藤本健のDigital Audio Laboratory

第718回

CD音源やMP3もハイレゾ化。デジオンのシンプル再生ソフト「CurioSound」を使った

 ハイレゾ対応のオーディオ機器や、ハイレゾの楽曲は次々と増えている割に、意外と少ないのがハイレゾに対応したプレーヤーソフト。Windowsならfoobar2000、MacならAudirvanaあたりが主流だと思うが、いずれも海外ソフトであり、分かりにくい点が多いのも事実。そんな中、新たに国産のWindows専用のハイレゾプレーヤーが3,980円と、手頃な価格で登場した。デジオンが開発した「CurioSound(キュリオサウンド)」だ。

CurioSound

 WAV、AIFF、FLAC、ALAC、AAC、WMA、MP3、DSDとさまざまなフォーマットの再生に対応するだけでなく、MP3/AACなどの圧縮フォーマットや16bit/44.1kHzなどのデータを再生する際に、疑似的にハイレゾ化できる機能を装備しているのが大きなポイント。このハイレゾ化機能がどんなものなのかも含め試してみたのでレポートする。

シンプルな音楽再生に特化。買い切りと年間の2プラン

 デジオンは、1999年設立で福岡に本社を置くソフトウェアメーカー。主要株主にアイ・オー・データ機器とメルコホールディングスというPC周辺機器のライバル2社があるのが面白いところだが、DTCP-IPおよびDTCP+仕様、DLNAガイドライン、UPnP規格に基いたホームネットワーク用途のアプリケーションソフトウェアを、PC/デジタルAV家電機器・モバイル機器の各種プラットフォーム向けに提供している縁の下の力持ち的な会社だ。

 このDigital Audio Laboratoryにおいては、音楽制作向けのDigiOn SoundやDigiOn Audioといったソフトを何回か取り上げてきたことがあったが、今回発売されたCurioSoundは、完全にコンシューマ向けの音楽プレーヤーソフトとなっている。同社は、「PCで音楽を楽しんでいるユーザー向けに、よりカジュアルに高音質を楽しめるようにと開発した」、と語っていたが、実際触ってみても、マニアックな雰囲気はなく、シンプルで使いやすいソフトではあった。

 現時点において、パッケージ販売はなく、ダウンロードのみ。また、買切りプラン(3,980円)と年間プラン(1,480円)という2種類の購入方法が用意されており、ユーザーが選択可能となっている。

 買い切りプランは永続ライセンスとして利用可能なのに対し、年間プランは1年間(初月は無料なので実質1年1カ月)で使用期限が切れる形になっているが、後者は今後登場するであろう新機能に対応していくのが特徴。買切りプランでも新機能については有償のプラグインで追加は可能であり、基本機能の追加やバグフィックスについては無償提供するとのことだ。

2つのプランを用意

 さっそくインストールして使ってみよう。インストーラを起動してすぐわかるのはこれは64bitアプリではなく32bitアプリであること。起動すると、Hi-Res AUDIOのロゴなどが表示された後、ライセンスキーの入力画面が現れるので、買切りプランでも年間プランでも、ここで入力すると使えるようになるのだ。

アプリは32bit
起動時のロゴ表示
ライセンスキーを入力

 起動すると、プレーヤー画面が表示され、「再生可能な楽曲ファイルが見つかりません。」と表示されている。ここで、手持ちのWAVファイルやFLACファイルをこの画面にドラッグ&ドロップで持って行なったのだが、これは拒否されてしまう。

起動後の画面
ドラッグ&ドロップではリストに加えられなかった

 画面には「このフォルダーにはサブフォルダーが存在します。サブフォルダーを開くには「>」をクリックするか、フォルダー名をダブルクリックしてください。」とあるので、それに従い、画面左側にあるフォルダ名から選ぶと、曲の一覧にたどり着く。この際、デフォルトでは「ミュージック」フォルダが設定されているので、Windows Media PlayerやiTunesで楽曲管理をしていれば、そのままそれを利用することが可能だ。

管理するフォルダを選択

 一方で、別のフォルダで管理している場合は、環境設定画面で指定することで変更できる。ただし、これは追加ではなく、変更になってしまうのが、筆者にとってはイマイチな印象。多くの人の場合、これで問題はないのだとは思うが、筆者の場合、いくつかのドライブに分散させて楽曲を管理しているので、これだとドライブを変更するたびに環境設定をいじる必要があり、面倒。ここはぜひ改善をお願いしたいところだ。

環境設定画面

音質劣化を防ぐWASAPIとASIOへの対応は?

