買っとけ! Blu-ray/DVD

 

[BD]「紅の豚」

ミリオタ宮崎監督の真骨頂が高画質でBD化
そして新作「風立ちぬ」へ……

 このコーナーでは注目のDVDや、Blu-rayタイトルを紹介します。コーナータイトルは、取り上げるフォーマットにより、「買っとけ! DVD」、「買っとけ! Blu-ray」と変化します。

 「Blu-ray発売日一覧」と「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。

ミリオタとしての宮崎監督

紅の豚
(C)1992 二馬力・GNN
価格:
7,140円
発売日:
2013年7月17日
品番:
VWBS-1444
収録時間:
本編約93分+特典
映像フォーマット:
MPEG-4 AVC/MGVC
画面サイズ:
シネマスコープ
音声:
(1)日本語(DTS-HD MasterAudio 2.0chサラウンド)
(2~)英語/フランス語/ドイツ語/フィンランド語/韓国語ほか
発売・販売元:
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

 アニメファンの中には、他にも趣味を持つ人が多い。これまでの経験から、鉄道、車、バイク、ミリタリーなどが多いようだ。個人的には深夜トイレに行こうとして電動ガンに足の小指をぶつけてうずくまったり、ビデオチャットにバラクバ(目出し帽)装着で臨んで嫌な顔をされる程度のミリタリーオタクでもある。

 老若男女が楽しめる名作を多く生み出し、国民的なアニメ監督と言える宮崎駿監督。トトロとかポニョのような親しみやすい作品のイメージが強いが、ミリタリー的視点では、“凄いミリオタ”という印象がある。例えば、模型誌のモデルグラフィックスに連載されていた「宮崎駿の雑想ノート」。戦車や航空機に関する膨大な知識と、鬼のような画力を駆使し、宮崎監督がお気に入りの機体や、それにまつわるエピソードを記載。密度の濃さや、味あるイラスト、そこから物語が広がるようなワクワク感があり、いつものアニメ映画とは違った魅力に溢れている。

 こうした作品を読んでいなくても、多くの人の記憶には残っているはずだ。例えば、ナウシカが乗るメーヴェ、クシャナ達トルメキア軍が使う超大型輸送機バカガラス、風の谷で橋を崩落させていたディテールの細かい戦車、ラピュタの飛行戦艦ゴリアテ、ドーラ達が乗る羽虫のようなフラップターなどなど……。いずれも空想の機械なのに、異様に存在感があり、サイズ的に無理っぽいのに「本当に飛ぶんじゃないか?」という気すらしてくる。細かいディテールを積み重ね、空想なのに本当っぽく仕上げる手腕は、ミリオタな宮崎監督だからこそできる芸当と言えるだろう。

 偏った1ファンとしては、そんな要素を思いっきり発揮したアニメが観たい。ナウシカと蟲との交流はどうでもよく、クシャナの騎兵隊による鮮やかなサパタ攻城戦とか、蟲の大群に紛れての飛行船団基地奇襲など、漫画版の名シーンをアニメで再現して欲しい。ポニョもハウルも結構だが、ティーガー戦車隊が活躍する「泥まみれの虎」を映画に……。だが、そんな奇跡は起きるわけもない。万が一作られたとして、ティーガー戦車にトイレが無いので8.8cm主砲の空薬莢におしっこする話などを上映しても、家族連れがポカンとするだけだ。

 だが凄いことに、それをやってしまった映画がある。雑想ノートの一編、「飛行艇時代」をベースにしたのが、ご存知「紅の豚」。もともと日本航空の機内上映用短編映画として企画されたもので、映画の公開は'92年。何度もテレビで再放送されているので古く感じないが、20年以上経過していて驚かされる。そして7月17日に、遂にBlu-ray版が発売された。

大人のおもちゃ箱

 1920年代末のアドリア海は、ファシズムの足音と新たな戦争の予感におびえていた。食い詰めた飛行機乗り達は“空賊”となって暴れまわり、彼らを相手に賞金稼ぎたちは功を競っている。

