本田雅一のAVTrends
第206回
iPhone使うAVファンなら、価格以上の価値「新Apple TV 4K」
2021年6月3日 09:38
今回は先日アップルが発表・発売した新型Apple TV 4Kの使用感を伝えていきたいが、大きく三つのパートに分けてお話ししたい。
ひとつはApple TV 4K本体のアップデート。搭載するSoCが二世代進んだものになったほか、リモコンのデザインが刷新された。もうひとつはtvOSのアップデートにより追加された機能。こちらは主に色調整ということになり、従来のApple TV 4Kでも利用できる。
最後に、しかし特に強調しておきたいのがApple Musicのアップデートとの組み合わせだ。AV機器のファンにとっては、このアップデートは実に大きなものだ。特にすでにDolby Atmos対応のサラウンドシステムを所有しているオーナーには重要なアップデートだ。
これらを総合的に考慮すると、普段からiPhoneを使い、iCloudやApple Musicなどアップルのサービスを利用しているのであれば、Apple TV 4Kは圧倒的に購入する価値のある、費用対効果の高い端末と思う。他にも多くのテレビ向けIP端末があるが、あえて他を選ぶ理由がないと思うほど、AVユーザーの心を打つ製品になるだろう。
性能進化は順当、リモコンは大幅改良
Apple TV 4Kの本体デザインには変化はなく、内蔵するSoCがA10 FusionからA12 Bionicへと更新された。搭載するiPhoneの世代で言えばiPhone 7とiPhone XSの違いだと書くとわかりやすいだろうか。
CPUだけではなくGPU能力が大幅に進歩しているが、一番大きな違いはNeural Engineと呼ばれるニューラルネットワーク処理のアクセラレータが搭載されていることで、推論アルゴリズムや画像の分析処理など様々な面で性能が強化されている。
それらは今後、動かすアプリの応答性などの面で大きな違いを生むかもしれないが、さほど大きな体験差は従来機との間であるわけではない。
定額で遊べるゲームプランApple Arcadeに登録されている150を超えるゲームは、どれも旧モデルでも快適に動作するが、今後はA12 Bionicの性能に見合うグラフィクスの質に順次調整が入るようだ。今後のアップデートや新作ゲームなどでは違いが出てくる可能性はある。
Apple TV向けアプリの多くはCPUやGPUへの依存度が高くないため、SoCの違いを大きく認識することはないかもしれないが、リモコンの改良は実感できる。
Siriを呼び出すボタンが右側面に移動され、その分、空いたスペースにミュートボタンが加えられた。また、これまでMENUとなっていたボタンは「<」となり、実質的な使い方になっていた「戻る」ボタンとなっている。こちらの方が直感的な表示とは言えるだろうが、使い方そのものは変わっていない。
また右上の小さな電源ボタンが加わり、HDMIを通じた電源や自動入力切り替えなどをワンボタンで行なえる。
Apple TV 4Kの機械学習によるリコメンド機能などとSiriを併用すると、たとえば「子供に見せる面白い番組を教えて」とすると、それまでの視聴履歴から家族の中の子供たちが好みそうな番組を紹介してくれる。この辺りはテレビ内蔵のものよりもうまく動作するように感じるが、従来はごく普通の再生コントロールにやや癖があった。
ポーズをかけてタッチパネルで再生位置を調整したり、タッチパネル上で指を左右にスライドさせてスキップやリワインドをかける使い方は慣れれば快適だが、ボタン操作に慣れたユーザーは最初のハードルを超えにくいかもしれない。
新しいリモコンにもタッチパネルは内蔵されており、従来と同じ使い方もできるが、それらに加えてふたつの操作アプローチが導入されている。
ひとつは中央ボタンの周囲にあるリングで、これが十字ボタンとして動作する。きちんとクリックして動作する物理ボタンだ。さらにこのリングはタッチホイールとしても機能するため、ポーズした後に指を載せると画面上にタッチホイールのアイコンが表示され、回転させる動作を行うと再生位置を調整できる。
以前よりも直感的で、またデザイン面でも上下方向を視認しやすいのも使いやすく感じたところだ。
液晶の中級モデル以下に効果的な色調整機能
色を測定する機能に注目しているAVユーザーも少なくないだろう。
この機能は、Face IDを搭載するiPhoneに備わっている測色センサーを用いて色温度や輝度を測定し、正しくD65に準拠した色温度と規格通りのトーンカーブになるように調整が行なわれるものだ。
色温度の調整は輝度領域ごとに行なわれる。使われるセンサーは、かなり暗い場所でも色温度を検出できる(それによりiPhoneの画面色温度を微調整するもので、かなり繊細な色温度の検出が行なえる)ようだ。
ようだというのは、実際に測定した結果を見ての感想で、安価なパソコン用液晶ディスプレイでさえ、発色を整えてくれる。あくまでもトーンカーブと色温度を整えるだけなので、ディスプレイの能力を超えた表現が行なえるわけではない。また、想定通りの特性になっているディスプレイは、そもそも調整が不要であるという測定結果が出る場合もある。
たとえば筆者の手元にあるディスプレイでは、パイオニアのPDP-6010HDが「調整は必要ありません」となった。
しかしあえて機種名は出さないが、液晶テレビに関してはどれも何らかの効果が得られる。液晶テレビの場合、暗部と明部でホワイトバランスが微妙にズレる傾向があり、明暗のレンジごとに最適化されるためだろう。
トーンジャンプなどの弊害がないかも注意深く見ながら映像をチェックしてみたが、今のところ滑らかに色空間変換が行われており、弊害と言えるような現象は発見していない。
また近年の有機ELテレビなど、Dolby Visionに対応したディスプレイの場合、対応をApple TV 4K自身が検出し、調整機能そのものがグレーアウトされる。Dolby Vision対応テレビでは、色再現の特性が決められているためだ。言い換えれば、個体差やちょとした経年変化による特性変化ではなく、Apple TV 4Kが想定している規格通りの色再現、トーンカーブになっているかを確認し、軽い補正を行なう機能と言えるだろう。
しかし、液晶テレビ、とりわけ中級モデル以下の製品ならば、かなり効果的に動作する。なお、画質モードごとに色再現が異なる場合は、調整することで弊害が起きる場合もあるので、Apple TV 4Kで色調整機能を使う場合は、シネマモードやリファレンスモードなど、安定してモニターライクな色再現を行なうモードを選ぶことを勧める。
なお、この機能で連携させるiPhoneはカメラで画面内のドットの動きを検出してセンサーが向けられていることを認識するためだろうか。スクリーンからの反射が必要なプロジェクターでは利用できない。あるいは透過スクリーンへの投影であれば可能かもしれないが、反射スクリーンを使った一般的なホームシアターセットでは利用できない。
Dolby Atmos、ALAC対応で生まれ変わるApple Music
Apple Musicの再生にも今後は期待したいところだ。アップルはApple Oneというお得なサービスパッケージも用意しているので、安価にiCloud、Apple Music、Apple TV+、Apple Arcadeなどを利用できる。
Apple TV+は好みもあるだろうが、洋画や海外ドラマが好きならば、タイトル数こそ多くはないが、質の高いラインナップが揃っている。
ご存知の通り、Apple Musicはアップデートされ、7,500万にのぼる全ての楽曲がロスレス配信となる。もし筆者が使っているLINNのKlimax DSMがApple Musicをサポートするようなことがあれば、契約しているTIDALを見切ってしまうだろう。
何しろ追加料金も必要ない。さらにマスターがハイビット、ハイサンプリングならば、設定を変更することでそれらを再生させることもできる。最大192kHz/24ビットまでのハイレゾ音楽が追加料金なし。
そして、それらはApple TV 4KのHDMIから再生できるのだ。
もちろん、Lightningから接続できるDACやMacからUSB DACをを用いて手持ちのオーディオシステムに繋いでもいいが、AVレシーバを中心としたシステムならApple TV 4Kを使うのもお手軽だ。
しかし何より興味深いのは、アップルが3D音楽コンテンツを数千曲用意し、追加料金なしで楽しめるようにしたことだ。Dolby Atmos対応のAVレシーバを使って、自宅のサラウンドシステムが部屋を3D音楽で満たしてくれる。
本原稿執筆時点では、どの程度の楽曲、どのような選曲なのかはわからないため、その詳細は次回のコラム以降で伝えたいが、少なくとも筆者の環境ではApple Musicのアップデートは、Apple TV 4Kの価値を大きく高めた。
iPhoneを使うAVファンならば価格以上、導入の価値あり
実はApple TVは初期のストレージを持たない製品は所有していたが、ストレージを内蔵する近年のモデルは購入したことがなかった。もっと安価な、手軽にストリーミング映像を楽しめる製品が数多くあったためだ。
しかし、今回の製品は動作がサクサクと快適でユーザーインターフェイスも良好というだけではなく、音楽を楽しむ道具としても価値が高い。カジュアルなゲーム機としても楽しめた上で、この価格。iPhoneユーザーならば、他のIPセットトップボックスを選ぶ理由が見つからない。
ハードウェアは着実な進歩だが、取り巻くソフトウェアとサービスの組み合わせで価値を高める手法は、他端末では真似がしにくい。これまで使ってきていなかった読者は、一度、本気で自分のシステムに組み込むことを検討するといいだろう。