 目的の曲をダブルクリックするか、選んで再生ボタンを押すと再生できる。この際、PCオーディオのユーザーとして気になるのは、その再生ドライバに何を使っているのか、という点だ。ごの連載でも何度も指摘してきたとおり、Windows Media PlayerやGrooveミュージックはMMEドライバのみの対応で、PCオーディオマニア的にはあり得ない仕様。詳細はここでは割愛するが、Windowsのオーディオエンジン(旧称:カーネルミキサー)を経由するために、勝手にリミッターがかかるなど音質が劣化してしまうからだ。それに対し、CurioSoundはどうなっているのだろうか?

再生中の画面

 環境設定画面の再生デバイス設定では、デフォルトではMMEを意味するWaveOutが設定されており、ここから現在接続されているオーディオデバイスを設定する。これだとWindows Media Plyaerを使うのと変わらないわけだが、その隣にWASAPIという選択肢があり、こちらを設定できるようになっている。ここをWASAPIに設定した上で、デバイスを選択すれば、オーディオエンジンを経由しない再生が可能になるはずだ。

再生デバイスを選択
WASAPIを選ぶ

 ただ、WASAPIが曲者であるのは、ここには共有モードと排他モードの2種類があり、共有モードだと、やはりオーディオエンジンを通ってしまうこと。たとえば、iTunesではWASAPIには対応しているけれど、共有モードしかサポートされていないので、WASAPIにするメリットが実質的にないのだが、CurioSoundはどうなのだろうか?

 CurioSoundは、排他モードに対応している。ただし、排他モードで利用するにはWindowsの設定で使用するオーディオデバイスを排他モードで利用できるように設定しておく必要がある。これがうまくいっていないときでも再生はできるが、この場合は共有モードとなってしまうのだ。

排他モードに設定

 共有/排他モードのどちらで動作しているかをプレイ中に確認できるというのはありがたい機能ではある。個人的には、こういう設定が面倒なWASAPIよりも確実に動作してくれるASIO対応してくれるのほうが嬉しいのだが、デジオンによれば、近いうちにASIO対応は予定しているとのことだった。

共有/排他モードのどちらで動作しているかをプレイ中に表示(曲名の下)

 また、DSF、DSDIFFファイルの再生も可能だが、現時点においてはDSDネイティブでの再生には対応していないため、PCMに変換してからの再生となるようだが、このDSDネイティブへも近い将来、対応するとのことだった。

 なお、このCurioSoundを使っていて、初期バージョンだからだと思える問題がほかにもあった。それは画面左側でフォルダを選んでも一覧に表示されない曲がいくつかあった、という点。どういう場合に表示されないのかハッキリしないのだが、WAVの場合やFLACの場合があり、フォルダを移動しても、ファイル名を変更してもダメ。きっとタグ情報なのか何かが引っかかっているようなのだ。たとえば、先週の記事でダウンロード購入した3曲のうち、fhanaの「青空のラプソディ」のハイレゾ版がダメだった。ほかのプレーヤーでは問題なく再生できるので、ぜひ早急の改善をお願いしたいところだ。

“ハイレゾ化”機能の実力は?

 ここからが今回の記事の本題。前述のとおりCurioSoundには、MP3やAAC、また44.1kHz/16bitのWAVファイルなどもハイレゾで再生する機能が用意されている。この機能はもともとDigiOn Soundに搭載されていたエンジンを少し調整した上で搭載したというもの。この機能でどれだけの変化があるのか試したい。

 まず、CurioSoundで再生させる場合、そのデータがハイレゾデータなのか、そうでないのかは、再生時に曲一覧の中に表示されるようになっている。これがHi-RESとなっている場合は、そのままで問題ないが、そうでない場合に、疑似的にハイレゾ化することができるのだ。そのハイレゾ化は画面上の「ハイレゾサウンドで聴く」をオンにするだけ。

曲一覧で表示されるHi-RESマーク
ハイレゾでないファイルの場合
「ハイレゾサウンドで聴く」をオンにする

 このハイレゾ変換はリアルタイムに行なわれるため、スイッチをオン/オフすることで、再生しながら音の違いを確認することができる。実際聴いてみると、派手な音の違いがあるわけではないが、若干高域を持ち上げるEQ設定をしたような音になる。これが好きかどうかは人によるだろうし、曲によっても良し悪しに差が出そうだが、普通はオンにしっぱなしでいいようにも思う。

