藤本健のDigital Audio Laboratory
第821回
初めてのDTMにも。約1万円からのUSBオーディオ注目機「KOMPLETE AUDIO 1/2」
2019年9月2日 10:35
各社が低価格を競い合っているエントリー向けモデルのオーディオインターフェイス。ネットショップなどの売れ筋ランキングを見ると、スタインバーグ、ローランド、TASCAM、PreSonus、Focusrite、M-Audioといったブランド名が並ぶ。そうした中で、存在感を増してきているのがNative Instrumentsだ。
同社はもともとソフトメーカーとして発展してきたドイツの企業だが、最近はDJコントローラー、MIDIキーボード、オーディオインターフェイスなどハードウェアにも力を入れてきている。先日も6IN/6OUTのオーディオインターフェイス「KOMPETE AUDIO 6 MK2」を紹介したばかりではあるが、その下位モデルに位置づけられる「KOMPETE AUDIO 1」および「KOMPLETE AUDIO 2」は低価格でありながらも、結構いいパフォーマンスを発揮してくれるので、これがどんなものなのか紹介したい。
軽くて持ち運びやすい低価格なUSBオーディオ
ドイツ・ベルリンにあるメーカー、Native Instrumentsは、作曲家などにはソフトウェア音源セットのKOMPLETEが、DJにはDJソフトであるTRAKTORが、そしてトラックメーカーなどにはリズムマシンで、ある種DAWともいえるMASCHINEが受け入れられており、幅広い世界に浸透してきている。そのNative InstrumentsがDTMのエントリー層に向けて今年リリースしたのが2IN/2OUTのUSBオーディオインターフェイス、KOMPLETE AUDIO 1およびKOMPLETE AUDIO 2だ。いずれもスタイリッシュなブラックボディで筐体が樹脂製であるため、軽くて持ち歩きやすいのが特徴。実売価格はKOMPLETE AUDIO 1が10,800円程度、KOMPLETE AUDIO 2が13,800円程度と手ごろな価格だ。
いずれも天面のパネルに、やや重めなトルクがある大きなボリュームノブがあり、その左側にはLEDによるレベルメーターが装備されたデザインであるのは、KOMPLETE AUDIO 6 MK2と同様。他社製品の多くは頑丈なメタルボディーで、機材を上に重ねて置ける形状になっているのに対し、KOMPLETE AUDIO 1とKOMPLETE AUDIO 2は、重ねて使うものではないのも大きな違いだ。
たとえばスタインバーグのUR22mkII、ローランドのRubix 24と並べてみると、コンパクトなサイズであるのが分かるだろう。重量でいうとUR22mkIIが1030g、Rubix 24が1.2kgであるのに対し、KOMPLETE AUDIO 1、2ともに360gなので、圧倒的に軽量であることがわかるはずだ。オーディオの世界では、重たいことが、良い音の条件のように言われるケースが多いが、軽くて小さいものが、持ち運びやすく、機動力が高いのも間違いないと思う。
KOMPLETE AUDIO 1、2ともに192kHz/24bit対応の2IN/2OUTのオーディオインターフェイス。KOMPLETE AUDIO 6 MK2が6IN/6OUTでMIDIの入出力も装備していたのと比較するとシンプルな構成だ。
ではKOMPLETE AUDIO 1とKOMPLETE AUDIO 2では何が違うのか? その主な違いは入出力の端子であり、フロントパネル、リアパネルをそれぞれ比べているとすぐに分かる。KOMPLETE AUDIO 1ではIN 1がマイクを接続するためのXLR入力で、IN 2はラインもしくはギターなどを入力するためのTRSフォン端子になっており、IN 1のみマイクプリアンプを搭載している。
それに対しKOMPLETE AUDIO 2はIN 1、IN 2ともコンボジャックとなっており、マイク入力、ライン入力、ギター入力も可能なオールマイティーな入力を2つ備えており、どちらにもマイクプリアンプが独立して搭載されている。このフロント右側にはヘッドフォン端子があり、ヘッドフォン出力のボリューム調整のノブやコンデンサマイクの電源となる+48Vのファンタム電源用のスイッチが用意されているのは共通だ。
