対して、邦画は「慎ましく・貧しく・美しく」みたいなところが画質にもありました。良く言えば日本的な感性を活かした作品づくり、悪く言えば不足している限られたリソースのやりくり。ハリウッドと比べて、やっぱり邦画は明らかにリソースが足りない感じがしていました。作品性も絡んではくるのですが、「もっとコントラストが欲しい」「もっとノビがあると良いな」など、絵で見て「これはスゴい!」というものがなかなか出てこなかったのです。

そこへ来てこれはダークホース、非常に素晴らしい映像です。特に黒の艶があり、肌の描写がとても細やか。解像感は高いながら強調感は無く、そこに質感があります。主演の土屋太鳳さんは弾力感のあるみずみずしい肌が印象的で、膨らみ感がとてもきれいにリアリティを持って見られ、日本的な情緒を残しながら高ハイクオリティになっているのが素晴らしいです。滑らかなトーンでありながら、ワイドレンジで、ノイズが少なく、グラデーションも多い。髪や肌の質感がとても艶っぽいのもこれまでの邦画になかった美質で、しっかりとしたライティングが映えるのが印象的でした。

4Kで邦画の傑作が出なかったのは、2Kの時から満足させられるクオリティを持った作品が少なかったからというのが大きいでしょう。対して今回は非常にリッチでビビットな絵に仕上がっています。そのためか審査会での試写で驚きの声があがりました。これまで高画質賞はだいたいがハリウッド作品の独壇場で、今年もハリウッド超大作が居並んでいました。それらを圧えた高画質賞の獲得に、邦画のクオリティもここまで来たかという思いを懐きました。これまでの2Kという枠を遥かに超えたクオリティを持つ大作であり、単に「良いものが偶発的に出た」というのではない、ブルーレイ大賞が10年かけて到達した、ひとつの記念碑的作品ですね。

邦画タイトルで初めて準グランプリを獲得した「8年越しの花嫁 奇跡の実話」。ハリウッドメジャーの豊かな制作環境と比べると邦画の制作環境はなかなか厳しいが、その中でも突き抜けたパフォーマンスを見せた本作は、審査員達の度肝を抜いたという。邦画の新時代を感じさせる、今回最大のトピックである
(C)2017映画「8年越しの花嫁」製作委員会

グランプリは全会一致で「グレイテスト・ショーマン」

麻倉:ではいよいよグランプリの話をしましょう。第11回はズバリ「グレイテスト・ショーマン」。審査会も全会一致で選出した、押しも押されもせぬグランプリです。

中毒性があり1度ならず何度も観たくなる、ヒュー・ジャックマン主演の大ヒットミュージカルタイトル。これだけでもパッケージに最適です。物語もワクワクする波瀾万丈ストーリー。伝説的興行師であるT.P.バーナムの波乱万丈に満ちた実話を上手く描いています。昨年後半から話題になっている「ボヘミアン・ラプソディ」もそうですが、アメリカンドリーム的にどん底から這い上がるのは映画の成功パターンです。

画質的観点で語るならば、本作には色の魅力が詰まっています。多色で驚くほどクリア、繊細でクオリティが高く、どの場面を観ても色と階調の良さがあります。冒頭の低音がズシンと出てくるシーンでは黒の階調感が。「ネバーイナフ」を歌うチャプター11はステージと客席の対比、光の当たり方、アップになった歌手の繊細な肌の階調感が素晴らしいです。そして何よりも、スキャンダルと火事でバーナム夫妻が仲違いするチャプター15は見どころでしょう。バーナムが馬車で立ち去るシーンから始まり、苦い思いで役者を解雇するという難しい場面で、この時夫人が着けている薄青色のストールは質感がものすごく繊細です。屋内はライトが当たり、屋外は豪邸に咲く紫の花の1輪1輪が凄く綺麗。バックで流れるワルツの音楽もとても良いですね。

――夫人のストールが薄い青、というのが何とも意味深です。バーナム氏が夫人の実家へ詫びを入れに行くシーンでも同じものを身に付けていましたが、僕にはあのストールが英国女王の身に着けるブルーリボンに見えました。これに限らず、作品内で色というファクターは想像・才能・そして地位の象徴として、極めて印象的に描かれています。それだけに本作は豊かな色彩表現が、視覚的にも物語的にも強烈なインパクトを与えていると感じます。

麻倉:4Kデジタル撮影になって映画のクオリティは上がりました。ですがその中でも作品別に品質差があり、大体は並クオリティに甘んじています。でも本作は特別・特段に情報量が多く、それがしっかりとストーリーを描いている。主な舞台であるサーカスらしい絵の豊穣さ・絢爛さ、そこにヒューマンな繊細さが加わり、色のヌケの良さもあります。この絵はこれまで観たことのない色情報の多さという切り口がとても印象的に映りました。