 では、これをグラフで表現するとどうなるのだろうか? このスイッチをオンにしただけだと、分析がしにくいのだが、CurioSoundにはハイレゾ化した音をファイルで書き出す機能が用意されているので、これでWAV出力したものを比較してみることにしよう。

 ここで比較するのは、下記の内容だ。

1.CDからリッピングしたWAVファイル(44.1kHz/16bit)を単純に96kHz/24bit化したもの
2.e-onkyo musicから購入した96kHz/24bitファイル
3.CDからリッピングしたMP3ファイル(128kbps)を単純に96kHz/24bit化したもの
4.44.1kHz/16bitのファイルをCurioSoundで96kHz/24bit化したもの
5.MP3 128kbpsのファイルをCurioSoundで96kHz/24bit化したもの

 前回使った波形編集/マスタリングソフトであるWaveLab Pro 9で表示した場合、24kHz以上の音が見づらく比較しにくいため、ここではWaveSpectraを使い、横軸をリニアにしてみた。ここで利用したのは前述のfhanaの「青空のラプソディ」と矢野沙織の「Blowin' The Blues Away」の2曲。それぞれ冒頭から30秒ほど再生したところでキャプチャしているが、赤い線が最大値を記録したもので、青い線が平均値を記録したものだ。

【青空のラプソディ/fhana】

CDからリッピングしたWAVを96kHz/24bit化
ハイレゾ(96kHz/24bit)
CDからリッピングしたMP3を96kHz/24bit化
CurioSoundでCDをハイレゾ化
CurioSoundでMP3をハイレゾ化

【Blowin' The Blues Away/矢野沙織】

CDからリッピングしたWAVを96kHz/24bit化
ハイレゾ(96kHz/24bit)
CDからリッピングしたMP3を96kHz/24bit化
CurioSoundでCDをハイレゾ化
CurioSoundでMP3をハイレゾ化

 見てみると分かる通り、CDはもちろん22.05kHzまでの音しか出ていない。96kHzのハイレゾ版を購入したものは本来48kHzまで入っているはずだが、前回の記事でも触れたとおり、「青空のラプソディ」のほうは48kHzでレコーディングし、96kHzでマスタリングしているということで、基本的に24kHzまでの音となっている。一方、MP3を96kHzのWAV化したものは、本来18kHz程度までしか出ないはずだが、MP3デコーダが進化しているのか、それよりも高い周波数帯まで音が出ている。

 当初、WaveLab Pro 9で変換してこうなったため、WaveLab Pro 9が何か特殊なことをしているのではと思い、SoundForge 10を使って変換してみたが、やはり同様な結果となった。MP3のエンコーダ、デコーダも、昔と比較するとかなり進化しているようなので、今度この辺も深堀りしてみようかと思う。

 CDやMP3のデータをCurioSoundでハイレゾ化したものは、いずれも高域まで音が伸びているのが分かる。本来の48kHzでレコーディングしているので、24kHz以上の周波数成分がないはずの「青空のラプソディ」まで“超ハイレゾ化?”している辺りが面白いところだが、聴いた音の傾向はCDをハイレゾ化したものでもMP3をハイレゾ化したものでも、近い感じだった。

 あくまでもエフェクトの一つと考えればいいと思うが、基本的にはこのスイッチをオンにした状態のままでいいと思う。なお、もっと思い切り音を変えたいという場合には、イコライザも用意されているのでこれを利用するのも手だ。プリセットとしてはポップス、ロック、ジャズなど7種類が用意されているほか、自分で10バンドのグラフィックEQを設定することも可能になっている。

プリセットのイコライザを搭載
10バンドのグラフィックEQも

 以上、デジオンのハイレゾ再生ソフト、CurioSoundについて見てきた。まだリリースされたばかりで、今回指摘したように改善の余地はありそうだが、これが整ってくるのも時間の問題だろう。手軽に使えるハイレゾ対応プレーヤーが安価で出てきたことは素直に歓迎したい。ASIO対応や、DSDネイティブ対応、プレイリストのサポートなども予定されているとのことなので、この辺も含め、今後の機能強化にも期待したい。

検証に使用した楽曲(e-onkyoで購入)

・fhana/青空のラプソディ
・矢野沙織/Blowin' The Blues Away

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto