本田雅一のAVTrends
HDMI 2.0発表。4K/60p伝送の幕開けと少し気になる点
色信号に関する2つのサポートレベル
(2013/9/7 14:34)
ドイツ・ベルリンで開催中の家電ショー「IFA2013」で、HDMI ForumがHDMIの次世代規格「HDMI 2.0」を発表。その記者会見を6日に開催した。スペックはすでに発表されている通りで、データ転送の帯域幅が従来の10.2Gbpsから18Gbpsに拡張され、4K解像度で毎秒50フレームないし60フレームの映像を通すことが可能になる。オーディオ機能も拡張され、最大32チャンネルまでのPCM音声伝送が可能なほか、最大サンプリングレートも2倍に拡張されている。
このほか機能面ではメイン映像に加えてサブ映像ストリームを流したり、音声ストリームを2系統並行して送信する機能(異なる言語の音声を同時配信するために使うことが想定されている)、より進んだCECコマンドなどが追加されているのが、より正確で簡単なリップシンク機能。HDMIで接続されるシステム内で、より正確かつ設定不要のリップシンク機能が、HDMI 2.0機器同士で働くようになる。
さまざまな議論があったという端子形状やケーブル仕様も、従来用ケーブルをそのまま利用して18Gbpsまでの高速化が図られることになった。これは従来よりも低い信号品質でも、正確な通信が行えるよう工夫されたためである(ただし、ケーブル側で光変換して伝送しているケーブルに関して、互換性は考慮されていない)。
HDMI 2.0は技術仕様面は一昨年にはほぼまとまっており、昨年の秋にはデバイスの準備も整ってワールドワイドでのローンチ(立ち上げ)になる予定だった。しかし、HDMI仕様を策定する団体が5社で構成されるHDMIコンソーシアムからHDMIフォーラムへと移管。幅広い事業者を交えた議論となったことで、2.0の正式版リリースが遅れた背景がある。
フォーラム形式による標準規格策定に移行した背景には、独禁法への対策があったそうだが、結果的にHDMIの新仕様発表が遅れる原因になったようだ。関係者はThunderboltを推したいアップルの存在が、HDMI 2.0の正式仕様決定の障害だったと証言しているが、4Kパネル採用のテレビが増えはじめ、4K放送も実験的ながら始める地域も出てきたことで、いよいよ正式版を発表せざるを得なくなっていた。
さて、エンドユーザーにとってのHDMI 2.0の価値は、ほぼ“4K映像の伝送”に収斂すると思っていただいて構わない。従来のHDMIは4K(4,096×2,160画素)の映像を毎秒24フレーム、QFHD(フルHDの4倍画素の3,840×2,160画素。昨今、4Kという場合はこのモードを指すことが多い)では毎秒30フレームまで伝送できた。それぞれ伝送映像フォーマットは、8bitの場合は4:4:4、10bitでは4:2:2に制限される(4:2:2とは色信号が半分に省略されたYUVの色座標形式)。
すなわち、色の情報密度を選ぶか、それとも階調性を重視するかを選択せねばならなかったわけだ。これはHDMI 2.0による18Gbpsへの通信速度高速化で解決され、4:4:4、すなわち完全な色情報で12bit階調の表現が可能になる。
帯域 | 対応色深度/信号 |
---|---|
18Gbps (HDMI 2.0 18Gbps対応PHY) | 12bit 4:4:4 |
10.2Gbps (従来のHDMI) | 8bit 4:4:4 or 10bit 4:2:2 |
毎秒24フレームの映画ならば、このままでもなんとかなったものの、現在、各所で試験放送の計画が進んでいる4K放送は、毎秒60フレームで行なわれることになっている。HDMI 2.0を使うことで、4K映像を毎秒60フレームで、欠落のない完全な画素フォーマットで伝送できるようになる。
ただし、ここでHDMI 2.0で4K映像の毎秒60フレーム伝送が可能になるものの、そのサポートレベルが2段階あることに気をつけて欲しい。ここは大切なところで「伝送速度の高速化(18Gbps)が実装されていないものも、HDMI 2.0を名乗ることができる」点だ。
これはHDMI 2.0で扱えるカラーフォーマットに、色情報が1/4となる4:2:0が追加された。これにより伝送帯域に余裕ができ、通信速度が高速化されていない従来からの物理伝送手順でも、8bitならば4K映像を毎秒60フレームで送信できる。ソニーや東芝が予定している従来機のHDMI 2.0アップグレードがこのパターンに相当する。
筆者が確認できている範囲では、年内に登場する4Kテレビも、ほとんどは4Kの毎秒60フレーム伝送時には4:2:0の8bitとなるようだ。ただし、この制限が“大問題か”と言えば、実はそれほど大きな問題ではない。なぜなら、デジタル放送やブルーレイといった圧縮されたコンシューマ向けのデジタル映像のカラーフォーマットは4:2:0だからである。
ただし、高画質な映像処理を行なっているブルーレイディスクプレーヤーなどは、映像を4Kにアップサンプリングする際に色情報も、マルチタップ(複数画素探索)で拡張する処理が施されており、そうした高画質処理を事前に施す場合には違いが出る。また、静止画やパソコン画面を表示する場合にも画質が落ちる問題はある。
実はHDMI 2.0の正式発表が遅れた背景には、18Gbpsの高速通信に対応するPHY(物理通信層)の試作に成功していたのがパナソニックだけだったから、というのもあったようだ。この点は目処がついたようだが、現時点において18GbpsのPHYを部品供給できる状態にあるのはパナソニックだけだという。
先日発表されたパナソニックの4K VIERAには、この18Gbps版HDMI 2.0が搭載されており、4K毎秒60フレームの場合で4:4:4の8bit色深度まで対応できる(4:2:2の場合は12bit伝送も可能)。24フレームや30フレームなら、4:4:4の16bit色深度伝送も可能になる。
上記のように、放送やディスクに収められた映像が4:2:0なのだから、高速版は不要という考え方もあるが、一方で静止画画質も劣化なしに伝送すべきであり、将来的には色信号のアップサンプリング処理の進化を享受しやすい方がベターという考え方もあるだろう。
帯域 | 対応色深度/信号 |
---|---|
18Gbps | 12bit 4:2:2 or 8bit 4:4:4 |
10.2Gbps | 8bit 4:2:0 |
エンドユーザーは気にしなくとも“映像が映る”ことに違いはない。ただし、AVファンが気になる部分であることは間違いない。わかりにくい話だが、製品が揃ってくるまでの間に、一度、情報を整理したいところだ。
互換性を保ちながらのアップデートだけに制約があるのは致し方ないところだが、あまりに制約条件が複雑だと、“4K VIERAのようにDisplay Portも併載”が今後のトレンドになるかもしれない。