続いてリアパネルを見てみると、こちらにもKOMPLETE AUDIO 1とKOMPLETE AUDIO 2には違いがある。KOMPLETE AUDIO 1はRCAの出力端子が2つ搭載されたアンバランスのステレオ出力であるのに対し、KOMPLETE AUDIO 2のほうはTRSフォンx2のバランスでのステレオ出力になっている。
KOMPLETE AUDIO 1と2で、DACやアンプ回路などに違いはなさそうだが、出力段においてバランスかアンバランスかになっているので、バランス接続のモニターアンプなどを使用しているのであれば、KOMPLETE AUDIO 2のほうが高音質化を見込めそうだ。
測定上はトップクラスの音質。初めてのDTMにも注目の性能
実際の音質はどうだろうか。いつものようにRMAA Proを用いてテストしてみることにした。ここで使ったのはKOMPLETE AUDIO 2。KOMPLETE AUDIO 1は入力がIN 1とIN 2の形状が異なり、ステレオのライン入力を入れられないので、それに対応したKOMPLETE AUDIO 2を使用。44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで試してみた。
実は、この値段と軽さのデバイスなので、それほど期待していなかったのだが、RMAA Proの結果を見る限り、音質面では各種機材の中でも超トップクラスとなった。もっとも、RMAA Proでの測定は出力をそのまま入力へループバック接続する手法なので、オーディオ出力性能だけを調べているのではなく、入力と出力と両方を合成した性能をチェックしている。そのため、この結果だけですべてを判断することはできない。測定上の結果であり、実際の聴き心地がいいことを保証するものでもない。とはいえ、少なくとも、入力性能、出力性能ともバランスの取れたものであり、何か問題をかかえたものではないことは、間違いない。実際に、音を聴く限り、問題点はまったく感じられなかったし、クセのない、非常にキレイな音であると思えた。
聴いた印象という意味では、ヘッドフォン出力も同様。しかも、ヘッドフォンボリュームを上げていくと、かなりの音量まで持ち上げることが可能で、数多くあるオーディオインターフェイスの中でも、かなり音が大きいほう。もちろん、最大レベルまで上げても音が歪むことはなく、キレイに鳴らすことができた。
レイテンシーはどうだろうか? Windowsのドライバではバッファサイズを調整できるが、KOMPLETE AUDIO 1、2ともに44.1kHzもしくは48kHzにおいては、最小で8サンプルまで抑えられるという仕様。
192kHzのサンプリングレートでも32サンプルまで設定することができるので、かなりレイテンシーは小さくすることができそう。実際にこれを測定してみた。
44.1kHzにおいて8サンプルということは、理論上レイテンシーは、
1÷44.1kHz×8Samples=0.18msec
まで縮められることができるはずだが、実際には6.69msecと、結構ロスはあるようだった。また、8msecに設定すると、それなりのCPU負荷は上がるようなので、マシンパワーにもよるが16サンプルもしくは32サンプルあたりに設定するのが無難かな、という印象ではあった。
なお、先日紹介した上位機種のKOMPLETE AUDIO 6 MK2と比較すると、入出力がアナログの2IN/2OUTでデジタル入出力が装備されていないほか、MIDIの入出力もない。また、CV/GATEの出力を可能にするDCカップリングにも非対応ではあるが、一般的なオーディオインターフェイスとしては必要十分な機能を備えている。
なお、KOMPLETE AUDIO 1、2ともに、バンドルソフトが充実しているのもポイント。具体的には以下のものが、すべて無償ダウンロードできるようになっている。
・Ableton Live 10 Lite : 音楽制作ソフトウェア
・MASCHINE Essentials : MASCHINEソフトウェア
・REPLIKA : プロ品質のディレイ
・SOLID BUS COMP : パワフルなコンプレッサ
・PHASIS : 新機能を搭載した定番のフェイザー
・MONARK : MiniMoogを再現するモノフォニックシンセサイザ
・KOMPLETE START : 計17種類の音源やエフェクトに加えループやサンプルも収録
DTM用のソフト群が、一通りのものが揃っているので、これからDTMにチャレンジしてみたいという人にとっても、いい選択といえそうだ。