藤本健のDigital Audio Laboratory

第828回

低価格&本格USBオーディオやワイヤレスシステムなど、注目のInter BEEオーディオ製品

11月13日~15日の3日間、幕張メッセで国際放送機器展「Inter BEE 2019」が開催された。今年の出展社数は1,158社・団体で、3日間の来場者数は40,375名とのこと。コンシューマではなく完全にビジネス向けの展示会ではあるが、大盛況だったようだ。Inter BEEのメインは映像・放送関連であり、4K/8Kのカメラや放送機器、ディスプレイなどが盛り上がるとともにVR関連も盛況だったが、プロオーディオ部門においても114社が出展するなど、国内において最大規模のイベントとなっていた。

Inter BEE 2019が開催された幕張メッセ

プロオーディオ部門は、もちろん業務用なので何十万円~何百万円の放送機器やPA機器が数多くある中、個人でも利用可能なレコーディング機器や音楽制作機材、ソフトウェアもいろいろ展示されていた。そうした中から、目に留まったもの、気になったものをピックアップした。

USBオーディオ新機種をMOTUやRMEらが披露

まずはオーディオインターフェイス関連から。MOTUがエントリー向けのオーディオインターフェイスに参入し「M2」、「M4」の2機種を発表した。これまでMOTUはハイエンド向けのオーディオインターフェイスを中心に、さまざまなラインナップを展開しているが、2in/2outのM2は実売価格が21,800円前後、4in/4outのM4は27,800円前後と低価格だ。

M2(上)、M4(下)

デジタル入出力やワードクロック入出力などはないが、ESS SABRE 32DACを搭載するなど、音質的なスペックは上位機種と同等とのこと。またUSB Type-C接続のバスパワーとなっているのもMOTUとしては初となる。上位機種と同様、Ableton Live Liteを付属しているほか、今回初めてPerformer LiteというMOTU製DAWも付属となった。これはDigital Performer 10のエントリー版に当たるもので、オーディオおよびMIDIのレコーディング、エディット、ミックスに対応したものとなっている。

背面
パッケージ

PCオーディオユーザーにとって人気の高いオーディオインターフェイス、RMEのBabyface Pro、ADI-2 FSが揃ってモデルチェンジし「Babyface Pro FS」、「ADI-2 FS」となった。

Babyface Pro FS

デザイン、基本手スペック的にはこれまでとほとんど変わらないが、違うのはクロック部分。両機種とも型番にFSとついているが、これはRME自慢のクロックシステム、SteadyClock FSをさらに進化させたものとなっている。

ADI-2 FS

RMEによると、これによってクロック精度を1/1,000兆(フェムト秒)にまで引き上げたとのことで、よりサウンドの奥行、明瞭さが向上しているという。なお、Babyface Pro FSの底面にはXLR出力のレベル切替スイッチが新たに追加されている。いずれも12月発売予定で、実売価格は現行機種とほぼ同等で、Babyface Pro FSが90,000円、ADI-2 FSが118,000円程度となる。

Babyface Pro FSの底面にXLR出力のレベル切替スイッチが追加

Universal Audioも新ラインナップとしてThunderbolt 3接続の「Apollo x4」および「Apollo Twin X」をリリースした。見た目は似ているがApollo x4は従来からあるラックマウント型のApollo x6の下位に位置づけられるもので、Apollo Twin XはApollo Twinの第3世代に当たるもの。

Apollo x4(右)と、Apollo Twin X(左)

Apollo x4にはDSPであるSHARCプロセッサが4基搭載されており、入出力的にはADAT入出力を入れて12in/24out。価格は195,000円。またApollo Twin XはADATの入力を入れて10in/6outという構成で、DSPが2基搭載されたApollo Twin X / Duoが97,000円、4基搭載されたApollo Twin X / Quadが150,000円となっている。

小さなオーディオインターフェイスとしてIK Multimediaから発売されたのは「iRig Stream」。これはこれまであったiRig Pro DUOのコンパクト版という位置づけで、入力はコンボジャックではなく、RCAピンジャックとなっている。

iRig Stream

iPhone/iPadのLightning端子と直接接続できるほか、Android、さらにはPC/Macとも接続できるのはiRig Pro DUOと同様。ただし、iRig Pro DUOと異なりバッテリー/外部電源は不要でLightningでもバスパワーで動作する。3.5mmのヘッドフォン端子は4極のヘッドセット対応となっておりマイク入力も可能。ループバック機能も搭載し、11月末発売で14,000円。

iOS/Android端末と接続でき、Lightningでもバスパワー動作

そのほか、IK MultimediaではLightning、USBで接続可能なショットガンマイクの「iRig Mic Video」、よりコンパクトな小型マイク「iRig Cast HD」および「iRig Cast 2」も発表し、いずれも11月末発売で、それぞれ18,000円、14,000円、70,000円となっている。このうちiRig Cast 2だけはアナログ接続という仕様だ。

