藤本健のDigital Audio Laboratory

第904回

プロ向け老舗ブランドの本気USBオーディオ「SSL 2+」。4Kボタンが面白い

USBオーディオ「SSL 2+」

世界中のレコーディングスタジオで使われているミキシングコンソールメーカー、イギリスのSolid State Logic(SSL)。業務用機材メーカーとして長い歴史を歩んできたSSLが、一般DTMユーザー向けに2つのオーディオインターフェイスを発売し、大きな話題になったのは2020年2月のことだ。数百万円オーダーの機材が中心のSSLが、実売価格で約2.9万円の「SSL 2」、そして約3.5万円の「SSL 2+」という手頃な製品を出したのだから、注目されたのは当然のことだろう。

コロナ禍ということもあって、当初は品不足でなかなか入手できなかったのだが、秋ごろからは徐々に普通に購入できるようになり、筆者も少し前に上位機種であるSSL 2+を購入した。

とくに、LEGACY 4Kというボタンがどれほどの効果をもたらすものなのか、気になっている方も少なくないはず。SSL 2およびSSL 2+がどんなオーディオインターフェイスで、性能的にどれほどのレベルなのか、いつものように測定ツールを用いながらチェックしていこう。

名機SSLコンソールの音にする「4K」ボタンがユニーク

多くのメーカーが数多くのオーディオインターフェイスを、数万円という価格で発売しているのはご存知の通り。Digital Audio Laboratoryにおいても、いろいろと調査してきたが、各メーカーとも「よくこの値段でこれだけの性能の製品を出しているな」と驚くほど、高い性能を備えていると思う。

もちろん、細かく見ていけばさまざまな違いがあるし、レイテンシーが小さい・大きいなどの差もある。価格的に見て、それほど大きな利益を上げられるものではなく、薄利多売が原則になっているのも事実だ。そんな世界に、まさか大御所のSSLが出てくるとは思いもしなかった。最初はSSLブランドを付けただけでは? などと色眼鏡で見ていたが、本家SSLが本気で取り組んで市場投入した製品のようだ。

SSL 2も、SSL 2+も、デスクトップスタイルのUSB Type-C接続のオーディオインターフェイスで、形状的には、トップパネルにはノブやボタンなどがあり、リアには入出力端子が並ぶというオーソドックスなスタイルになっている。

SSL 2
SSL 2+

両製品ともサイズは同じだが、SSL 2が2IN/2OUTのオーディオインターフェイスで、ヘッドフォン出力が1つであるのに対し、SSL 2+は2IN/4OUTで、ヘッドフォン出力が2つ、さらにMIDI入出力も備えた仕様。どちらもフォーマットは、最高192kHz/24bitまでの機材である。

SSL 2とSSL 2+でサイズは変わらない

今回取り上げるのは、SSL 2+の方だ。

リアパネルは、一番右の2つがコンボジャック入力で、マイク/ライン/インストゥルメント(ギター)のそれぞれに接続が可能。CHANNEL 1、CHANNEL 2ともに別々に設定可能で、必要に応じてLINE、Hi-Zボタンを押して切り替える形になっている。また+48Vを押すことでファンタム電源供給が行なえ、コンデンサマイクも利用できる。

SSL 2+の背面端子
LINE、Hi-Zボタンは切り替え式

中央にあるのが、メイン出力である1/2チャンネルの出力。TRSフォン出力が上下に並んでいるが、これは左にあるRCAピンジャックと同じ信号で、同時に両方から出力することも可能。さらにその左は3/4チャンネルの出力があるが、これはRCAのみとなっている。

ヘッドフォン出力はA、B独立して音量調整が可能。Aのほうは1/2チャンネル出力に限られるが、Bのほうは1/2チャンネルを出力するか、3/4チャンネルを出力するかをボタンで切り替えられるのも便利なところ。

ヘッドフォンBは、1/2chか3/4chの出力切り替えができる

左側にあるのがMIDI入出力であり、SSL 2にはない端子だ。PCとの接続はUSB Type-Cとなっており、ここからのバスパワー供給で動作する。

SSL 2の背面。MIDI入出力は非搭載

トップパネルを見ると、一番大きく目立つのがMONITOR LEVELと書かれた青いノブ。

少しトルクが重めなところもグッとくるが、いわゆるロータリーエンコーダーでなく、完全なアナログボリュームとなっているのも気持ちよく使える点だ。その右のヘッドフォン出力用のノブもトルクが重めであり、かなり大音量まで出せるのも嬉しい。

トルクの重めなアナログボリューム

ヘッドフォン出力用ノブの上にあるグレーのノブ、MONITOR MIXと書いてあるものは、メイン出力やヘッドフォン出力への信号をPCからの信号にするか、入力信号をそのまま出力させるかのバランスをとるもの。USB側に振り切ればPCからの音のみが聴こえ、INPUTに振り切れば入ってきた音がそのままダイレクトモニタリングされる形となる。