 その中に、賞金稼ぎとして名を上げる一匹の豚、ポルコ・ロッソ(紅の豚)がいた。イタリア空軍のエース・パイロットだった彼は、自らに魔法をかけて豚の姿になってしまっていた。そんな彼の前に、空賊連合に雇われたアメリカ人のパイロット、カーチスが現れる。ポルコの飛行艇を手がける少女・フィオ、飛行艇乗りのマドンナ、マダム・ジーナ。誇りと金と女のために、命を賭けた戦いが幕を開けた……。

 冒頭、空賊によって人質としてさらわれた少女達を助けるため、深紅の戦闘飛行艇“サボイアS.21”で飛び立つポルコ。少女を助けるヒーローとして颯爽として登場する前に、隠れ家での気ままな暮らしや、飛行艇のエンジン始動、離陸操作までが丁寧に描かれ、この映画の“主題”がどこにあるのか強調される。イタリアらしい優美なフォルムの紅い機体が、まるで観ている自分の愛機のように感じられるディテールの細かさで、男性視聴者のハートは鷲掴み。ついでに古本新乃輔の声が懐かしい。

 現実世界を舞台にしてはいるが、物語にあまりリアリティは無く、ファンタジーと言うより寓話的だ。簡単にいえば“男にとって都合の良い物語”。出てくるのは敵であっても憎めない男友達のような連中ばかり、ヒロインも天真爛漫さで振り回してくれる美少女と、桟橋のように帰りをずっと待っててくれる大人な女性のWヒロイン構成。胸にはジタンのタバコ、誰にも縛られず気ままに空を飛び、己の腕で食っていく。「良い奴はみんな死ぬ、……友よ」など、一生に一度呟いてみたいがハードルが高いセリフの連続。男が“カッコイイ”と思うものを山盛りにしつつ、哀愁というオブラードで包んだような映画に見える。

 そういえば昔、この映画を「宮崎監督がパンツを脱ごうとして脱いでいない作品」(監督自身をさらけ出そうとして、全部はさらしていない作品)という趣旨の分析をした人がいたが、確かにそんな印象を受ける。しかし、何より監督自身が楽しんで作っている様子が伝わってくるので、他のジブリ映画とは一味違う魅力があると感じる。

 そのためか、男性ウケは良いが、女性であまり“好きなジブリアニメ”として挙げる人は少ないようだ。難しい映画に一瞬思えるが、全体を流れるトーンはゆったりしており、疲れている時などに頭を空っぽにして楽しめる。昔、パソコンのフライトシミュレータに凝っていた頃、誰かが作った“紅の豚MOD”を入れて、自分でサボイアS.21を操作し、映画のサントラを再生しながら、ジーナの店までボーッと飛行して癒されていた事を思い出した。

 映像的な見所は、何と言っても飛行シーン。宮崎アニメらしい、絶妙な誇張を駆使する事で、絵には描けない“空気”が画面の中に存在している。生き物のように必死に回転するプロペラ、振動する主翼、ロール中に風と重力で波打つポルコの頬など、飛行機を操縦した事が無いのに“実際こうなんだろうな”と思わせる説得力がある。

 スクリーンという制約の中で、飛行機の立体的な挙動をいかにカッコ良く、ダイナミックに描くかというレイアウトの巧みさにも注目。特に終盤、カーチスとの対決シーンは、カメラアングルや視点が絶妙に入り乱れ、観ているだけで力が入り、自分も横やら上やら、重力に引っ張られているような気になる。BDの画質チェックをしていた事を完全に忘れてのめり込む。実機でもCGでも漫画でもなく、アニメだから描ける空中戦だ。