iRig Mic Video
iRig Cast HD
iRig Cast 2

デジタルワイヤレスやDante関連にも注目製品

続いてデジタルワイヤレス関連の機材をいくつか。興味深かったのがRonkジャパンというベンチャー企業が開発している2.4GHzの「ワイヤレスインイヤーモニターシステム」というもの。Bluetoothなど既存のシステム、プロトコルを使うのではなく、独自のプロトコルを使った「1:n」で接続できる形で、レイテンシーを1.58msecに抑えているという。トランスミッター側は完成しているが、レシーバー側はまだプロトタイプとのこと。実際の製品は電池を内蔵できる形にするため一回り大きくなり、10~12時間程度持つようにするという。

2.4GHzのワイヤレスインイヤーモニターシステム(トランスミッター側)
レシーバー側

来春の発売を予定しており、トランスミッター・レシーバーのセットで5万円程度。レシーバーだけを追加していくことも可能だ。一方、まだ開発中のものとして展示されていたのはレシーバー機能をヘッドフォンに内蔵した2msecで動作するもの。こちらは他社へのOEMの形でリリースする予定で、市場価格は2万円以下で登場させることを想定しているという。

レシーバー機能をヘッドフォンに内蔵したモデル

ゼンハイザーが展示していたのは「XSワイヤレスデジタル」というシリーズ。これも2.4GHz帯を用いた通信で、4msec以下のレイテンシーを実現している。

XSワイヤレスデジタル

ダイナミックマイクに接続してワイヤレスにするアダプタやギターに接続してワイヤレスにするアダプタ、ラベリアマイクに接続するもの、フットペダル型など、さまざまなタイプが一気にリリースされた。

マイク接続用のワイヤレスアダプタ
ギター接続用
ラべリアマイク接続用

用途に応じてボーカルセット、ギターワイヤレスセット、ペダルボードセット、ポータブルインタビューセット……などさまざまな組み合わせのセットが用意されている。たとえばダイナミックマイクに接続するXLRプラグ送信機とXLRプラグ受信機、それに充電ケーブルをセットにしたボーカルセットの場合、実売価格が33,000円程度となっている。

ちょっとユニークな変換アダプタとして登場したのは、スイスのメーカー、Appsys ProAudioによる「ADX-8」および「ADX-16」という小さな製品。ADX-8はTOS-Linkの光ケーブルをCat5のネットワークケーブルに変換するトランスミッターとレシーバーのセットだ。

ADX-8
ADX-16

一方通行の通信とはなるが、Cat5ケーブルを利用することでS/PDIFやADATの信号を最大100mの長距離伝送ができるのが大きなメリットだ。一方のADX-16は1本のCat5ケーブルで、S/PDIFやADATを双方向接続できるようにするもの。ADX-8が15,000円程度、ADX-16が29,000円前後とのことだ。

Inter BEE会場ではDante関連の製品が数多く展示されていたが、中には手ごろな機材も。フォステクスが参考出品の形で展示していた「6301DT」は、同社が35年以上販売している小型のアンプ内蔵スピーカー「6301シリーズ」にDanteの入力を搭載したもの。

6301DT
スピーカーの6301シリーズにDanteの入力を搭載

Danteの信号が流れるCat5ケーブルを接続すれば、すぐに使うことができ、Dante Controllerからも見ることができる。2本セットでステレオで鳴らすこともできるが、正しく信号が来ているかを確認のため、1本だけのモノラルでチェックするという使い方にもピッタリだ。発売は来春を予定しており、65,000円程度になる模様だ。

同じくDante接続の1Uラックマウントのデバイスとして登場したのがDENON PROFESSIONALの「DN-900R」というレコーダー。ここには2つのSDカードスロットがあり、DANTEの信号をWAVもしくはMP3で録音することができ、ここで再生してDANTE側へ送出することも可能だ。

DN-900R

デュアルモードで使う場合、2つのSDカードに同じように録音されていくのに対し、リレーモードにすると片方がいっぱいになったタイミングで、続きをもう片方へ録音していくということができる。リアにはUSB端子があり、ここにUSBメモリーを接続することで、ここへもレコーディングしていくことが可能。さらに、マイク入力やライン入出力も備えており、さまざまな機器と接続し簡単にDANTEとつなぐことができるようになっている。12月中の発売を予定しており、価格は87,000円前後となる。

