本田雅一のAVTrends

第213回

AV愛好家こそマスト。新Apple TV 4Kは小型×パワフルなエンタメハブ機だ

第3世代Apple TV 4Kでは、従来のDolby Visionに加え、新たにHDR10+をサポートした

11月4日に発売した第3世代「Apple TV 4K」は、過去にあった疑問について、いくつかの回答が用意されたIP セットトップボックス(STB)だ。アップルは、パワフルでゲーム機としても楽しめるApple TV 4Kを“IP STB”と表現するのを嫌がるかもしれないが、むしろ筆者は褒め言葉としてこの言葉を使いたい。

IP STBとしては1万円を切る価格で入手できるスティックタイプの端末が人気だが、Apple TV 4KはtvOSの充実と端末の低価格化もあって、(価格帯は異なるが)“映像を楽しむだけであってもスティック型よりこちらの方が良い”と言えるものになってきたからだ。なお、価格はWi-Fiモデルが19,800円、Wi-Fi+ Ethernetモデルが23,800円だ。

日本ではDolby Visionに対応していないHDR対応4Kテレビの出荷比率が、HDR対応テレビ普及初期の頃に多かったこともあり、新モデルではHDR10+に対応していることも見逃せないだろう。

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Apple TVに対して感じていた“モヤモヤ”感

実はこれまでのApple TVに関しては、漠然としたモヤモヤ感を感じていた。Apple TVと言っても初期のものと現在の製品、もっといえばその間の世代でも位置付けや能力が大きく変遷してきた。

筆者がモヤモヤしていたのは、Apple TVが基本的に米国市場をターゲットにした製品だったからだ。

今でこそアップル自身が一部、MLBの試合をライブ配信しているが、スポーツのライブ中継はApple TVの目玉機能であったにも関わらず、日本市場は蚊帳の外だった。日本ではApple TV対応のTVサービスもない。映像コンテンツ市場において配信サービスは、各地域ごとの事情の違いが大きく、米国企業であるアップルが作る製品が米国からサービスを拡充していくことに異論はない。そういうものだ。

第3世代Apple TV 4K

しかし米国でのApple TVがテレビ放送の受像機であるテレビを刷新しようとさまざまなサービスを統合していくのを横目に、日本ではそれらを楽しめないなら映像を楽しむだけに特化した安価でシンプルな端末で事足りる。

何も高価なApple TVを導入する必要はない。Apple TVも一時はシンプルな低価格路線に向かったが、必ずしも独自性があるわけではなかった。しかしアップルがコンテンツサービス事業を強化し始めると、Apple TVは段々と輝き始めた。

第3世代Apple TV 4Kで見直した理由

第3世代Apple TV 4Kのザックリした体験レベルは、第2世代と大きく異なるものではない。

本格的にゲームを楽しむならば話は別だが、カジュアルにゲームを楽しむだけならば、第2世代が搭載するA12 BionicでもApple Arcadeのゲームを十分に遊べる。もしそれ以上、もっと進んだグラフィクスで楽しみたいなら、もちろん最新A15 Bionicの高性能なGPUは邪魔にはならないが、第2世代モデルを所有している読者に買い替えを促そうとは思わない。

しかし、第2世代Apple TV 4Kを見送った人は、この機に再検討してもいい。第1世代も動作のサクサク感はあったが、HDRは最大30fpsまでで、eARCには非対応、さらに同梱のリモコンも使いやすくなかったからだ(iPhoneユーザーならiPhoneでリモートコントロールするのもいいだろう。常時点灯モードのあるiPhone 14 Proは特に便利だ)。また、他の4K対応IP STBを考えているなら、少し予算を積み増してでも検討する価値があるだろう。

USB-C端子になったSiriリモート

ハードウェアの面の変更を見ていこう。

AVファンということならば、前述したHDR10+対応は注目に値する(第1世代・第2世代は非対応)。もちろん、対応テレビやプロジェクターを保有していなければ意味がなく、配信側にも対応の必要がある。しかし、Amazon Prime VideoがHDR化初期からサポートしていたのに加え、今後はApple TV+にも対応ストリームが用意されていく。

また年内には待望の「QMS」対応も加わる。QMSとはQuick Media Switchingで、HDMIのフレームレートが変化してもブラックアウトを起こさないための規格だ。当然、ディスプレイ側にも対応が必要になるが、60fpsに変換しなくとも映画を映画らしく楽しみつつ、煩わしいブラックアウトを排除できる。

第3世代機は、93×93×31mm(幅×奥行き×高さ)/208g(Wi-Fi)、214g(Wi-Fi+Ethernet)に小型・軽量化された。
※第2世代機は98×98×35mm(同)/425g

さらにすでに多数のレビューで言及されているように、第3世代Apple TV 4Kは小さく軽く、そして冷却ファンが搭載されていないファンレス設計となった。

ただ、見直した本当の理由は、アップル自身のコンテンツサービス充実と他社サービスの充実もあって、Apple TV 4Kがオーディオ&ビジュアルにおける、より重要なソース機器になり始めたからだ。

マニアックな観点での“三つのポイント”

以前にもコラムで書いたことがあるが、Apple TV 4Kに限らずネット配信の映像サービスは機器に合わせて多様な映像フォーマットが配信されていることが多く、その点で長年、AV機器に投資してきた人にはありがたい側面がある。

HDR対応がそのひとつ。

OLEDテレビなど直視型ディスプレイはHDR化が進み、その画質も進歩しているが、映画ファン、大画面ファンならばプロジェクターを併用している方もいるだろう。

しかしHDRを納得できる画質で再現できるようになった家庭向けプロジェクターが登場したのは近年のことで、SDR時代のプロジェクターをまだ使い続けている人も多いと思う。

ネット配信ならば、HDR非対応ディスプレイに対しては送出側でSDR/4Kが自動選択されるため、直視型はHDRで、プロジェクターはSDRでと、それぞれ環境に合ったグレーディングが自動選択できる利点がある。

さらに直視型ディスプレイの場合、iPhone内蔵カメラを用いての色バランスとトーンカーブの補正が、意外にもと言っては失礼だが、かなり的確にモニタライクなニュートラルトーンを実現してくれるのも嬉しいところ。

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またAVアンプを導入している方ならば、Dolby Atmosに対応した再生環境をお持ちの方も少なくないはずだ。Apple TV 4Kならば、Apple Musicを通じてその再生環境を生かした空間オーディオアレンジの楽曲を楽しむこともできる。

空間オーディオアレンジというと、最近のEDMなどのアトラクティブなミックスしかないのでは? と想像している方もいるかもしれないが、実際には過去の名盤がリマスター、リミックスされていることも多い。

そして地味に良さを感じるのが、他アップル製品との連動性だ。ゲームは積極的に遊ばないという人でも、iPhoneやiPad、MacのユーザーならApple Oneというサービスバンドルパックがお得。この中にはゲーム遊び放題のApple Arcadeがあり、iPhoneの写真アルバムとの連動でも容量が拡大する。

こだわった画質の大画面ディスプレイ、こだわった音質のサラウンド環境も活かすことができるため「僕は映像作品と音楽にしか興味がないよ」という人も、手持ち機材を生かしたプラスアルファのエンターテインメントとして前向きに捉える人が多いのではないだろうか。

複数サービスを統合する端末

第3世代のApple TV 4Kは、IP STBとして圧倒的にパワフルでありながら、ファンレス構造を実現し、第2世代までのApple TV 4Kよりも小型で薄いボディを実現した。

加えてアップルのtvOSは紆余曲折の進化の結果、さまざまな映像、音楽配信を束ねる統合端末として魅力的な存在になった。とりわけ映像サービスに関しては、観たい映像作品をどの配信サービスで、どんな形式で見ることができるのか、とてもわかりやすく見せてくれる。

例えば、Siriリモートで「007」を検索すると、Apple TVでのレンタル、買い切りに加え、Amazon Prime VideoでフルHD版が無料配信されていることが一望できた。さらにPrime Videoには“2つのバリエーション”が存在することがわかり、それぞれ字幕版と吹き替え版に分岐していく。

さまざまな映像配信サービスが存在する中、こうしたサービスをまたがっての検索はかなり有用だ。

ちなみにファンレス化によりノイズ源が減少し、また搭載チップの消費電力も下がっていることから、音質が向上していることを期待している方もいるかもしれないが、HDMI出力の映像・音声に従来機からの大きな違いはない。

CPUは50%強化され、アプリの起動速度が2倍になり、GPUが30%強化されてゲームが高速で応答性がよく動作し、その上で20%の消費電力を抑えたというのが、この製品の数字上のハイライトだが、これらの数字はいずれ次の製品で塗り替えらえる。

まずは利便性やあらゆるサービスへの入り口として最適、というところに着目するのが良いと思う。

本田 雅一

テクノロジー、ネットトレンドなどの取材記事・コラムを執筆するほか、AV製品は多くのメーカー、ジャンルを網羅的に評論。経済誌への市場分析、インタビュー記事も寄稿しているほか、YouTubeで寄稿した記事やネットトレンドなどについてわかりやすく解説するチャンネルも開設。 メルマガ「本田雅一の IT・ネット直球リポート」も配信中。