音もやはり素晴らしい。Dolby Atmos収録ですが、音場の広がりがあると同時に音質も低音の雄大さから中域の階調感、高域のノビまで、情報量も多いです。色の情報量が多い絵に対して、階調感の多い音が不思議なマッチングを見せており、ロック、バラード、クラシックなど、音楽の種類も多彩です。チャプター11の「ネバーイナフ」歌い終わりは5秒ほどの静粛を挟んで、拍手の波が前から後ろへとやってくる。そういった演出も視聴者をよりワクワクさせています。

画質/音質などあらゆる要素において、全体的な水準が上がった中でも1年の中で特別ハイクオリティを示していたタイトルが本作です。特典として封入されている、チャプターに沿った40pのスペシャルソングブックも、ミュージカルをより楽しむ要素として見逃せません。

グランプリは審査員の全会一致で「グレイテスト・ショーマン」が獲得。「X-MEN」シリーズや「レ・ミゼラブル」などで知られ、ブロードウェイでも高い評価を受けるヒュー・ジャックマンが、伝説の興行師T.P.バーナムを歌い上げた本作は、いたる所で色が象徴的に使われている。時には高揚を、時には哀愁を誘う色と音の饗宴は、UHD BDでも存分に繰り広げられる
授賞式ではDEGジャパンの会長も務める20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパンの川合史郎社長が、麻倉氏と堀さんからトロフィーを受け取った。川合氏は式の壇上で受賞の喜びを語り、突然「大感謝セールをやる!」と宣言

日本のパッケージメディアがより面白くなってきた!

麻倉:今回の総括をしたいと思います。今年はまずひとつ、「グレイテスト・ショーマン」という作品が出たことで、パッケージが持つクオリティと魅力というところがフィーチャーできました。次にBDが出て十数年、「8年越しの花嫁」の登場でようやく邦画でハリウッドに比肩する画質パッケージが出てきました。同作は劇場でも観たのですが、黒浮きが散見され、BDの方が遥かに良い体験だったことを添えておきます。そして2001年宇宙の旅やあしたのジョーなど、過去の名作を最新のハイレゾ映像に変えるレストアの可能性を示してくれました。

これら積み重ねた成果と新しい動きが、日本のパッケージメディアをより面白くしてくれている、そんな発見が今年もできたことを歓びたいと思います。

――映像業界にとって、今年も意義深いアワードだったと感じます。ひとつ気になったのは、クラシック音楽やバレエといったタイトルが1本もアワードに選ばれていないことです。唯一「ベルリン・フィル/ラトルのマーラー6番」が高音質賞で入選したのみ。これはどういう事なのでしょう?

麻倉:パッケージメディアの多様性という観点から、その点はちょっと問題です。そもそもクラシック音楽のジャンルは国内でリリースされたタイトル数が少なくて、しっかり出しているレーベルはキングインターナショナルくらいしかありません。ブルーレイと言うとどうしても映画に目が行ってしまいがちですが、ピュアミュージックもその他のジャンルも大きな特質です。なので今回出てこなかった舞台モノは、来年こそ是非頑張ってもらいたいと強く願います。

第11回 日本ブルーレイ大賞 受賞作品

グランプリ
グレイテスト・ショーマン
準グランプリ(2作品)
8年越しの花嫁 奇跡の実話
namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~
審査員特別賞
2001 年宇宙の旅
ユーザー大賞
ガールズ&パンツァー 最終章 第1話
アンバサダー特別賞
シェイプ・オブ・ウォーター
・クオリティ部門
高画質賞(ブルーレイ) 8年越しの花嫁 奇跡の実話
高画質賞(Ultra HD ブルーレイ) グレイテスト・ショーマン
高音質賞 リメンバー・ミー
・カテゴリー部門
映画賞(洋画) ジュラシック・ワールド/炎の王国
映画賞(邦画) 孤狼の血
TV ドラマ賞 おっさんずラブ
アニメ賞(洋画) KUBO/クボ 二本の弦の秘密
アニメ賞(邦画) 劇場版「名探偵コナン ゼロの執行人」
音楽賞 namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~
ノンジャンル賞 世界自然遺産 小笠原 ~ボニンブルーの海~

麻倉怜士

オーディオ・ビジュアル評論家/津田塾大学・早稲田大学エクステンションセンター講師(音楽)/UAレコード副代表

天野透