2つのSDカードスロットを備え、リレー録音ができる

ティアックがプロ音響ブランド、TASCAM製品として展示していたのは、先日発売されたばかりの16トラック・ライブレコーディングミキサー「Model 16」。

Model 16

すでに発売されていた24トラックのModel 24の下位モデルとして発売された「Model 16」はXLRマイク入力10系統、TRSバランスライン入力12系統、INST入力2系統、RCAステレオラインミニ入力2系統などを備え、最大24bit/48kHで16トラック同時にSDカードにレコーディングできるという機材。USB端子も装備しており、これをPCに接続すると、PCからは16in/14outのオーディオインターフェイスとして見えるようになっている。実売価格は145,000円程度だ。

最大24bit/48kHで16トラック同時にSDカードへレコーディングできる

Avidが展示していた「Avid S1」は小規模スペースで8チャンネルのフェーダー操作を可能とするコントロールサーフェイス。8本のムービングフェーダーが利用できるほか、ソロ、ミュートボタン、エンコーダーを備え、さらに各チャンネルにOLED(有機EL)ディスプレイも備えている。

Avid S1(左側)
ディスプレイは有機EL

さらに、iPadやAndroidタブレットと接続することで、各チャンネルのレベルなどをより細かく見えるようになっている。Avid S1自体にトランスポートボタンは装備していないが、フェーダー下のボタンは任意な役割に設定できるので、これをトランスポートボタンとして使うのもありだ。12月末発売予定で153,000円前後。

接続したiPadやAndroidタブレットなどのチャンネルのレベルを確認できる

DAWなどソフト関連、DAWの連携システム

続いてソフトも見てみよう。Steinbergが11月13日に発表したCubase 10.5の展示はなかったが、DAWとして初お披露目となっていたのはドイツMAGIXのマスタリング用DAWの「Sequoia 15」。Samplitudeの上位版に位置づけられるDAWだ。今回のバージョンでは3Dサラウンド編集機能を搭載し、各トラックにつき最大32チャンネルまで使ったイマーシブオーディオ編集が可能となっている。また32コアCPUをサポートし、プログラムのCPU使用率を最大化することも可能になっている。価格は350,000円。

Sequoia 15

ギリシャのソフトメーカー、accysonusが発売した「ERA 4 BUNDLE STANDARD」は6種類のプラグインをセットにしたオーディオリペアのためのソフト集。

ERA 4 BUNDLE STANDARD

ERA 4 NOISE REMOVERはヒスノイズやハムノイズを除去するためのもの、ERA 4 REVERB REMOVERはリバーブ成分の除去、ERA 4 DE-ESSERは「さしすせそ」などの歯擦音の除去、ERA 4 PLOSIVE REMOVERはマイクを吹いた場合などに載るポップノイズの除去、ERA 4 VOICE LEVELERは人間の声を検知し、音量を平準化するためのもの、そしてERA 4 DE-CLIPPERはクリップした情報を補修する全自動でクリッパープラグインとなっている。これらは個別での販売もされているが6つセットで10,000円弱と手ごろな価格となっている。

そして、とても面白そうだと思ったのは、2週間前に製品発表したばかりで、国内でのリリースも正式に決まっていない、DAWのコラボレーションシステム「soundwhale」。これはネットワーク越しにDAW同士を接続するシステムで、オーディオとMIDIを送受信できるというというもの。

soundwhale

現在はMacのみの対応だが、ユーザーはsoundwhaleのシステムをCoreAudio/CoreMIDIと認識するので、Mac上のほぼすべてのDAWで利用可能。今後ユーザーの要望が強ければWindowsベースにも移植するということだった。なお、soundwhaleを一般のミュージシャンが使う場合はフリーで、商用として使う場合は月額15米ドル、ポストプロダクション用として使う場合は月額25米ドルとのことだ。

最後に紹介するのは、オーディオそのものではないが、個人的に非常に興味があったのがドイツのSEHが披露していた「dongleserver」。これはiLokやSteinberg KeyなどのUSBドングルを束ねてネットワーク経由で利用できるようにするというものだ。同社はもともとプリンタサーバーのメーカーで、遠隔地のUSB接続プリンタをネットワーク越しにつなぐシステムを作っていたが、それがUSBドングルで利用できることがDAWなどのユーザーに知られて広がったことから、専用機材を開発したとのこと。これを利用することで、USBドングルは自宅に置いておき、出先ではネットワーク越しに接続してDAWを起動できるので、ドングル紛失の心配がなくなるとのこと。また、あくまでも排他的アクセスなので、不正使用にはならないそうだ。USB 3ポートのシステムが30,000円程度、8ポートが100,000円、20ポートが250,000円程度とのことだ。

USBドングルを束ねてネットワーク経由で利用できるようにする「dongleserver」(3ポート)
20ポートのモデルも

以上、Inter BEEで見かけた、気になった製品をピックアップしてみた。これら製品が入手できたら、改めて詳細を紹介したい。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto