藤本健のDigital Audio Laboratory
第766回
約12,000円の96kHz/24bit対応ZOOMレコーダ「H1n」で録音。iPhoneやPC接続も
2018年5月14日 12:46
音楽制作向けリニアPCMレコーダの国内メーカーとして、TASCAMとともに数多くのラインナップを揃えるズーム(ZOOM)。業務用として販売されている8トラックのF8を筆頭に、ヘッドのマイクを自由に付け替え可能なH6やH5、またサラウンドでの録音も可能なH2n、さらにはつい先日記事にしたピンマイクのF1-LPなどがあるが、価格が一番安く、エントリーモデルとして位置づけられるのが今回紹介する「H1n」だ。
オープンプライスだが、実売12,000円程度(税込)と手ごろで、サイズ的にもコンパクトで本体の重さは60gと持ち歩いてもまったく気にならないほど。エントリーモデルとはいえ、96kHz/24bitでのレコーディングが可能で、高性能なXYマイクを備えているため、かなりパワフルな機材となっている。いつものように、録音の実験も行なったので、実際どんなものなのかチェックしていこう。
簡単操作でPCMレコーディング
ズームのH1nは、以前からの人気機種H1の後継となるモデル。大きさや重さ、基本的な機能は大きく変わらないが、操作性やデザイン、また細かな機能がいろいろと強化されている。以前の記事でH1を取り上げたが、それは約8年前のことで、ご存じない方も多いと思うので、改めてH1nを紹介していこう。
H1nは片手で握れるサイズのコンパクトなリニアPCMレコーダ。先端部分には90度でクロスするXY型のエレクトレット・コンデンサマイクがあり、これを硬質プラスティックが覆うような形になっている。ちょっと変わった格子模様だが、横がガラ空きだった前モデルのH1と異なり、どのような角度でもマイク素子を守れる形状になっているとのことだ。
バッテリは単4電池2本で、アルカリ、ニッケル水素、リチウムの利用が可能。スペックを見ると電池持続時間は、アルカリ電池を使った際、16bit/44.1kHzで約10時間。その録音データは右サイドのスロットに入れるmicroSDに収める形となっている。microSDスロットの右にあるのが入力端子でマイクおよびラインを接続すると、内蔵マイクが無効になり、こちらからの音を録音できる。
左サイドにはヘッドフォン出力があり、その隣のボリュームボタンで調整しながら、モニターする形になっている。
電源を入れると、このヘッドフォン端子へマイクからの音がモニターできるようになっており、そのマイクの入力ゲインは、マイク下のボリュームで調整する形だ。やはり数多くのリニアPCMレコーダを出してきた実績のあるズームだけに、この辺のユーザービリティーは抜群。前モデルのH1では入力ゲインをボタンで調整する形だったのが、H1nではやや重めなトルクで滑らかに動くアナログボリューム型ノブでの調整となっている。
録音の方法は至って簡単。ヘッドフォンでモニターしながら、このマイクの入力ゲインを調整し、液晶画面のレベルメーターでも問題がなければ、赤い録音ボタンを押すだけ。これで録音がスタートし、再度押すとストップする。これでレコーディング完了となる。
各種設定も、ボタン一つで行なえるのも便利なところ。液晶の下に4つのボタンがあるが、一番左のボタンを押していくと「44.1k/16bit」「48k/16bit」「48k/24bit」「96k/24bit」「MP3-48k」「MP3-128k」「MP3-192k」「MP3-256k」「MP3-320k」と切り替えられる。
左から2つ目のボタンがローカットとなっており、「OFF」「80Hz」「120Hz」「160Hz」の4段階での設定が可能、右から2つ目がリミッターで、これは「OFF」と「ON」の設定、一番右がオートレベルで、これも「OFF」と「ON」の設定となっている。
一方、下のOPTIONボタンを押したままの状態にすると、4つのボタンの役割が変わり、左からオート録音、プリ録音、セルフタイマー、サウンドマーカーとなる。このうちのオート録音は「OFF」「-48dB」「-24dB」「-12dB」「-6dB」から選択でき、そのレベルを超える音がマイクから入ってきたら録音がスタートするという仕掛けになっている。このようにメニュー構造なく操作できるというのは、やはりとても分かりやすく使いやすい。
なお、日付や時計、液晶の設定や電池の設定、オートパワーオフの設定などは、SETTINGボタンを押しながら電源を入れることで表示されるメニュー画面から行なうが、一度設定してしまえば、あまり変更するものでもないので、普段の設定は前述の4つのボタンの操作で事足りるだろう。
なお、再生ボタンを押すとヘッドフォンからモニターすることができるが、ヘッドフォンを外した場合でも内蔵の小さなスピーカーで音を聴けるのも便利なところだ。
なお、H1nにはオプションとしてアクセサリパックの「APH-1n」というものも2,500円程度で販売されている。下の写真のように、この中にはウィンドスクリーン、三脚、ケース、ACアダプタなどが入っている。いつものように、野外での録音しようと、このH1nを持って出たところ、やや風が強かったので、このウィンドスクリーンを取り付けて使ってみた。
XYマイクで立体的な音。H1から音質の変化も
まずは、近所の神社で録った鳥の鳴き声だ。最初に真上にある高い木の上にいるヒヨが鳴いていて、50m程度右奥にいるシジュウカラが鳴きだす。ちょうど左側後ろから左前へと人が歩いてくるとともに、右側からは参道を歩く親子というのが、非常に立体的に分かるのではないだろうか? エントリーモデルのH1nだが、XYマイクの性能はなかなかよさそうだ。
【録音サンプル】
野鳥の声(96kHz/24bit)
h1n_bird.wav(21.26MB)
※編集部注:96kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます
鳥の鳴き声は96kHz/24bitで録音したが、48kHz/24bitで電車の音を録音してみた。50mほど右側にある踏切が鳴っている状態から録音スタートし、右から左へと電車が走っていくところ。駅を出発してから300mという位置なので、加速しながら走っていく状況がリアルに捉えられていると思う。立体的に音を捉えるという目的であれば、このH1nで十分すぎる能力を持っているように感じられる。
【録音サンプル】
電車の音(48kHz/24bit)
h1n_train.wav(10.24MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます
では、音楽を録音する場合の音質はどうだろうか? これもいつものようにCDを再生したものをモニタースピーカーから約50cmの位置で録音してみた。CDなので16bit/44.1kHzの音ではあるが、いつもと同じようにいったん96kHz/24bitで録音した上で、音量などを最適な形に調整した後に、44.1kHz/16bitに変換したものだ。
【録音サンプル】
CDプレーヤーからの再生音(48kHz/24bit)
h1n_music_1644.wav(6.93MB)
楽曲データ提供:TINGARA
※編集部注:96kHz/24bitで録音したファイルを変換して掲載しています。
編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます
これを単独で聴いてみて、十分な音質であると感じられると思う。このDigital Audio Laboratoryでは、過去にもズームの各製品、また他社製品でも同様のテストを行なってきたが、前機種のH1と比較すると、少し音がシャキッとして音質が向上しているように感じられる。ズームのほかの機種と比較した場合、H6のXYマイクと一番近い。これは周波数解析した結果からも分かると思う。他社製品と比較しても、かなり高音質なものに感じられ、この価格から考えればコストパフォーマンスの高い機材である。
USBオーディオ対応でiPhone接続も
なお、H1nは他のズーム製品と同様もう一つ大きな特徴を持っている。それはPCとUSB接続した際に、カードリーダーとして録音したデータを取り込めるだけでなく、オーディオインターフェイスモードを選択すると、H1nがオーディオインターフェイスへと変身するのだ。通常はこのマイクから音が入力できるようになるとともに、ヘッドフォン端子または内蔵スピーカーから音を出せる。
ただし、この場合は44.1kHzまたは48kHzでの利用に限られ、96kHzは非対応。また専用のドライバがあるわけではなく、標準のUSBクラスコンプライアントでの利用となるが、それなりの音質を持ったマイクでの録音をステレオで行なえるので、使用用途はいろいろと考えられそうだ。なお、メニュー選択によってiOSでも利用可能となり、この場合はH1nのバッテリーで駆動させる形になるので、Lightning-USBカメラアダプタさえあれば、すぐに利用できる。
また、SteinbergのCubase LE 9.5とWaveLab LE 9のライセンスコードもバンドルされているので、WindowsでもMacでも、Steinbergサイトからダウンロードすることで、これらを使えてしまうというのも大きな魅力。価格的に見ても、1つ持っておいて損のない機材だと思う。
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ズーム H1n |