 ちなみに、「天空の城ラピュタ」のBDが発売された時、ラピュタ崩壊シーンで瓦礫と共に落下するムスカの姿が、BDの解像度と情報量でよく見えると書いたが、同じような楽しみが「紅の豚」にもある。ラストの「ジーナの賭けがどうなったのか?」という部分。「観ているあなたのご想像にお任せします」的なラストではあるのだが、ジーナのホテル遠景シーンをよく見てみると、答えのヒントが写っている。知っている人には常識かもしれないが、BDの解像度だと、より見つけやすいだろう。

青い空と紅い飛行艇

 BD化により、DVDと比べて画質は大幅に……というか別物に進化した。青い空と海、紅い飛行艇の鮮やかさが命の映画だが、いずれも抜けの良い発色で、観ていると清々しくて深呼吸したくなる。かといってクリアなパキパキした絵にはなっておらず、紙の質感も維持。グレインも適度にあり、サボイアS.21は単色なので、そこのグレインが動くとちょっと目立つ。プロジェクタで鑑賞した時はあまり気にならなかったが、液晶テレビでは気になるので、このあたりを基準に調整すると良さそうだ。

 飛行艇が飛び立つシーンで細かく砕ける波、空中戦を見学に来た野次馬群衆など、細部をコマ送りで確認しても破綻は見当たらず、安定度の高い映像だ。画面がパンしたり、飛行艇が画面を横切るシーンも多いため、液晶テレビでは、倍速や4倍速駆動など、動画ボケ低減機能も活用したい。

 なお、このソフトは最大36bitの高階調映像を実現するパナソニックの新技術「マスターグレードビデオコーディング(MGVC)」に対応している。パナソニックのBDレコーダ「DMR-BZT9300」など、対応する機器でMGVCソフトで再生すれば、最大36bitの高階調映像を再生できる。既に発売されているジブリ作品「となりのトトロ」、「火垂るの墓」、「魔女の宅急便」、「おもひでぽろぽろ」、さらに11月発売の「平成狸合戦ぽんぽこ」も対応ソフトだ。

 音声はDTS-HD MasterAudio 2.0ch。大きな不満は無いが、空戦の迫力もアップすると思うので、BD化のタイミングで5.1ch版なども作って欲しかった。2chソースをそのまま再生するのも良いが、AVアンプ側のサラウンド機能を積極的に使ってみるのも良い。また、サブウーファのボリュームを上げ目にすると、エンジン始動時の「ドゥルルン」という音に凄みが出て盛り上がる。

 特典は、絵コンテを本編映像とのPinP(子画面表示)で収録。さらに、アフレコ台本、若き日の鈴木プロデューサーが作品を語るインタビュー(約3分)、予告編集も収録している。

「紅の豚」から、「風立ちぬ」へ

 「紅の豚」BD発売の直後、7月20日から宮崎監督の「風立ちぬ」の公開がスタートした。おそらくタイミングを合わせたのだと思われるが、この「風立ちぬ」も、モデルグラフィックス誌連載の漫画をベースにしており、「紅の豚」を彷彿とさせる流れだ。

 あいにく、まだ劇場には行けていないが、試写会などの感想を目にすると「大人向け」で、どちらかというと「ミリタリーマニア向け」な作品であるようだ。確かに公式サイトのイラストを見ても、主人公が見上げる飛行機の翼が、根本から上に曲がった“逆ガル翼”でニヤリとさせられる。万人受けするに越したことはないが、ミリオタな宮崎監督が好きなファンとしては、一部の人にウケる映画でも大歓迎。もっとも、マニアックな題材でも、万人に楽しめる作品にまとめる手腕が宮崎監督の凄いところでもある。

 「ナウシカ」や「ラピュタ」、「もののけ姫」のような怒涛の展開が続く作品は、映画としては最高だが、見返す時に体力が求められる。「紅の豚」は、ふとした時に気軽に見返し、まったりとした気持ちになれるところが良い。それを、BDの高画質で再生できるのは格別だ。短編でも構わないので、こんな作品が今後も観られると最高なのだが……。

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山崎健太郎