ちなみにSSL 2もSSL 2+も、USB端子にPCを接続しなくても、ACアダプタに接続するだけで動作させることが可能。この場合、USB側に回しても意味はなく、INPUT側に回すことでヘッドフォンアンプとして機能させることができる。

入力部に関しては、前述の通り3つのボタンでマイクかラインか、インストゥルメントかを切り替えるようになっていて、入力ゲインは赤いノブを使って調整する。入力状況はLEDのレベルメーターで表示されて、適正なレベルが入ってきているのかは視覚的にもすぐにチェックができる。

そして、ここからがSSL 2+のハイライト。

CHANNEL 1、CHANNEL 2のそれぞれに「LEGACY 4K」というボタンが用意されている。4Kとは4000、つまり往年の名機であるSSLコンソール「SSL 4000」をイメージした音にするためのボタンとなっており、入力されてきた音を4Kサウンドにしてしまうボタンなのだ。

SSLコンソール「SSL 4000」を模した音になる「4K」ボタン

最近はDSPを内蔵し、PCのCPUパワーを使わなくてもEQやコンプをかけることができるオーディオインターフェイスも増えてきているが、このSSL 2+のLEGACY 4Kボタンは、それらとは根本的に異なる。

そう。これはDSPを使うのではなく、アナログ回路で音を変えるという、原始的というか画期的というか、SSLらしいユニークな機能となっているのだ。

試してみるとわかるが、これをオンにして赤く光らせると、いきなりシャキンとするというか、パキッとしたエッジの立ったサウンドになる。もちろん、入力する素材によって合う・合わないはあるが、とくに楽器やマイク入力に掛けると、とても気持ちのいい音になるのだ。

LEGACY 4Kボタンはアナログ回路を通すということもあり、完全な掛け録り。USBを経てPCに取り込む音はこのエフェクトが掛かった音になるし、MONITOR MIXを左側のINPUTに回してメイン出力やヘッドフォンから出力させる音も、アナログ回路を経た音になる。

サンプリングレート別にサウンドを測定。遅延はまずまずの数字

それでは、ツールを使って評価してみよう。まずはLEGACY 4Kボタンをオフの状態で、44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで測定したものが、以下の結果だ。

44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
192kHzの場合

見てもわかる通り、非常にクリアな音であり、ノイズも少なくHi-Fiな機材であるといえる。ここはさすがSSLといったところなのだろう。

では、LEGACY 4Kボタンを押したらどうなるのか、違いは出るのか……。

結論から言ってしまうと、どのサンプリングレートでも測定できなかった。というのも、通常であれば、測定開始前のプリ信号を送りながら音量レベルを調整し、OKとなってから測定する。しかし、LEGACY 4Kボタンをオンの状態だと、同レベル調整してもDistortion(clipping)アラートが点灯してしまい、うまく測定することができないのだ。

通常の場合
LEGACY 4Kボタン・オンの状態では、測定にアラートが点灯してしまった

この際のスペクトラムを見てみると、1kHzの入力信号に対し、2kHz、3kHz、4kHz、5kHz、6kHz……と奇数倍音、偶数倍音が思い切り出ていて、オーディオ的には完全に破綻してしまっている。そのため、音質性能を測定するまでもなくダメとRMAA Proに言われてしまった格好だが、エフェクトとしてみると、この倍音成分いっぱいのサウンドこそ、音楽的にいい音になるのだ。

もちろん、この辺はユーザーによって好き嫌いはあるだろうし、接続する機器によっても向き不向きがある。これをアナログ回路で行なうことがいいと思う人もいるだろうし、プラグインなどデジタル処理がいいと考える人もいるはず。でも、ボタン一つで何にも負荷をかけずに簡単に音を変えられることこそが、SSL 2+の大きなメリットと思う。

そしてもう一つ、いつものように行なったのがレイテンシーの測定。入力と出力をループ接続した上で、パツンという音を出力させたとき、入力される音の遅れがどのくらいあるかを測定するのだ。

WindowsのASIOドライバの設定で、44.1kHzで128サンプルのバッファを持たせたときのみSafe Modeにチェックを入れた状態で接続したが、それ以外はすべて最小のバッファサイズに設定した上で測定している。

結果としては、44.1kHzでは4.92s、192kHzにおいては2.97msというまずまずの数字だった。極めて速いというわけではないものの、及第点といっていいのではないだろうか。

44.1kHzの場合
48kHzの場合
96kHzの場合
192kHzの場合

SSL 2およびSSL 2+には、SSLのプラグインエフェクトである「Vocalstrip2」、「Drumstrip」が付属しているのもDTMユーザーにとっては見逃せないポイントだろう。それぞれ普通にオンラインストアで買うと199ドルなので、このプラグイン2つだけでも元が取れてしまう計算だ。

プラグインエフェクト「Vocalstrip2」
「Drumstrip」

このようにオーディオインターフェイスとして総合的に見ても、いい機材だし、何といってもLEGACY 4Kボタンの威力はなかなかのもの。とくにレコーディング用途であれば持っておいて損のない機材だと思う。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto